ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話   作:さざみー

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第81話 episode・KABUTO 旅立ちの時

 何を話すべきか。

 泣きそうになる感情を抑え、会うべきでは無いと思っていた家族と向き合う。

 どれだけ無言で顔を見つめていただろうか。

 

 お互いになかなか言い出せない中、最初に口を開いたのは父さんであった。

 

「野球、続けたかったのか?」

 

 擬態誠太郎の最後の言葉を聞いたのだろう。

 

 別に野球をやる事を反対されていたわけでは無いが、俺も医者になる事を当然のように求められる家だ。

 父さんや爺さんはともかく、親戚連中からは地元公立学校に通っていた俺はいい顔をされていなかった。今からでも私立の名門校に転入するべきじゃないか、直接俺に言う奴もいたぐらいだ。

 まぁ、嫌なガキだった俺は『どこにいても別に僕の頭の出来が変わるわけではありませんから』なんて言っていた。

 

 直接俺に言う親戚も親戚だが、俺もだいぶ性格が悪い。

 

「ん~、甲子園はチャレンジしてみたかったかな。巻き込んだ田中への義理もあったし」

 

 元々は、魂に焼き付いていた9回裏の未練だ。

 

 地元のチームは弱小そのもので、俺の球を取れる捕手と同じぐらい打てる打者が欲しかった。

 そこで巻き込んだのが幼馴染の田中だったが、あいつはあいつで天才だった。

 俺がいなくなった後も野球を続けていたようで、夏の甲子園では1年でありながら名門校でベンチ入り、代打で活躍。来年からは正捕手になるだろう。

 

「田中君か。あの子は大活躍だね。今は……」

「流石にもう野球は……やってないよ」

 

 変身しなくても球速200キロぐらいは平然と出しそうだもんな、俺の身体。

 とてもじゃないけど野球なんてできる身じゃない。

 

 悲しそうな母さんの顔が見えたので、途中で言葉を濁す。

 聞かなければならないか……。

 

「何をしていたか、聞かないんだね」

 

 俺の言葉に父さんと母さんは一瞬だけ動揺した後、観念したかのように父さんがこう語る。

 

「天道さんがね、時間を無駄にしないようにって話してくれたよ」

 

 元々変身する姿を見られた上に、ワームとはいえ殺す姿を見られている。俺がまともな存在ではない事は分かっていただろう。

 そこを問いただし、時間を無駄にしないよう天道さんが話したか。

 知られたくは無かったが、これに関して恨み言を言うのは間違っているのだろう。

 

「なあ、誠太郎」

 

 父さんが俺に何かを問いかけようとする。

 だが、何かを言う前に母さんが限界を迎えた。

 膝から地面に崩れ落ち、両手を土の上に付いて泣き出してしまう。

 

「なんでよ、何でセイちゃんばかりがこんな目に……。誠太郎が何をしたって言うの!」

「母さん……」

 

 地面に両手をつき泣き崩れる母さんに、俺は膝立ちになってそっと肩に手を当てる。

 その肩は記憶にある母の肩より小さく、髪には以前は無かった白い物が多く混じっている。

 3年という決して短くない月日の流れを感じてしまう。

 

「母さん、俺はもう運命や境遇を恨んでなんていないよ」

 

 慰めにも何もならない言葉だが、これは俺の本音だ。

 

 改造された体を忌々しいと思っていた。

 夢をあきらめ、戦う事しかできないこの身体を呪わしいと思っていた。

 憧れの姿を汚している事が許しがたかった。

 

 俺を慕ってくれた子たちを守れなかった欠陥品。唯一救えた子供ですら復讐の為に地獄へ戻る事を選択させてしまった失敗作。

 好きになれる道理はどこにも無い。

 

 少し前までは、だ……。

 

「別に、今の身体が嫌いなわけじゃないよ」

 

 この言葉に嘘は無い。

 

 理不尽な生まれの呪いを押し付けられた子を守れた。

 生徒と友達の為に奮闘する先生の手助けができた。

 化け物にすべてを奪われかけた一家を助けられた。

 異界の侵略者と独りよがりの王の奸計を打ち砕く事が出来た。

 愚かな狩人と戦う人たちと共に戦えた。

 

 そして何より、俺を愛してくれた人たちを救えた。

 

「俺は許されざる悪だけど、そんな俺でも守る事も出来たんだ」

 

 正直に言おう。ライダーたちと共に戦えて嬉しかった。

 あれで罪が帳消しになるなんて都合の良い事は考えていない。

 ただ、こんな俺でも誰かを守る事が出来る。

 その事実だけで嬉しい。

 

「誰かを助けられるって、誠太郎はどうするんだよ! あんな一生懸命だった野球が出来なくなって、父さんや母さんにも会えなくなって……。妙な組織で働かされて……! お前はそれでも良いのかよ!」

 

 そんな俺を見て怒ったのは凜だ。

 ほんと、こんな俺の事で真剣に怒ってくれるなんて優しい子だ。

 それだけで俺は満たされる。

 

「良いんだよ。俺はもう、凜が怒ってくれただけで十分だ」

「何良い子ちゃんぶっているんだよ! ふざけるなよ!」

「ずっと不安だったんだよ。俺みたいな化け物、息子じゃない、兄じゃないって否定されるのが。そうじゃないってわかっただけで、もう充分なんだ」

 

 俺は厳密な意味で誠太郎ではない化け物だ。それでも、誠太郎である事もまた事実だった。

 もし彼らに否定されたら、俺の誠太郎としての部分は壊れていただろう。そして、肉体は化け物、心はつぎはぎ。否定されても仕方ない存在なのだ。

 だけど、そうじゃなかった。それだけでもう充分だった。

 

 これ以上の幸せは、俺にはふさわしくない。

 

 俺を中心とした陰謀がある、討たなきゃならない敵がいる。そして何より、まだ助け出さなきゃいけない子たちがいる。

 

 立ち止まっている暇は無いのだ。

 幸せに浸る資格は無いのだ。

 地獄の住民は地獄へと向かうべきなのだ。

 

「もう、会うことは無いと思います。お体に……」

「ふざけるな!」

 

 別れを告げようとした俺の言葉を、遮ったのは父さんの怒声だった。

 記憶にある限り、声を荒げた事なんてない父の声に、俺の視線は父に釘付けとなる。

 動きを止めた俺の両肩を掴み、父さんは叫ぶ。

 

「ふざけるな! 親を見くびるな! 帰ってこい、辛くなったらいつでも帰ってきていいんだよ誠太郎……。どんな姿になろうとも、お前は俺達の息子なんだ」

 

 涙を流しながら語る父さんに、俺はこう伝える。

 

「俺は罪を重ねすぎた。もう帰る事は……」

「それでもだ! 子を見捨てる親なんているか! 良いんだ、お前がどれだけ罪を背負おうとも、俺たちも一緒に背負ってやる」

 

 無理だ。

 俺の罪は誰かと共に背負う事のできる類のものではない。両親の人生をこれ以上汚すわけにはいかないだろう。

 だけど、そう言ってくれたことが無性に嬉しかった。

 

「ありがとう、俺を愛してくれて。会ってくれて、本当にありがとう」

 

 精一杯の感謝の言葉を告げる。

 俺みたいな人間でも、愛してくれた人たちがいた。

 

 会う気は無かった。会ったらもう立ち上がれないかと思っていた。

 戻ってしまえばもう戦えない、そう思う程に誠太郎だった時間は眩しかった。

 

 でも、また戦える。

 償えない罪を背負いながらでも、償える時は来ないかもしれないけど、いつか討たれる日まで戦える。

 

「ありがとう、父さん、母さん、凜」

 

 愛しています。

 戻れないけれども、家族だった時間は幸せでした。

 家族に愛されていた事は俺の一生の宝です。

 

 だから、止めないでください。

 俺は戦場に戻ります。助けなければいけない人たちの為に。

 

 

※※※※※

 

 

 渡世一家から離れた天道は、公園の雑木林に差し掛かると足を止めこう呼びかけた。

 

「隠れていないで、そろそろ出てきたらどうだ」

 

 超然としていることの多い天道だが、その声には不快感が籠っている。

 そんな天道の呼びかけに、雑木林の奥からその男は姿を現す。

 長身の男だ。黒いサマーコートを身に纏い、同色の帽子をかぶる。帽子の下の髪は茶色に染めていた。

 だが、それよりも何よりも、一番の特徴はトレードマークともなっている、首に吊り下げたマゼンダの二眼レフカメラだ。

 

 彼は仏頂面で出てくると、天道に向かいこう返す。

 

「久しぶりだな、天道」

「ああ、久しぶりだ門矢。隠れてこそこそ覗き見とは、しばらく会わない間に随分といい趣味になったようだな」

 

 旧知の男を相手だというのに、天道の声はかなり冷たい。常人なら身を震わせるほどの冷たさを秘めた声だ。

 もっとも、声を掛けられた男……門矢士も並みの神経の持ち主ではない。

 ワザとらしく肩をすくめると、心外だとばかりに。

 

「家族の再会を邪魔する気は無かっただけだ。随分とあの小僧に入れ込んでいるみたいだな」

「見どころのある奴だったからな」

 

 もしあれが、噂通りの冷血の処刑人『登録されなかった者(アインロールド)』なら、天道は容赦なく倒していただろう。

 だが、天道がこの目で見た名を失った少年は、地獄に引きずり込まれた境遇にも腐らず、必死に手を伸ばし誰かを救おうともがき苦しむ男だった。

 それだけで、あの少年に肩入れするには十分な理由だ。

 

「門矢、お前は何を知っている?」

 

 アインロールドをショッカーから追放した張本人が目の前に現れたのだ。

 ならば、誠太郎の調査を前に知っているだろう人物から聞き出すのが手っ取り早い。

 天道の問いは予想していたのだろう。士は首筋に手を添えつつ、熟考しながらこう答える。

 

「まあ、だいたいは分かっている」

「ならば話せ」

「断る。お前には話せない」

 

 にべもなく断る士に、天道の不快感が増していく。

 二人の間に緊張感がはしり、それを察したのか木々で翼を休めていた鳥たちが一斉に飛び立つ。

 

「それとも、力づくで聞くか? せっかくショッカーから引き離したのに、焚きつけやがって」

 

 士の言葉の後半は小声によるボヤキであったが、天道はそのぼやきを聞き逃さなかった。

 どのような考えがあるのか天道は問いただす。

 

「門矢、お前も随分と誠太郎に肩入れしているようだな」

「ショッカーにもライダーにも向かない奴だ。それが背負う必要のない使命感と過大な期待に押しつぶされそうになっていれば、逃がしてやろうかっていう気にもなるさ」

 

 一応囮にも使ってはいたが、あくまで主目的は逃がす事だ。

 ショッカーと特に因縁の無いショウマたちの所に放り込めば少しは落ち着くだろう。後はのこのこ出てきた終活連中を叩き潰せばいい。

 

 だが、予想以上にアインロールドは運命に愛されていた。

 

 追放したその日に事件に巻き込まれた挙句、襲撃を受けた上に謎の転移現象に飲み込まれるなど士にとっても完全に予想外であった。

 しかも最後の転移は何者かの干渉を受けている。

 

「見解の相違だな。向き不向きじゃない。重要なのはやり遂げる意思だ」

 

 戦士にまったく向かない男でも、戦い抜く事が出来たのだ。

 誠太郎は確かに戦士には向かない。憎むべきショッカーすら事情を知り許してしまった、無類のお人好しだ。

 だが、彼には戦う意思がある。

 ならば先達として、見守ってやろうという気にもなろう。

 

「まったく、どいつもこいつも……」

 

 先に挑発をしておきながら、士に天道と戦う意思は無かった。

 背後にオーロラカーテンを生み出すと、その身を翻そうとする。

 

「ま、お前に事情は話せないが、小僧の手助けをしたいのなら今は平和を守っていろ」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味さ。過去になり果てた悪意を蘇らせて、煽っている連中がいる。それが小僧の敵だ。GSL騒動もその一端に過ぎない」

 

 そうして言いたい事だけを言うと、士はオーロラカーテンの向こうに消えて行く。

 オーロラカーテンが消えた後には、門矢士という人物がいた痕跡は何一つ残らなかった。

 

「話せないという割には、だいぶ情報を置いていったな」

 

 あれが士の出来るぎりぎりの情報提供ラインなのだろう。

 当分は忙しくなりそうだ。

 天道はそう考えると、今度こそ本当に公園を後にした。

 

 

※※※※※

 

 

「この混沌界異聞伝の記述によれば、こうして名を失った地獄の先兵の物語は終わりを告げ、名を取り戻した戦士の戦いが始まる……とある」

 

 街を一望できる高層ビルの屋上で、白いスーツの男は手に持った本の記述を読み上げる。

 もし彼を背後からのぞき込む人物がいれば、彼が持つ古めかしい装丁の本に疑問を抱くであろう。

 確かに彼の呟き通りの内容が書いてはある。だが、そこでその本の記載は止まり、あとはひたすら白いページが続くのみなのだ。

 知らない人が見ればジョークグッズにしか見えない本である。

 

 そんな本を持つ男、灰ウォズは静かに本を閉じ眼下の街を穏やかな目で眺める。

 つい数日前にワームによる警察署襲撃なる大事件が起きたばかりなのに、街はそのような事を忘れたかのように日常を刻んでいた。

 そんな景色を愛おしそうに見ながら、異聞伝の内容を思い出す。

 

「まさか、新たな観測者がこの世界に降臨していたとはね」

 

 観測者。この世界を物語として捉えられる、稀有な魂の持ち主だ。

 おそらくはまだ未熟。少し聡しいだけの人間の域を出ないだろう。あるいは、永遠にそのままかもしれない。

 だが、あれは切り札にもなり得る。そんな代物をショッカーが手に入れていたとは予想外であった。

 

「巫女殿たちの不可解な動きも理解できる」

 

 おそらくは神から与えられた力で、アインロールドの存在を感知したのだろう。

 そして彼女たちは、何らかの目的で彼を使おうとしている。

 かつての妹分に使われるとは、何とも哀れな事だ。他人事ながら灰ウォズも同情の意を示す。

 

「彼女たちの好きにさせておくべきか」

 

 もっとも、灰ウォズはその事はさほど気にはしていない。

 神の意向から逃れられない。巫女とはそういう存在だ。

 彼女たちが何を企もうとも、神のお考えに背く事は無い。むしろ、他の神官たちの方がよほど危険ともいえる。

 

「我が神の為にも、彼を見極めなければならないな」

 

 伝説となる存在の力を宿すレジェンドライダーワンダーライドブックに対し、この世界で生まれた模造品の中で飛びぬけた物語を持つ者が生み出すストレンジライダーワンダーライドブックなる存在がある。

 灰ウォズも数えるほどしか見た事の無いそれを、アインロールドは生み出した。

 彼が観測者なら、なるほどそのような事もあろう。

 

「仮面ライダーアインロールド、渡世誠太郎。彼が我が神の力になればよいのだが……」

 

 白紙の本を懐にしまうと、灰ウォズは音も無くその場から消え去る。

 

 アインロールドの物語はまだ白紙だ。

 故に誰も彼の結末を読むことは出来なかった。




第一章『名無しのショッカーライダー』はこれにて終了
第二章『仮面ライダーアインロールド』がスタート


などと、それっぽい事を書いていますが、私の中での区切りってだけです。
カブト編はこれにて一時閉幕。次回からは龍騎編となります。

今後とも応援を頂ければ幸いです。
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