ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
筑波さんが運転する車を先頭に、俺と城戸さんはバイクで追走する。
車の後部座席には意識を失った葵さんが寝かされていた。
幸い意識を失うのと同時に呼吸は正常に戻っているので、今は様子見の状態だ。
最悪はサイクロンヘルの医療キットを使う気だったが、その必要は今のところない。使えば間違いなく俺の正体が露見したので、そうならなくて良かった。
それはともかく、車の屋根にはハンググライダーの残骸が括り付けてある。
当たり前だが森に突っ込んだハンググライダーは見るも無残な姿だった。布(セールというらしい)は穴だらけだし、フレームはあちこちが曲がっている。
素人目にも、どう考えても再起不能の状態だ。
仕方がなかったとはいえ、さすがのスカイライダーもこの惨状は財布に致命傷を負ってしまったようだ。悲しみに満ち溢れた表情で、愛機の残骸を回収してまとめていた。
さて、それはともかく俺たちが向かっているのは湖沿いの旅館だ。
富士山が見える湖沿いの小さな町。葵さんはそこにある旅館の娘さんらしい。
筑波さんと城戸さんの双方とも、学生時代から合宿などで利用していたそうだ。なお、筑波さんと城戸さんの学生時代はうん十年の開きがある。
学生が一人で泊まっても不審がられないリーズナブルな価格だったので探索に入る前の一休みにネットで予約をしたのだが……。なんで俺が泊まるタイミングで仮面ライダーが二人もいるんだ?
なんか呪われていない?
一度厄払いでもした方が良いのかな?
まぁ、神をも恐れぬショッカーライダーの厄を払ってくれる神などいないだろう。
むしろ自分で倒せと言われそうである。厄に実体があるなら殴り飛ばせるが……。
まぁ、そんな現実逃避に近い取り留めもない事を考えている間に、林道を通り抜け道沿いの民家が増えていく。
そんな町の一角に、今回の目的地となる小さな旅館がある。
鉄筋コンクリート製3階建ての宿と、隣にある経営者の住居。建物の前には大きな駐車場となっている。
建物の前で掃き掃除をしていた眼鏡をかけた背の高い若い男性が、入ってきた車を見てぎょっとした表情をする。
まぁ、ハンググライダーの残骸なんかを積んでいれば誰だって驚く。
「何あれ!? って、筑波さん? 何でうちの車に?」
「ただいま、集夢くん」
窓から顔を出し、筑波さんが男性に話しかける。
この宿の常連なら、従業員も知り合いなのだろう。
「ちょっと悪いんだけど、篤子さんか翠ちゃんを呼んできてくれないかな?」
「なんでおばさんを……って! あ、葵さん!? 一体何が!?」
車を覗き込んだ男性が、後部座席でぐったりとしている葵さんを見て慌てふためく。
ハンググライダーの残骸を積んで来た車ってだけでも驚きの対象なのに、この宿の娘さんがぐったりしていれば何があったのかと驚くだろう。
「とりあえず中に運んだら何があったのかを話すよ。俺は車を入れておくから頼む」
「は、はい。すぐ呼んできます!」
そう言って住居部分に駆け込んでいく男性を見送る。
しばらくすると中年の女性と、まだ若い女性が慌てて飛び出してきた。年配の女性がお母さんで、若い方はお姉さんか何かかな?
「な、なにがあったんですか? あ、葵?」
「大丈夫、意識を失っているだけだから。とりあえず中で休ませたいから頼むよ、嫁入り前の娘さんを勝手に運ぶわけには……」
「何言っているんですか、筑波さんならいいですよ。というか、私たちじゃ無理だからお願いします。翠は急いで布団敷いてきて」
「分かったわ、母さん」
母親の指示で駆けていく女性や葵さんを抱きかかえる筑波さんを尻目に、俺はバイクを停める場所を探す。
聞き耳を立てる気もない。気にならないと言えば嘘になるが、変身しない限りただの人間である城戸さんはともかく、改造人間である筑波さんには気が付かれそうだからだ。
今の俺はミラーモンスターの出現に巻き込まれた高校生でしかない。
出しゃばっても邪魔なだけだろう。
「おーい、星太郎。どこにいくんだ?」
「え? なんですか?」
そう考え背を向ける俺に、城戸さんが話しかけてくる。
用事なんてもう無い筈なのに?
「そっちじゃない、こっちこっち。駐輪場はこっちだぞ」
あ、はい。流石は常連客。
施設の場所もばっちり分かっておられたようです。
「ちょっといいか、星太郎?」
バイクに施錠をしている(ふりをしている)俺に、城戸さんが話しかけてくる。
ちなみに先ほどから城戸さんが呼んでいる『星太郎』は今俺が使っている偽名だ。響きが本名と同じなのだが、俺が決めた訳じゃないのだから仕方がない。『せいたろー』をそのままにしたいと言い出したマッドサイエンティストが約一名いたのだ。
泣く子と地頭には勝てないとはこの事だろう。別に大したリスクでもないのでそのまま使っている。
それはともかくとして、城戸さんは何の用だ?
「何ですか?」
「ツーリングとキャンプを続ける気なのか?」
「はい、そのつもりですが?」
そういう設定である。
実際は樹海に入って基地跡地に入れる場所が無いかの探索なのだが、流石にそこまでは説明できない。
この先どうするかなって考えている部分はあるにはあるが、それはさておき今は雑談で話した予定に沿って話すべきだろう。
「悪い、出発は諦めてくれないかな。危ないんだ、ほんと」
「いや、危ないって?」
「ミラーモンスターが来るかもしれないだろう、今は行かない方が良いと思うんだ」
恐らく、城戸さんはあの場に蜘蛛以外のミラーモンスターが潜んでいた可能性を考えているのだろう。
なにせミラーモンスターは一度狙った獲物を執拗に狙う習性がある。もし俺が別のミラーモンスターに狙われていたら、一人になったところを襲われるのは必至だ。
城戸さんの心配はもっともな話である。
問題は……。
「あ、いや、化け物は怖いですけど、倒したじゃないですか。危ないってよくわかりませんし、そんなに金がある訳じゃ無いですし」
問題は、城戸さんの説明が要領を得ていない事と、バイトと小遣いで溜めた金で貧乏ツーリング中の俺にはそんなに金がない(という設定)になっている事である。
目的地に向かう前の一休みにこの旅館を利用しているだけなのだ。
なにより、龍騎とスカイライダーと一緒というのは出来る限り避けたい。敵対する意思も意味も無いが、正体がばれないように行動するのは心理的な負担が大きい。
悪いけど、予定通り明日の朝には宿を発つ気だ。
そのあとは未定だが、今は話す事ではない。
「いや、でも、危ないは危ないしさ、金は……えっと」
金がない。その事実に城戸さんがたじろぐ。
そりゃそうだろう。年収がいくらくらいかはわからないが、期限未定の宿代を出せるほど貰っている訳では無いだろう。
本気で心配している城戸さんには申し訳ないが、このまま押し切って……。
「いや、そこは俺が出すよ。城戸さん、ちょっと良いかな? 篤子さんに説明をしたいんだ」
「ああ、わかった」
不意に声をかけて来たのは、やってきた筑波さんだ。
葵さんを運び終えたのだろう。その上で事情を説明するために関係者である城戸さんを呼びに来たってところか?
「君も見たと思うが、あの蜘蛛の怪物はミラーモンスターというんだ」
「は、はぁ……」
「あの怪物はね、一度決めた相手を執拗に狙う習性があるんだ」
やべ、順を追って説明を始められてしまった。
見ず知らずの子供なんぞどうでも良いだろう、とはならないのが仮面ライダーをやっている人なのだ。
「で、でも後から来た人に倒されたんじゃ?」
謎の疑似ライダーの一撃で、ディスパイダー・ギガントは完全に消滅した。
そういやかなりの火力だったけど、あれは何だったんだろうな。
おそらくはミラーワールド系ライダーの技術を流用したんだろうけど、ミラーワールド系は数が多いおかげで出所が分からないんだよなぁ。
一番ありそうなのは財団Xだけど。
などと、心のどこかで現実逃避をしている俺に、筑波さんが真剣な面持ちでこう続ける。
「うん、倒された。でもあの場に他のミラーモンスターが潜んでいた可能性を捨てきれないんだ」
あいつらは基本的に本能に忠実に行動する野生動物のようなものだが、それゆえに狡猾な狩人でもあるのだ。超大型ミラーモンスターのおこぼれ狙いの小型ミラーモンスターがいても不思議ではない。
そして、小型ミラーモンスターであっても、その力は人間を遥かに超える。
一般人が狙われれば、無事では済まない。
おそらくは考え過ぎではあるのだろうが、仮面ライダーである彼らとしては下手に単独行動をさせる事が危険と考えるのも道理だ。
「つまり、俺が狙われる可能性があるんですか?」
「そうなんだ」
「そうそう、俺もそれが言いたかったんだ」
いや、これぐらい説明してくださいよ、城戸さん。
ちょっとジト目で城戸さんを見る。
居心地が悪そうに身じろぎをする城戸さんはともかく、筑波さんは真剣な表情そのものだ。
「数日、ほんの数日で良い。狙われている可能性が低くなるまで滞在できないかな? 夏休みのツーリングを台無しにしてしまい申し訳ないけど」
「しかしどうするかなぁ……」
ごろり。通された畳の部屋に寝ころび、俺は一人で考える。
結局の所、筑波さんの言う通りこの旅館に滞在する事になった。
純粋に心配してくれている上に、理路整然と説明してくる筑波さんの言葉を否定できなかったんだ。
まさか、ミラーモンスターなら一人で倒せますとは言えない。そんな事を言ったらショッカーの改造人間であることを暴露しなきゃならない。
流石にそれは、うん。
追放中とはいえ、ショッカーライダーはショッカーライダーだ。
最近は成り行きで共闘する事が多かったが、俺はあくまでもショッカーライダーである。少なくともそうホイホイ正体をあかしたり、ライダーと一緒に戦って良い身ではない。
そういえば、城戸さんや筑波さんは俺の正体の情報は知らなかったようだ。
素顔を知っているライダーは皆義理堅かったようで、俺の正体に関する情報はまだ流れていないのだろう。
まぁ、このルートでの情報拡散に関しては、あまり心配していなかったけどね。
とはいえ、数日前のワーム騒動において警察に擬態誠太郎のデータは記録されてしまった。一応は警察署での立ち回りの情報は全て消しておいたが、人の記憶やアナログデータはどうにもならない。
まぁ、最悪は星太郎は消えれば良いだけだ。数ある偽名の一つに過ぎない。
実際に困った事態になってから考える事にしよう。
「一番良いのは、このまま待機していればいいんだが」
ごろり、寝返りをうつ。
城戸さんや筑波さんが俺を怪しんでいるそぶりはない。城戸さんが怪しんでいたら多分態度に出る。
まぁ、今のところ怪しい行動は一つも取っていないので当然だ。
ライダーバトルは何もない限り二人に任せるべきだろう。
二人とも歴戦の仮面ライダーだ。おそらくは今頃、どうするべきか考えているはずだ。
俺なんかとは違う。
「数日遅れたところで困る話じゃないしなぁ……」
しかし、筑波さんはなんだってこの地にいるんだ?
バカンスの可能性も無きにしも非ずだが、多分違うだろう。ライダーバトルの件は知らなかったようだが、この地にショッカー日本支部跡地が埋まっている事は当然知っているはずだ。
馴染みの旅館があるとはいえ、バカンスに来る可能性は低い。ハンググライダーで飛んでいたのは、上空から偵察していたのだろう。
基地は地中深くに埋まり放棄されたままだが、俺の知らない何者かが出入りをしているのかも知れない。
「でも気になるんだよなぁ……」
ライダーバトルには何度か巻き込まれたが、あれは基本的に悲劇しか生まない。
『生き残ったライダー全員に、リソースの許す限り平等に願いを叶えます』なんてルールになっても、願いが叶うという一点で最悪の事態を生む。
なにせこの時は11人のライダーが共謀、願いをかなえるリソースである生命力を得る為に町の住民をミラーワールドに誘拐して殺害する凶行に出たのだ。しかも、参加者に警察署署長やマフィアのボス、地元を牛耳る大企業の会長が混じっていて情報隠蔽に協力したのだからたまらない。
生贄にするためブランク体を無理やり装着させられた人が運よく逃げ出し、任務の帰りに通りすがった俺がたまたま拾わなきゃどうなっていた事か。
俺がライダー殺しと呼ばれる切っ掛けとなった海外での事件だが、分かっているだけで四桁の犠牲者が出た最悪の事件だった。
なんでショッカーライダーがパチモンとはいえ仮面ライダーを倒して町を救っているのかと、あの時ばかりは真剣に悲しくなったものだ。
「やっぱ潰すか」
胸糞悪い事件を思い出し、やっぱり放置は無いなと思いなおす。
調査の前に後顧の憂いを断つことは重要だしな。
ミラーワールドに入るのはライダーを倒してデッキを奪えば良いが、城戸さんと筑波さんの目をどうやって盗んで街に出るかな。
方針は決めた以上、まずは情報収集と行きますか。
俺はとりあえずサイクロンヘルに情報を集めさせ、ライダーを特定する事にした。
そして、最悪がすでに街に到達している事を知る事になる。
※※※※※
共にいた二騎のライダーは、すでにこと切れており、砂のような粒子に変わり消えつつある。
別に友人でも何でもない。利害の一致から行動を共にしただけだ。
いずれは決着を付けなければならない相手ではあった。
だが、その死はあまりにも突然であり理不尽であった。
残った緑色のライダーは、その乱入者に向かい叫ぶ。
「な、何なんだよ、お前は! ミラーモンスター狩り中はバトルはしない取り決めだったろう!」
定期的に課せられたミラーモンスター狩り。もし期間内に狩れなければ、その者は脱落する。
厳しいルール故に、期間中はライダー同士のバトルは原則避ける。
そう取り決めていたはずだ。
「あぁ~。何を温い事を言っているんだ?」
だが、突然やって来たそのライダーは、そんな彼らのルールなどお構いなしであった。
首をゴキリと鳴らすと、担いでいた杭状の剣を担ぎ上げ肩を叩く。
「俺を楽しませろよ。そこに転がっている奴らよりはマシだろう」
紫の蛇を思わせる仮面の男は、緑色のライダーに向かい無造作に近づいてくる。
「ふ、ふざけるなぁ!」
緑のライダーは手に持っていた刀を振り上げると、紫のライダーに切りかかる。
剣道の有段者として、腕には自信がある。
一合、二合と切り結ぶ。
競り勝ったのは緑のライダーだ。
いや、紫のライダーは戦い慣れているようだったが、剣に関しては素人だ。
このままなら、やれる。緑のライダーはそう確信する。
確かに、剣だけで戦えば彼は勝っていただろう。
だが、この戦いは剣道の試合ではない。ライダーバトルだ。
紫のライダーは派手な動きで緑のライダーの剣を避け、後退する。
「逃がすか!」
勝負を決めるべく、緑のライダーは剣を振り上げる。
そんな敵を見て、紫のライダーはつまらなさそうにこう呟く。
「こんなもんか」
その言葉と共に、彼は足を大きく振り上げる。
それと同時に、地面に転がっていた少し前まで動いていた物が緑のライダーに向かい飛んでくる。
「なっ!? 前島!?」
そう、それは先ほどまで彼と共にミラーモンスター狩りを行っていたライダーの一人であり、その彼の亡骸だ。
すでに消えつつはあった物の、まだ残ってはいた。
紫のライダーはそれを緑のライダーに向かい蹴り飛ばしたのだ。
「くっ!?」
別に彼らは仲間ではない。
狩猟期間中、確実にミラーモンスターを狩るために組んでいたのに過ぎない。
ライダーのパワーなら、魂の無い躯など一瞬で吹き飛ばせるだろう。
だが、それでも顔を知っている相手の亡骸を前に、緑のライダーは行動を躊躇してしまう。
それは紫のライダー……。最狂のライダーである仮面ライダー王蛇の前にはあまりにも大きすぎる隙であった。
そして、その代償を彼はすぐに払う事になる。
ライダーの亡骸の腹を、王蛇の持つらせん状の剣が貫く。
その剣はそのまま勢いを殺す事無く、緑のライダーの胸に突き刺さる。
「そ、そんな……」
それが、緑のライダーの最期の言葉だった。
瞬く間に三騎のライダーを仕留めた王蛇は、腰のバックルからデッキを引き抜く。
ライダーのスーツが瞬時に虚空に消えると、黄金色の鱗柄という独特なジャケットを着た、髪を金に染めた男が出現する。
その目は限りなく冷たく、そして暴力の炎に燃えていた。
男の名は浅倉威。仮面ライダー王蛇の変身者。失われた世界の殺人鬼にして、最悪の仮面ライダーの一人。
「わざわざこんな田舎まで来たんだ、少しは楽しませろよ」
たった今、三人の命を奪った男は身勝手な事を呟くと、たった今殺した相手の事など無かったかのように次の戦いを求め何処かに去って行った。
龍騎の御三家、最後の一人が登場!
やっぱこの三人が出ないと、龍騎は始まらないと思います(異論は認める)
なお、モブライダーはこれで四騎が脱落した模様。
真面目にミラモン狩っていただけなのに……。