ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話   作:さざみー

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第87話 episode・RYUKI 幕間・竜が降り立つ刻

 城戸真司が呼び出されたのは、湖畔の公園だった。

 時刻は夕方を過ぎてはいるものの、夏の日は長い。まだ明るい公園を観光客や地元の住民が行きかう。

 

 観光客向けのお土産屋や屋台がそろそろ店じまいをしようかという時間。

 そんな中、二人の男は静かに対峙をしていた。

 

「お前な、何をしているんだ」

「ひや、うはそうらったんでな、にゅい」

「飲み込んでから喋れ、飲み込んでから。子供か、お前」

 

 もとい、静かだったのは真司が屋台で買ったお好み焼きを頬張っていたからであった。

 リスのごとく口いっぱいにお好み焼きを放り込み咀嚼する腐れ縁の悪友に、蓮は思わず頭を抱える。

 

 しばらく待って、ようやくお好み焼きを飲み込んだ真司が口を開く。

 

「悪い悪い、慌てて出たんで朝飯抜いてきたんでな。しかし、何だって蓮、お前こんなところにいるんだ?」

 

 口元についた青のりを見なかった事にしつつ、蓮は問いかけに問いで返す。

 

「それはこっちの台詞だ。仕事はどうした?」

「いや、仕事だよ、し、ご、と。取材で来たんだよ」

 

 まぁ、色々と訳ありな知り合いの顔も見たかったので有休をとって早めに来た事は事実だが、間違いなくここに来た目的は秋の観光シーズンの特集記事を書くための取材である。

 ちゃらんぽらんに見えるが、実際はちゃんと社会人であり会社員なのが真司だ。

 少なくともフラフラとライダーバトルに引き寄せられて来たわけではない、たぶん。

 

「つまり、何も知らないのか?」

「ライダーバトルの事か?」

「やはり……」

「いや、ここに来る途中で知り合いと一緒にミラーモンスターに襲われたんだ。それまでライダーバトルが行われているんなんて夢にも思っていなかった」

 

 どんな確率だ。

 喉元まで出かかった言葉を飲み込む。こいつと……いや、仮面ライダーと呼ばれる連中と付き合っていてそんな事を気にしていたら身が持たない。

 

 自分の事は棚上げである。

 

「俺の事は良いんだよ。俺の事は。お前はどっから聞きつけたんだ?」

「ああ、窓という窓に目張りをしている部屋があると聞いてな」

「良く見つけたな。そんな情報見た記憶はないぞ?」

 

 ライダーとして、あるいは記者という仕事柄、様々な情報に目を通すようにはしている。

 だが、そんな情報を見た記憶は無かった。

 

「俺も偶然流れて来た書き込みを見つけただけだからな」

 

 元々、この地は通り過ぎるだけの予定だった。昼食を取ろうと何とはなしにSNSで検索して、問題の部屋の話を見つけただけである。

 窓という窓をすべて新聞を張り隠す。あまりにも見覚えのあるミラーモンスター対策であったため、念のために確認をしようとやってきたのだ。

 

「それで、調べてみたらこれがあった」

 

 蓮は懐から破損したカードデッキを取り出しテーブルの上に置く。

 それは真司にとっても見慣れた、ある意味忌わしき品物であった。

 だが、本来なら金色の紋章が刻まれているその場所は、何か巨大な刃物で刻まれた醜い傷跡が残っている。

 

「カードデッキ……おい、これって?」

「ああ、もう機能は完全に死んでいる」

 

 破壊された表面はこのデッキが完全に機能を停止している事を指し示す。

 その意味を理解した真司が真顔になる。

 

「持主は?」

「行方不明だ。おそらくは契約モンスターにやられたんだろうな」

「くっ!」

 

 ライダーバトルオリジンにおいてはライダーたちの戦いを止めるために走り回り、あるいはミラーモンスターによる被害を食い止めるために戦った男だ。

 欲望を追い求め戦っていた自分たちの中で、唯一本当の意味で仮面ライダーであったのが城戸真司である。

 そんな彼が見ず知らずとはいえ、ライダーの死に心痛めるのは当然の流れだった。

 

「だが、色々と残してはくれた。今回のライダーバトルの事も、朧気ながらつかめた」

 

 そう言うと、今度は一冊の手帳を取り出す。

 脱落しただろうライダーだった人物が残した走り書きだ。無論裏ルールもあるだろうが、参加者たちが把握している状況に関しては克明に書き記されていた。

 

「この手帳の記述が本当なら、すでにライダーバトルが始まってから半年が経過している」

「そんなに……って、まて!? それならもっとミラーモンスターによる被害が出ていないか?」

 

 通常、ライダーバトルが発生した地域は、戦いの匂いを嗅ぎつけるのかミラーモンスターが増加する。そしてそのミラーモンスターたちが飢えを満たすために鏡を通り抜け人間を狙いだす。

 ミラーモンスターをライダーたちが倒していれば人間を殺す事も難しくなるのだが、願いをかなえる為、もしくは生き残るために参加者はモンスターとの戦闘を避ける傾向が強い。結果的に、ライダーバトル開催地ではミラーモンスターによる被害が急増する。

 もし半年もの長い期間ライダーバトルが開催されていたのなら、通常は多くの被害が出ているのが普通であった。

 

「普通ならな。だが、このライダーバトルのルールは一定期間ごとにミラーモンスターの討伐をしていなければ脱落。最後まで生き残ったものが勝者となる……だそうだ」

 

 ただ、雑魚狩りをしていればいいという話では無いようで、一定以上の強さを持つミラーモンスターを倒さなければ駄目らしい。

 その結果、半年が経過した現在では手頃の強さのミラーモンスターはほぼ狩りつくされており、強力なミラーモンスターが闊歩している状況のようだ。

 参加者たちはモンスターを討伐するために協力する事を余儀なくされており、バトルロイヤル形式でありながら複数のグループに分かれミラーモンスター狩りに集中しなければならない状況らしい。

 

「なるほど、それでミラーモンスターの被害が起きてないのか」

「おそらくな」

 

 一見するとお調子者に見えて、その実お調子者の能天気馬鹿な真司だが、ライダーバトルオリジンの参加者の中でも屈指の実力者でもある。

 オリジン参加者の誰もが認める愛すべき馬鹿ではあるが、彼は決して頭が悪いわけではない。むしろ、頭の回転は速く切れる方だ。 

 そんな彼は、すぐさまこの状況のまずさに気が付く。

 

「まずくないか? 俺がこの町に来る途中で知り合いがミラーモンスターに襲われた。という事は、倒すペースが間に合わなくなっていないか?」

「ああ、恐らくな。だが、本当の最悪は此処からだ」

「いや、もうここまでで十分お腹いっぱいなんだが……。まだ何かあるのか?」

 

 既にうんざりした表情の真司に蓮はとどめとばかりに最悪を加速させる話を続けた。

 

「浅倉がいる」

 

 その名前が出た瞬間、真司の表情が固まる。

 この状況で名を聞くには、あまりにも最悪の人物であった。

 

「まてよ、何であいつが出てくるんだよ?」

「俺が聞きたいぐらいだ!」

 

 浅倉威、もしくは仮面ライダー王蛇。その性質は悪辣で身勝手な暴力の体現者。ただイライラするというだけで人の命を奪う殺人鬼だ。

 あの男はライダー同士の戦いを何より好み、状況などお構いなしに自身の衝動を満たす為だけに襲い掛かってくる。

 

「このデッキの持ち主が奴と戦ったかどうか不明だが、高確率で奴の仕業だろうな」

 

 ライダー同士の戦いが実質的に止まっている現在、こんな真似をしそうな奴などそうはいない。

 仮に浅倉がこのライダーを襲ったわけでは無いとしても、どのみち生き残ったライダーたちを襲いだすのは時間の問題だろう。

 

 ここでライダーたちが浅倉の襲撃を凌げれば問題はない。

 

 だが、彼らが浅倉に倒され、殺された場合は最悪の事態が加速する。

 今までライダーたちにより抑えられていた飢えたミラーモンスターたちが、腹を満たすために一斉に動き出す。

 鏡の向こうから襲い来る怪物を凌ぐ手段を、普通の人間は持ち合わせてはいない。

 

 そして、浅倉はそのような事態になっても気にしないだろう。

 あいつはミラーモンスターによる被害など興味を示す事無く、ただひたすらに衝動のままにライダーたちを襲い続ける。

 

「居場所は分かるのか?」

「不明だ。俺も情報提供者から滞在を聞いただけだからな」

 

 情報提供者、ショッカーの男も所在を追ってはみたが居場所は不明らしい。

 おそらくはミラーワールドに根城を構えたのだろう。

 出入りさえ可能なら無制限に滞在できる現在のミラーワールドだから出来る荒業だ。

 

「マジで最悪の事態じゃないか」

 

 ライダーバトルを止める。

 一番手っ取り早い手段はライダーたちのデッキを問答無用で破壊する事だ。

 だが今回に限って言えばその手段は使えなかった。下手にライダーの数が減れば、街の住民に大きな被害が出る。

 葵や星太郎などは、真司や筑波がいなければミラーモンスターの餌食となっていただろう。

 

「ああ、下手にライダーを減らす事も出来ない。そもそも、半年間ミラーモンスターを狩っていたのなら、今いるライダーたちはかなり力を増している」

 

 ミラーモンスターは餌を食べる事により力を増し、契約モンスターの力が増せばライダーもまた力を増す。

 ライダーバトルオリジンから戦い続け力を増している真司や蓮でも、油断できる相手では無いだろう。

 

 まして、ライダーたちはそれぞれの願いをもって戦いに挑んでいる。ライダーたちをライダーバトルから降ろす事の大変さは、二人とも痛いほどよくわかっている。

 

「まいったな、こりゃ一筋縄ではいかないぞ」

「それはわかっている。とりあえず俺はしばらくこの町に滞在して何とかしてみる。それじゃあな」

 

 話す事は話した。

 そう考えて立ち去ろうとする蓮の首元に、ぐっと真司の腕がからまる。

 丁度チョークスリーパーの形になるが、それはともかくとしてこう返す。

 

「いきなり帰ろうとするな。俺が泊まっている宿に来い」

「首を絞めるな! もう宿は取ってある…!」

「そういう話じゃ無くてな、俺たちだけじゃどう考えても手が足りないだろう。ちょうどいい、相談できる人がいるんだ」

「はぁ?」

 

 この事態に相談できる者など……。一瞬だけ考え、真司の妙な顔の広さを思い出す。

 割と長い間ライダーバトルの記憶を失っていたはずなのに、気が付いたら妙な知り合いが増えている男だ。

 チョークスリーパーをはぎ取り、アイアンクローで真司の顔面を握りつける。

 

「まて、お前今誰と一緒にいる? 何を隠している!? 吐け、すべて吐け」

「うおおお、ギブギブギブ! いや、本気で痛いって! 隠していた訳じゃなくて、話すタイミングが無かっただけだ!」

 

 じたばたする真司を放しつつ、蓮はため息をつく。

 まぁ、本当だろう。無意味に隠すような奴ではないし、そもそもそんな事で頭を回す奴でもない。

 彼の次の言葉を待っていた蓮の耳に、こんな言葉が届く。

 

「そうはさせんぞ、城戸真司! 貴様は此処で死ぬのだ!」

 

 自分たちではない第三者の声。しかも妙に物騒な内容。

 二人は一瞬だけきょとんとした表情でお互いの顔を見つめるが、直ぐに真顔になり構え周囲を警戒する。

 だが、それよりも相手の動きは素早かった。

 

 唐突に、公園の茂みや植え込みのある地面を突き破り、全身黒タイツの男たちが飛び出してくる。

 特徴は腰に巻いた巨大な銀のバックルのベルトと、頭に生えた二本の触覚だろう。

 アリコマンド。そう呼ばれる戦闘員たちだ。

 

「ヒャイーッ」

 

 彼らは一様にナイフのような刃物を構え、真司と蓮を包囲する。

 唐突な不審者たちの出現に、公園にいた一般人は悲鳴を上げ蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 

「なっ!?」

「こいつら、ショッカーか!?」

 

 余りにも何の脈絡もなく出現した戦闘員たちに二人は驚く。

 そんな真司の言葉を否定するために、アリコマンドの壁を割ってその怪物は姿を現す。

 

「俺たちを、ショッカーのような弱兵どもと一緒にするな!」

「ヒャイーッ」

 

 その姿は直立した巨大な蜥蜴であった。大きく裂けた口は鋭い牙が並び、首には巨大な襟巻が生えている。

 何より特徴的なのは、その胸に張り付けられた二枚の鏡であろう。

 カガミトカゲ。そう呼ばれるネオショッカー怪人である。

 

「そうだ、こいつらはネオショッカー!? 確か京都で暴れていた!?」

 

 自身が現場にいた訳ではないが、京都の一件は当然真司や蓮の耳にも届いていた。

 京都宇宙大学を狙い京都に攻め込んだが、スーパー1やフォーゼ、メテオにネオショッカー大首領が倒され壊滅したと聞いている。

 

「あれは愚かな魔神提督が滅んだだけよ!」

 

 自身も復活する前は魔神提督の配下だったことなど棚に上げ、カガミトカゲはかつての上司を敗北者と笑い飛ばす。

 いや、この敗者を笑い自身を至上の物とするメンタルこそがネオショッカーの、悪の組織に与する存在のメンタルなのだ。

 

「見ろ城戸真司! この私の姿を!」

「えっ!?」

 

 不意に名指しを受けて、真司は思わずカガミトカゲが指さした奴の胸の胸部に装着された鏡に視線を向ける。

 鏡だ。そこには当然周囲の景色と真司自身の姿が映っていた。

 鏡の向こうの真司も自信と同じく、怪人を前に身構えている。

 そして鏡の向こうの真司はニヤリと邪悪な笑みを浮かべると構えを解き、ゆっくりと前に向かい歩み始める。

 

「城戸! 避けるんだ!」

 

 それが何かの攻撃だと悟った蓮が叫ぶが、後の祭りであった。

 鏡の向こうの真司が近づくほどに、こちらの真司の姿がどんどん薄れていく。

 何かの攻撃だと悟った真司が何とか回避しようと叫び藻掻くが、もうどうにもならない。

 

 これが他のライダーであれば、この呪いに抗う事も出来たであろう。

 彼らの精神力はそこまで柔ではない。変身していなくても、邪悪な呪いになど負けない強さがある。

 

 いや、城戸真司も決して邪悪な呪いに負けるような軟な精神力はしていない。

 だが、このカガミトカゲが操る鏡の呪いだけは別であった。

 

 鏡の呪いは、城戸真司という男に対しては特別な意味を持つのだ。

 

 なぜなら……。

 

「ははははははははははははっ! ようやくだ、ようやく出てこれたぞ」

 

 城戸真司の姿が薄れ消えて行く中、カガミトカゲの隣には城戸真司の姿が存在していた。

 だが、それは城戸真司ではありえない。

 城戸真司が正義と平和を心に秘めた仮面ライダーなら、その城戸真司は真逆の破壊と暴力、悪徳に酔い狂う破滅の使徒であった。

 

 鏡像世界の城戸真司。

 それはミラーワールドの創造者が生み出してしまった、もう一人の城戸真司とも言える存在。

 それが存在する限り、人を鏡の世界に引き込み入れ替える、カガミトカゲの呪いに城戸真司は抗う事が出来ない。

 

 鏡像世界の城戸真司が何処からともなくカードデッキを取り出す。

 グレーの下地に漆黒のドラゴンが刻まれたケースを、虚空より出現したベルトに装填する。

 

「変身!」

 

 次の瞬間、鏡像世界の城戸真司の姿が変わる。

 影法師が彼の姿を追い隠し、黒いボディースーツを、甲冑を生み出す。

 それは龍騎とよく似た姿。だが、竜の頭部を模した小手が真逆の位置に配置された、黒きダークライダー。

 

「おお! 我が新たな主! リュウガ様をようやく解放する事がかないましたぞ!」

 

 その男のもう一つの名は仮面ライダーリュウガ。

 破壊と悪逆の限りを尽くした邪悪なダークライダーが、この世界に再び降臨したのであった。

 




何の脈絡もなく突然出現するネオショッカーの皆さん。
うーん、このわざとらしい昭和味。


Q.カガミトカゲってなに?
A.仮面ライダー(新)第46話「怪談シリーズ くだける人間! 鏡の中の恐怖」に出てきたネオショッカー怪人。呪いの鏡で人間を鏡の世界に閉じ込め、鏡人間と入れ替えるという能力を持つ。
  加賀美トカゲではない。今回の話を書いていると何度も変換されたんだよ、おのれディケイド!(八つ当たり

Q.ところで蓮に伝え忘れている事が無い?
A.真司ですし……。 
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