ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
当然だが、決して心地の良い目覚めでは無かった。
意識が覚醒した瞬間に感じたのは引きつるような痛みだ。
それはそうだろう。疑似ライダースーツによる強化を受けていたとはいえ、10m近い距離を転がされたのだ。
擦り傷や打ち身はそれなりにある。
逆に言えばそれだけで、後に障害の残るような怪我は一つも無い。
それどころか、擦り傷以外はその日のうちに痛みは消えるだろう。
もっとも、肉体の痛み以上に心に受けた傷は深い。
なにせ、自分が3年間磨き上げた牙が、アインロールドには届くどころかかすりもしなかった。
ミラーモンスターは討伐できた。ミラーワールド系のライダーとも戦えるだけのスペックの開発には成功した。
確かに変身システムなどには不備があったが、計算上ショッカーライダーを倒す事は出来るはずだ。
だが、実際は刃はかすり傷一つ付ける事は出来ず、砲撃も肉体を揺るがす事など無かった。強化したはずの装甲もパンチ一発で突破される始末だ。
「くそっ!」
右腕を自分の目の前まで上げて、集夢は一人毒づく。
仇討ちどころの騒ぎではない。自分の身も、葵も、宿の皆も守れなかった。
「目が覚めたの、集夢! お母さん! 筑波さん! 集夢が目を覚ましたわ!」
音を立てて、襖が開く。
やってきたのは葵であった。
ここに来てようやく、集夢は客間に寝かされていた事に気が付く。
「あっ、葵さん。すいません」
「すいませんじゃないよ。急に変身したと思ったら、戦いだして……。何時からあんなこと出来るようになったの?」
不機嫌そうに、悲しそうに葵は聞く。
年下の幼馴染、もしかすると義理の弟になっていたかもしれない青年は、いつの間に死んだ広夢と同じような物を作っていたというのか?
あまりにも残酷な現実に、葵の表情は暗い。
一方、問われることは予想していたのだろう。集夢は隠す事もなくすらすらと答える。
「兄貴が残した資料を基に、とりあえずシステムの基礎が完成したのは1年前かな。そこから試行錯誤を繰り返して、戦闘が可能なところまで仕上がったのは春になってからだ」
「広夢といい貴方といい……なんで……」
ライダーに憧れ、自分も同じものになりたがる。
大半の子供はどこかで現実との折り合いをつけるものだが、広夢と集夢には他者にはない才能があった。
先人の残した資料があったとはいえ、単独でライダーシステムを開発できる者がこの世界でどれだけいるだろうか?
だが、その才能が本人に幸せをもたらすとは限らない。
「もうやめよう、そんな物捨てましょう。貴方も、死んじゃうかもしれないのよ」
憔悴しきった表情で葵は言う。
目の前で広夢が殺されたのは3年前。ほんの1時間も前に起きたのはその焼き直しともいえる場面だ。
あの黒いライダーが近づいて、倒れていた集夢にとどめを……。
葵が何に怯えているのかは、よく分かる。
だが、だからこそ引く気も無かった。
「筑波さんは立派な人だけど、貴方が戦う必要なんて無いでしょう!」
「ごめん、それでも俺は……」
兄を殺した事すら覚えていない、塵芥などと言った奴に思い知らさなければ気が済まない。
奴らが来たら、また誰かが奪われると思うと気が気ではない。
あの時、飛び出せなかったのは葵に腕を掴まれていたからだけではない。紅い目に恐怖し、足がすくんでいたのだ。
「俺に任せてもらえないかな」
「筑波さん……」
二人の会話に割り込んできたのは、筑波であった。
勝手知ったるではないが、部屋に入ると畳の上に座る。
「戦うなって言うんですか?」
「ああ。今の君では無理だ」
集夢の問いかけに筑波は青年の目を見て、はっきりと言い切る。
スカイライダーとシザースがミラーワールドに引きずり込まれてから現実世界に脱出するまで大した時間は経過していない。
その僅かな時間に集夢と葵を守り切りシアゴーストを殲滅して見せた。
この事実だけで、アインロールドというライダーが強力な力を持っていることが分かる。
「集夢君、君なら気が付いているだろう。あの時、君たちは助けられたって」
「だから何ですか? 兄貴を殺された事を許せと? 奴を……」
「ちょっと、集夢君?」
ぞっとするほどの冷たい声で集夢は返す。
兄を殺された無念を、軽く言われたくはない。
葵は思わず言葉を遮ろうとするが、筑波はそんな彼の怒気を軽く受け流し言葉を続ける。
「違うさ。今の君は弱い。身も心も、作ったシステムも、敵に守られる程にね」
「つ、筑波さん!?」
復讐などやめろ、危険な事はやめろ。そんな事を言われると思っていた集夢は驚きの声を上げた。
一方、諫めると思った葵が筑波を睨むが、筑波は肩をすくめるとこう話を続ける。
「彼は強いよ。それこそ俺だって勝てるかどうか分からない」
この言葉に嘘偽りはない。筑波の本音だ。
集夢が気を失っている間に行った情報収集。
本郷猛や一文字隼人との連絡は取れなかったが、幸い研究所勤務の沖一也の話だけは聞く事が出来た。
スーパー1と互角の戦闘能力を持ち、ネオショッカー大首領を倒す際には、メテオやスーパー1を庇い一番ダメージを受けていたという。
自分たちが8人がかりでようやく倒したネオショッカー大首領を、たった4人で倒した。もしかすると、彼の力は自分以上かもしれない。
「復讐なんてやめろとは言わないんですね」
「俺も人に偉そうな事を言えた義理じゃないさ。とはいえ、無謀な挑戦なら流石に止める」
集夢の開発した疑似ライダーシステムは未完成と言って良い代物だ。
ライダーシステムを単独で完成させたことは驚異的と言って良いだろう。
だが、そこまでだ。とてもではないが、アインロールドと戦える能力は無い。
「とりあえず今はゆっくり休んでおきなさい。葵ちゃん、君も今は休むんだ」
そう言うと、筑波は顔色の悪い葵を促し部屋を出る。
葵も何か言おうとするが、結局は筑波に従い部屋を出る。
そして、客間から離れ音が聞こえない場所まで来ると、筑波の頬を叩いた。
「最低です。なんで集夢を止めてくれないんですか」
そう言い放つと、筑波の答えなど聞かず廊下を出て庭に出る。
途中家に入ってきた人物にぶつかりそうになるが、一瞬だけ相手を見て頭を下げると立ち去ってしまう。
その入ってきた人物、須藤は半ば苦笑いを浮かべ筑波に話しかけた。
「嫌われ役も大変ですね」
「聞いていたんですか、趣味が悪い」
筑波も同じように苦笑いを返す。
まぁ、実のところこの刑事が立ち聞きをしていた事は気が付いていた。
そうでなければ、会話が終わったタイミングでやってくるはずがない。
「職業柄ね。悪いとは思いましたが外で聞かせてもらいましたよ」
「今は興奮しているでしょうから。頭の良い子ですから、理を説いて落ち着かせれば無謀な事はしないと思って」
長く探していた仇を前に、今の集夢は興奮状態にある。そんな時に復讐を思いとどまるように言っても逆効果だ。
それ故に復讐を止めるのではなく、今はまだ実力が足りないので思いとどまる様に話した。
両親を殺された経験のある筑波だからこその気遣いであった。
「彼女にもそう言ってあげればいいのに」
「落ち着いたら話しますよ。須藤さん、あなた星太郎君とは付き合いが長いんですか?」
どこかにこやかに談笑をしていた筑波だが、その眼光が鋭くなる。
ショッカーと繋がりがある刑事を目の前にすれば、当然の対応だ。
もっとも須藤も取り繕う事は上手い男だ。
いけしゃあしゃあとこう答える。
「そこまで長くはないかな。ある犯罪組織を追っていて、一網打尽に出来るってところであいつが敵対組織を倒すって、しゃしゃり出て来たんですよ」
自分のせこい小遣い稼ぎや脅迫されていた事などおくびにも出さず、それはそれとして出しても問題の無い事実だけを口にする。
「そこで戦ったんですけど、痛み分けでね。それ以来、気に入られたのか敵対する犯罪組織の情報をリークしてくるようになったんですよ」
正確には痛み分けでは無く、コテンパンにやられ契約モンスター共々壁に埋められたのだがそのような事は口にしない。
ついでに言えば、情報リークでは無く顎で使われている事も言わず対等を装う。
とはいえ、大筋では嘘は言っていないので須藤的には問題はない、多分。
「情報リークですか?」
「ええ。まだ更生が出来そうな手合いの情報をね。まったく、ただでさえ忙しいのに、仕事を増やしやがって」
アインロールドが情報を流してくるのは、決まってまだ更生が出来そうな闇の世界に浸りきっていない人間ばかりだ。もしくは半ば被害者であることも多い。
逆にもはや怪物と大差が無くなった存在に、あの少年が容赦をする事は無い。
とてつもなく甘く、そして苛烈な暴君。それが須藤にとってのアインロールドという少年だ。
「広夢君は更生の余地は無かったとでも」
不機嫌さを隠さない筑波の言葉に、須藤は肩をすくめる。
「さあ、3年前の彼は知りませんよ。ただ、彼は時折豹変しますね。それこそ、人がそっくり入れ変わったかのように残忍で好戦的な存在になります」
「え?」
どこまで話すのが自分の利益になるかな。
須藤は目の前の大ゴマにどこまで情報を流せば、自分に都合の良いように動いてくれるかを考える。
「彼の本名は渡世誠太郎。年齢は16歳。父親は医者、母は弁護士。後は中学生の妹が一人」
「え?」
「3年ほど前に妹の送り迎えの最中にショッカーに襲われ誘拐された。そこで洗脳、改造をされたんでしょうね」
「警察はそこまでわかっているんですか?」
「先日別件で判明しましてね。ああ、極秘情報なのでオフレコでお願いしますよ」
先日発生したワーム事件で同僚が掴んだ情報だ。
虎の尾を踏む気の無い須藤にとってはさほど価値のある情報では無いが、仮面ライダーが知れば衝撃を受ける情報には間違いない。
事実、須藤の話を聞いた筑波の目には困惑と怒り、そして闘志が宿る。
こうなると厄介なんだよなぁ……。
同僚のお人好しとか爆走馬鹿とか人間をやめている不死身な上司を思い出しつつ、須藤は内心ほくそ笑む。
「なんで俺にこんな事を?」
「私はね、彼を捕まえて少年院送りにしてやりたいと常々思っていましてね。ただ、一人じゃ難しいものですから」
「しょ、少年院?」
「言ったでしょう、16歳ですよ。まだ少年法適応内ですから」
出会ってからこれまで、散々面倒を押し付けられてきたのだ。ここいらで一発やり返してやりたいとは思っていた。
そして、普通に倒す以上に屈辱を与え笑い飛ばしてやるには何が一番良いか。
あのすかしたクソガキを少年院送りにしてやりたい。あのイケメン気取りが丸坊主になれば、相当笑えるだろう。
アインロールドの力を最大限封じ、なおかつ仮面ライダーを巻き込み仕返しが出来る冴えたやり方であった。
※※※※※
「なんで……」
家を飛び出した葵は、一人呟く。
広夢が3年前に殺された。筑波さんは嫌いではないが、それでも自分の周りであんな事が起きるなんて、もうたくさんだと思った。
それなのに、集夢がまた同じ道に進んでいた。
それも自分の知らぬ間に。
「なんで……」
なんでこんな事が起こるのだ。
理不尽だ。
自分が何か悪い事をしたのか。
広夢が何か悪い事をしたと言うのか。
なんで集夢が同じことをしようとするのか。
分からない、分かりたくない。
なんで筑波さんは、集夢を止めてくれないんだ。
もう嫌だ、本当に嫌だ。
一人涙する彼女に向かい、誰かが声をかけてくる。
「あれ、葵ちゃんどったの? あっと、ただいま」
そう言って声をかけて来たのは、朝方知り合いと会ってくると言って出かけて行った城戸であった。
いつものようにどこか能天気そうな笑顔で、バイクを押して帰ってきた男を見た時、葵の中で何か枷が壊れる。
「城戸さん……」
「ちょ、ちょっと、葵ちゃん?」
突然子供のように泣き出す葵に、城戸が困惑する。
何が起きたのかさっぱりと分からないが、何かがあり彼女が相当弱っている事だけは、察しが付いた。
だからあやすように彼女に寄り添い、話を聞く。
「いったい何があったんだ、葵ちゃん?」
「集夢が、集夢が……」
その城戸の温かさに、葵は俯き子供のように泣きじゃくる。
だから……。
城戸真司を模した存在が浮かべた、邪悪な笑みに気が付く事は無かった。
たぶんあった会話
筑波「沖さん、久しぶりです」
沖「久しぶり、筑波さん。でも、急にどうしたんだ?」
筑波「はい、星太郎君の事を聞きたくて」
沖「……誰?」
筑波「え? えっと、京都で一緒にいた黒いショッカーライダーの事なんですけど……」
沖「え? ショッカー……。あー、あー、アインの事か。」
筑波「え? ちょっと、名前知らなかったんですか」
沖「いや、そんな暇なくて……」