ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
再開です。
夏の長い昼間が終わりを告げつつある夕暮れ時。
この辺りでは一番高いマンションの屋上に、俺と秋山さんの姿はあった。
「いるな。上層階西側の窓を見て見ろ」
俺たちが見ているのはかがみこネオタウンという、秋オープンの新複合レジャー施設に偽装したネオショッカーの拠点だ。
遠目で見る限り工事中の建物にしか見えないが、よくよく見ると、建物の中に触覚付きの黒タイツの姿が見える。
だからさ、建設用の囲いで覆われているとはいえ、街中だぞ。なんで戦闘服姿のままなんだよ……。
ショッカーの連中もそうだが、もう少し服装に気を使えよ……。
「良く見えるな」
表じゃ出回っていない軍用の双眼鏡でもそこまで見えなかったのだろう。同じ建物を見ていた秋山さんが、呆れ半分の口調で話しかけてくる。
まぁ、確かに我ながら呆れる視力だ。
変身前なので細かいパラメーターや特殊な感覚は無いが、ナノマシンの視覚強化を駆使すれば軍用の双眼鏡より遠くが見えてしまうのだ。
「特別製なのでな。さて、手筈を確認するぞ」
「ああ」
「俺が通常世界で正面から陽動をかける。あんたはミラーワールドから接近、おそらくは囚われているだろう城戸真司を救出、もしくは手掛かりを探してくれ」
まぁ、こうは言ったが、ほぼ間違いなくミラーワールドの建物に城戸さんは囚われているだろう。
良くも悪くもこういう時に欺瞞工作を働いたりはしない。
別に慢心ではない。ライダー以外なら軍隊が来ても跳ねのけられるという自信の表れなのだ。
まぁ、それで毎度ライダーにカチコミ食らって計画が失敗しているので、やっぱ慢心でしか無いか。
「ただ、あちらの世界には浅倉がいる」
あの面汚し、謎の嗅覚があるからな。城戸さんがリュウガに囚われていると知ったら絶対戦いに来る。
この、戦いに来るというのがミソだ。助けに来るではないのだ。
その結果奴の暴力が何処に向かうかはわからない。リュウガに殴りかかる可能性が1割、ネオショッカーと(表向き)組んでこちらに戦いに挑み用が済んだらネオショッカーも殴る可能性が8割。あと1割は双方に殴りかかってくるってところだ。
どのみち、碌な事にならない事だけは間違いなかった。
「気を付けろよ。浅倉の事だ……嗅ぎつけてくる可能性が高い」
「言われなくても分かっている」
同じ考えに至ったのだろう。秋山さんも浅倉の名前が出た途端うんざりした表情をする。
正直、まだ残っているだろうライダーの安全やライダーバトル完了の阻止を考えると、現時点では城戸さん救出より奴を倒す事の優先度は高い。
「ぬかるなよ、ショッカー」
デッキを取り出し鏡の世界に突入していく秋山さんを見送りながら、俺は苦笑いを浮かべる。
「誰に言っている。貴様もな」
俺はビルの淵から身をひるがえすと、腰に出現した命のベルトに力を籠める。
中央の風車が激しい回転を始め膨大なエネルギーを生み出す。それを受けて全身のナノマシンが唸りを上げる。
「ライダー変身!」
空中に出現した漆黒の強化戦闘服が俺の身を包み込んでいく。
黒いボディ、黒いヘルム、漆黒の手足、赤く輝く複眼。そして最後に深紅のマフラーが俺の首に巻かれ風にたなびく。
俺は俺に、アインロールドとなる。
「サイクロンヘル!」
ビルの壁を蹴り、空中に飛び出す。
それと同時に俺の呼び声に応え、相棒たるサイクロンヘルが虚空より姿を現す。
サイクロンヘルに飛び乗った俺は、そのまま別のビルの屋上に着地をして、アクセルを全開で吹かせる。
短い距離を疾走し、再び夜の空に身を躍らせた。
「連中が丁度いい壁を作ってくれた。町の被害を気にしなくて済むな」
問題の施設を囲っている板は一見すれば単なる工事用の仮囲いに見えるが、実際はネオショッカーが技術の粋を駆使して作った特殊障壁だ。迎撃システムが組み込まれている訳では無いが、少々の衝撃ならびくともしない強度と遮音性を持っていた。
障壁を破る事など造作もないが、面倒な上にネオショッカーの連中が隠蔽を諦め町に打って出る可能性がある。
だったら、初めからあれを飛び越え侵入し、中で暴れれば町の被害を気にせず済む。
上空を跳躍し、問題施設がどんどんと近づいてくる。
俺の接近に気が付いたのか施設の中が慌ただしくなるがもう遅い。
「ノロマどもめ。行くぞサイクロンヘル。ヘルブレイクだ!」
俺のベルトから供給されたエネルギーがサイクロンヘルを強化し、周囲に強力なバリアを展開する。
深紅の閃光と共に、俺とサイクロンヘルは一直線に敵施設の壁を突き破った。
「ひいいいいい!?」
「ぎゃあああ!」
おっとり刀で迎撃用のロケット砲を準備していたアリコマンドどもが、俺たちの着弾に巻き込まれ悲鳴を上げながら吹き飛んでいく。
これだけで10を超える数のアリコマンドは始末できたが、奥にはまだいるな。
廊下を慌ただしく移動するアリコマンドたちの足音が聞こえてくる。
「サイクロンヘル、お前は隠れてデータを全部ぶっこぬけ。そうだな、コテージの使用料代わりにシノブにでも送っておけ」
ネオショッカーのデータはシノビバチにでも送っておけば有効活用するだろう。
追放からここまでいろいろとフォローもしてもらっている。このあたりで礼の意味も兼ねて何かしておくべきだ。
彼女の好意に甘えるばかりでは、ヒモと大差が無い。
サイクロンヘルがステルスで姿を消すのと同時に、俺はひん曲がった扉を蹴り開けて通路に出た。
この建物のどこに連中の中枢があるのかは不明だが、どうせ地下だろうとあたりを付けて下に下に進む。
途中アリコマンドたちが散発的に襲い掛かってくるが、そのようなものに後れを取る俺ではない。
適当に殴り飛ばしながら進んでいくと、壁の向こうにセンサーが何かの熱源をキャッチする。
意識するより先に俺はその場を跳躍し、窓を突き破り外に飛び出す。
それとほぼ同時に、建物の壁を突き破り、俺が一瞬前までいた所を黒い炎が通り過ぎて行った。
「来たか」
「これ以上は好きにさせん、仮面ライダー」
節穴が。呟こうとした言葉を、敵の姿を見た瞬間に思わず飲み込む。
実のところ、暴れていればリュウガが出てくることは予想はしていた。
予想はしていたのだが……。
「アナザーリュウガだと?」
そう、そこにいたのはリュウガでは無かった。
悪魔のような相貌に、竜を模した手甲を装備した右腕と、巨大な偃月刀を握る左腕。どこか古代中国を連想させる重厚な甲冑の胸には、RYUGA、2002の鏡文字が刻まれている。
かつてジオウが戦ったという、反射能力を持つ強力無比なアナザーライダー、それがこのアナザーリュウガだ。
アナザーリュウガは壁に出来た大穴をゆっくりとくぐり野外に出てくると、驚きと呆れで奴の名前をつぶやいた俺を一瞥しこう返してくる。
「俺を知っているのか?」
「人より博識でな」
思わず漏れた俺の呟きに、アナザーリュウガが態々反応する。
そういえば常磐さんが歴史改変をしたので、アナザーリュウガは発生していない事になっているのか?
まぁ、今更だ。歴史改変が頻繁に行われている形跡があったり、平行世界や異世界や異星からの侵略者が頻繁にやってくるこの世界では、細かい事を考えても仕方ない。
しっかし、アナザーリュウガか。たしか、ジオウⅡで何とか倒せた強豪アナザーライダーだっけ?
確かこいつの特殊能力は……、試すか。
「いくぞ、アナザーライダー」
大地を蹴ると、飛び道具の無い俺はリュウガに対し間合いを詰める。
とはいえ、馬鹿正直に突進してくるステゴロ専門の相手をそのまま迎えうつほどアナザーリュウガも馬鹿ではない。
「寄せさせるか!」
接近させまいと次々に飛来する黒い火炎弾を左右に回避しながら、アナザーリュウガの懐に飛び込もうとする。
流石に火炎弾を放った直後では小手による迎撃は難しいのか、左手に握った刀を振り下ろしてきた。
もっとも、俺だってそう簡単に切られてやる気は無い。剣の腹を掌で弾き懐に入り込むと、腹を狙いパンチを繰り出す。
半ば牽制とはいえ、それなりに力を込めた一撃にアナザーリュウガが体勢を崩す。
もっとも、そこは流石のアナザーライダー。踏ん張り瞬時に体勢を立て直すと、至近距離で火炎弾を炸裂させてきた。
「んな!?」
当たりはしないが、腹の真横を通る高熱の塊と背後から聞こえる爆発音に冷や汗が流れる。
龍騎の炎と同じ温度を持っていると仮定すれば、まともに当たれば俺とて無事でいられる保証はない。
とはいえ、その程度で動きを止める俺ではない。
今の一連の衝突で分かった。機動力と格闘能力は俺が勝っている。
剣が振りにくい近接戦闘を見極めながら、俺はアナザーリュウガと殴り合う。
生身の人間ならともかく、俺たちにとって得物を持つことが必ずしも有利になるとは限らない。特に俺のような生粋のインファイターが懐に入り込むと、動きが制限される長物は不利になる事が多い。
無論俺だって無傷ではないが、致命傷につながりかねない斬撃と火炎はすべて避けているので許容範囲内だ。
そして、ついにローキック気味の足払いでアナザーリュウガを捉える。
「ライダーパンチ」
アナザーリュウガが姿勢を崩したその隙を見逃さず、右の拳に赤いエネルギーを溜める。
破れかぶれに繰り出される刀の攻撃を避けながら、必殺の拳で奴の腹部を狙う。
鈍い手ごたえが拳に伝わり、アナザーリュウガはついに後ろによろめいた。
だが、次の瞬間俺と奴の間の空間に、ひび割れた鏡のような物が姿を現すと……赤い拳が唐突に俺に襲い掛かってくる。
やはり、このアナザーリュウガも攻撃反射能力を持っていたか!
「面倒な能力を!」
まぁ、この反応はわかってはいた。
なので、本命である力を込めた左の拳で迎撃。赤い拳のエネルギーはあっさりと霧散する。
とはいえ、迎撃に一手を費やした事には変わりない。
態勢を整えたアナザーリュウガが後方に飛びのくと、龍の拳から火炎弾を連射してきた。
「逃がさん! 死ねぃ、仮面ライダー!」
降り注ぐ火炎弾を後方に下がり避けるが、アナザーリュウガは自分から前に出てきて斬撃を振るう。
流石にそう簡単に剣の一撃など貰わないが、格闘がしづらい微妙な距離を保ちながらアナザーリュウガは剣を振るう。
何とかかいくぐり懐に入り込もうとすれば、竜の小手は炎を吹き出し俺の身を焼こうとする。
遠距離を選択してくれば楽だったものを、懐に入り込ませないいやらしい攻撃を繰り出してくる。
仕方ない、仕切り直しをさせてもらうか。
俺はアナザーリュウガの斬撃をバク転で回避しながら、剣を蹴りで弾き飛ばし大きく後方に飛ぶ。
もっとも、剣が弾かれた程度ではアナザーリュウガも止まらない。龍の手甲から、今までよりも巨大な火炎弾が解き放たれた。
「くたばれ!」
「やれやれ、親に教わらなかったのか? 火遊びはするなとな」
迫る巨大な火炎弾を迎撃するべく、先ほどのライダーパンチとは違うエネルギーを込めた手刀を振り上げる。
赤い輝きが闇夜を照らし、周囲を同じ色に占めていく。
「ライダーチョップ!」
必殺の手刀が火炎弾を斬る。
縦一文字に引き裂かれた火炎弾は奇麗に左右に分かれ、俺の脇を斜めに飛んでいく。
通り過ぎた一瞬だけ熱気を感じる物の、それもすぐに消え、はるか後方の建造物を巻き込み爆発を起こす。
連中がこの場を要塞化してくれていて助かったよ。少なくとも流れ弾で一般人が犠牲になる事は心配しなくても良い。
これが町中なら、ダメージ覚悟で相殺するか、自らの身で受け止めなきゃならなかった。
「さて、準備運動はこれくらいで良いだろう。ところで、貴様一人で良いのか、劣化コピー……、いや、ネオショッカーのカガミトカゲ」
「なにっ? なぜ、それを!?」
「案外俺の勘も捨てたものではないな。動きが龍騎やリュウガと違い過ぎたのさ」
俺の言葉を受け、アナザーリュウガは驚きを露にする。
だが、その声は先ほどまでの城戸さんの声ではない。聞き覚えの無い老婆の物だ。
そもそも秋山さんの話を聞いた時から違和感があった。
リュウガを複数用意できるなら、一斉に襲えばナイトを倒す事は出来たであろう。よしんば逃がさないよう罠に嵌める為だったとしても、追手にリュウガが混じっていなかった事はおかしい。
カガミトカゲの複製には何らかの制限がある。そして、秋山さんを襲った時の状況を考えればその制限の推測はさほど難しくない。
距離と、能力の劣化。この辺りだろう。
最初からナイトを多数で押しつぶそうとすれば、秋山さんは能力の劣化に気が付き隙をつく。だから、最初の一体が敗北した場合に備えて伏兵という形で不意を突いた。
追手を出さなかったのも、長距離まで飛ばせないため。
そして、反射能力を持つアナザーを出してきたのは、中身が違う事による戦力劣化を誤魔化すためか。
リュウガほどのライダーを複数生み出し、複製品は遠隔操作なので本体は無事だ。
劣化や距離、数などの欠点があっても脅威の能力ではある。
ただ、種が割れればどうって事はない。
「さて、どうする。ご自慢の反射攻撃でもして見せるか? 攻略方法はもうわかっているぞ」
実際、慌てることなく相殺してみせたのが功を奏したのだろう。
俺が何らかの対策を練っている事は嘘では無いと判断したのか、俺の圧に押されアナザーリュウガが半歩下がる。
攻略方法を思いついていることは間違いない。
ただ、リュウガが複数の複製を操っていた所を見ると、このアナザーリュウガも遠隔操作だろう。倒しても本体のカガミトカゲは無事だろうから労力の割に旨味が無さそうなんだよな。
まぁ、ここは陽動と割り切って数を引き寄せて暴れる事にしておこう。
「それは止めてもらおうか。アナザーライダーは貴重なのでな」
もっとも、俺がアクションを起こすよりも早く事態は動く。
俺がいた場所を黒い火炎が焼き払う。
攻撃を仕掛けたのはアナザーリュウガではない。
唐突に障壁の上より聞こえてきたのは城戸さんと同じ声。
だが、城戸さんが持つ底なしに能天気な響きはそこに無い。代わりにあるのは冷徹で危険な響きだ。
月の輝きを背景にこちらを見下ろすのは、漆黒の仮面ライダーリュウガ。奴の周囲を飛び回る鋼の竜は契約モンスターであるドラグブラッカーか。
龍騎とほぼ同じ姿ながら、圧倒的禍々しさを見せるその姿に仮面の下に冷や汗が流れる。
「ほう、リュウガ本人がお出ましか。まぁ、遠隔操作のデク人形なのだろうが」
もっとも、そんな動揺は欠片も表に出さず、アインロールドはいつものように傲慢に尊大に振舞う。
それ以外の振る舞いは知らない。それが俺、最強最悪のショッカーライダーアインロールドなのだ。
「ずいぶんと好き勝手暴れてくれたようだな」
「いずれ我が物となる世界に害虫がいては堪らんのでな。これも仕事のうちよ」
「きさま!」
「気にするな」
俺の言葉にアナザーリュウガが激昂するが、リュウガはそれを片手で制する。
仮面の奥の表情は分からないが、恐らくはこの時の奴は楽しそうなにやけ面を仮面の下に張り付かせていた事だろう。
そのぐらい、奴の声はどこか弾んでいた。
「この場で死ぬ男の戯言だ。気にする必要は無い」
「ほう、大きく出たな」
「くっくっくっくっく……。これを見ても、そう言っていられるかな?」
その言葉と共に、俺の周囲に金色の羽根が舞い散る。
夜の闇の中、輝く羽が舞い落ちる様は幻想的と言っても良いだろう情景だ。
だが、俺の前世の知識と、現世の知識がこの状況に警鐘を鳴らす。
まずい!
慌ててその場を飛びのこうとするよりも、俺の身体に一枚の羽根が触れる事が先であった。
肩口で唐突に起きる爆発。
その爆発に弾き飛ばされながら別の羽根も俺の身を襲い爆発を繰り返す。
この程度の攻撃は慣れっこではある。
多少のダメージを覚悟で大地を蹴り、爆発に巻き込まれながらもその場から飛び去る。
肩で息をしながら、少し前まで俺がいた場所。その上空を見る。
満天の星空の元、空からは絶え間なく金色の羽根が降り注いでいた。そのはるか上を見上げれば、金色の炎を纏いし存在が一人宙に浮く。
不死鳥を模した金色と赤銅色の鎧を身に纏い、腕を胸の前に組みこちらを静かに見下ろしている。
圧倒的存在感は、リュウガに勝るとも劣らない。
そのライダーの名前を、俺は知っている。
「仮面ライダーオーディンだと……」
そう、そこにいた金色の戦士こそ仮面ライダーオーディン。
神崎士郎の作り出したライダーバトルの最終章に出現する神にも等しい力を持つ存在。
そしてこの世界においては財団Xが作りだした、最悪の儀式を作り出す舞台装置。
その最悪の存在が、最悪の敵の手に落ちていたのだ。
まいったな、予測していなかったわけでは無いが、なってほしくない事ほど現実になる。
「なるほど、オーディンも現れたか。ちょうどいい、まとめて始末してくれる」
だが、アインロールドは傲慢に言い放つ。
それこそが、俺に与えられた役割だからだ。
魔王さんはいませんか! 割とシャレにならないアナザーリュウガがいますよ!
剣を貸してください!(切実