ワールドトリガー・Returner from another world   作:もりいぬ

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空閑の黒トリガー

 俺たちの前に突然現れた三輪隊は、殺気を隠すつもりもなく俺たちの方へと近づいていく。

 ──それより、さっき三輪はなんと言った? 

 

「今そのトリガーを使っていたのは、そっちの女か?」

「え~。初の人型近界民(ネイバー)が女? ちょっとやる気削がれたな~」

「油断するな。どんな姿でも、近界民(ネイバー)は人類の敵だ」

(……人型近界民(ネイバー)だと? まさか、この3人の中に近界民(ネイバー)が?)

 

 どうやら、さっきの一連の過程を三輪と米屋に見られていたらしい。結果として、千佳が疑われている。さらに三輪隊の発言によれば、今ここにいる三雲・空閑・千佳のうち1人が人型近界民(ネイバー)だという。

 そして今、三輪隊に一番疑われているのは千佳のようだ。それに対して三雲が何かを言おうとした時、空閑が2人の前に立った。

 

「ちがうちがう。近界民(ネイバー)はおれだよ」

「お前が近界民(ネイバー)か……」

「うん。間違いないよ」

 

 恐らく、俺を含めたその場の全員が驚愕しただろう。空閑遊真という少年は、それが当たり前であるかのように自分のことを近界民(ネイバー)だと言い切ったのだ。

 そしてその言葉を聞くや否や、三輪は空閑へ向けて銃を向け──何の躊躇いもなく発砲した。

 

「──ッ!? シールド!!」

 

 その発砲を、俺が反射的に張ったシールドで防ぐ。

 あと0.1秒でも遅ければ、空閑の頭が吹き飛んでいただろう。換装したままでよかった。

 

「いきなり攻撃を仕掛けるとは……。どういうことか説明してもらうぞ、三輪!」

近界民(ネイバー)を名乗った以上、見逃すわけにはいかない。近界民(ネイバー)はすべて殺す。それがボーダーの務めだ」

 

 その言葉で確信した。どうやら三輪は、ハナから空閑を仕留める気だったらしい。現に今の三輪の目はあの時見た復讐者の目をしている。そして、俺の中で三輪秀次という人間への認識が一気に「危険人物」へと跳ね上がった。

 ──向こうが「自分は近界民(ネイバー)だ」と言ったとはいえ、話も聞かず即座に殺そうとするのはいくらなんでも短絡的すぎる。

 

「ありがとう、リョーガさん」

「大丈夫か? 空閑」

「うん。へーきへーき」

 

 どうやら空閑にケガはないようだ。その事実に、少し安堵する。

 だが俺と空閑が普通に話しているのが気に食わないらしい三輪が、俺に食って掛かってきた。その姿はさながら威嚇する猛犬……いや、大蛇のようだ。

 

「あんたこそ……。近界民(ネイバー)の味方をするとはどういうつもりだ!」

「味方も何も、俺は正しいと思った行動をとっただけだ。相手が近界民(ネイバー)だと名乗っただけで発砲するとは、隊律違反もいいところだぞ。相手が生身だったらどうするつもりだったんだ?」

「さっきも言ったとおり、近界民(ネイバー)と名乗った以上黙って見過ごすわけにはいかない。それだけだ」

 

 だからと言って即発砲は黙って見過ごすどころの問題ではないだろう、と内心でため息を吐く。

 一応ボーダーのトリガーには間違って一般人を誤って攻撃しても大丈夫なように安全装置がついている。だが、間違いなく想像を絶するほどの激痛が走ることになるし、一般人を攻撃しようものなら故意であろうが事故であろうが隊律違反だ、謹慎処分は免れない。

 それを踏まえるとさっきの三輪の発砲は、あまりにも危険極まりない。少し前に三雲の隊律違反をスルーした俺だが、それとこれとは話が違う。俺としても見過ごすわけにはいかない。仮にこの空閑という少年が本当に近界民(ネイバー)であったとしても、だ。

 俺と三輪の間に、一触即発の空気が流れる。そこへ、空閑が入り込んできた。

 

「ボーダーに『迅さん』っているだろ? おれのこと聞いてみてくれない? いちおう知り合いなんだけど」

「迅を知ってるのか?」

「うん。この間会った。リョーガさんこそ、知り合い?」

「迅だと? やっぱり一枚噛んでるか。『裏切り者』の玉狛支部が……」

「裏切り者だと? ……お前、覚悟はできてるんだろうな」

 

 三輪の言葉を聞いた俺は剣を抜く。生憎だが、弧月同士の鍔迫り合いで負けるつもりは毛頭ない。

 近界民(ネイバー)に対して文句を言うのは好きにすればいい。ハッキリ言って、それだけのことをやっているのだから。三輪にとっては、「近界民(ネイバー)とも仲良くしよう」という主張をしている玉狛が気に入らないのだろう。

 だがもしそうだとしても、玉狛を「裏切り者」と言われるのは我慢ならない。

 

近界民(ネイバー)に怒りを滾らせるのはいい。だが玉狛を裏切り者というのなら、誰であろうと許さない」

「俺たちは城戸司令の特命で動いている。邪魔をしないでもらいたい!」

「実力行使か? ボーダー施設外でのボーダー隊員同士の戦闘は固く禁じられているはずだ。いくらお前たちが城戸司令の特命で動いていたとしても、例外にはならないぞ。それに、いくら相手が近界民(ネイバー)と名乗ったとはいえ、俺はあの発砲を見過ごすわけにはいかない。それでもここで戦うか? 言っておくが、俺はお前たち2人を相手にしても──()()()()()()

 

 無論、俺の発言はハッタリなどではない。俺には三輪と米屋の2人を相手にしても絶対に勝てるという自信があった。俺と三輪は、しばらくの間牽制するかのように激しく睨み合う。

 しかし、その睨み合いに突如として空閑が割り込んだ。

 

「リョーガさん。ここはおれに任せてくれ」

「空閑?」

「トリガー、起動(オン)

 

 指輪から召喚された黒い何かが、空閑の体を覆った。

 そう、「黒い」のだ。それに気づいた瞬間、俺の頭の中である1つの可能性が思い浮かんだ。

 

「まさか、そのトリガーは……!?」

「リョーガさんは、オサムとチカについててくれ。でも、いざとなったら助けてクダサイ」

「……分かった」

 

 俺はその発言に大人しく従い、引き下がる。その時、三輪の「2人がかりで仕留める」という言葉に対して、空閑が「おまえ、おもしろいウソつくね」と言っていたのを、俺は聞き逃さなかった。

 ……確かに、三輪隊はあと2人狙撃手(スナイパー)がいる。だが、この距離で感づいたというのか。そう思った瞬間に、戦いが始まる。槍使いである米屋の先制攻撃、それを空閑が躱したと思いきや、首筋からトリオンが漏れた。

 

(……『幻踊』か)

 

 弧月のオプショントリガーの1つ、「幻踊」。弧月の形を変化させることができる。もっとも、旋空より扱いどころが難しく、使ってる隊員はあまり見ない。しかしそれゆえに初見殺しにも使われるトリガーだ。

 初見殺しでいきなり首を狙ったあたり、確実に殺しに行っている。どうやら三輪隊は完全に空閑を殺す方向で方針を固めたらしい。

 

「空閑! 奴の穂先は自在に形を変えられる!」

「なるほど……。そういう仕掛けか」

「お前……!」

 

 俺は空閑に助言する。三輪のヘイトがさらにこちらに向いたが、気にする必要などないだろう。俺は三雲の方を振り向くと、一言だけ言う。

 

「安心しろ。俺の考え通りなら、空閑が負けることはまずあり得ない」

「どういうことですか?」

「……その電話、たぶん迅だろ? 貰っていいか?」

「あ、はい」

 

 この状況で三雲が頼りにできるボーダー関係者と言ったら、迅くらいのものだろう。

 実際、その読みは当たっていた。俺は三雲が今しがた迅にかけた電話を受け取り、迅と通話を始める。

 

『はいはい、もしもし? こちら実力派エリート迅。どしたの? メガネくん』

「悪い、メガネ君じゃなくて俺だ。──見てるんだろう?」

『もちろん。今バトり始めたところでしょ?』

「ならいい。けど、1つだけ聞かせてくれ。空閑の持つトリガーは……」

『遼河さんの考え通りだよ。だから、遼河さんは何もしなくてオッケー』

「つまり、空閑は負けないってことか。ならある程度済んだらこっち来てくれ」

『はいはーい』

 

 俺はそこで通話を切った。

 戦闘開始直後に迅が干渉してこないということは、何か考えがあるのだろう。よりよい未来にするための何かが。それに今迅が来たところで、穏便に解決するわけがない。玉狛を「裏切り者」と言い切った三輪だ、迅が来たら余計に容赦がなくなる可能性が高い。もっともそうなれば俺も戦線に参加するだろうし、皆まとめて隊律違反から逃れようがなくなるが。

 三雲に携帯を返すと、三雲はやや困惑した表情でこちらを見つめてきた。

 

「何を話してたんですか?」

「ああ、迅ならもうすぐ来る。安心しろ」

「ならいいんですけど……」

「それよりも、よく見ておけ。あれがボーダーの精鋭……A級隊員の実力だ」

 

 俺が迅と通話しているうちに、三輪&米屋VS空閑の戦いは激化していた。米屋の刺突攻撃を空閑が払いのけると、すぐさま米屋と三輪が挟み込むようにして連携攻撃を仕掛ける。空閑も圧倒的なスピードで2人を翻弄しているが、2人の連携はそれに引けを取らない。さすがA級、ボーダーの精鋭部隊といったところだ。

 三輪の銃から放たれた弾丸を空閑がシールドで防ぐと、米屋がそのシールドを素早い弧月の一撃で叩き割る。そのまま米屋と三輪が自然と空閑を挟撃する形になるが、その瞬間、空閑の足元に何かが出現したかと思うと、空閑が駅のホームの天井を突き抜けて飛び上がった。まるでグラスホッパー、いや、それ以上の跳躍力だ。

 しかし空中でがら空きになった空閑を、狙撃手(スナイパー)が撃ち抜く。どちらが撃ったかは分からないが、少なくとも空閑は致命傷を負ったわけではないようだ。あの一瞬で身を捩り、急所を避けている。右腕を消し飛ばされたが、まだ活動に問題はないだろう。

 

「やっぱり無茶ですよ! A級2人に狙撃手(スナイパー)なんて!」

「いや、大丈夫だ。俺には()()()()

 

 そのまま片腕を失った空閑と三輪隊の攻防は続く。すると、三雲が空閑の戦闘スタイルの違和感に気づいたようだった。

 

「……空閑にしては、大人しすぎる。なんで反撃しないんだ?」

 

 「大人しい」なんて発言をするってことは、空閑の戦い方を見た事があるのだろう。てことは、本来の戦い方はもっと手荒いのか。まあ確かに、空閑の使うトリガーの出力を考えれば三輪隊を瞬殺することなど容易いに違いない。

 そして三雲の疑問に答えるかのように、三雲の肩から小さなレプリカが出てきた。ちびリカ、とでもいうべきか? 

 

【私が考えるに、その理由は2つある。まず1つは、単純に相手の位置取りが上手い。近づくときは、絶えずユーマの死角に回り込み、ユーマが1人を相手取れば、もう一方がすぐにその隙を突けるように動いている。ユーマは広いところに出て挟み撃ちを回避しようとしたが、それすら読まれて狙い撃ちされた。なかなか戦い慣れたチームのようだ】

「けど、空閑のあのトリガーならそれは些細な問題だろうな。空閑が反撃しないのは、もう1つの理由が大きい。──『俺たちのため』だ」

「僕たちの……?」

「もし俺と三輪隊が戦っていれば、三輪と米屋を斬ってそれで終わりだ。けどその場合、俺も三輪隊も隊律違反をしたことになる。空閑は、全員がなるべく穏便に解決できる方法を選んだわけだ。結果は見ての通りだが」

【リョーガの言うとおりだ。すでに正隊員として活動しているリョーガはともかく、オサムがせっかくB級に上がったのに、自分のせいでそれが無に帰すかもしれない。それを考えて平和的に交渉しようとしたが、相手は聞く耳を持たなかった……】

「無理もない。三輪は、近界民(ネイバー)に並々ならぬ恨みを抱いているみたいだからな」

「恨み、というと……?」

「あの目は、恨みのこもった人間……言うなれば、復讐者の目だ。俺は昔、あの目をしている人間を何人も見てきたことがある」

「復讐……ですか」

「ああ」

 

 三輪&米屋ペアの猛攻はなおも続いている。いくら空閑があのトリガーを使っているとはいえ、手傷を負った今の状態では限界があるだろう。もっとも、空閑が「とんでもないトリガー」の使い手だと気づいているのは俺と迅しかいないようだが。

 そう思っているうちに、三輪の放った弾が空閑の張ったシールドを貫通してトリオン体に直撃し、トリオンの塊が重石となってせり出した。

 

鉛弾(レッドバレット)……!?」

 

 鉛弾(レッドバレット)。命中した相手の動きを制限するトリガーだ。

 この鉛弾(レッドバレット)の厄介な点は、「シールドで一切防げない点」に尽きる。普通の狙撃ならシールドで問題なく防げるが、鉛弾(レッドバレット)はシールドを無視する。直接のダメージはないが、当たったら最後。鉛のような重さ(1つの塊につき100kg)で動きを制限してくるのだ。

 ただし射出したトリオンをほとんど重石に変換するために使ってしまうので、弾は遅いし射程も短い。だから使っている隊員はまったくと言っていいほど見ない。俺もトリガーの存在自体は知っていたが、使っている隊員は初めて見た。

 そして空閑の動きを制限した三輪と米屋が、空閑に止めを刺すべく飛び上がる。俺が助けに入ろうとしたその時、空閑のトリガーから何か紋のようなものが浮き出た。

 

「『錨』印(アンカー)+『射』印(ボルト)四重(クアドラ)!」

 

 大量の弾丸が紋から飛び出し、三輪と米屋に命中する。直後、弾丸の直撃を受けた2人の身体からは鉛弾(レッドバレット)のそれと同じものが大量にせり出し、空中にいた2人は重力に従ってなすすべなく墜落した。

 それを見た空閑が、三輪に対して言い放った。

 

「さて、話し合いしようか」

 

 それは、事実上の勝利宣言だった。

 僅か数秒の間に形勢は逆転、三輪と米屋は全身に撃ちこまれた重石により完全に無力化されてしまった。

 だがそれよりも、空閑がついさっき目の前で行った一連の動きが俺には信じられなかった。

 

(あの一瞬で、鉛弾(レッドバレット)を作り出した……? まさか、相手のトリガーをコピーできるのか……!?)

 

 だとすれば、正しく無限大の可能性を持つトリガーだ。近界(ネイバーフッド)を渡り歩いてきた俺でも、これほど汎用性の高いトリガーは見たことがない。しかも見たところ、弾の出力も、重石の重量も、三輪のそれをはるかに凌いでいる。現に2人は全身に空閑とは比にならない量の重石を打ち込まれ、もはや腕のひとつも動きようがない状態になっていた。

 まさか、こんな形であの2人を無力化するとは恐れ入った。俺は空閑の反撃に呆気にとられる三雲の方を振り向く。

 

「言っただろ? 問題ないって」

「遼河さん、これを最初から分かってたんですか?」

「……まあ、そういうことだ」

 

 正確には、結果だけが分かっていた。だから俺の言葉は半分本当で半分嘘だ。まさか一瞬で相手のトリガーをコピーしてそのまま三輪隊の2人を無力化するとは思わなかった。

 俺は戦い終えた空閑の下へと向かう。結果だけ見れば、空閑の大勝利と言っていいだろう。

 

「やるじゃないか」

「いえいえ」

()()()()()()()()()()()()()()だと……? そんな反則的なトリガーがあっていいのか!?」

「あっていいんだ。お前が敵に回したのは──」

 

 俺は三輪たちに、空閑の持つトリガーが何たるかを説明しようとした。

 そこに、奈良坂と小寺を連れてきた迅が合流してくる。

 

「どもども~」

「迅さん!」

「迅。遅かったな」

 

 見た感じ、迅は三輪隊の狙撃手を抑えに行っていたらしい。で、戦いがひと段落したからここに来た……といったところだろう。

 

「いや~、タイミング的にね。レプリカ先生と出くわしてさ。せっかくだし、来てみたよ。おっ、なんかカワイイ子がいるな! ハ~イ。初めまして~」

「は、はじめまして……。雨取千佳です」

「おい、それくらいにしておけ」

「はいはい。……よっと」

 

 恐らくセクハラを働こうとしていたであろう迅に警告を飛ばすと、迅は素直に従った。

 迅悠一という人間は確かに悪い奴ではない。悪い奴ではないのだが、ちょっと目を離すとすぐにセクハラしようとするのが難点がある。

 どうやら空閑と迅はすでに顔見知りのようで、割と親しげに話している。

 

「お、迅さん」

「随分コテンパンだな。油断したのか?」

「いや、フツーに強かったんだよ」

 

 実際普通に強いというのは事実だ。A級隊員はボーダー全体で50人といない精鋭たちだ。そんなA級隊員を「無力化」するのは、普通に「倒す」よりはるかに難しい。

 だがそろそろ、俺は迅と答え合わせがしたかった。

 

「迅、答え合わせの時間だ。空閑のトリガーは、(ブラック)トリガー。そうだろ?」

「ご名答。──秀次、だから言っただろ? 『やめとけ』って。こいつのトリガーは、(ブラック)トリガーなんだからな」

(ブラック)トリガーだと……!?」

「マジで!?」

(ブラック)トリガー……?」

 

(ブラック)トリガー」という単語を聞いたその場の全員から、三者三様の反応が返ってくる。三輪、奈良坂、小寺は信じられないと言った様子で、米屋はただひたすらに驚愕している。三雲だけが、話についていけずに困惑していた。

 

「そうだ。だからお前たちはむしろ未知の(ブラック)トリガー相手に善戦した方だ。ただ、鉛弾(レッドバレット)を使ったのが悪手だったな。まあ、対策しようがなかったわけだが」

「そういうこと。ただでさえ普通の近界民(ネイバー)相手に今のボーダーはごたごたしてんのに、さらに(ブラック)トリガーを敵に回したら、面倒なことになるぞ?」

(ブラック)トリガーを敵に回すとどうなるか……。A級隊員なら、わかるはずだ」

 

 三輪は俺たちの言葉に歯噛みしている。(ブラック)トリガーという存在はハッキリ言って絶対的な存在だ。

 それが敵に回ろうものなら、いくら三輪隊がボーダーの精鋭たるA級部隊だとはいえ手に負えないだろう。

 

「迅さんたちの言い分は分かりました。だったら、その近界民(ネイバー)が街を襲った近界民(ネイバー)の仲間じゃないと誰が保証するんです?」

「おれと遼河さんが保証するよ。首でも全財産でもなんでも賭けていい」

 

 奈良坂のもっともな意見に、迅が俺を掛け合いに出して空閑が安全であることを保証する。

 なんか勝手に掛け合いに出されてしまったが、まあ良しとしよう。だが、三輪は聞く耳を持たずに叫んだ。

 

「……そんなことはどうでもいい! 近界民(ネイバー)はすべて敵だ! ──緊急脱出(ベイルアウト)!!

 

 三輪が光となってボーダー本部へと帰っていく。緊急脱出(ベイルアウト)したのだ。緊急脱出(ベイルアウト)を知らない空閑が迅から緊急脱出(ベイルアウト)について教わっている間に、俺は米屋の下へと向かった。

 

「で、気は済んだか?」

「そりゃ、もう。あー……負けた負けた。こりゃ、殺されてもしょうがないっす」

「……殺されたらダメだろ。どう考えても」

 

 米屋は換装体を解き、生身に戻る。

 そのタイミングで、俺はかねてからの疑問をぶつけることにした。三輪と親しげな米屋なら、事情の1つや2つ知っているだろう。

 

「米屋。お前、三輪が何で近界民(ネイバー)をあそこまで恨むのか、知ってるか?」

「あー……。アイツ4年前の大規模侵攻で、姉さんを殺されてるんすよ。だからその仇を取りたくて、ああやって戦ってるんす。多分、一生近界民(ネイバー)を許すことはないっすね。まあ、俺は強えー奴と戦えればそれでいいんすけど」

「なるほど、そういうことか……」

「それはそうと、遼河さん! 今度ランク戦してくださいよ!!」

「はいはい……。分かった」

 

 俺は米屋を適当にあしらいながら、これからのことを考える。

 正直なところ、俺が迅のように城戸さんたちを納得させる発言をするのは難しい。説得力がないからだ。その点、迅には未来視というこれ以上ない根拠がある。ならば城戸さんたちに対して決定的な意見を述べられる迅に任せるべきだろう。

 何より俺は空閑という少年の事情すらよく分かっていない、実質的な部外者だ。しかし、戻るにしても何にしても迅に一声かけた方がいいと判断し、迅の下へと向かう。もしかしたら、何か俺ができることもあるかもしれない。

 

「迅、あとは任せても問題ないか?」

「うん。あ、その前に、しばらく遊真と千佳ちゃんのことをお願いしていい?」

「それは構わないが……迅はこれからどうする気だ?」

 

 正直、この後迅がとる行動は何となく予想がついている。迅の次の言葉はやはり、俺の予想通りの返答だった。

 

「おれはメガネくんと一緒に本部に行くよ。メガネくんは遅かれ早かれ呼び出しかかるだろうし」

「わかった」

「じゃあ、遼河さん。2人をお願いします」

「任せろ」

 

 俺は空閑と千佳の子守りをすることが決まった。2人に、特に空閑には聞きたいこともあるし、ちょうどいい役回りだ。

 

「とりあえず、まずは移動しよう。警戒区域内にいつまでもとどまっておくわけにはいかない」

「あ、はい!」

「りょーかい」

 

 そうして去っていく迅と三雲の背中を見送った後、どこかゆっくりと話せる場所を探して歩き始めた。

 





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