ワールドトリガー・Returner from another world   作:もりいぬ

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皆様、大変お待たせいたしました。
今回は久しぶりに三人称視点で始まります。
また、視点変更がかなり含まれます。



上層部、動く

「成程……。報告ご苦労」

 

 会議室の重苦しい沈黙の中、城戸司令が口を開く。

 今、迅と修はボーダー本部の会議室にいた。上層部に空閑遊真という人物についての詳細を正しく報告するためだ。近界民(ネイバー)を憎んでいる三輪隊だけの報告では、遊真の人物像が捻じ曲げられる危険性がある。迅はそれを考慮したのだ。

 

「まったく……。前回に続いてまたお前か。いちいち面倒事を持ってこなきゃ気が済まんのか?」

「しかも、今回は(ブラック)トリガーとは……。なぜそんな重要なことを今まで隠していたのかね? これはボーダーの信用問題にかかわることなのだよ」

 

 鬼怒田開発室長と根付メディア対策室長が修に対して口々に苦言を呈す。修は先のトリガーの無断使用に始まり、今回の(ブラック)トリガーの一件で上層部の間では完全にトラブルメーカーと見做されていた。

 そんな修を、忍田本部長が擁護する。

 

「それは三雲くんなりの考えがあってのことだろう。迅の報告によれば、三雲くんは現在に至るまで(ブラック)トリガーを抑えている」

「それは結果論だろう! 第一、(ブラック)トリガーなんぞ一隊員の手に負えるもんではない! 我々に報告する義務があると思うが!?」

「その通りです。なにせ相手は(ブラック)トリガーですからねぇ」

 

 (ブラック)トリガーの恐ろしさを知っている鬼怒田と根付はさらにヒートアップする。

 するとそこへ、その話題に一石を投じる者が現れた。

 

「まぁまぁ、こういう時は考え方を変えましょうよ」

「なにぃ?」

「──その(ブラック)トリガーが、()()()()()()()()()()()()()としたらどうです? メガネくんはその近界民(ネイバー)の信頼を得てます。彼を通じてその近界民(ネイバー)を味方にできれば、争うことなく大きな戦力を得られます。おれたちは争いを避けられる。城戸さんたちは、大きな戦力を手に入れられる。どっちにとっても悪くない話だと思いますよ」

「むぅ、それはそうだが……」

「そううまくいくものかねぇ?」

「……確かに迅の言うとおり、(ブラック)トリガーは戦力になる」

 

 実際、迅の言うことは理にかなっている。損害の大きい相手とは、戦わないに越したことはない。鬼怒田と根付も、現実的かどうかはともかく迅の提案については否定しなかった。

 しかし、城戸司令の判断はそれよりはるかに無情なものだった。

 

「……よし、わかった。──その近界民(ネイバー)を始末して、(ブラック)トリガーを回収しろ

「なっ……!?」

 

 修の顔に明らかな衝撃が浮かぶ。当然だ。城戸司令の案は、「遊真を殺してトリガーも奪え」という意味なのだから。

 

「ふむ……。それなら問題はありませんねぇ。貴重な戦力を逃す手はないでしょう」

「間の悪いことにA級1位から3位の部隊は遠征中だが……。残った正隊員をすべて使えば(ブラック)トリガー相手でもやれんことはなかろう」

 

 しかし、根付と鬼怒田は完全にやる気だった。しかし、ここで忍田本部長が待ったをかける。

 

「バカな! それでは強盗と変わりない! それにその間の防衛任務はどうする気だ!?」

「──部隊を動かす必要はない。この作戦には、1人が動けば事足りる」

 

 城戸司令は静かにそう言い放つと、迅を鋭い目で真っすぐ見据えた。

 

(ブラック)トリガーには、(ブラック)トリガーをぶつけるまでだ

「まさか……!?」

 

 その一言で、忍田本部長は城戸司令の思惑に気づいたようだった。 

 そして城戸司令は、極めて冷淡な声で命令を下す。

 

「迅。──おまえに(ブラック)トリガーの捕獲を命じる」

 

 

 ────────────────────

 

 上層部と迅が遊真のこれからを巡る会議を行っている傍ら、遼河と遊真は千佳の案内で神社へとやってきていた。千佳曰く、「ここなら人があまり来ないし、場所もちょうどいい」という。実際今遼河たちの居る神社は高台にあり、人もさほど寄り付かないように見えた。

 そこでただ待つのも暇だと考えた遼河たちは神社に来る前に買っていたハンバーガーセットを食べながら、ゆっくり修と迅を待つことにする。

 やがて最初に口を開いたのは千佳だった。

 

「遊真くんって……本当に近界民(ネイバー)なんだよね?」 

「ん、ほうだよ」

「食べながらしゃべるな」

 

 遼河から注意された遊真は素直に従い、口の中のハンバーガーを喉に流し込んでから言葉を続けた。

 

「あ、でもおれはこの街を襲ってる奴らとはカンケーないよ」

「うん。修くんが言ってた」

 

 それから少し考える仕草をしたのち、千佳は口を開く。

 

「あの、遊真くんと遼河さんに聞いてみたいことがあるんですけど……」

「ふむ、なんだ?」

「出来る限り答えるぞ」

「さっき、『近界民(ネイバー)にさらわれた人は戦争に使われる』って言ってましたけど……。それって、どんな風に使われるんですか?」

「ふーむ、それは……」

 

 千佳の質問を聞いた遼河はその意外さに少しばかり驚き、遊真は顎に手を当てて考えるような素振りを見せる。

 しかし、答えを言ったのは遼河の方が早かった。

 

「結論から言うと、『どこに攫われたか』によって変わる」

「えっと、それって……?」

「ああ、どういうことかっていうとな……近界(ネイバーフッド)っていうのはあくまで『(ゲート)の向こうの世界の総称』なんだ。実際に人を攫っていくのは──近界(ネイバーフッド)にある『国』だよ」

「国……!?」

 

 (ゲート)の向こうにも国がある。千佳にはそれが想像つかなかったようで、目を見開いて驚いている。

 まもなく、遼河の言葉に重ねるように遊真が説明を始めた。

 

「そう。あっちの世界にもたくさんの国がある。とーぜん、それぞれの国でスタイルが違う。こっちの世界に来てる近界民(ネイバー)も、同じに見えて全然違う国の近界民(ネイバー)だったりする。だから攫われてった国の状況──要は『戦争に勝ってるか負けてるか』とか、『兵隊を鍛える余裕があるかないか』とか、『司令官がデキる奴かダメな奴か』とか、まあいろんな事情で話は変わるけど、トリオン能力が高い人間ってのは向こうでも貴重だから、大体は戦力として大事にされる。それこそチカとか、ちょー大事にされるかも」

 

 その話を聞いた千佳の頭の中には、ある考えが浮かんでいた。

 

「じゃ、じゃあ、さらわれた人が向こうで生きてるってことも……」

「あり得る。実際、俺はそういう人に会ったことがある」

「あるんですか!?」

 

 遼河が千佳の疑問に対して答えた途端、千佳が今までに聞いたことがないほどの声で遼河に詰め寄ってくる。

 これは何かあったなと遼河は思いながら、攫われた人たちと遭遇した時の事を説明することにした。 

 

「ある。まあ、こっちの人間じゃなかったが……。そもそも、近界(ネイバーフッド)じゃ別の国から人を攫ってきて兵士にするなんて珍しくない。むしろそうしないと戦力が足りなくなる。よほど大きい国なら話は別だけど、そうでもない限りトリガー使いってのはなるべく生け捕りにしたいってのが大抵の国の考え方だ。自分の国に引き込めれば戦力として使えるし、そうでなかったら人質として役立つ。──合ってるよな、空閑?」

「うん、だいたいあってる」

 

 遼河の問いかけに遊真が頷く。

 そこで遊真は、かねてからの疑問を遼河に切りだした。

 

「そういえばリョーガさんって向こうのことに詳しいけど、行ったことあるの?」

「ああ。というか、こっちに帰ってきたのが1か月前のことだ」

「ええっ!?」

「わお、そりゃびっくり」

 

 千佳と遊真は同時に驚きの声を上げた。

 特に千佳にとって、今話している年上の青年が1か月前まで向こうの世界にいたという事実はあまりにもインパクトが強かった。

 まもなく、遼河からの問いかけによって千佳は現実に引き戻された。

 

「千佳。さっき『攫われた人が向こうで生きてる可能性』について聞いてきたが……もしかして、知り合いか誰かが攫われたのか?」

「……いえ。そんなことないです」

 

 一瞬の沈黙ののち、千佳は遼河の問いを否定する。遼河はその答えがすぐに嘘だと分かったが、証明できない以上これ以上何か言うのも野暮だと思った。

 しかし、それは空閑が直後に放った一言によって崩される。

 

「──おまえ、つまんないウソつくね」

「えっ」

「分かるのか?」

「うん。……あーあ、こっちにだけ喋らせてそっちはヒミツか。ま、いっか。あとでオサムにでも聞こーっと」

「え!? わあぁ! 待って待ってっ!」

「落ち着け。──何があったのか、教えてくれるか?」

 

 いつになく動揺する千佳だったが、遼河によって宥められた。

 そうしてようやく落ち着いた千佳は、自らの過去をぽつりぽつりと語り始めた。

 

「えっと、わたし、小学校の頃に仲良くしてくれた友達と、わたしのお兄さんが近界民(ネイバー)にさらわれたんです。──わたしのせいなんです。2人とも、わたしが相談なんてして巻き込んだから……」

「なるほどね……。それで他の人には頼りたくないって言ってたわけだ。ボーダーとかにも」

「うん……。だって、迷惑かけるだけだから」

「ふむ……」

 

 遼河は顎に手を当てて何かを考えた後、その言葉を口にした。

 

「なら、勝手に助けるだけなら問題はないな」

「えっ?」

「俺は俺の意志で、千佳を勝手に助ける。だから千佳が気に病むことはない。これは、()()()()()()()()()()()()()()()

「あ……」

 

 ──「俺がそうすべきだと思った」。

 遼河のその物言いは、遊真と千佳もよく知る人物の言い草とよく似ていた。

 

「なんだかオサムみたいだったな。今のリョーガさん」

「そうかも」

「そ、そうなのか……?」

 

 修の人となりをよく知らない遼河は、遊真と千佳の共通の認識についていけず困惑してしまった。

 それを皮切りに、話は「三雲修」という人間のことに移る。

 

「三雲は2人から見て、どんな奴なんだ?」

「うーん、一言でいえば、危なっかしいやつ」

「危なっかしい? どういう?」

「あー……。オサムはさ、他人の心配と自分の心配のバランスがおかしいんだ。ずっと自分のことじゃなくて、おれのことばっか心配してさ。そもそもおれに付き合う必要なんてないのに」

「え、でも……。ボーダーの人たちが遊真くんを狙ってくるんだよね?」

 

 千佳の疑問は当然のものだ。今までの話を聞く限り遊真は紛れもなく近界民(ネイバー)であり、近界民(ネイバー)はボーダーにとって敵となる。

 しかし遊真は、そんなことを気にしているようには見えなかった。

 

「ボーダーが何人で来ようと、おれとレプリカが本気でやれば負けるような相手はそういないよ。……いや、1人だけいるかも」

「迅のことだな?」

「じん、って……あのおでこにサングラスの人?」

「そう」

「空閑の言うとおり、あいつは強い。()()()()()()()()()()()()、正直お前でも厳しいぞ」

「うーむ、やっぱか」

 

 遊真の頭の中に浮かんだ可能性を、遼河が肯定する。

 

「じゃ、じゃあもしあの人が追っ手になっちゃったら……!?」

 

 そう言う千佳の声は少し震えており、顔には焦りが見て取れた。しかし遼河は千佳の肩に優しく手を置くと、安心させるように語り掛ける。

 

「確かに迅は強い。もし本気で来られたらダメかもしれない。けど──」

 

 そうして次に遼河と遊真が同時に言い放った言葉は、驚くほど一字一句違わず一致した。

 

「「──そうはならない」」 

「え……?」

 

 そう言い切った2人は、迅が追っ手になるなどこれっぽっちも思っていないようだった。

 

 

 ────────────────────

 

 そして会議室。

 城戸司令が迅に「(ブラック)トリガーの捕獲」を命じたことで、重苦しい沈黙が迅と城戸司令の間に流れていた。

 やがて、城戸司令が口を開く。

 

「会議は終わりだ。速やかに任務を遂行しろ」

 

 迅に命令を出した城戸司令は、そのまま会議を終わらせようとする。

 それを聞いた根付と鬼怒田が立ち上がろうとした次の瞬間、迅の口から放たれたのはその場の全員が予想だにしていなかった言葉だった。

 

「──()()()()()()()()

「何ぃ!?」

「……どういうことかね迅くん? 最高司令官の命令に従えないとでも?」

 

 想定外の反発に鬼怒田が驚愕し、根付が説明を迫る。しかし迅は飄々とした雰囲気を崩すことなく答えた。

 

「おれは玉狛支部の人間なので、城戸司令に直接の指揮権はありません。おれを使いたいのなら林藤支部長を通してください。それがルールですから」

「なにをまどろっこしいことを……。結局は同じことだろうが」

 

 傍から見ればそれはただの言い訳に見える。現に、鬼怒田は苛立っていた。

 しかし、城戸司令は迅の発言を言い訳とは受け取らなかった。というのも迅の言うとおり、城戸司令は迅に命令できる立場にないのだ。

 ボーダーの指揮系統は、「直属の上司だけが部下に対して命令を出せる」というものだ。これは命令の重複を避けるために設けられた規則である。この規則により、城戸司令が命令できるのは直属の部下となる忍田本部長とそれぞれの支部の支部長に加え、各部署の部長、そして司令直属の隊員のみに限られる。

 そして迅はボーダーの支部の1つである「玉狛支部」の人間であり、司令直属の隊員でもなければそもそも本部所属の隊員ですらない。すなわち城戸司令が迅に命令するには、迅の言う通り林藤支部長を経由するしかない。

 

「……林藤支部長。命令したまえ」 

「やれやれ……。迅。支部長命令だ。(ブラック)トリガーを捕まえてこい」

「はい」

「……!?」

 

 城戸司令から命令された林藤支部長は気だるげに迅に遊真の捕獲を命令する。それに従う迅の言葉を聞いて、修が思わず迅の方を向く。

 しかし、迅の狙いは最初からそこにあった。林道支部長の命令には、続きがあったのだ。

 

「──ただし、()()()()()()()()()()()

 

 その一言で、会議室に激震が走る。

 迅はその命令を受けてニヤリと笑い、敬礼と共に宣言した。

 

「了解、支部長(ボス)! ──実力派エリート迅悠一、支部長命令により、任務を遂行します!」

「林藤……!」

 

 ──「林藤支部長から直々に命令させること」。それこそが、この会議における迅の最大の狙いだったのだ。現に林藤支部長の命令により、迅は城戸司令の命令通り(ブラック)トリガー使いを捕まえる任務を遂行する義務が生じた。違う点はただ1つ、今の迅には遊真を殺す理由もトリガーを奪う理由もなくなったことだ。

 城戸司令は林藤支部長に対して圧をかけるが、「(ブラック)トリガーを捕まえる」という命令はしっかり出しているためこれ以上強く言うことができない。一方の林藤支部長はたばこを口に咥えながら静かに語った。

 

「ご心配なく、城戸さん。ご存じの通り、玉狛(うち)の隊員は優秀だから

 

 そのまま迅と修は会議室を去ろうとする。

 しかし、城戸派の筆頭である鬼怒田が黙って見ているはずもなかった。

 

「ええい、やはり玉狛なんぞに任せてはおけん! 忍田くん、本部からも兵を出せ!」

「お言葉だが、この一件は城戸司令が迅に任せたものだ。ならば、迅に任せるのが筋だと思うが?」

「ううむ……。それはそうだが」

 

 しかし、感情論は論理的な結論の前には手も足も出ない。鬼怒田は忍田本部長の冷静な一喝により逆に黙らされてしまった。

 するとそこで、今の今まで沈黙を貫いていた1人の男が修を呼び止めた。

 

「三雲くん、ちょっといいかな?」

「……え? はい」

「私の方からきみに質問がしたくてね。──きみの友人の近界民(ネイバー)がこっちに来た目的は何なのか、聞いていないか?」

「目的……ですか?」

「そうだ。──『相手が何を求めているか』。それさえわかれば交渉が可能だ。たとえ異世界の相手だろうと、ね」

「交渉だと!? 近界民(ネイバー)相手に何を悠長な……!」

「失礼。ですが、排除するより利用できないかと考えてしまうんですよ。根が欲張りなものでね」

 

 三雲は少し考えて、その男の言った「相手が何を求めているか」という言葉に当てはまるものがあることを思いだした。

 

「そういえば……。『父親の知り合いがボーダーにいる。その知り合いに会いに来た』と言っていました」

「ボーダーの内部に知り合い? 誰のことだ?」

「いや、名前までは知らないんですが……」

「なんだそれは? 曖昧過ぎて何の足しにもならんぞ!」

「キミの作り話じゃないだろうねぇ?」

 

 修の発言を追及する城戸派筆頭の2人だったが、それを裂くように声が響いた。

 

「なら、その『父親』の名前は? あるいは、その友人──本人の名前でもいい」

「父親の名前は分かりませんが、本人の名前は……『空閑遊真』です」

 

 そして修が遊真の名前を出した途端、明らかに上層部複数名の反応が変わった。

 

「『空閑』……!?」

「『空閑』!?」

「『空閑』、だと……!?」

 

 林道支部長、忍田本部長、城戸司令。

 「空閑」という名字の人間に心当たりがあるのは、上層部の中でも最古参と呼ばれる面々だった。

 





三人称視点の場合、修・遊真・千佳の3人は下の名前です。
そうでなければこちらのミスです。

一応説明しておくと、「城戸派筆頭」とは鬼怒田さんと根付さんのことです。
根付さんに至っては公式で三輪以上の城戸派。

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