ワールドトリガー・Returner from another world 作:もりいぬ
このたび、評価バーが赤くなりました。
とりあえず良いことのようなので、本作を評価して頂いた方々にこの場を借りてお礼を申し上げます。
今回は掘り下げ回なので、オリジナルキャラは出ません。
遊真は小さいころから、父である有吾とともに国々を巡っていた。もちろん、その過程で
──4年前、遊真は父の有吾と共に「城塞国家」ことカルワリアの防衛に参加していた。この時点の遊真は当時11歳。すでに相手のトリガー使いを倒せるだけの実力は持っていたが、一人前とは程遠く、有吾にピンチを助けられることも多々あった。
遊真と有吾がカルワリアの防衛に参加した理由は、カルワリアの防衛隊長であるライモンドと有吾が知り合いであり、かつてお世話になった礼を返すためだった。既にトリガー使いとして一線級の強さを誇っていた有吾はもちろんだが、遊真は遊真で半人前なりに上手くやっていた自信があった。だからこそ、防衛は上手く行っていたのだ。
……そう、「あの日」までは。
遊真の運命が変わった日。
それは、ライモンドからもたらされたある報告がきっかけだった。
「……今日、南門でうちの隊員が殺された。隊でも指折りのトリガー使いがあっさりとだ。手に入れた情報によれば、スピンテールは他所の国から別のトリガー使いを雇ったらしい。目撃者の話を整理すると、恐らくそいつは──
その話を聞いた有吾の顔つきが真剣なものになる。やがて遊真のほうを振り返ると、有吾にしては珍しく強めに忠告してきた。
「いいか遊真。おまえはしばらく門の中にいろ」
「え、なんで? おれがいなくて守りはもつの?」
「なーに言ってんだ、守りは俺たちだけで楽勝だ。とにかく、門の外に出るなよ。ここで大人しくしてるんだ」
だが、遊真はその忠告を無視した。
劣勢に陥るカルワリアの防衛部隊に加勢すべく、レプリカの制止を振り切って戦闘に参加したのだ。しかし、すぐに遊真はその軽はずみな行動を一生引きずっていくことになる。
運の悪いことに、話に出ていた「雇われた
──遊真の人生はそこで終わった。
……いや、終わるはず
「あ……」
……消えゆく意識の中、遊真は僅かに目を開けた。
そうして死にゆく遊真の前に現れたのは、父である有吾だった。
「バカ、何やられてんだ。……ちょっと待ってろ。俺がすぐ助けてやるからな」
そして有吾は、遊真を救うべく新たな
死にゆく遊真の身体をトリガーの中へと封じ込め、その代わりとなる新たなトリオン体を作り上げ、遊真の命を繋いだのだ。
そしてすべてのトリオンを使い果たした有吾は──
こうして遊真は生き残った。
しかしカルワリアの戦士たちは、遊真よりも有吾が生き残ることを望んでいた。だが死んでしまった以上、失われた命は戻らない。だからこそ、「遊真が受け継いだ
だが、彼らは知る由もなかったのだ。
(こいつら……。つまんないウソつくな)
遊真が受け継いだのは、
遊真は、有吾の持っていた「嘘を見抜く」サイドエフェクトを受け継いでいたのだ。カルワリアの戦士たちが語ることは真っ赤な嘘であると、その時の遊真には手に取るように分かった。そんな遊真に対し、有吾の旧友であるライモンドだけは嘘偽りなく向き合った。「今まで十分助けられたのだから、もう戦う義務はない」と。
しかし、それでも遊真は戦いを続けることを選んだ。
「自分と親父で始めたことだから、最後までやり切るよ」
……その言葉通り、遊真は3年に渡り戦い抜いた。
その3年によって、遊真はそれまでとは見違えるほどに強くなり、生き残るための術を学び、名実ともに立派な戦士となった。しかし戦争を終え、カルワリアに一時の平和をもたらした遊真の心に達成感というものは何一つ存在しなかった。有吾を失い、目的を失った遊真の心は空虚に満ちていたのだ。
「あーあ……やることなくなっちゃったな」
【ならば、有吾の故郷に行ってみないか? 有吾の話では、ボーダーという組織が各地の
「ふむ……。なら、行ってみるか」
こうして遊真は国を渡り、星を巡って、この世界へとやってきた。
そして遊真の小柄さには、その過去が関わっていた。遊真は15歳であるにもかかわらず身長は141cm、小学校高学年どころか中学年の平均程度しかない。そこには、トリオン体ゆえにもう身体が成長しないという理由があったのだ。つまり遊真の身体は、11歳の頃……遊真の命の灯火が消えかけ、有吾が
だが有吾のすべての力をもってしても遊真の死を止めることはできず、今もなお遊真の身体はゆっくりと、だが着実に死に向かって進んでいる。そして遊真の身体が死んだとき──遊真は本当の意味でこの世から消滅する。
遊真がこちらの世界を訪れた理由は、その父親を蘇らせることができるのではないかと思ったからだ。しかし最上宗一が「風刃」となってしまったことで、それは不可能であることが分かってしまった。
つまり遊真は、再び生きる意味を失ったのだ。
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「……とまあ、おれについてはこんな感じかな」
すべてを話し終えた時、迅は「うんうん」と頷いた。
「おまえ、これからどうするつもりだ?」
「そうだな……。こっちだと
「そうか」
迅は遊真を静かに見つめると、一瞬の沈黙ののち──何かを見透かしたかのように語った。
「……おまえの人生には、これからもきっと楽しいことがたくさんあるさ。おれのサイドエフェクトが、そう言ってる」
その時、屋上のドアがバタンと開き、修が入ってきた。
迅はその姿を見て微笑むと、「じゃあ、後は頼むよメガネくん」と呟き、その場を去った。
修はこの屋上に来る前、レプリカと、そして千佳とこれからのことを話し合ったばかりだった。
実は迅が遊真から身の上話を聞いている間に、修もまたレプリカから遊真がこちらの世界を訪れた理由を聞いていたのだ。そして修は、レプリカから「ユーマに生きる目的を与えてほしい」と頼まれていた。
思わぬ難題に悩む中、今度はなんと千佳がそれまでの考えから一転して「ボーダーに入る」と宣言した。
……というのも、修とレプリカが話しているのと時を同じくして、千佳が迅にスカウトされたと勘違いした栞がボーダーについてのあれこれをしゃべってしまったのだ。話を聞いた修と栞は「それでいいの?」と聞いたが、千佳の意志は固かった。
「他の人がやるんじゃなくて、自分で捜しに行きたい。わたしなんかがやっても、意味がないかもしれない。でも、じっとしてなんてられないんです。ちょっとでも可能性があるなら……」
その言葉に、千佳の確固たる決意が込められていた。するとその考えを聞いた修の頭の中で、ある考えが浮かぶ。
──千佳が入隊を決意した今、千佳の目的を達成することを遊真の新たな生きる意味にすればいいのではないか、と。
その考えを内に秘め、修は遊真に向き合った。
「……千佳が、ボーダーに入るって言ってる。
「なるほど。なら、オサムはどうするんだ?」
「止めようと思ったけど、止めても聞きそうになかったから手伝うことにした。だからぼくは、千佳とチームを組んで、玉狛支部からA級を目指す」
「ほーう。……おもしろそうだな」
「だから、おまえも一緒にやらないか?」
遊真は2つの意味で驚いた。それは、修がそのようなことを言うとは思っていなかったのが1つ。
そしてもう1つは──その提案が嘘偽りのない本気だということ。
「……おまえに嘘を言っても仕方ないから言うけど、レプリカから、親父さんの話を聞いたんだ。おまえがこっちに来た目的も」
「残念ながら、ムダ足だったけどな。おれはもう、こっちでやることがなくなった」
「だったら! ……ぼくにおまえの力を貸してくれ。千佳が兄さんたちを捜しに行けるように。……正直今のぼくと千佳だけじゃ、A級に辿り着くのは難しい。それはぼくも千佳も分かってる。だから、実力のあるリーダーが必要なんだ」
「ふむ……」
しばしの沈黙ののち、遊真は空を見上げながら零すように言った。
「オサムは相変わらず面倒見の鬼だな。相手がチカだからとはいえ……」
「なっ」
「いや、オサムはだれが相手でもそうか。そして、たまに死にかける」
「うっ……」
修は遊真のストレートな発言に閉口する。実際、ここ数日で修は2回ほど死にかけていた。その事実がある以上、修は何も言い返せない。
すると、遊真が何かを思い出したかのように語り始める。
「親父がおれを助けて死んだとき、親父はなんでか笑ってた。その理由がおれには分からない。おれが死にかけたのは、親父の言う事を聞かなかったからで、親父が代わりに死ぬ必要はまったくなかったのに、なんであのとき親父は笑ってたのか。──それを、親父に聞いてみたかった。けど、その辺オサムとちょっと似てる気がするんだよな。自分が損しても、他人の世話を焼くところとか。オサムは、困ってる人は見過ごせない
修は遊真の問いに対しての解答をしばらく考えた後、自分の考えを口にする。
「……別に、そんなものじゃないよ。──自分が『そうするべきだ』と思ったのに逃げたら、きっと本当に戦わないといけないときにも逃げたくなる。自分がそういう人間だって知ってるからだ。だからぼくは人のためにやってるんじゃなくて、自分のためにやってるんだ」
「なるほど。オサムらしいな。でも、逃げるのも戦いの1つだ。ヤバいときは逃げないと、そのうち死ぬぞ」
それは、ほかでもない遊真自身の経験から出た言葉だった。
やがて遊真は、おもむろに立ち上がる。
「よーし、ならおれも手伝いますか。ほっとくと、オサムとチカはすぐ死にそうだしな」
「え……?」
「それに、オサムと
「空閑……!」
こうして、修の後押しによって遊真もボーダーへの入隊を決断した。ただし、「チームを組む時はオサムがリーダーじゃなきゃダメだ」という条件付きで。
修は当然それを断った。実力も知識も経験も何もかも、修は遊真に劣っている。そんな人間がリーダーを務めたところで何にもならないと思ったからだ。
だが遊真が「おれがそうするべきだと思ってるからだ」と自分の台詞を使って反論してきたうえ、千佳も遊真の案に賛成とくれば、黙って押し切られるほかなかった。
そうして3人が林藤支部長の部屋を訪れると、すでにそこには林藤支部長と迅が待っていた。
「おう、遅かったな。首を長くして待ってたぞ」
最初から来ることが分かっていたかのような発言に、修たちは三者三様の驚き方を見せる。そして林藤支部長のデスクの上には、さも当然のように3人分の入隊・転属用の書類が置かれていた。
「……この未来が見えてたの? 迅さん」
「言っただろ? 『これから楽しいことがたくさんある』って」
訝しむように問いかけた遊真に対し、迅は相変わらず飄々とした雰囲気のままそう答えた。
まもなく、林藤支部長の手によって3人分の書類が受理された。林藤支部長は3人を見ると、納得したように頷き、これからのことを語る。
「正式な入隊は親御さんからの書類が届いた後だが──支部長として、ボーダー玉狛支部への参加を歓迎する」
林藤支部長は3人分の書類をしまいこむと、3人に対してこれから為すべきことを宣言した。
「たった今からお前たちはチームだ。このチームでA級昇格、そして遠征選抜部隊を目指す! いいな?」
「「「はい!」」」
──2013年、12月14日の夜。
ここ玉狛支部に、三雲修・空閑遊真・雨取千佳の3人が加わることが決定した。
最後の行にある「2013年12月14日」というのは本編における正式な時系列……のはずです。
一応、本作は原作と照らし合わせて時系列が矛盾しないよう執筆しています。