ワールドトリガー・Returner from another world   作:もりいぬ

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今回、試験的に隊員の階級とポジション紹介を入れています。
文章中に挟まれる〘〙で囲まれたのが紹介欄です。



我ら玉狛支部

 修・遊真・千佳の入隊が決定した次の日。玉狛支部のリビングに集まった修たち3人は、迅と一緒に栞からボーダーの説明を聞いていた。

 栞は髪を後ろで束ね、さらにはどこからかホワイトボードまで持ってきている。可愛い後輩の登場に気合十分といった様子だ。

 

「さて諸君! 諸君はこれからA級を目指すわけだけだが、そのためにはまず、すでにB級になっている修くんだけでなく、千佳ちゃんと遊真くんも『B級隊員』にならなければならない! その理由はいたってシンプル!――ボーダーではB級……つまり正隊員になれなければ、防衛任務にも、A級に上がるためのランク戦にも参加できないからだ!」

「ランク戦?」

「そう、ランク戦。B級に上がったとしても、A級に行くためには防衛任務の手柄だけじゃなくて、『隊員同士の模擬戦』で勝たなきゃダメなの。それがさっき言った『ランク戦』! 同じ級の隊員たちと競い合って、強い人間が上に行くのだ!」

「なるほど。つまりおれがB級になるには、C級の奴らをまとめてボコればいいわけだな」

 

 すでに遊真はやる気のようだった。確かに、遊真ほど実戦経験を持つC級隊員などまず存在しないだろう。実際にランク戦をやれば昇格が秒読みなのは目に見えていた。

 しかし、事はそう単純ではない。

 

「まあまあ、一旦待ちたまえ。ボーダー本部には『正式入隊日』ってのがあってね、ここまで話したことをやるならその日まで待たなきゃダメなの。つまり正式入隊するまで、遊真くんはランク戦できないんだよね」

「えぇ~……」

 

 それに付け足すように、迅が「ボーダーでは(ブラック)トリガーを使うと自動的に『S級隊員』となってしまう」という旨を説明した。

 そこには「使うと注目を集めてしまう」という理由もあるが、最大の理由はいたってシンプルで、「あまりにも強すぎて勝負にならない」からだ。無論S級隊員はランク戦に参加できないため、遊真はボーダー規格のトリガーに慣れるしかない。

 そして肝心の千佳だが、遊真と修は戦闘員になることを強く勧めた。遊真からすれば、あの莫大なトリオンを活かさない理由がない。修もまた、千佳には戦える術を身に着けてほしかった。やがて遊真と修の言葉を聞いた千佳本人の決断により、千佳は戦闘員に決まる。

 栞は3人の出した結論にうんうんと頷くと、話を次のステージへと進めた。

 

「じゃあ次は、ポジション決めよっか」

「ポジション?」

 

 ボーダーの戦闘員には、主に4つのポジションがある。

 ブレード型のトリガーを得物とし、自ら死地に飛び込み近距離戦で敵を討つ攻撃手(アタッカー)

 弾トリガーを自在に操り、変幻自在の戦術と繊細な弾のコントロールで狡猾に敵を追い詰める射手(シューター)

 射手から派生したポジションであり、様々な形状の銃を使った攻撃で戦況を有利に導く銃手(ガンナー)

 遥か彼方に潜み、反撃を許さない必殺の一撃を叩きこむ狙撃手(スナイパー)

 さらには特殊なポジションとして、1人で攻撃手と、銃手または射手の役割を兼ね備えたエリートと呼ぶべきポジションである万能手(オールラウンダー)が存在している。

 そして栞を交えた話し合いの結果、遊真はほぼ即決で攻撃手(アタッカー)に決まった。遊真が得意とする白兵戦を存分に活かすためだ。

 一方の千佳はしばらくポジションが決まらなかったが、修の「千佳には持久力と根気があり、さらには集中力と忍耐力、そして柔軟性がある」という進言が鍵となり、栞と迅は同時にまったく同じ結論を出した。

 

「わかった! わたくしめの分析の結果、千佳ちゃんに一番ふさわしいポジションは──」

「──狙撃手(スナイパー)だな」

「あーっ! 迅さんってば、アタシが言いたいこと盗らないでくださいよ!」

「おまえがもったいぶるのがわるい」

 

 栞と迅は軽く漫才のようなやり取りを繰り広げる。修たちもいつの間にか、この緩い雰囲気に馴染みつつあった。

 だがその時、リビングのドアがぶち破られるかのような勢いで開かれ、1人の少女が入ってきた。何かに憤慨しているらしきその少女は部屋に入るや否や、涙目で叫んだ。

 

「あたしのどら焼きが、ない!! 誰が食べたのっ!?」

 

 嵐のように入ってきたその少女は一瞬部屋を見渡すと、床で雷神丸に乗って寝ている陽太郎を見つけ、足を掴んで逆さ吊りにした。

 陽太郎を逆さづりにしているその少女は髪が猫の毛のように逆立っている。どうやらどら焼きを食べられたことが相当ご立腹のようだった。

 

「さてはまたおまえか? おまえが食べたのか!?」

「むにゃ……。たしかなまんぞく……」

「おまえだなぁ~!?」

 

 その少女は陽太郎が犯人だと確信しているようだったが、どら焼きを消した犯人は意外なところに潜んでいた。

 

「ごめーん! こなみ、昨日お客さん用のお菓子に使っちゃった……」

「はぁ!?」

 

 なんと犯人は栞だった。栞は、その少女のどら焼きを勝手に修たちに出していたのである。

 それを聞いた少女が恐ろしい形相で栞に迫る。そのはずみで陽太郎が地面に落下したが、修が滑り込んで事なきを得た。陽太郎はいまだにグースカ眠りながら「たしかなまんぞく……」と寝言をつぶやいている。

 

「あたしのどら焼き返しなさいよ~っ!!」

「いまあやめひゃんが、おつかいいってるから~」

「あたしは今食べたいの~っ!!」

 

 そうして喚き続けること数秒。

 ドアを開けて現れたのは筋肉隆々の大男と、もさもさした髪の好青年だった。

 

「なんだなんだ? 騒がしいな」

「いつも通りじゃないっすか?」

「よ。レイジさん、京介」

「ん? 見ない顔がいるな。……もしかしてこの3人、迅さんが言ってた新人さんすか?」

 

 もさっとした好青年が言った「新人」、という言葉を聞いて振り返った小南が、腰に手を当てて高圧的に言う。

 

「新人……? あたしそんな話聞いてないんだけど。なんでうちに新人が来るわけ?」

「ああ。実は言ってなかったんだが──この3人、おれの弟と妹なんだ」

「はぁ……!?」

 

 何ともわかりやすい嘘だ。修たち3人と迅の顔立ちは似ても似つかないし、そもそも髪の色からして違う。見なくても分かるレベルだ。こんな嘘に引っかかる人間などほとんどいないだろう。

 ……が、この目の前の小南桐絵という少女、もはやあり得ないレベルで騙される性格である。故に、迅のついた簡単なウソすらいともたやすく信じ込む。顔立ちの良い青年が迅の嘘に乗っかって「みんな知ってます」と言ったことで呆気なく信じ込んだ小南に、修たち3人は思わず呆れてしまった。

 

「言われてみれば似てるような……。レイジさんは知ってたの!?」

「もちろんよく知ってる。()()()()()()()()()()()()

「へ……一人っ子?」

 

 小南は数秒沈黙したのち、自らが騙されていたことに気づいた。

 

「──だ、だましたの~!?」

「いやぁ~。まさかここまで簡単に信じるとは……さすが小南」

 

 驚愕する小南を、栞が修たち3人に紹介する。

 ……もちろん先ほども言ったように、迅と修たち3人は全くといっていいほど似ていない。

 

「紹介するね。このすぐ騙されちゃう女の子が、小南(こなみ)桐絵(きりえ)17歳」

〘玉狛支部 A級隊員 攻撃手(アタッカー) 小南桐絵(17)〙

 

 小南は騙されたという事実がまだ信じられないようだった。栞はそんな小南をよそに、もさっとした髪の青年の紹介に移る。

 

「で、こっちのもさもさした男前が烏丸(からすま)京介(きょうすけ)16歳」

「どうも、もさもさした男前です。よろしく」

〘玉狛支部 A級隊員 万能手(オールラウンダー) 烏丸京介(16)〙

 

 京介は控えめに見ても美男子で、学校にいれば間違いなく女子からの人気を集めるタイプだ。そして最後に、筋骨隆々の大男の紹介に入る。

 

「こっちの落ち着いた筋肉が、木崎(きざき)レイジ21歳」

「……落ち着いた筋肉? それは人間なのか?」

〘玉狛支部 A級隊員 完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー) 木崎レイジ(21)〙

 

 レイジは未知の紹介の仕方に困惑している。

 そして玉狛支部所属のA級隊員を紹介し終えた栞に続くように、迅が小南たちに呼び掛けた。

 

「さて、主役が揃ったところで本題に入ろうか。今ここにいる3人は、わけあってA級を目指してる。これから厳しい実力派の世界に身を投じるわけだが──さっき宇佐美が言ったように、C級ランク戦の始まりまでまだ少し時間がある。次の正式入隊日は1月8日だから、だいたい3週間後だな。この3週間を使って、新人たちを鍛えようと思う。具体的には……レイジさんたち3人に、それぞれメガネくんたちの師匠になってマンツーマンで指導してもらいたい」

「はぁ!? 勝手に決めないでよ! だいたい、あたしまだこの子たちの入隊を認めたわけじゃ……」

「小南。これは支部長(ボス)の命令でもある。それに、遼河さんもメガネくんたちを認めてる」

「ぐ……」

 

 林道支部長の命令と聞いたレイジたちは、「それじゃあ仕方ない」と言って迅の頼みを承諾する。小南は苦い顔をしたが、林藤支部長と遼河が納得しているということを聞かされたことで沈黙した。

 ただし迅の言葉は半分本当で半分嘘だ。林藤支部長の命令というのは本当だが、遼河が修たちを認めたというのは小南を納得させるための方便でしかない。小南が遼河に対して強く出られないことを分かっているからこそ使える殺し文句のようなものだ。

 結果的には効果てきめんだったようで、小南は渋々といった形で迅の頼みを引き受ける。そして小南は、最初に「一番強そう」という理由で遊真を取った。

 

「わかったわ、しょーがないから引き受けてあげる。その代わり……こいつはあたしがもらう。見た感じ、あんたが一番強いんでしょ? あたし、弱いやつはキライなの

「ほほう……。なかなかにお目が高い」

 

 小南と遊真は同時に納得したが、この時、小南を除く玉狛のA級隊員全員が「小南と相性がいいのは遊真以外いないだろうな」とも思っていた。

 その後、狙撃手(スナイパー)の経験があるということでレイジが千佳の師匠に決まり、消去法で京介が修の師匠に決まる。

 そこで小南が、今この場にいない「もう1人の隊員」のことを切り出した。

 

「そういえば、遼河さん帰ってきてないの?」

「遼河なら、あやめと一緒に買い出し行ったぞ。そろそろ時間だし、もうじき帰ってくると思うけどな」

 

 そこで先ほどから話に出ている「遼河さん」という人物がふと気になった修が、レイジたちに話しかける。

 

「あの……。さっきから話に出ている『遼河さん』という人は、もしかして月城さんのことですか?」

「え、あんた遼河さんに会ったことあるの?」

「ええ、まあ……」

 

 そう答えた直後に玄関ドアが開き、「ただいまー」という可愛げな少女の声が聞こえてくる。程なくしてリビングに、1人の青年と1人の少女が顔を出した。

 修たちは、その青年に見覚えがあった。その青年も修たちのことを覚えていたようで、3人の顔を見てすぐに、「なるほど」と言った。

 

「お前たちが、迅の言ってた新入りだったのか」

「そういうこと。もう知ってるだろうけど、3人にはおれの方から改めて紹介しとくよ。──月城(つきしろ)遼河(りょうが)。人呼んで、玉狛(うち)の切り札

「おい、俺はいつそんな大層な存在になったんだ?」

〘玉狛支部 B級隊員 攻撃手(アタッカー) 月城遼河(19)〙

 

 迅の口から「切り札」と言われた遼河に驚く修。

 だが一番驚いたのは、迅の発言をその場の誰も、小南すら否定しなかったことだった。そのまま迅は、もう1人の少女の方を紹介する。

 

「で、こっちが月城(つきしろ)あやめ。遼河さんの従妹で、お手伝いさんみたいなことやってる」

「はじめまして……じゃなかったね。こんにちは! 月城あやめだよ。よろしくね!」

〘玉狛支部 お手伝いさん 月城あやめ(16)〙

 

「それじゃあ、3人とも! 師匠の指示をよく聞いて、3週間しっかり腕を磨くように!」

「はげめよ」

 

 寝起きの陽太郎が、腹をかきながら威張るように言った。

 そこで栞が、ある事実に気づく。

 

「そう言えば、迅さんはコーチやらないの? 遼河さんも」

「おれ? おれは今日は抜けさせてもらうよ。いろいろやりたいことがあるし。そうだ遼河さん。この後、付き合ってもらえる?」

「分かった」

「じゃ、そういうことだから。また後でね~」

 

 そして迅は、遼河を連れてリビングから出ていった。

 

 

<Side:遼河>

 

 見覚えのある後輩たちの顔を一目見た後、俺は迅に連れられて屋上にやってきた。

 わざわざ俺だけを指定して連れ出すということは、どうやらレイジさんたちには聞かれたくない何かがあるらしい。

 

「で、何の用だ? 迅。あの状況で俺を連れ出すなんて、余程のことが起きるのか?」

「うん。それなりに……いや結構なことが起きる」

「何が起きる?」

「ハッキリ言えば、本部から部隊が派遣されてくる。それも、A級の連合部隊(チーム)だ」

 

 本部が玉狛に部隊を派遣してくる。

 それも、B級ではなくA級の部隊。加えて連合部隊(チーム)ということは、余程大きな何かが狙い。

 ……今玉狛にある重要なものといえば、迅の持つ(ブラック)トリガー、「風刃」だろう。だが、本部が今更「風刃」を奪いに来るとは思えない。

 ともすれば、必然的に可能性は1つ。

 

「空閑の(ブラック)トリガーか」

「さすが遼河さん、理解が早くて助かるよ。城戸さんはやっぱり、遊真の(ブラック)トリガーを自分の手元に置いておきたいみたいでさ。でもおれとしては、可愛い後輩を守りたいわけ」

「それは建前だろ。……その心は?」

「万が一(ブラック)トリガーを奪われたら、遊真は死ぬ」

「……!?」

 

 ──迅の言う通り解釈すると、空閑の身体そのものがトリガーで構成されているということだ。驚く俺に、迅は俺に「空閑遊真」という人間の生涯を語り始めた。

 

 曰く、物心つく前から父親とそのお目付け役であるレプリカと一緒に向こうの世界を旅してきた。

 曰く、向こうの世界の国々を渡り歩く中で何度も戦場に出向いた。

 曰く、ある戦争の最中空閑は(ブラック)トリガーに襲われ、致命傷を負って死にかけている。その時に空閑の父親が命を賭けて(ブラック)トリガーとなり、空閑の命を繋いだ。だから(ブラック)トリガーを奪われれば、そう遠くないうちに空閑は死ぬ。

 そしてすべての話を聞き終えた俺は、空閑遊真という少年の人生に対して一種の共感に近いものを覚えていた。どうやら俺の思ったとおり、空閑は元々近界(ネイバーフッド)にいたわけだ。それならば、向こうの事情に詳しかったのも頷ける。

 さらにその話を聞いたことで、俺は空閑の父親、空閑有吾という人物をどこで聞いたか思いだすことができた。

 

「そうだ、忍田さんだ」

「うん?」

「空閑の親父さんの事、誰かから聞いたことがあったんだ。で、忍田さんから昔聞いたことがあるのを思い出したんだよ。『俺より強かった、今の俺じゃまだ足りない』って、忍田さんが言ってたな」

「おれは最上さんから聞いたよ。どういう人かは会ったことないから知らないけどさ」

「へぇ……」

 

 どうやら俺たちは、知らず知らずのうちに空閑の父親のことを聞いたことがあったらしい。

 しかも、それを聞いたのは俺が向こうを彷徨い始める前の話だ。5年前の時点ですら正直化け物みたいに強かった忍田さんより強いって……その空閑有吾って人はどれだけ強かったんだろうか。

 

「どれだけ強かったんだろうな、空閑の親父さん」

「さあ……? けど、きっと遊真にとっては大事な親父さんだったんだと思う」

「そうだな」

 

 しかし、俺たちにとって重要なのはそこではない。

 重要なのは、このままでは空閑が本部のエゴで殺されかねないという事実だ。そして俺は、それを是とする人間ではない。

 たとえ城戸さんと対立することになっても、俺には俺の譲れない信念というものがある。

 

「俺も手を貸そう。このまま黙って見てるわけにはいかない」

「そう言ってくれるって思ってたよ」

「……どうせこうなるのは見えてたはずだが?」

「まあね。でも実際に未来が確定した方が、安心できるしさ」

「それはそうか。……動きがあったら呼んでくれ。いつでも駆けつける」

「もちろん」

 

 そこまで言って、俺は屋上から立ち去った。

 ──さて、俺も牙を研いでおくとしよう。

 

 





遼河とあやめが何歳かはここで初公開ですが、オリ主が19歳なのは第5話でちまっと書いていました。

感想、評価等いつでもお待ちしております。


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