ワールドトリガー・Returner from another world 作:もりいぬ
『』で表記されている会話文は無線、またはトリオン体の内部通話での会話です。
また、<>内の文はアナウンスや機械音声といったものとなります。
この設定は以降の作品でも統一します。したがってこれまでに投稿した作品にも、随時修正を加えます。
4/24追記:「古寺」を「小寺」と誤表記しておりました。訂正しお詫びいたします。
ボーダートップチームと迅たちの戦いは、「ボーダー1の機動力を誇る」と称される風間隊の3人が先陣を切る形で幕を開けた。
時枝と木虎が牽制として風間と歌川に攻撃を撃ち込むもシールドで止められ、攻撃を掻い潜った歌川がスコーピオンで迅に攻撃を仕掛ける。しかしそれは迅の中では確定されていた未来であり、攻撃を読んでいた迅はその攻撃をひらりと掻い潜る。しかし歌川は動揺することなくスコーピオンの形状を双刃型から穴開きブレードに切り替え、再び接近戦を挑んだ。
風間隊は、全員がスコーピオンメインの超近接戦特化部隊だ。そしてスコーピオンは、超近距離特化かつ高機動戦闘を得意とするトリガーである。スコーピオンには重さがなく、いつでもブレードを出し入れでき、手以外の場所からブレードを出すこともできる性質がある。さらにトリオン消費次第で形状変化も自由なので、応用性も申し分ない。速攻をかけたい一撃離脱型の
──「脆い」。
そしてその弱点は、他の誰でもない
迅が歌川の足を引っかけて転ばせ、すかさず一撃を叩きこむ。ブレードの一撃はスコーピオンを容易く叩き割り、歌川の肩を切り裂いた。致命傷ではないが、歌川の肩からはそこそこの量のトリオンが漏れた。
そこで手傷を負った歌川と入れ替わるかのように、太刀川が迅に斬りかかる。「No.1
太刀川が使うトリガーは、遼河と同じく弧月だ。つまり、遼河と太刀川の対決は完全な実力勝負となる。迅も弧月に似たブレードを使用しているが、迅が今使っているそれは弧月に見えて全く違う別物である。
太刀川と遼河は数回剣をぶつけ合った後、遼河が太刀川の剣戟を弾いて間合いを取った。
「大丈夫か?」
「問題ないよ」
弧月はスコーピオンと違って自由に出し入れはできず、自由な形状変化はできないし、それなりに重量もある。しかし刀身は頑丈で、これ1本で攻撃も防御もこなせる。総合力で考えれば間違いなくトップのトリガーであり、使用者も一番多いことから、ボーダーにおける最高傑作のトリガーとも称されるほどだ。余計な要素を一切つけないシンプルイズベストを地で行く性能が故に、使い手次第では無限の可能性を持つ万能ブレードとなる。加えて弧月は「旋空」という専用のオプショントリガーを使うことで、その間合いを瞬間的に何倍にも拡張することができる。
太刀川の放った旋空弧月が近くの建物を破壊し、土煙が巻き起こる。その一撃を、迅たちは飛び退くことで回避した。嵐山がすかさず地面に銃弾を撃ち込み、その爆風に乗じて逃げる隙を作る。その隙を当真と奈良坂が狙うが、土煙と建物に遮られて姿が見えず、狙撃は通りそうになかった。
徹底して射線を切るその戦い方に、たまらず当真が悪態をつく。
「うへぇー、さすが迅さん。厭らしい地形選ぶぜ。全然射線通んねーじゃん」
遼河を殿に、迅たち5人は一旦太刀川たちから距離を取る。それを見た太刀川たちは、あえて深追いせず策を練ることに決めた。
「5人まとまっていると、なかなか殺しきれないな」
「しかも迅は、『風刃』を1発も使っていない。それに月城という隊員のことも、俺たちはよくわかっていない。さっきの動きと三輪の情報から、弧月使いということが分かったくらいだ」
「後手後手だな……」
(嵐山隊の
風間が冷静に戦況を分析する。奈良坂は作戦を練ると同時に、嵐山隊の
その時、迅たちを密かに追跡していた菊地原から風間に通信が入る。
『風間さん、もうこいつら無視して
『……玉狛には木崎たちがいる。ここで戦力を分散するのは危険だ』
『なるほど。了解』
風間の警告は極めて的確だった。
玉狛は少数精鋭、それでいてA級部隊1つに匹敵する戦力を持つ隊員がいる。戦力を分散しては、玉狛の隊員たちに呆気なく倒される可能性があった。玉狛のA級隊員3人をまともに相手して勝つのは、ボーダートップクラスの部隊でも容易ではない。
「三輪、古寺と米屋はまだか?」
「もうすぐ合流します」
「分かった。出水」
「はいはい」
三輪隊の残る2人──米屋陽介と古寺章平の到着を聞いた太刀川が、自隊の隊員である出水に指示を出す。
「俺と風間隊と
「りょーかい」
出水は軽い調子で答える。
それと同時に、「早く迅たちを叩きのめしたい」という雰囲気を隠さない三輪を諫めるように風間が言葉をかける。
「玉狛と忍田派が手を組んだということは、
「……分かっています」
そうして太刀川たちが策を練る一方、戦地から退いた迅たち5人は、迅を中心にこれからの戦況を予測していた。
「たぶん、こっちを分断しに来そうだな」
「ああ。向こうからしても、5人を一気に相手するより2、3人を相手した方が勝ちやすい。そうすれば向こうは人数の差でも射程の差でも圧倒できる。向こうには
「分断されたら、どうするんだ?」
「なあに、別に問題ないよ。何人か嵐山たちに担当してもらうだけでも、だいぶ楽になる。出来れば風間さんがそっち行ってくれると嬉しいんだけど──多分そうはならないだろうなぁ」
迅は願望に近い発言をする。
だが、迅の中では「風間は自分の方に来る」という確信があった。風間が迅を相手しない未来は、
同時に、分断された時接敵する可能性が高い相手について時枝が分析する。
「うちを足止めする役なら、多分三輪隊が動きますね。三輪さんには
「どうせなら、分断されたように見せかけてこっちの陣に誘い込んだ方がいいと思います」
「そうだな、賢と連携して迎え撃とう!」
木虎の提案により、嵐山隊の方針は「三輪隊を自陣に誘い込んで迎撃する」というものに固まった。
まもなく、気配に気づいた迅と遼河が階下を見る。
「お、来たな。上手いことやれよ、嵐山」
「そっちもな、迅」
「遼河さんはそっちに送るよ。遼河さんは強いぞ。おれが保証する」
「そうか。頼りにさせてもらうぞ、遼河!」
「任せろ」
こうして迅が単独行動を行うことになり、迅1人と嵐山隊+遼河という2班の即席チームに分かれる。
そして遼河は迅と別れる前に、1つの質問をした。
「まだ計画は『プランA』のままか?」
「うん、今はね。でも、すぐに変更になると思う」
「分かった」
その話を聞いた遼河はすぐさま嵐山たちを追いかける。その疾さは、戦場を駆ける黒い風のようだった。
そして遼河が迅と話している間に、嵐山隊の3人と出水、三輪、米屋が相対する。そこで、三輪がある疑問を口にした。
「嵐山隊……なぜ玉狛と手を組んだ。玉狛は
「正直なところ、俺も玉狛の狙いはよく分かってない。それは迅に……いや、これから来る人に聞いてくれ」
「なんだと?」
三輪にはどうしても、なぜ嵐山隊──ひいては忍田派が「
そこへ、迅との対話を終えた遼河が駆けつける。その姿を見た三輪は、怨敵を見るような目で遼河を睨み付けた。
「月城遼河……」
「え、マジ? 遼河さんいたの?」
「……答えろ! 玉狛は
三輪が叫ぶ。だが遼河はその視線も、敵意すら、歯牙にもかけていないようだった。
「──
「なに!?」
その一言には、三輪に対する哀れみにも近い何かが込められていた。そして、遼河は淡々と三輪に事実を語る。
「質問の答えだが──玉狛は別に何も企んでない。ただ、お前たちが喧嘩を吹っ掛けてくるから迎え撃つだけだ。俺たちがやろうとしてるのは、正当防衛にすぎない」
「正当防衛だと……!? なら
「だったらなんだ? 『相手が
三輪は遼河の質問に答えしようとしたが、できなかった。
遼河は三輪の沈黙を肯定と受け取り、「そうかそうか」と呟くと……それまでとは一転して怒気に満ちた目で三輪を見据えた。
「……ふざけたことを言うのも大概にしろよ、三輪。
「生きる権利だと……!?
遼河の言葉を受けてもなお三輪は止まることを知らず、口角泡を飛ばす勢いで
三輪には、「
「三輪、お前が
「嵐山、もういい」
三輪を諭そうと嵐山が口を開いたが、遼河は話すのも面倒だとばかりに会話を切り上げる。そして、躊躇いなく弧月に手をかけた。
「もう話し合いの余地がないのはお互い分かってるはずだ。だから──『これ』で決めよう。お前の意地と俺たちの意地、どちらが強いか」
「やるんならさっさと始めようぜ? さっさとこっちを片付けて、太刀川さんに加勢しなきゃなんないからな」
それだけ言って、出水と三輪は戦闘態勢に入った。遼河は2人から伝わってくる戦意に当てられたかのように弧月を抜刀する。
「──生憎、お前たちがその太刀川とやらと合流することはない」
相対する両者の間に緊張が走る。
出水が両手にキューブを構えた。それと同時に、出水に向かって1発の狙撃が撃ち込まれる。
──が、それは出水の
「ハイ残念。──佐鳥、見ーっけ」
「うわ、釣られたっ!?」
位置を捕捉された嵐山隊の
「
その一連の動きで佐鳥の位置を捕捉した三輪が、米屋に佐鳥の撃破を指示する。
「陽介、
「オッケー!」
「木虎!」
「カバーに入ります」
それを見た嵐山が、すかさず木虎に米屋の足止めを指示する。だが次の瞬間には、木虎の眼前に米屋が迫っていた。
首に振るわれた槍を、木虎は辛うじて回避する。槍が掠めた頬からは、血の代わりにトリオンの煙が漏れた。
そのまま木虎は米屋の追撃で吹き飛ばされ、建物内に落下する。まもなく米屋と木虎が、放棄された建物の中で武器を向け合った。
「おいこら優等生! 勝手に人の家に入っていいのか?」
「窓を割ったのは、そっちでしょ?」
──────────────────
嵐山達の戦いが始まるのに前後して、迅の方でも動きがあった。
迅を追ってきたのは予知通り、ボーダー最強の
「やっぱりこうなるか」
「やっぱり? サイドエフェクトで見えてたのか」
「まあね。……さてと、仕方ない。やろうか、太刀川さん」
「ああ、久しぶりにやろうか。迅!」
太刀川が弧月を、迅が「風刃」を構えじりじりと間合いを詰める。風間がスコーピオンを構えて攻撃態勢をとる。そして太刀川の踏み込みによって、ボーダーの全
まずは小手調べとばかりに放たれた太刀川の一閃を迅が防ぐと、その隙を突くように風間が間合いに飛び込む。それすら凌いだ迅だったが、今度は風間がスコーピオンを前腕部の側面から突き出し首を狙う。迅は紙一重でこれを避けると、直後に撃ち込まれた奈良坂と古寺の狙撃をも最小限の動きで難なく躱して見せた。
未来を見る能力を持つ迅に対して、狙撃は限りなく効果が薄い。一向に当たる気配のない狙撃に対し、古寺は焦っていた。
『奈良坂先輩、当たらないです!』
『いいから黙って撃て。迅さんには、予知のサイドエフェクトがある。躱されるのは仕方ない。当てるんじゃなくて、動きを制限するつもりで撃て。迅さんの対処能力を、攻撃の密度で上回るんだ』
奈良坂はこんな状況でも冷静さを崩さない。
その一方で、当真は何もせずに状況を様子見していた。そんな当真に対し、奈良坂が不機嫌そうに無線を送る。
『当真さん。あんたも少しは撃ったらどうだ?』
『あぁ~?
『──なんだと!?』
──「外れる弾は撃てない」。それだけ言い残すと、当真は本当に三輪たちのいる南側へと行ってしまった。
1発も撃たないどころか与えられた役割を放棄するという
そこに、太刀川からの無線が入った。
『いや、それでいいんだ奈良坂。確かに当真は好きにさせればいい。そっちの方が
『……はい』
現在北東では、迅VS太刀川・風間隊・奈良坂・古寺の6対1。南では、嵐山・時枝・遼河の3人と三輪・出水コンビがかち合っている。そこから少し離れたところで、嵐山隊の木虎と三輪隊の米屋が交戦中。そして佐鳥は木虎のカバーにより逃げ果せることに成功したものの、現在南側には「No.1
──いつの間にかこの戦いは、事実上のボーダー頂上決戦の様相を呈しつつあった。なにせ今この放棄地帯ではA級1位、2位、3位、5位、6位の隊員たちが入り乱れており、玉狛でも屈指の実力を誇る迅と遼河もまた、戦線で剣を振るっているのだから。
迅は風間隊の3人に囲まれてもなお余裕を崩さない。菊地原の攻撃を的確に見切ると、素早いブレードの一振りで菊地原の肩に浅い傷をつけ、トリオンを漏出させる。そのまま迅は2歩、3歩と下がって距離を取った。
「どんどん下がりますね。
「包囲されないためには当然の行為だろう。あまり突出するな。浮いた駒は食われるぞ」
「でも、どうします? このままだと警戒区域外まで行くんじゃ……?」
その歌川のつぶやきを聞いた太刀川が、「それはない」と言い切る。
迅は市民を危険にさらすことはしない。それは昔の迅を知る者であれば誰でも知っていることだった。しかしだからこそ、太刀川は迅の戦い方に違和感を感じていた。A級隊員時代の迅と幾度となく戦った男だ、それくらいは分かる。
──かつて太刀川と迅は、No.1
というのも何年か前までは、
しかし歌川の言うとおり、今の迅の戦い方が「らしくない」のもまた事実。
「歌川の言うとおり、今の迅は消極的すぎる。何を考えている? 迅……」
消極的な迅の戦闘スタイルに違和感を覚えつつ、太刀川が再び迅に切り込む。
太刀川と迅がこうして刃を交えるのは、実に久しぶりだった。迅が「風刃」を手にしてからというもの、太刀川は迅と戦う機会をなくしていた。
しかし蓋を開けてみれば、かつて太刀川と互角に張り合った迅悠一は影も形もなかった。迅はただひたすらに下がるだけで、太刀川も風間隊の3人も、大したダメージは負っていない。せいぜい頬や肩を浅く斬りつけられたくらいだ。
「ずいぶんおとなしいな、迅。昔の方がまだ手ごたえがあったぞ? それとも──『風刃』なしで俺たちに勝とうとしてるのか?」
「……」
剣をぶつけ合いながら、太刀川は迅に問いかける。迅はその問いに対して沈黙を貫いた。
その後も太刀川と風間は絶え間ない連続攻撃を仕掛けるが、迅はそのすべてを的確に払いのける。後ろに回り込んでいた歌川と菊地原が迅に斬りかかるが、迅は針の穴に糸を通すかの如くスコーピオンの穴にブレードを通し、2人を一纏めにして手傷を負わせた。
だが、やはり致命傷ではない。そこで、菊地原が気付いた。
「……まともに戦う気なんてないんですよ、この人。この人の目的は単なる時間稼ぎ。きっとこうしている間に、玉狛が
「いや、迅は守りに徹しながら、こちらのトリオンを削っている。──こいつの狙いは、俺たちを
菊地原の発言を聞いた風間が、迅の目的を確信する。
そして目的を看破されてしまった迅は、ここで初めて苦い表情を見せた。
「あーらら……」
「──なるほど、あくまで俺たちを
「戦闘中に後始末のことを考えるとは、大した余裕だな」
太刀川と風間がじりじりと迅に迫る。
だがその足取りは、まるで何かを警戒しているといった様子だ。いつになく慎重な太刀川たちに、菊地原が疑念を隠すことはしなかった。
(何をもたもたやってるんだ? 『トリオン切れで撤退させる』なんて言ってるけど、やってることはただ逃げ回ってるだけじゃないか。それにあの人とは何度か遠征前に戦ったことはあるけど、大して強いとは思わなかったぞ……。特に相打ちオーケーならすぐ片が付く)
そしてしびれを切らした菊地原は、愚痴に似た提案をする。
「風間さん。やっぱりこんな奴のことは無視して、玉狛に直行しましょうよ。僕らのターゲットは玉狛の
「……なるほど、迅の逃げを封じる手か。確かにこのまま戦っても埒が明かないな。──よし、玉狛に向かうぞ」
風間は菊地原の提案を受け、迅とまともにやり合うより直接玉狛を叩く強硬策に切り替えることを決める。
しかし次の瞬間──迅の目つきが明らかに変わった。
「やれやれ……。
……菊地原は知らなかったのだ。「迅の強さの本質」を。
迅がブレードから「なにか」を発現させると同時に、迅が壁に沿ってブレードを振り抜く。太刀川と風間はその動きだけでこの後何が起きるかを察せたが、歌川と菊地原には迅が何をしたのか理解できなかった。その判断の遅さが、生死を分けることになる。
迅がブレードを振ってから「何か」が起きるまで、1秒もいらなかった。
──瞬きをするより早く、菊地原の首が吹き飛んだ。
「え……?」
<戦闘体活動限界。
菊地原は何が起きたのか知覚する時間も与えられぬまま、突如として
歌川には何が起きたのか全く理解できなかった。自分の目が正しければ、迅は
──今菊地原の首を吹き飛ばした、どこからともなく飛んできた斬撃。それこそが、「風刃」なのだと。
「出たな──『風刃』」
迅のブレードから現れたゆらめく緑色の光の帯を見て、太刀川が呟く。
それは「S級隊員」迅悠一が、
「バレちゃあ仕方ない……。『プランB』だ」
──
その全力が今、ボーダートップチームに牙を剥こうとしていた。
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