ワールドトリガー・Returner from another world   作:もりいぬ

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この度、初めて☆10評価をいただきました。
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近界民を知る者、憎む者

 遼河が三輪と出水の2人を相手取っている頃、嵐山と木虎は路地裏に身を潜めていた。

 万が一遼河が落とされて2人がこちらに来た時、射撃戦によって削り殺されるのを警戒した位置取りだ。同時に、狙撃手(スナイパー)の射線に入らないという目的もある。

 

「遼河先輩、1人で2人を相手して大丈夫でしょうか」

「迅が『強い』って保証したんだ、信じていいと思うぞ」

 

 木虎が遼河の身を案じる一方で、嵐山は遼河の実力を掛け値なしに信用していた。

 ちょうどそのタイミングで、遼河からの連絡が入る。

 

『嵐山』

『遼河! 無事だったのか!』

『あの程度で手傷を負うほど、俺はやわじゃない』

『あの2人を相手にして無傷なんですか!?』

『ええ~!?』

 

 木虎と佐鳥が驚愕する。相手はA級部隊の隊長にして「No.3万能手(オールラウンダー)」、そしてA級1位太刀川隊の「No.2射手(シューター)」なのだ。

 そんな2人の連携を言葉通り「ダメージを負わずに」やり過ごしたとすれば、月城遼河という人物はとんでもない実力者ということになる。

 戦線から離脱した遼河はバッグワームを起動して敵の探知から外れつつ、レーダーで三輪と出水の動きを捕捉していた。すると遼河は、2つの反応が北へと向かっていることに気づく。

 

『相手の動き方が変わった。多分、迅の方を狙う動きだ』

『それは、まずいな』

『向こうの狙撃手(スナイパー)の動きは掴めないが、少なくとも三輪と出水は迅の方へ向かってる』

 

 それを聞いた嵐山も、レーダーを展開する。遼河の言う通り、2つの点がゆっくりと、だが確実に北へと向かっていた。

 もちろん、そんなものに易々と釣りだされる嵐山たちではない。

 

「──罠ですね。100%、私たちを釣り出すための誘いです」

「だろうな」

『どうする? もう一度俺が相手取るということもできるが……そうなると、なりふり構わずあの2人を真っ二つにした方が早い気もするな』

 

 木虎の言うとおり、その動きが罠であるのは誰の目から見ても一目瞭然だ。しかし、迅に任されている以上三輪と出水を放っておくことができないのもまた事実。そして、遼河ばかりに戦わせるという選択肢は嵐山の中にはない。

 嵐山は、しばらく考えると、一計を案じた。

 

「遼河だけに苦労は掛けられないさ。──俺たちの方に考えがある。綾辻」

『はい、嵐山さん』

「このあたりの狙撃ポイントを洗い出してくれ」

『了解しました!』

「よし……。賢、木虎! 働いてもらうぞ」

「『了解!』」

「遼河も、今は指示に従ってくれないか? 考えがあるんだ」

『分かった』

 

 ──こうして嵐山隊と遼河が、連携して動き出した。

 まもなく、当真のレーダーに()()の反応が映りこむ。

 

「お、追っかけてきたな。三輪の読み通り」

「あれ、でも2人だぞ?」

「恐らく、向こうの誰か1人がバッグワームを使っているんだろう。向こうは機動力的に不利だ。誰かを囮にして他の誰かが奇襲をかけるくらいしか、形勢を逆転できる戦法はない。奇襲するとすれば、足が生きてる遼河さんだろう。だが遼河さんが出張ってきても、こっちにはまだ狙撃手(スナイパー)がいる。いくら弾を撃ち落とせるとはいえ、2人がかりで集中砲火すれば必ず隙ができるはずだ。俺たちは、狙撃手(スナイパー)が確実に仕留められるだけの隙を作れればいい」

「そうは言ってもさ、佐鳥はまだ緊急脱出(ベイルアウト)してないんだぜ? さすがに油断しちゃダメだろ」

「……それもそうだな、狙撃に警戒しておけよ」

 

 悲しいことに、三輪もまた佐鳥の存在を忘れていたのであった。

 やがて、三輪と出水が反応のある場所にたどり着く。嵐山と遼河が、放棄地帯にある団地の中の公園のど真ん中で待ち構えていた。

 

「嵐山さんと遼河さん、見っけ」

「どうやら、奇襲担当は木虎で決まりのようだな」

「んじゃ、さっさとやりますか──炸裂弾(メテオラ)!!」

 

 出水の無差別炸裂弾(メテオラ)の雨が、嵐山と遼河に降り注ぐ。

 それを見た遼河と嵐山は背中合わせになりながら固定シールドを展開し、その弾幕と爆風をどうにか受けきった。

 

「うおお、耐えるなー、あの2人」

「深追いするな。木虎の奇襲を最警戒しろ。それに、遼河さんは足が死んでいない」

 

 三輪の言うとおり、木虎の足は当真が吹き飛ばしたが、遼河はここまで無傷だ。

 だがここで、ある疑問が浮かぶ。

 

(なんで遼河さんじゃなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()? この近くに潜んでいるのは間違いないにしても、無傷の遼河さんを使わない理由はなんだ……?)

「嵐山さん、あんたの有能な部下はどこに行った? 奇襲を仕掛けるのなら、足が生きてる遼河さんを使えばいいんじゃないのか?」

 

 その三輪の質問に答えたのは嵐山ではなく──遼河だった。

 

「……甘いな」

「なに?」

「三輪、戦いはどんな人間が勝つのか知ってるか?」

「何が言いたい……!」

「……知らないか? なら教えてやる。いつだって勝つのは──相手の『当たり前』の上を行く人間だ

 

 意を掴ませない遼河の発言にしびれを切らした三輪が、鉛弾(レッドバレット)を放つ。しかし、遼河はそれを弧月の刀身でガードした。

 鉛弾(レッドバレット)は相手の身体に当たらなければ意味がない。弧月の刀身に当たったとしても、全くの無意味だ。なにせ、トリガーはトリオンが尽きない限り再構築できるのだから。さらに言えば、鉛弾(レッドバレット)は弾速が遅い。極めて高い動体視力を持つ遼河にとって、目に見えるレベルで遅い弾丸を止めることは難しいことではない。

 

「チッ……!」

鉛弾(レッドバレット)は弾速が遅い。それはお前が一番わかってるはずだ」

「……出水」

「ああ。こりゃ、先に手負いの方を落とした方がよさそうだな」

 

 鉛弾(レッドバレット)をあっけなくガードされた三輪が舌打ちをする。現時点でほぼ無傷の遼河を落とすのは不可能だと判断した2人の矛先が、手負いの嵐山に向けられた。三輪と出水が放った通常弾(アステロイド)の弾幕を、嵐山がテレポーターで回避する。

 だがそれを完全に読み切った天才狙撃手(スナイパー)が1人、寸分狂わず嵐山の移動先に銃口を構えていた。

 

「『テレポーター』の移動先は、視線の方角数十メートル」

 

 当真のイーグレットの照準は、寸分違わず嵐山の脳天をロックオンしている。

 そして当真が引き金に手をかけようとした──次の瞬間だった。

 

「……!?」

 

 突如、当真の視界が真っ二つになった。理由は簡単──顔を両断されたのだ。

 だが遼河が今いる場所から旋空弧月を放ったとしても、100m以上離れている当真にはまず届かない。嵐山はスコープで捕捉していたはずだ。では、誰が当真を斬ったのか?

 ……その答えは1つしかない。当真は視線を後ろにやる。

 

(あ……? おいおい、なんで木虎(コイツ)がこんなとこまで登ってきてんだ? さっき片足ぶっ飛ばしたはずだろ)

 

 そこにいたのは、嵐山隊の「もう1人のエース」──木虎藍だ。

 だが当真の考えている通り、木虎は先ほど当真の狙撃によって足を吹き飛ばされている。当真の隠れていた場所まで登ってくるには、何段もの階段を上がらなくてはならない。それなのに、なぜこんなスピードで自分の居る高所まで上がってこれたのか。

 疑問に思った当真が木虎の足元を見る。その視線の先にあったのは、()()()()()()()()()()()()だった。スコーピオンの義足である以上、攻撃力も当然ある。そこでようやく、当真は「木虎の足技で頭を刎ね飛ばされた」ことを理解した。

 

(スコーピオンを足代わりにしたってわけか……なるほど)

「こりゃ、一本取られたなぁ」

<伝達系切断、緊急脱出(ベイルアウト)

 

 そして、当真が飛んだ。

 その事実に動揺したのは、もちろん三輪と出水だ。

 

「はあ!?」

「当真さんが、なぜ……!?」

「これで分かっただろう?」

 

 三輪と出水が振り返る。

 そこに立っていたのは、不敵な笑みを浮かべる遼河だった。それと同時に、作戦が上手くいったことを確信した嵐山が息をつく。

 

「俺たちの作戦は、お前の言った通り『俺たちを囮にした奇襲』だよ」

「──嵐山ッ!!」

「悪いな、隙だらけだ」

「……っ!?」

 

 三輪が銃を構えた瞬間、三輪と出水の手が飛んできた狙撃で消し飛ばされた。

 ──嵐山隊狙撃手(スナイパー)の佐鳥による必殺のツイン狙撃(スナイプ)。1人で2挺の狙撃銃を構え、2つの対象を同時にぶち抜く大技。この技を実行できる狙撃手(スナイパー)は、ボーダー全体で見ても佐鳥以外に存在しない。文字通り、唯一無二の変態技術だ。

 

「オーケーオーケー、今度は当てたぜ? 出水先輩」

「佐鳥……!」

 

 この間、僅か十数秒。だがその十数秒の攻防で、勝負は完全に決まった。

 腕を吹き飛ばされた三輪と出水がこのまま戦いを続行しても、遼河相手ではまず勝ち目がない。出水の弾幕を切り裂くようなデタラメな戦闘力を持つ男だ、間合いに入られてしまえば即緊急脱出(ベイルアウト)させられてしまうだろう。頼みの綱の鉛弾(レッドバレット)も銃トリガーをセットしている方の腕を吹き飛ばされてしまった以上、隙が大きすぎて実質的に使えない。将棋でいうところの、詰み。南側の攻防は、嵐山隊と遼河の作戦勝ちだった。

 

 時を同じくして、北側の攻防も決着がついた。相対していたのはほぼ無傷かつ弾のリロードが完了した迅と、「風刃」の遠隔斬撃により満身創痍状態の太刀川と風間。

 もはやどちらが勝ったかなど、語るまでもない。

 

「勝負あり、だな」

「なるほどな……。いずれ来る実戦に備え、手の内を隠していたというわけか」

「悪いね、生粋の能ある鷹なもんで」

「……だが『風刃』の能力は把握した。あと3週間、正式入隊の日までに必ずお前を倒して、(ブラック)トリガーを回収する」

 

 今こうして「風刃」の能力を把握できた以上、決して攻略できない相手ではないと太刀川は踏んでいた。正式入隊までは3週間ある、それまでには倒せるだろうと。

 しかし迅はその発言を意にも介さず、ただ一言だけ語る。

 

「残念だけど──そりゃ無理だ」

 

 とどめの遠隔斬撃が、太刀川と風間を貫く。その攻撃で戦闘体が活動限界を迎えた2人は、本部へと緊急脱出(ベイルアウト)した。それを見届けた奈良坂と古寺は、これ以上の戦闘は無意味だと判断し撤退していく。

 こうしてボーダートップチームは、玉狛支部の2人と嵐山隊の連合部隊を前に完全敗北を喫することとなった。まもなく三輪と出水に、オペレーターから作戦終了が告げられる。

 

『三輪君、作戦終了よ。太刀川君と風間さんは任務失敗、奈良坂君と章平君も撤収中よ』

(……!!)

「くああ~! 負けたか~!! つーか迅さん、6対1で勝ったのかよ!? 太刀川さんたち相手にして!? (ブラック)トリガーってやっぱ半端ねーな!」

 

 三輪は作戦失敗の報を聞き、歯噛みする。一方で、出水は迅が太刀川たちを退けたという事実に驚愕していた。

 それと同じタイミングで、遼河は迅から作戦完了の報告を受けていた。

 

「迅から連絡が来た。あっちの攻撃手(アタッカー)は全滅したらしい。向こうの狙撃手(スナイパー)も撤退したそうだ」

「そうか! なら、これで任務完了だな!」

「ああ、お疲れ様」

 

 まもなく作戦の終了を聞いた木虎と佐鳥も、遼河たちに合流する。

 

「お疲れ様です、隊長。それに、遼河先輩も」

「嵐山さん、見ました!? オレの必殺ツイン狙撃(スナイプ)!」

「ああ! 木虎、賢。よくやってくれた! 綾辻と充も、ありがとう!」

『お疲れ様です』

『どうもです』

 

 作戦の終了を喜び合う嵐山隊。

 出水はそれを見て、自分より格下のA級5位部隊のみならず、どこから出てきたのか分からないぽっと出のB級隊員に完敗を喫したことに苦言を呈した。

 

「作戦失敗か~! 5位のチームに一杯食わされたのは腹立つな~。しかもそこの月城さん? は弾叩き落してくるし。本当にB級隊員かよ?」

「……さあ、どうだろうな?」

「出水先輩、うちの部隊はテレビや広報での仕事をこなしたうえでの5位なんです。普通の5位と一緒にしないでもらえます?」

「相変わらずクソ生意気だな、木虎……」

 

 戦いが終わったことにより、その場を弛緩した空気が支配する。

 だが三輪だけはそうではないようで、嵐山たちに鋭い殺気を向けながら嵐山に語り掛けた。

 

「嵐山さん、近界民(ネイバー)を庇ったことをいずれ後悔する時が来るぞ。あんたたちは何もわかってない。家族や友人を殺された人間でなければ、近界民(ネイバー)の本当の危険さは理解できない。近界民(ネイバー)を甘く見ている迅は、いつか必ず痛い目を見る。そこにいる遼河さんも同じだ……!」

「……なんだと?」

 

 その時、三輪の言葉を聞いた遼河の声色が変わった。それだけではない、纏う雰囲気も変わっていた。

 先ほどまで親しげに話していた遼河の雰囲気はどこへやら、今の遼河の雰囲気はとても19歳の青年のそれとは思えない程、威圧感に満ちていた。その威圧感を受けたその場の面々が皆たじろぐ。三輪ですら、かつてないほどのプレッシャーを感じていた。城戸司令と対話している時ですら、これほどの圧は感じたことがなかった。

 

「俺たちが本当に近界民(ネイバー)の脅威を知らないとでも思ってるのか?」

「なに?」

「──やっぱり知らないんだな。なら教えてやる。迅は4年前の大規模侵攻で、近界民(ネイバー)に母親を殺された

「……!?」

「それに、迅は5年前に師匠……最上さんも亡くした。まさかお前は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「くっ……!」

 

 遼河の発言が、静かに三輪を追い詰める。

 そして次に遼河の口から放たれた言葉は、三輪と出水を驚かせるには十分すぎるものだった。

 

「ついでに言おう。俺は、近界(ネイバーフッド)()()()()()()

「な……!?」

「マジで!?」

「えっ!?」

「はいぃ!?」

 

 遼河の発言に、三輪と出水だけでなく嵐山隊の面々も驚愕する。

 嵐山も、迅からは遼河のことは多少聞かされていた。しかし迅からは「玉狛所属の攻撃手(アタッカー)で、超強い」ということくらいしか聞かされていない。自分とともに戦ってくれた同い年の青年が、まさか向こうの世界を彷徨って生還した人物だとは夢にも思っていなかった。

 三輪は、近界(ネイバーフッド)を彷徨って近界民(ネイバー)という存在の危険性や残虐性を知っているはずの遼河がなぜ迅側につくのか理解できず、たまらず叫んだ。

 

「なら、なぜ近界民(ネイバー)を庇う!? 近界民(ネイバー)は危険な存在だと、分かるはずだろう!?」

「……確かに、近界民(ネイバー)近界民(ネイバー)同士で戦争ばっかりだ」

 

 いつの間にか、周囲から会話が消えていた。

 遼河の発言の1つ1つには、積み上げてきた歳月から来る「重み」というものがある。そしてその歳月は、遼河にある1つの結論を与えていた。

 

「だが、それは()()()()()だ」

 

 その結論は、近界(ネイバーフッド)を渡り歩き、多くの近界民(ネイバー)と出会い、助け合い、時にはともに命を賭けた戦いに臨み、そうして生き残ってきて、この場の誰よりも彼らの生き方を理解している遼河だからこそ言えることだった。

 ゆえに三輪の主張は遼河にとってはただの決めつけ、差別に他ならない。現に三輪は、遼河の前で遊真に独断で攻撃を仕掛けている。しかも、話も聞こうとせず頭をぶち抜こうとしたのだ。この一件以降、三輪は遼河に「近界民(ネイバー)であれば問答無用で殺害を試みる危険人物」と認定されていた。

 ……三輪が遼河を敵とみなしていたのと同じように、三輪を睨む遼河の目はもはや同じ「ボーダー隊員」を見る目ではなかった。

 その目は三輪が近界民(ネイバー)に向ける視線と同じ──()()()()()()を見る目だった。

 

「──向こうには、日々を生きるだけでも精一杯の奴らがたくさんいる。お前には理解できないかもしれないが、向こうはこことは違って、資源も人も全く足りない。だから他の国を襲って、殺して、否応なしに奪う。そうでもしなければ国が成り立たない。そういう意味じゃ、お前の言う通り近界民(ネイバー)は危険な存在だな」

「……だったら!」

「だがその上で言わせてもらう。──すべての近界民(ネイバー)が『悪』じゃない。確かに一部の近界民(ネイバー)は戦争を仕掛けているし、自ら戦争に出向くこともある。だが、俺が向こうで会った近界民(ネイバー)は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺たちと同じように笑い、俺たちと同じように泣くことができる人間だ。だから俺は、『近界民(ネイバー)にもいい人間がいる』っていう玉狛の考えが理解できるし、賛同もできる」

「……!」

「それに、お前の言う通りすべての近界民(ネイバー)が敵なら……俺が今こうして立っているわけがない。前に『近界民(ネイバー)はすべて敵』と言っていたな。なら聞こうか。もしすべての近界民(ネイバー)が敵なら、なんで今こうして俺は生きているんだ?」

 

 その質問に、三輪は答えられなかった。いや、答えることが許されなかった。

 ──答えてしまえば、「近界民(ネイバー)はすべて敵」というかつての自分の発言を否定することになってしまう。だが反論しようにも、近界民(ネイバー)の暮らす世界を彷徨い続けた遼河がこうして生きているのは紛れもない事実。三輪は完全に八方塞がりだった。

 そして沈黙した三輪に対し、遼河は容赦なく言い放った。

 

「……思いあがるな。お前は近界民(ネイバー)の本当の姿を何も知らない。近界(ネイバーフッド)に行ったこともない人間が、本当の近界民(ネイバー)と話して、理解しようともしない人間が──」

 

 遼河は極めて冷淡な瞳で三輪を睨みつけながら、言葉を締めくくった。

 

「──近界民(ネイバー)のすべてを、知ったように語るな」

 

 その一言と同時に、三輪は自らの首筋に刀の切先を突きつけられたかのような気がした。

 だが三輪の目の前にいる遼河は弧月を抜刀していなければ、弧月に手をかけてすらいない。三輪はあまりに強い威圧を受けたことで、視線だけで殺されてしまうかのように錯覚してしまったのだ。今の遼河はすべてを凍てつかせるような冷たい殺気を放ちながら、三輪を静かに見下ろしている。それだけなのに、三輪は声が詰まって何も言えなくなってしまった。

 

 すると、遼河のもとに迅から連絡が入る。「今から本部に行くから、ついてきてくれ」ということだった。遼河はそれを了承すると、後始末を嵐山たちに任せて去っていく。

 そうして遼河が放棄地帯から去ったことで、ようやく周囲に漂っていた冷たい空気が止まった。やがて、嵐山が三輪を諭すように語り掛ける。

 

「……俺には迅の考えは分からないし、遼河のこともよくわからない。でも、近界民(ネイバー)の危険さも、大事な人を失う辛さも分かったうえで、迅には迅の、遼河には遼河の考えがあるんだと俺は思うぞ」

 

 嵐山の言葉を聞いた三輪が想起したのは、いつか迅から言われた「おれはただ単に、お前らを心配してるんだ」という一言だった。

 

「さて……。帰る前に、この重りを外してくれるとありがたいんだが」

「……くそっ!!」

 

 だがあの日姉を失った三輪にとって、近界民(ネイバー)という存在は須らく滅すべき存在、許すべからざる悪なのだ。「すべての近界民(ネイバー)が敵ではない」という遼河の意見も、「近界民(ネイバー)にもいい奴がいるから仲良くしよう」という玉狛の考えも、三輪にはどうしても理解できない。

 遼河の主張に反論できなかった悔しさと、行き場のない怒りにまみれた三輪が拳を打ち付ける。その残響が、夜の放棄地帯に木霊した。

 





アンケートの結果、オリキャラたちのプロフィールを公開することに決定いたしました。
したがって、月城遼河(オリ主)と月城あやめ(オリキャラ)のプロフィールを3月24日12時に公開します。
なおプロフィールに関しては展開の都合上、「物語が進むにつれ少しずつ公開・追加されていく」方式を取らせていただきます。

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