ワールドトリガー・Returner from another world   作:もりいぬ

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今話以降、更新は1週間に1~2回ペースになると思われます。
多忙に伴い小説執筆の時間が取れないためです。ご理解のほどよろしくお願いいたします。
ただし、筆の乗り次第ではペースが速まることもあると思います。



取引、或いは静かな怒り

 玉狛、ひいては(ブラック)トリガー「風刃」による思わぬ反撃に加え、ボーダートップチームの大敗。

 その知らせに、城戸派の上層部は大混乱に陥っていた。怒り心頭の鬼怒田開発室長が、今回の1件で玉狛に手を貸した忍田本部長に食って掛かる。

 

「いったい、何がどうなっとるんだ! 迅の妨害! 精鋭部隊の潰走! だが問題は何よりも……忍田本部長!! なぜ嵐山隊が玉狛についた!? そこまでして近界民(ネイバー)を守ろうとする目的は何かね!? ボーダーを裏切って、戦争でも起こすつもりか!?」

 

 鬼怒田は机を叩くと、口角泡を飛ばす勢いで憤慨する。しかし忍田本部長は毅然とした態度で、城戸派の面々と対峙した。

 

「『裏切る』だと……? 論議を差し置いて強奪を強行したのはどちらだ?」

「……!」

「もう一度はっきり言っておこう。私は(ブラック)トリガーの強奪には反対だ。ましてや相手は有吾さんの子……。これ以上刺客を差し向けるつもりなら──」

 

 忍田本部長はそこで言葉を区切ると、怒りを込めた目線で城戸派の面々を睨み付けながら最後の一言を言い放った。

 

「この私が相手になるぞ、城戸派一党」

「……」

 

 その殺し文句に、城戸派一党は沈黙する。鬼怒田と根付に至っては、冷や汗をかいていた。

 それもそのはずだ。忍田本部長はA級1位にして「No.1攻撃手(アタッカー)」である太刀川慶に剣を教えた師匠。その実力、まさしく鬼神の如し。忍田本部長こそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に他ならない。現に今、鬼怒田たちの目線の先にいる忍田本部長の後ろには、怒れる虎が見えるようだった。

 怒らせたのはまずかったかと、唐沢営業部長が懐柔策をとろうとしたその時。城戸司令が口を開いた。

 

「なるほど……。ならば、我々の次の刺客には天羽を使う」

「!?」

「な……」

「天羽君を……!?」

 

 城戸司令の別案。それは、「天羽を次の刺客に使う」というものだった。

 天羽。それは、ボーダーにおけるもう1人のS級隊員、天羽(あもう)月彦(つきひこ)のことだ。「風刃」使いの迅と双璧をなすもう1人の(ブラック)トリガー使いにして、単純な戦闘能力()()で考えればボーダーにおいて間違いなく最強を誇る人物。ただし、素行や戦い方にいろいろと問題がある。その苛烈な戦いぶりと素行の悪さゆえに、上層部ですら慎重に扱うことを徹底している。

 そんな天羽を表に出すことに苦言を呈したのは、意外なことに根付対策室長だった。天羽の戦闘スタイルは周囲への被害を考えない。そのため、ひとたび動いてしまえば後処理が大変なことになってしまう。いくら根付が城戸派筆頭とはいえ、さすがにボーダー全体の心証を悪くするような強硬手段を用いるのは憚られるというものだった。

 

「い、いや……しかし! 城戸司令。彼を表に出すと、ボーダーのイメージが崩れかねません。なんと言いますか、彼の戦う姿は人間離れしておりますからねぇ……。万が一市民に目撃されてしまえば、ボーダー全体の評判に影響がありますよ!?」

「……A級トップチームを潰走させる迅の『風刃』のみならず、今回は月城隊員もそちら側についていると聞く。そこに忍田くんが加わるとなれば、こちらも手段を選んではいられない」

「城戸さん……。あなたは、街を破壊するつもりか……!?」

 

 忍田本部長と城戸司令の間で一触即発の雰囲気が漂う会議室。

 するとそこに、気の抜けた声が聞こえてくる。

 

「失礼しまーす」

「「……!?」」

 

 会議室の扉が開くと同時に、2人分の人影が現れる。

 そこに立っていたのは、つい先ほどA級連合部隊を敗走させた当事者である迅と遼河の2人だった。

 

「どうも皆さんお揃いで、会議中にすみませんね」

「迅!? それに、遼河も……!?」

「な……!?」

「お前たち……!」

 

 突如として現れた2人に驚く上層部の面々。鬼怒田は歯ぎしりしながら真っ先に食って掛かる。

 

「貴様らぁ~~~!! よくものうのうと顔を出せたな!」

「まあまあ、鬼怒田さん。血圧上がっちゃいますよ?」

「……はぁ」

 

 上層部をひっかきまわしておきながらいつもの非常に軽い雰囲気を放つ迅に対して、隣の遼河がため息をつく。だが、遼河はその間にも鋭い視線で城戸司令を見据えていた。

 城戸司令は迅と遼河に腹の中を探るような視線を向け、語りかける。

 

「……それで、お前たち2人が何の用件だ? ボーダー本部に宣戦布告でもしに来たか?」

「そのつもりはありません。そもそも俺たちが本部に宣戦布告したところで、百害あって一利なしもいいところでしょう」

「遼河さんの言うとおり、おれたちは宣戦布告しに来たわけじゃない。交渉しに来たんだ」

「交渉だと……!? 裏切っておきながら……!」

「いや……。本部の精鋭を撃破して本部長とも手を組んだ。戦力で優位に立った今が、交渉においては最高のタイミングです」

 

 怒る鬼怒田を、ボーダー1の交渉のスペシャリストである唐沢が正論で諫めた。

 そのまま迅は、自らの要求を淡々と伝える。

 

「こちらの要求はただ1つ。うちの後輩、空閑遊真のボーダー入隊を正式に認めていただきたい」

「なにぃ? なぜそんなことを要求するのかね!?」

「……『本部が認めない限り、ボーダーに入隊したことにはならない』。これが向こうの言い分だ。事実、やろうと思えばそっちは適当な理由をつけて空閑の入隊希望を一方的に抹消できる。そうでしょう?」

「なるほど……。『模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く禁ずる』か」

「まさか君たちはボーダーの規則を盾にとって、近界民(ネイバー)を庇うつもりかね!?」

 

 城戸は鋭い目つきで2人を見つめる。しばし、城戸と迅たちの視線が交錯した。

 

「私が、そのような要求を飲むと思うか?」

「もちろん、思っていません。これは『取引』です。こっちからも材料を出さなければ、取引とは言えない」

「……ならば、お前たちは何を出すつもりだ?」

「おれたちが出すのは、これだよ」

 

 迅がおもむろにテーブルの上に何かを置く。見ると、それはトリガーだった。だが、そのトリガーを見た上層部の面々の顔つきが一瞬にして変わる。

 その理由は1つしかないだろう。

 

 

 

 ──迅がテーブルの上に置いたのが、紛れもなく「風刃」そのものだったからだ。

 

「うちの後輩の入隊と引き換えに、この『風刃』を本部に渡す」

「正気なのか、迅!?」

「な、なんと……!?」

 

 迅の提案は、近界民(ネイバー)1人の入隊と引き換えに(ブラック)トリガーを本部に引き渡すというもの。取引の材料としては破格すぎる代物。これには鬼怒田と根付ですら、困惑と驚愕を隠せていなかった。

 

「この取引を飲んでくれれば、こっちは可愛い後輩を入隊させられる。そっちは無条件に(ブラック)トリガーを手に入れられる。悪くない条件だと思うけど?」

「それとも、(ブラック)トリガー1つだけじゃ不満とでも言いますか?」

 

 迅の出した条件に、鬼怒田と根付は大いに揺らいでいた。

 というのも、この取引は本部側にとって「悪くない」どころの話ではない。むしろ迅たちの提示した条件は、()()()()()()()()()()()()()()のである。

 

 三輪隊からの報告で、空閑という近界民(ネイバー)の使う(ブラック)トリガーの性質は割れている。しかし適合者がその近界民(ネイバー)以外にいるかと言われれば、怪しいと言わざるを得ない。だが「風刃」であれば、適合者はボーダー本部内にも大勢いる。

 それに「風刃」の戦闘能力は、A級トップチームを退けた今回の戦闘で証明済みだ。たった1人の近界民(ネイバー)の入隊を許可するだけで、本部側はA級トップチームに匹敵するほどの能力を持つ(ブラック)トリガーを無条件に入手できる。さらに言えば、もし空閑という近界民(ネイバー)が問題を起こしたとしても、天羽の持つ(ブラック)トリガーと「風刃」があれば難なく対処できるだろう。つまり、本部側のリスクは限りなく0に近い。

 だが、その程度で揺らぐほど城戸正宗という男は甘くなかった。

 

「取引、だと? そんなことをせずとも私は、太刀川たちとの規定外戦闘を理由に、お前の『風刃』を取り上げることもできるぞ?」

「その場合は、当然太刀川さんたちのトリガーも没収だよね? それならそれで構わないよ。おれたちは、ただ平和に正式入隊日を迎えられればなんだっていい」

「没収するのはお前たちのトリガーだけだ、と言ったら?」

「試してみなよ。そんな暴論が通るかどうか」

 

 そう語る迅の目は、いつになく本気だった。

 するとこのタイミングで、遼河が口を挟む。その言葉は遼河らしくない、威圧的で毅然とした口調から放たれた。

 

「もし俺たちだけのトリガーを取り上げると言った場合、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。いくらこちらにも非があるとはいえ、そんな理不尽がまかり通る組織に在籍した覚えはない」

「なに……!?」

「遼河……!?」

「遼河さんはこう言ってるよ。さあ、どうする? 城戸さん」

 

 遼河の発言に、城戸と忍田が驚愕する。

 ──迅から「風刃」を無条件に取り上げる分には、何の問題もないだろう。隊律違反はトリガーを取り上げる理由としては十分だ。「風刃」に関しても、本部側で管理して、状況に応じて適合する隊員に使わせればいい。

 だが、そこに遼河が入るとなると話が違ってくる。鬼怒田や根付、唐沢といった上層部のほとんどは知らないが、遼河はかつての旧ボーダー隊員だ。そしてこの場の面々では迅と城戸司令、そして忍田本部長しか知らないが、月城遼河という人間は忍田本部長の一番弟子なのである。

 ボーダーに復帰したのがひと月前の話なのでランクこそB級だが、その正体は現状におけるボーダー最高戦力の一角といって差し支えない。同時に5年にもわたる近界(ネイバーフッド)放浪を経験したことで、遼河はボーダーにおいて非常に有益となる近界(ネイバーフッド)の国々の情報を数多く持っていた。そんな存在が除隊したとなれば、市民からの信頼はともかくとしても、ボーダー全体の戦力的にカバーしきれないほどの穴が開いてしまう。

 ただしこの脅しにも近い殺し文句は迅のアドバイスによるものであり、知らぬ間に自身の存在がボーダー内でかなり大きくなっていることに遼河は気づいていないのだが。

 ──隊律か、未来か。城戸は、決断を迫られた。

 

「……お前たちの本当の目的は、なんだ? この取引は、我々にとってあまりにも有利すぎる。何が狙いだ?」

 

 城戸司令の口にした疑問は、この場の全員が気になっているものだった。

 近界民(ネイバー)1人の入隊と、A級6人を掃討できる(ブラック)トリガー・「風刃」。明らかに取引としては割に合わない。

 だが迅も遼河も、その疑問に対してはっきりとした答えを持っていた。

 

「別に本当の目的なんてないよ。ただ、うちのかわいい後輩を陰ながらカッコよく支援したいだけ。別におれたちは城戸さんたちと戦争したいわけじゃないし、ボーダーの主導権争いなんて興味ない」

「そもそも空閑は『近界民(ネイバー)』である前に、1人の『人間』だ。──たとえ相手が近界民(ネイバー)だろうと、その生き様を邪魔する権利はこの場にいる誰にもないし、あっちゃならない

「そういう事。ただ、1つ付け加えるとすれば──うちの後輩たちは、城戸さんの『真の目的』のためにも、いつか絶対役に立つときが来るよ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる」

「……!」

「ああそれと、遼河さんが戦いに参加したのはおれの指示であって、遼河さんに責任はないよ。罰則を受けるのは、おれ1人で十分だ」

「迅、お前……!?」

「ふむ……」

 

 長く重苦しい沈黙が、会議室を包んだ。

 そしてついに城戸が、決断を下す。

 

「……いいだろう、取引成立だ。(ブラック)トリガー『風刃』と引き換えに……玉狛支部、空閑遊真のボーダー入隊を正式に認める。同時に、迅、月城。今回に限り、隊律違反の処罰は免除とする」

「ありがとう、城戸さん」

 

 処罰を免除したのは、それ単体で「A級トップチームに匹敵する力を持つ(ブラック)トリガーの譲渡」と「近界民(ネイバー)1人の入隊」という取引では価値が合わないと判断した、城戸の最大限の譲歩だった。寛大な処置に、迅と遼河が頭を下げる。

 そうして迅と遼河が会議室を去ろうとしたその時、遼河が振り返った。

 

「城戸さん。最後に1つ、俺から言っておきたいことがあります」

「……何かね?」

「今回のやり方、俺は嫌いです。少なくとも、現時点で空閑はこっちの世界に何の危険も及ぼしていなかったはず。さっきも言いましたけど、近界民(ネイバー)だって人間なんです。いくら相手が(ブラック)トリガーを持っているからと言って、向こうの話も聞かず一方的に殺そうとするのは虐殺と変わりない。それは、この世界を侵略してくる奴らと同類だ」

「……」

「俺も、『近界民(ネイバー)を排除する』っていう城戸さんの主張を否定する気はありません。現に近界民(ネイバー)のせいで、家族を失った人がいる、友人を失った人がいる、大切なものをなくした人がいる……。だから、近界民(ネイバー)を憎む人がいることは百も承知です。だとしても、それが近界民(ネイバー)を無条件に殺していい理由になるわけがない。もし、また今回のように敵意のない近界民(ネイバー)から奪え、殺せというのなら──」

 

 遼河が鋭い目線で威圧する。その時上層部の面々には、遼河の後ろに激昂する龍がいるように見えた。19歳の青年が出せるものとは思えないほど、遼河の威圧感はすさまじいものだった。

 それは、「歴戦の風格」。遼河が幾度となく死線を潜り抜けてきたことの証明だった。

 

「──その時は、たとえ城戸さんだろうと容赦はできない」

「……そうか」

「……失礼します」

 

 そして、遼河も一礼して会議室を立ち去った。

 間もなく会議は終了し、会議室には城戸司令と忍田本部長だけが残る。そこで珍しく城戸司令が、忍田本部長に語り掛けた。

 

「……月城くんは、我々が少し見なかった間にいろんなことを学んでいたようだ。最後のあの言葉──あれを言ったときの月城くんの姿は、怒っている時の君に似ていたぞ」

「ええ。私もそう感じました。ほんと、我が弟子ながら末恐ろしい成長ですよ」

「君のやんちゃ小僧ぶりを受け継いでいなければいいんだがな」

「それは……なんともいえませんが」

 

 事情はあるが、城戸と忍田からしてみれば月城遼河という人間はかつて同じ場所で暮らし、同じ釜の飯を食べ、共に強くなった仲間だ。

 立場こそ違えど、かつての自らの仲間の成長を喜ぶことができなくなるほど、城戸の人間らしさは失われてはいなかった。

 





実は割と序盤からオリ主と忍田本部長の繋がりは示唆されていたりします。ここでようやく繋がりが明言された形です。

また、お気に入り登録者が500人を超えました。
1つの節目として、この場を借りて読者の方々にお礼を申し上げます。
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