ワールドトリガー・Returner from another world 作:もりいぬ
執筆の時間が無かったうえにスランプに陥ってしまい、投稿が遅れてしまいました。
失踪するつもりはありませんので、ご安心ください。
歌歩と再会した後の日々は、極めて平和に過ぎていった。
困ったことと言えば、太刀川さんが俺を見つけるたびにランク戦を吹っ掛けてきたことくらいだ。最初にランク戦してボコった時に2000ポイントくらいごっそり持っていかれたのに懲りないあたり、もう本当に「戦闘バカ」としか言いようがない。そのことについて迅に話したら、「ごめん、それ多分おれのせい」と謝られた。
──迅から話を聞いて分かったことだが、どうやら忍田さんは俺がいなくなった後に太刀川さんに剣を教えていたらしい。あの時に迅が「俺が忍田さんの一番弟子」という話をしてしまった結果、太刀川さん的には「面白そうな相手が見つかった!」ということで事あるごとに勝負を挑まれる羽目になってしまったわけだ。正直いい迷惑だ。防衛任務寸前だろうと見境が無いわけだし。
そんな太刀川さんは俺の話を聞いた風間さんから何らかのお仕置きを受けたらしく、ここ数週間は特に何もしてこなくなった。レポートが、とかなんとかでそもそも会ってないというのもあるかもしれないが。
「今日も来たか」
「はい」
俺はというと、あの日から風間隊の隊室を訪れることが多くなった。
──風間さんとは同じポジションということもあり、割と友好な関係を築けていると思う。何回か模擬戦もしてもらったが、A級3位部隊の隊長かつ「No.2
そして風間さん繋がりで風間隊の隊員2人とも交流を持つようになったのだが、歌川はともかく菊地原という男がかなりの曲者だ。口を開けば憎まれ口で、基本的に「気遣い」という言葉を知らない。しかし人となりを見ていけば悪い人間ではないということはすぐにわかる。しかも歌歩から聞いた話によれば、菊地原には「強化聴覚」のサイドエフェクトがあり、常人の5倍は耳が良いという。一度冗談のつもりで「見えてなくても周囲の状況が分かるのか」と聞いてみたら、「まぁだいたいは」と返ってきたので本当に耳が良いのだろう。
というわけで今日も今日とて風間隊の隊室で風間さんたちと語らっていると、歌川があることに気が付いた。
「今日、正式入隊日でしたよね?」
「ああ。お前の後輩が入る日だな」
「そういえばそうでしたね」
「忘れてたんですか?」
「最近平和だったからな」
そう、今日は1月8日──ボーダーの正式入隊日なのだ。つまり、空閑と千佳が入隊する日でもある。風間さんたちと敵対していたのが、ずっと昔の出来事のようだ。
すると、歌川の話を聞いた風間さんがスッと立ち上がった。
「なら、お前の後輩を見に行くか」
「……そんなに注目するような人なんですかね?」
「迅が『風刃』を渡してでも入れようとした
菊地原は相変わらず文句を言っていたが、なんだかんだ風間さんの言うことに従っていた。風間さんが信頼されていることの証左だろう。だが実際、あの迅が「風刃」と引き換えに城戸司令直々にボーダー入隊を認めさせた相手なのだから気になるのは当然というべきかもしれない。
俺は風間さんたちと一緒に隊室を後にすると、入隊式を終えた新人たちが集められているブースへと移動し始めた。その道中で、俺は気になっていた質問を口にする。
「そういえば、ボーダーの入隊試験って何をやるんです?」
「遼河さんは、入隊試験受けてないんですか?」
「俺はちょっと事情があってな。B級からのスタートだったんだ」
「へえ、ずいぶん特別扱いされてるんですね」
「否定はしないさ。だからこそ、責任ってものがある」
菊地原の言うとおり、入隊試験を受けていないどころか「見習い」ことC級隊員をすっ飛ばしていきなりB級隊員からスタートした俺は、他の隊員から見れば紛れもなく特別扱いされていると言わざるを得ない。
ただ仮にC級からのスタートだったとしても、俺は数日もせずにB級へと駆けあがっていたという確信がある。小南や迅より強いのだから、正直なところC級の有象無象は相手にもならないだろう。そんなことを話していると、風間さんが入隊日に行うオリエンテーションの内容について説明してくれた。
「入隊式を終えた後、
「戦闘訓練?」
「具体的には大型トリオン兵を何秒で倒せるか、ですね。攻撃能力は無いですけど、その分装甲が分厚いです」
「……それ、1秒要るか?」
「月城、お前は新人にそんな時間を要求するのか」
「ああそうか、新人だった……」
……割と本気で「1秒要らない」という認識を持ってしまっていた。空閑と千佳のせいでいつの間にか感覚がマヒしていたらしい。
でも実際問題、俺からしてみれば攻撃能力のないトリオン兵なんてただの的でしかない。ちょっと動くだけの置物みたいなものだ。目を真っ二つにすれば一瞬で終わる。けど風間さんの言うとおり、新人に自分の常識を押し付けるのは酷というものだろう。無意識というのは恐ろしいものだ。
そんなことを話しているうちに、俺たちはブースへとたどり着いていた。どうやらちょうど戦闘訓練が始まったところらしい。
(なるほど、5分の間にあのろくに動かないトリオン兵モドキを倒す訓練か)
俺はそこで風間さんたちと別行動を取ることにし、訓練生たちの動きを見ていく。
今、訓練生たちが対峙しているのは少し小型化されたバムスターだ。それに仮装戦闘モードだから、トリオン切れやケガの心配は一切ない。正隊員が同じ状況で戦えば、だいたい5秒あれば十分だろう。
だが、やはり素人は素人だ。バムスターは口の中に隠された目のような部分がトリオン体でいうところのトリオン供給器官となっており、そこを貫けば簡単に仕留めることができる。しかし訓練生たちはそれに気づくのにかなりの時間を要しているパターンがほとんどだ。まあトリオン兵と相対した経験なんてないから仕方ないのかもしれないが、バムスター1体に手間取るようだと実際の戦場では既に死んでいる。
すると、ここでようやく1分を切った訓練生が現れた。
(ハウンド使い……
今しがた2号室から出てきた訓練生の記録は58秒。正直まだまだ遅すぎるが、実戦経験の無さを考慮すればまあマシというべきだろう。
だが、そこから先の訓練生はみんなパッとしない。早くて1分弱、遅い者となると4分半以上かかっている。しかしそこで、俺は空閑が5号室へと入っていったのを見かけた。
(さて──どうなる?)
俺は5号室の空閑の様子に注目する。そしてその戦闘は──瞬きをするよりも早く終わった。
空閑はバムスターを飛び越えるように跳躍すると、スコーピオンを一振りし、バムスターの急所を寸分違わず真っ二つにしたのだ。
タイマーストップの時間は──「04:59.41」。つまり……。
<れ、0.6秒……!?>
わずか、0.6秒。その記録に、ブース全体がざわつく。アナウンスの音声ですら、驚きを隠せていない。
俺から見ても、とんでもない速度だ。恐らく訓練生たちには何が起きたかすらわかってなかっただろう。その動きには一切無駄がなく、洗練されていて、敵を殺すために極めて最適化された動きだった。
確かにさっき俺は「1秒要るか」と言ったが、空閑の動きはあまりにも綺麗すぎた。よーいドンで勝負したら、もしかしたら負けるかもしれない。
すると、見慣れた姿が近寄ってきた。
「遼河さん」
「京介。来てたのか」
「ええ。バイトが終わったんで」
「なら、ちょうどよかった。面白いものが見れたぞ」
俺に合流した京介がカウントストップしたタイマーを見て、僅かに目を見開いた。
「0.6秒……? 計測ミスとかじゃないですよね?」
「空閑が出した記録だ、間違いない」
「なら、納得です」
どうやら、京介から見ても機械の故障を疑うレベルの速度らしい。だが俺の発言で、京介は納得したようだ。
ふとここで、俺は京介にどれほど早いのかを聞いてみることにした。
「0.6秒って、そんなに早いのか?」
「早いどころか、俺の知ってる限りじゃ最速です。確か今までで一番早かったのが、緑川の4秒なんで」
「ぶっちぎりだな……」
分かってはいたことだが、さすがにこれまでに1秒切りはいなかったらしい。いたら怖いが。
そして当然というべきか、空閑にいちゃもんをつける新入隊員が現れた。まあ、そりゃ1秒足らずでバムスター倒したら最初に疑うのは機器の故障だ。だが、空閑は涼しい顔で再計測を受け入れ、記録をさらに「0.4秒」まで縮めてみせた。俺と京介は空閑の事情を知っているから問題とは思っていないが、傍から見れば「天才」を通り超えて「怪物」だろう。
その時、俺と京介の視界の先に三雲と木虎の姿が見えた。どうやらあの後、普通に話すくらいの仲にはなれたらしい。
「三雲」
「あっ、遼河さん」
「か、か、かっ、烏丸先輩!?」
「木虎か、久しぶりだな」
(……んん?)
──京介を一目見た瞬間、木虎の目が輝き、さらには声も明らかに上ずったのを俺は聞き逃していなかった。
……なるほど?
(女子の1人か2人落としてそうだとは思ってたけど、実際に落としてたか)
「バイトが長引いてな。今、来たところだ」
「そ、そうなんですね!」
木虎が京介に夢中になっているのを横目に、俺は三雲に声を掛ける。
「……空閑が随分目立ってるな」
「あ、はい。そうですね」
「問題はない感じか?」
「まあ、今のところは」
そうして俺は三雲と談議しつつ、隣で繰り広げられている京介と木虎の会話を耳に入れていた。
「今回も嵐山隊が入隊式の担当か。大変だな」
「あ、いえ! これくらいなんてことありません!」
(露骨に態度変えてるな、コイツ……)
まだ中学生とはいえ、ずいぶん都合のいい性格をしているようだ。逆に京介はそれを表情ひとつ変えずにいなしている。見た感じ、いつものことなのだろう。
「その、烏丸先輩って、最近ランク戦に顔出されてないですよね……?」
「ん? まあ、いろいろあったからな」
「あの、お時間があったら──またお稽古つけてください!」
「……? いや、お前はもう十分強いだろ。俺が教えられることはないよ」
「そ、そんな。私なんてまだまだです」
──やっぱコイツ一度ここでボコボコにしようか。
ほんの一瞬だけ本気でそう思ったが、京介が木虎の誘いに乗らなかったので、俺はその考えを忘却の彼方へと追いやった。
その時京介が、何かに気づいたような表情をする。
「そういや、お前修と同い年か?」
「え? はい、同じ15歳ですけど……」
「じゃあちょうどよかった」
京介はその言葉に続いて三雲を指し示すと、木虎に語り掛けた。
「こいつ、俺の弟子なんだ。木虎からも色々教えてやってくれ」
「……!? で、弟子!? 弟子っていうと、1対1で指導する的な意味ですか……?」
「大体そんな感じだ。ま、先は長そうだが」
「すみません……」
「そうだ、嵐山さんにも挨拶しておくか」
「なら、俺も行こう。さっき向こうにいたな」
「」
……どうやら地雷を踏み抜いたらしい。現に木虎は完全にフリーズしている。
それだけじゃなく、木虎の中で何かが渦巻いているようなオーラも感じる。正直ここに残ると面倒なことが起こりそうだったので、さっさとこの場を離れることにした。その間に視界の端では空閑が新入隊員の3人組に声を掛けられていたが、どうやら反応的に空閑はその3人組の発言を否定したか、提案を蹴るかしたらしい。
すると、いつの間にか俺の隣に来ていた風間さんが声を掛けてきた。
「月城」
「はい?」
「お前の後輩を少し借りるぞ」
「……空閑と手合わせでもしたくなりました?」
「いや、三雲の実力を試したい」
「──三雲の?」
……正直、俺はその意図が理解不能だった。
風間さんは意味のない行動はしないタイプだと分かってはいるが、なぜそこで三雲を選んだのかが分からない。空閑ならまだわかるのだが。そもそも三雲は現状、戦力外レベルの弱さだ。「勝てない」とは言わないが、まともに戦えば99%風間さんが勝つだろう。
「言っておきますけど、弱いですよ?」
「……なら尚更だ。迅は『風刃』を出してでも、三雲に部隊を組ませたいんだろう?」
その一言で、俺は風間さんの言いたいことを理解した。
けど、そっちがそのつもりならこっちも我が儘の1つくらい言って構わないだろう。
「分かりました。けど、その代わり──この後ここで1戦お願いします」
「遊ぶ暇はないぞ」
「そういうわけじゃありません。俺はただ、あいつらに
俺は空閑と三雲を見据え、それだけを語る。
──三雲の目的は防衛ではなく遠征だ。であれば戦争経験者である空閑はともかく、戦争経験のない三雲は最低限「その前線で戦う人間の強さの領域」を知っておかなければならない。
俺の発言を聞いた風間さんは一瞬考えると、小さく頷いた。どうやら、納得してもらえたらしい。
「いいだろう」
「ありがとうございます」
「話が済んだなら、三雲を借りるぞ」
「本人の許可は取ってくださいよ」
「分かっている」
そうして、風間さんは三雲の下へと向かっていった。
三雲にとって風間さんは高すぎる壁だが──空閑や千佳から聞いた三雲の性分的に、風間さんからの勝負の申し出を断るとは考えにくい。
(……後輩を一方的にいたぶる先輩の構図にならなきゃいいんだが)
三雲と風間さんの実力差から察せられるこれからの状況に、小さくため息をついた。
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