ワールドトリガー・Returner from another world   作:もりいぬ

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長らく続いた第1章も、あと3話ほどで終了となります。
また、今回は難産の結果かなりの駄文となってしまっております。
この場を借りてお詫びを申し上げます。



逃れ得ぬ未来

 ボーダー正式入隊日、ひいては俺と風間さんが剣を交えてから数日後。ハッキリ言えば、三雲・空閑・千佳の3人はこれ以上なく目立っていた。

 まず一番目立っていたのは、もちろん空閑だ。戦闘訓練をボーダー設立以来最速、そして今後も抜かれることはないであろう「0.4秒」というとんでもない記録で突破しただけに飽き足らず、地形踏破訓練、隠密行動訓練、探知追跡訓練といったC級のすべての基礎訓練で圧倒的1位に君臨したのだ、目立たない方がおかしい。なお現在は、他のC級隊員をランク戦でボコボコにしてポイントを稼いでいるようだ。B級に上がるにはそれが手っ取り早い、と時枝が吹き込んだのもあるだろう。

 ──当たり前と言えば当たり前だが、ここまで空閑はC級相手に一度も負けたことが無い。もともと一般人だった俺とは違って、空閑は近界(ネイバーフッド)で生まれ、戦争に染まった生粋の兵士だ。ボーダーの戦闘は、空閑からしてみれば生温いのかもしれない。

 

 一方で三雲の方もどこからあの模擬戦の話が漏れたのか、「風間さんと引き分けた」という噂がC級の方で広まっている。風間さんからしてみれば「引き分けたのは事実だ」として問題にはしていないようだが、俺からしてみれば論点はそこではない。

 問題は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。そのせいで、三雲はC級の間で「A級に匹敵する実力者」という根も葉もないレッテルを張られることとなっている。何度も言うが、三雲と風間さんは「24敗、1引き分け」だ。だがこの噂を広げたどこかのバカはその「24敗」という点をガン無視したらしい。もっとも、噂の出どころなんて特定のしようが無いわけだが。

 

 そして千佳に関してなのだが……なんと、アイビスでボーダーの防壁に大穴を開けたらしい。ボーダーの防壁ってトリオンで出来てるし、一応それなりに強度はあるって聞いたことがあるんだが。しかし空閑も三雲も口を揃えて「千佳が壁をぶち抜いた」みたいなことを言っていたから、間違いないのだろう。たまたま本部で会った佐鳥からも言質取ったし。

 しかしトリオン測定不能のトリオン怪獣(モンスター)がアイビス撃つと建物を余裕で破壊する威力になるのか。ただでさえ普通の隊員が使ってもアイビスはオーバーキル気味と評されているのに、それが建物を余裕で破壊するレベルの威力になっているのだからもはや防御もへったくれもない。どう足掻いても(ブラック)トリガー級、オーバーキルになること間違いなしだ。前に冗談で「イーグレット撃ったらkm単位の射程になるんじゃないか」と零したが、冗談じゃ済まされない気がしてきた。

 この話を聞いた迅曰く、「あの3人はこれからもっと目立つから、これはその予行演習みたいなもんだ」とのことらしい。なるほど、確かにあの3人がチームを組んだらそれはそれは注目を集めるに違いない。

 

 

 さて、それはそうと。

 今の俺は、風間さんと共にボーダー本部の一角にある小会議室に来ていた。小会議室内にはすでに城戸さんをはじめとして、忍田さんや林藤さんといった「ボーダーの最古参」が集まっている。しかし、会議室内の雰囲気はどこか緩い。その理由は、俺たちの視線の先にあるものにあった。

 俺たちの視線の先にあるのは、会議室内にセットされたモニター。そのモニターが映していたのは、ある隊員のC級ランク戦の様子。

 ──もう誰かは言うまでもないだろう、空閑遊真だ。

 

「……あれが、空閑の息子か」

「そ、空閑遊真。なかなかの腕だろ」

「……風間、お前の目から見て奴はどうだ?」

 

 僅かな沈黙の後、城戸さんは口を開く。相変わらず、鉄の仮面は崩れない。林藤さんの言葉を受けた城戸さんはまた数秒黙ると、風間さんに目線を向けた。

 話を振られた風間さんは、思ったことを淡々と答えていく。

 

「まだC級なので確実なことは言えませんが──明らかに戦闘慣れした人間の動きです。正隊員用のトリガーを使えば恐らくマスターレベル……()()()()()()()()()()()()()()()

「8000……!」

「……月城、お前はどうだ。奴のことをこの中で一番よく知っているのはお前だろう?」

「──ハッキリ言えば、空閑の実力はA級でも十分通用します。()()()()()()()()()()()()()()()()()という点において、あいつに勝る奴はA級にもそう多くない」

「それなら、一般のC級と一緒にしたのはまずかったかもしれないな。初めから3000点くらいにして、一気にB級にすべきだった。木虎は、確か3600点スタートだっただろう?」

 

 そう語る忍田さんの疑問はもっともだ。

 ボーダーのシステム上、C級は完全な実力主義だ。実力があれば上へ行き、無ければ下で埋もれる。空閑は前者だ。俺や風間さんも語った通り、空閑は戦闘への適応度が他の奴らと根本からまったく違う。

 先に言ったとおり、「敵を上手に殺すための動き」という点では空閑は並のA級を凌ぐだろう。それなのに1000点スタートなのは、空閑が玉狛に仮入隊した時点であらかじめ決まっていたことである。そしてそれを決めたのは、他でもない林藤さんだ。

 林藤さんには、「空閑を3000点スタートにしたくなかった理由」があった。そして、それを俺は知っている。

 

「そうしたかったのはやまやまなんだけど、城戸さんが黙っちゃいなかっただろうからなー。遼河は元々ボーダーにいたからってことで許されてたけど、遊真はまた事情が違うし」

 

 そう、林藤さんの言う通り。3000点スタートにすると、昔の城戸さんならともかく、今の城戸さんは難癖をつけてきそうだったという理由があるのだ。

 林藤さんから初めてこの事を聞いた時は「さすがに考えすぎでは?」と思っていたが、先の(ブラック)トリガー争奪戦を経て考えが変わった。今の城戸さんは、徹底した近界民(ネイバー)排除主義だ。

 たぶん、空閑が3000点スタートと知ったら「取引はあくまで入隊を認めるだけで、特例で3000点を与えていいとは言っていない」とか言ってきてもおかしくはない。

 そんな俺の思案をよそに、城戸さんはこんな疑問を口にした。

 

「……やつは何故(ブラック)トリガーを使わない? 昇格したければS級になるのが一番早いだろう」

「それは語弊があります。S級は『昇格』じゃなくて『特別扱い』でしょう。そもそも空閑の目的はチームでの遠征であって、(ブラック)トリガーを使って実力を誇示することじゃない」

「それにあいつが(ブラック)トリガー使ったら、それこそ難癖付けて取り上げる気満々でしょ、城戸さん? 『入隊は許可したが(ブラック)トリガーの使用は認めていない』とか言ってさ」

「……」

 

 俺と林道さんの指摘を受けて、城戸さんは口を閉じる。どうやら図星らしい。

 

(『風刃』を差し出したというのに、それでもまだ足りないというのか)

 

 ……確かに「防衛」という観点において自分の手元で管理できる(ブラック)トリガーは多いに越したことはないのは事実だが、それでもさすがに文句の1つか2つ言わせてほしいと思うのは俺だけなのだろうか。

 自分が不利だと判断したからか、城戸さんは話題を切り替えた。

 

「──先日、訓練場の壁に大穴を開けたのも玉狛の新人だそうだな。『雨取千佳』」

「あー、あの子はちょっとトリオンが強すぎてね。ま、いずれ必ず戦力になるから大目に見てやってよ」

(ブラック)トリガーの近界民(ネイバー)にトリオン怪獣(モンスター)……。そんなのを組ませて何を企んでいる?」

「いやいや、別にどうもしやしないよ。──城戸さんってさ、俺と迅がいつも何か企んでるって思ってない?」

 

 ……残念ながら、林藤さんのその発言に対して俺は首を横には振れなかった。むしろ、今回ばかりは城戸さんの考えを大いに肯定したかった。

 林藤さんと迅が何か企んでいるように見えるのは昔からのことだ。しかも大体本当に何か企んでいるから質が悪い。しかし迅の場合は何か企んでいると大体遠い目をしているのですぐにバレる。迅は隠し事をするのが得意だが、それ以上に俺は迅から秘め事を見抜くのが上手いという自信がある。

 しかし、空閑・三雲・千佳の3人がチームを組むことに関しては何も企んでいないし、チーム結成が3人の共通の意志であることは疑いようもない事実だ。林藤さんの代わりに、俺は口を開く。

 

「空閑の目的は、さっきも言ったようにチームでの遠征です。それは嘘偽りなくあの3人が決めたことであって、林藤さんの意志は関係ない。目的は、向こうに行った千佳の兄と近界民(ネイバー)に攫われた友人を助けること。そのために、遠征部隊を目指してる。空閑と三雲は、それに力を貸しているだけです」

近界民(ネイバー)に攫われた人間を近界民(ネイバー)が奪還する、か……。馬鹿げた話だ」

 

 城戸さんの声色はどこまでも冷淡だった。そして一旦話を切ると、現実的な話題を出す。

 

「前提として、近界(ネイバーフッド)には無数の国がある。どの国に攫われたのか判別するのはほぼ不可能だ。そもそも被害者が生存しているかも定かではない。残念だが、救出は現実的ではないな」

「だから助けに行くのはやめろと? 可能性で論じることではないだろう!」

「……子供が想像するより、世界は残酷ということだ」

 

 城戸さんの考えは極めて現実的というべきだろう。

 近界(ネイバーフッド)という宇宙にある星──すなわち、国家の数は100じゃきかない。攫われた人間がいる国をピンポイントで引き当てる可能性は1%もない。それに事実として、千佳の兄はともかく、友人が攫われたのは少なく見積もっても5年以上前の話だ。トリガーも何も持っていない一般人が向こうの世界で生きていると考えるのは現実的とは言い難い。

 しかし忍田さんの言うとおり、可能性で論じられることではないのもまた事実。可能性は0ではない限り、それは起こり得るのだ。現に、5年間向こうに行っていた俺が今この場に立っているのだから。

 そこまで行って、林藤さんが話を締めくくった。

 

「ま、何か目的があった方がやる気は出るでしょ。救出だろうが、復讐だろうが──ないよりはいい。なあ? 蒼也」

 

 林藤さんは風間さんに視線を向ける。

 ──風間さんもまた、近界民(ネイバー)に自身の家族を殺された人間だ。かつての俺と同じ旧ボーダー時代の仲間だったあの人は、林藤さんがとても可愛がっていたことをよく覚えている。

 ……兄が戦死したという訃報を聞かされた時の風間さんの心情は、今となっては知る由もない。しかし、今の風間さんの心情ならわかる。

 風間さんはポーカーフェイスを崩さぬまま、淡々と答えた。

 

「……三輪あたりはそうでしょうが、自分は別に兄の復讐をしようとは思っていません。自分はただ、ボーダーの指令に従って近界民(ネイバー)を排除するだけです。三輪は先月の小競り合い以降、何か悩みこんでいるようですが」

「ありゃ、どうしたの?」

「あー……多分それ俺のせいです」

「遼河が? 何を言ったんだ?」

「それは──」

 

 そして俺が口を開こうとしたその時、不意に会議室の扉が開く。入ってきたのは、非常によく見慣れた水色のジャケットの青年だった。

 同時に、俺がこの会議に出席することになった最大の原因でもある。

 

「どもども、遅くなりました。実力派エリート到着です」

「遅い。俺に参加を要求しておいて待たせるか」

「悪かったって。こっちにもいろいろあったんだよ~」

「……まあいい。始めましょう、忍田さん」

「分かった。では、本題に入ろう。今回の議題は──」

 

 今日の会議は、とても重要な意味を持つことになる。なにせ本日の議題は──。

 

──近く起こると推測される、近界民(ネイバー)の大規模侵攻についてだ

 

 ──遠からぬ未来で必ず起こる、第二次大規模侵攻についてなのだから。

 

 ────────

 

「じゃあ、どの国が攻めてくるかはその時までは分からない、ということか」

「うん。めちゃくちゃヤバい被害が出る未来もあれば、そんなに被害が起こらない未来もある。でも、正直おれだけじゃどの国が攻めてくるかまではわからない」

「……今回ばかりは、迅の予知も頼りにはできないか」

 

 あれからしばらく。到着した三輪も会議に加わったが、会議はなかなか思うように進まない。

 会議は踊る、されど進まず……とまではいかないが、議論はある一点で停滞していた。それは、「いつ侵攻してきて」、「どの国が攻めてきて」、「どんな攻撃を仕掛けてきて」、「どれくらいの被害が出るか」がさっぱりわからないという点だ。つまり、俗に言う5W1Hのうち「いつ」・「だれが」・「どのように」にあたる情報が欠如しているせいで対策の練りようがない。

 

 少なくともそう遠くない未来に必ず起こるというのは迅の予知で確約されているのだが、敵は異次元からやってくる以上、ハッキリ言って情報が無ければ対策など不可能だ。だが今回、迅の予知はその情報がかなり欠如しているという。しかも未来も結構複雑に分岐しているせいで、絞ろうとするだけでも一苦労なんだそうだ。

 ちなみに三輪は眠れていないのか、はたまたストレスか、目の下に隈ができていた。恐らく、近界民(ネイバー)がボーダーに入ったという事実を受け入れられないのだろう。もちろん、3割くらいは俺のせいだろうが。しかし、先の発言を撤回するつもりはない。

 そんな中、俺が会議室のモニターを何気なく見つめた──その時だった。

 

「……む?」

「何かあったのか?」

 

 俺はモニターの1つを見て、そのモニターに釘付けになった。程なくして気付いた風間さんも、そのモニターの光景に見入ってしまう。

 俺たちの視線に気づいたらしい忍田さんが、声を掛けてきた。

 

「2人とも、どうかしたのか?」

「ああ、失礼。……C級のブースで──玉狛の空閑が、緑川を圧倒しているようです」

「……!?」

「あーらら」

「へえ、やるな遊真」

 

 風間さんの報告を聞いた会議室内が騒然とする。

 そりゃそうだ。B級がA級を倒すというケースはあるが、C級がA級をボコボコにするなど前代未聞だ。しかし空閑はその限りではない。空閑は入隊したてというだけで、ボーダー最強格の攻撃手(アタッカー)である小南から確実に1本以上取れる高い実力があるのだ。ブレード1本の勝負なら、A級にも届きうる。

 その時俺は、あることに気が付いた。

 

「そうだ、空閑だ」

「どうした?」

「空閑は近界民(ネイバー)だ。近界(ネイバーフッド)のことは、近界民(ネイバー)に聞くに限る」

「……なるほど、一理ある」

 

 城戸さんは俺の考えを聞くと、静かに頷いて理解を示した。そして、俺たちに指示を出す。

 

「月城、迅。空閑遊真を連れてきたまえ。我々も別の会議室に移動する」

「了解」

「はいはーい」

 

 俺と迅は、連れ立って会議室から退出する。

 そして数分後、ランク戦のブースに赴いた俺たちが見たのは、やけに集まったC級隊員たちだった。その中心には空閑と三雲、そしてカピバラがいた。迅が俺より一歩前に出て、2人に呼びかける。

 

「遊真、メガネくん」

「! ……迅さん!?」

「ちょっと来てくれ、城戸さんたちが呼んでる」

 

 迅の発言に、三雲たちは驚いている。無理もない。突然ボーダーの上層部から呼び出されたのだ、誰だって動揺する。

 

「城戸司令が、ぼくたちを……!?」

「んーと、誰?」

「城戸正宗。──ボーダーの最高司令官だ」

「ほう、そんなお偉い人からのご指名とは」

 

 そういえば空閑は城戸さんに会ったことがなかったと思い直し、城戸さんについて簡潔に説明する。その間にも、俺の耳は「S級隊員の迅悠一が来た」というC級のひそひそ話を聞き逃さなかった。まもなく迅もその会話に気づいたようで、ブースに聞こえるよう堂々と宣言する。

 

「おっと、悪いけど俺はもうS級じゃない。ただのA級に戻った実力派エリートです」

 

 C級に波紋が広がっていくのが分かった。「いつの間に?」とか、「マジで!?」とか、ありきたりな反応だったが。

 そんな中、どよめきを切り裂くような大声が頭上から聞こえてきた。

 

「あー! 迅さん!!」

 

 その声の主は2階のブースから飛び降りると、迅に近寄り、迅の周囲をくるくると回りだす。

 

「迅さんA級に戻ったの!? じゃー、ランク戦しよーよ!」

「お、駿は相変わらず元気だな」

 

 迅はまるでそれがいつものことであるかのように対応しているが、事情が分からない俺は三雲たちと一緒にそれを呆然と眺めていることしかできなかった。あまりにも状況把握ができなかったので、俺はたまらず近くにいた米屋に尋ねることにする。

 

「……あー、これはどういう状況だ? 米屋」

「あ、遼河さん。あいつ──緑川っていうんすけど──迅さんの大ファンなんすよ。だから迅さんを見ると、ああやってテンションが上がるんす。そもそも近界民(ネイバー)に喰われそうなところを迅さんに助けられて、ボーダーに入ろうって決めたらしくて」

「緑川? ……なるほど、あいつが」

 

 どうやら、今しがた迅の周りを舞い踊っているあの少年こそが緑川らしい。見た感じ、三雲や空閑と同年代、あるいは少し年下だろう。俺の見立てが正しければ、小柄な体格と動物じみた動きを活かして攪乱しつつ近距離戦を仕掛ける超スピードアタッカーといったところだろう。しかし先ほど空閑に圧倒されていたところを見るに、やはり実戦経験で劣っていたようだ。

 すると、どういうわけか緑川は三雲に対して頭を下げる。

 

「……三雲先輩、すみませんでした!」

「え!? なんで!?」

「先輩に恥をかかせようと思って、大勢の前でボコボコにしてしまいました」

「え、そうだったの?」

 

 その発言に俺は思わず三雲の方を向く。今の「そうだったの?」があまりにも本気のトーンだったからだ。さすがに今の話を聞けば、俺でも状況の把握はできた。

 

「──三雲、まさかお前嵌められたって気付いてなかったのか?」

「え、あ、はい。まったく……」

「「ええー……」」

 

 俺と緑川の声が綺麗にハモる。

 三雲の奴、意図的に観客を集められてボコボコにされても「恥をかかされた」と認識していなかったとは。嫌がらせ以前に、自分に向けられた悪意にまったく気づきすらしてなかった。図太いんだか、メンタルが果てしなく頑強なんだか……。

 そして三雲は、あることを口にする。

 

「まあ、それはそれでよかったよ。なんか実力以上の評判が立ってたわけだし」

「実力以上?」

「ああ。なにせ、ぼくと風間先輩の戦績は──『()()()()()()()()』だからな!」

 

 本来であれば「誇れることじゃない」と突っ込みたいところだが、別に誇っているわけではなさそうので大人しくスルーした。

 ようやく真実を言えたらしい三雲の表情は、心なしか安堵しているように見えた。実力以上の評判は三雲にとってかなり重荷だったようだ。とはいえ、その噂を疑わずに信じる方もマヌケだ。ちょっと自分の目で見極めて判断すれば、三雲に風間さんとやり合えるだけの実力がないことはすぐにわかるだろうに。

 すると、空閑が緑川と話し始めた。

 

「なかなか素直でよろしい」

「……そういう約束したからな、白チビ先輩」

「空閑遊真だ、遊真でいーよ。こっちこそ、大勢の前でボコボコにしてわるかったな」

「いいよ、別に。遊真先輩との差がよく分かったし。──次はこっちがボコボコにしてやるから」

「うむ、いつでもかかってきなさい」

 

 それを見た迅が視界の端で「ライバルっていいねえ」と言わんばかりに頷いていた。そこで緑川は俺に気づいたようで、俺に好奇の視線を向けてくる。

 

「ところで、そっちの人は誰? 迅さんの知り合い?」

「ああ、俺は月城遼河。所属は玉狛。迅とは──まあ、友人兼ライバルだ」

「えー! いいなぁー!」

 

 俺のどこが羨ましかったのか、緑川は羨望のまなざしで俺を真っすぐ見つめてくる。迅が俺を友と思っているかは知る由もないが、少なくとも俺にとって迅は一番の友人だ。

 小南? あいつはボーダーの入隊歴という意味でも、年齢という意味でも後輩だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 

(しかしこの緑川って奴……見れば見るほど犬に見えてきたな)

 

 そんな話題もそこそこに、迅が空閑と三雲を連れ立って会議室へ向かおうとする。

 俺は緑川・米屋両名と別れると、その背中を追いかけた。

 

 

 





サイドストーリー的なものが欲しいか、というアンケートを取ったところ、「読みたい」という意見が大多数だったためどこかのタイミングで作ることとします。

また、新たなアンケートを設けます。読者の皆様の意見を広く募りたいと思いますので、ぜひお答えいただければと思います。

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