ワールドトリガー・Returner from another world   作:もりいぬ

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先に申し上げますと、原作とは展開がかなり異なります。
ご注意ください。



可視化される脅威

 予定通り空閑と三雲を捕まえた俺と迅は、揃い立って会議室へと歩を進めていた。……いつの間にか、会議には何も関係ないはずの陽太郎と雷神丸が先導する形になっていたが。

 その道中で、俺は空閑と三雲に話を振る。

 

「そういえば、2人とも。実際にA級と戦ってみて、どう感じた?」

「結構強く感じたな。こなみ先輩と10本勝負してなかったらヤバかったかも。これからもっと強くなると思う」

「……正直言うと、まったく勝てる気がしませんでした。風間さんと違って、動きが全く読めなくて。なんというか、型にはまらないというか、気まぐれというか……」

「なるほど、本能で戦うタイプか……」

「本能……ですか?」

 

 俺の言った「本能」という単語に、三雲が反応を示す。ちょうどいい機会だし、戦い方の説明をするとしよう。

 

「俺は、人間の戦い方には『本能』を重視する奴と『理性』を重視する奴がいると思ってる。『理性』を意識して戦う奴は理論的な勝ちパターンがあることが多い。だから冷静かつ安定感のある戦い方ができる。反面動きが読まれたり、勝ちパターンを崩されると隙が生まれやすい」

 

 風間さんとかはまさにその「理性を重視して戦う」タイプの人だ。どちらかというと迅もこちらの方に相当する。三雲も間違いなく理性型の人間だろう。敵を確実に殺すための動きをするという意味では、空閑も理性型と言えるかもしれない。

 

「反面『本能』を重視して戦う奴は、独自のパターンがない。安定とは程遠いが、感覚で動くってことは臨機応変かつ柔軟な動きができることにも繋がる。けど後先考えないことが多いから、相手の罠にバカ正直に突っ込んで返り討ちにされてしまうわけだ」

「リョーガさん、親父みたいなこと言うね」

「空閑の親父さんも、こんなこと言ってたのか?」

「うん。『人間は結構理屈に合わない動き方をするから、それよりも習性とか性格を読んだ方が対処しやすいことが多い』って昔言ってた」

「それこそ、緑川は純粋に本能で戦うタイプに見えたな」

「そ。だから、ああいうのは動物として見た方がいい」

「ほう……」

 

 ──なるほど、動物か。その発想はなかった。確かに動物ほど、本能で動く存在もないだろう。実際緑川は挙動からして犬に見えたし。

 そういえば、緑川と空閑の10本勝負の結果で気になっていることが1つあった。この際だから答え合わせさせてもらおう。

 

「そういえば、空閑。最初の2本は取られてたみたいだが……あれ、()()()()()()()()だろ」

「え!?」

「うん。ミドリカワが自信満々でプライドが高そうなのは分かってたし」

「やっぱりな。モニター越しに見てたが、お前はやろうと思えば10本全部取れたんじゃないか?」

「うーん、それはどうだろ」

 

 俺と空閑が理解を示す中、三雲は理解が追い付いていないようだ。どうやら理論系かつ戦術初心者の三雲にはこの「わざと勝たせる」という戦術の強さが伝わりにくいらしい。

 

「勝たせたって、どうして……!?」

「簡単に言えば、こっちをナメてもらうためだな。──むこうでたまにやってたんだよ。最初の何回かだけ相手に気持ちよく勝たせて、引き込んだところを殺すって作戦

 

 俺はうんうん、と頷く。

 相手にとって有利だと思わせるのは、効果的な戦術になり得る。だからこそ戦においても「釣り出し」という戦術があるわけだ。

 

「基本的に、自信満々の奴は圧倒的な勝ちを重ねれば重ねるほど調子に乗る。そうしていい感じに相手を乗らせたタイミングで勝てば、それだけで簡単に崩れるんだ。あとはこっちが崩さなくても相手が勝手に隙を晒してくれる。理詰めで戦う奴には通じにくいが、本能で戦う奴には効果てきめんの策だな」

「それに、ああいう奴は負ければ負けるほど取り返そうとして熱くなるから、余計に隙をつきやすくなる。終わりの方はミドリカワも気付いて、良い動きしてたけどね」

 

 空閑は「いい動きをしていた」とは言うが、俺から言わせれば負けは負けだ。そしてそれこそが、現実的な差である。空閑と緑川では、積み上げてきたもののレベルが違う。遊びを覚えたての飼い犬では、敵を仕留めるために最適化された猟犬の動きにはついていけないのだ。

 そしてそんな話をしているうちに、俺たちは会議室の前まで来ていた。迅が代表で扉を開くと、開口一番鬼怒田さんの怒号が聞こえてくる。

 

「遅い! 何をモタモタやっておる!?」

「いやー、どうもどうも」

「……そしてなぜ玉狛の子どもがいる!?」

「こいつに関しては気にしないでください。あとで折檻しておくんで」

「えっ!?」

「……時間が惜しい。早速始めようか」

 

 ──俺の無慈悲な発言によって折檻が確定した陽太郎をよそに、城戸さんが冷静に会議開始の指示を出す。それを受けた忍田さんが、ここまでの会議の概要を述べた。

 

「我々の調査の結果、遠からぬうちに近界民(ネイバー)による大規模な侵攻が起こるということが分かった。先日は、我々のデータにない爆撃型近界民(ネイバー)による攻撃もあった。幸い遼河が迅速に対処してくれたおかげで被害は最小限で済んだが、それでも数名の死者が出ている。我々としては、被害を最小限に食い止めるべく万全の備えをしておきたいのだ。──平たく言えば、きみに近界民(ネイバー)としての意見を聞きたい」

「ほう、近界民(ネイバー)としての意見」

近界(ネイバーフッド)にいくつもの国があるのは分かっとる。幾つかの国には遠征もしとる。だがそれでもデータが足りん! 我々が知りたいのは“攻めてくるのがどこの国で”、“どんな攻撃をしてくるか”ということだ! お前が近界民(ネイバー)だろうがなんだろうが、ボーダーにいる限りは協力してもらう!」

 

 鬼怒田さんの発言は有無を言わせない圧力があったが、空閑はそれを意にも介していない。

 空閑は鬼怒田さんたちの方を見てしばらく考え込むような仕草を見せると、ある考えに行きついたようだった。

 

「そういうことなら、俺の相棒に聞いた方が早いな。──よろしく」

【心得た】

 

 空閑の懐から、ニュッと黒い塊──レプリカが登場する。レプリカを初めて見た会議出席者全員の目が驚きを示していた。

 

「な、何だこいつは……!?」

【はじめまして、私の名はレプリカ。ユーマのお目付け役と覚えてくれれば十分だ。そして私はユーマの父、ユーゴによって造られた多目的型トリオン兵だ】

「トリオン兵だと……!?」

「三輪、今それは関係あることか?」

「……くっ!」

 

 トリオン兵、という単語に反応した三輪をすぐさま一睨みで黙らせる。

 三輪が近界民(ネイバー)を憎んでいることは理解しているし、別に俺は三輪の復讐心を否定する気はないが、今この場においてそれは不要なものだ。ここは会議の場であって、復讐といった私情を持ちこむ場所ではない。

 

【私のデータには、ユーゴとユーマが旅した近界(ネイバーフッド)の国々の記録がある。恐らく、そちらの望む情報の提供は可能だ】

「おお……!」

【だが、協力に当たって条件を付けさせていただこう】

 

 そのレプリカの発言が想定外だったのか、上層部全員が険しい顔をする。三輪の顔も同時にかなり歪んでいたが、俺が睨みをきかせているからか発言はしてこなかった。

 そしてレプリカは、その「条件」を淡々と述べる。

 

【ボーダーの中には近界民(ネイバー)に対して無差別に敵意を抱いている者もいると聞く。──私自身、ボーダー本部を信用しているとは言い難い。そこで、ボーダーの最高責任者殿には私の持つ情報と引き換えに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これが私の提示する条件だ】

 

 レプリカの提示した条件とは、至極真っ当なものだった。当然だ。身の安全の保証もなしに協力など洒落にならない。散々情報を出した後に「お前は用済みだ」として消されてからでは遅いのだ。

 それに口約束とはいえ、空閑には空閑の親父さんから受け継いだサイドエフェクトがある。嘘は通じない。口約束など後からどうにでもなると思っているのなら大間違いだ。

 そうして少しの沈黙の後、城戸さんは口を開いた。

 

「……よかろう。ボーダーの隊務規定に従う限り、我々は空閑遊真の安全と権利を保証すると約束しよう」

 

 会議室内に沈黙が訪れる。そして空閑からの反応は──

 

「……」

 

 ──ない。つまり、城戸さんは嘘をついていない。

 したがって、空閑の安全と権利は保証された。空閑の沈黙を肯定と受け取ったレプリカが、そのデータを展開する。

 

【確かに承った。それでは、私の持つ近界民(ネイバー)についての情報を教えよう】

 

 そしてレプリカは、近界(ネイバーフッド)という場所と、そこにある国──すなわち近界(ネイバーフッド)の星々について語り始めた。

 

【まず第一に近界民(ネイバー)の世界……すなわち近界(ネイバーフッド)における国というものは、国境で分けられているわけではない。近界(ネイバーフッド)という場所のほとんどを占めているのは果てしない夜の暗闇であり、近界(ネイバーフッド)における国はその暗闇の中に星のように浮かんでいる。それらの国々は基本的に決まった軌道で暗黒の海を周回しており、ユーゴはその在り方を『惑星国家』と呼んでいた】

 

 ──改めて聞くと、果てしない話だ。

 今しがたレプリカから説明があったように、向こうにおける国というのは星であり、それらはこの世界でいうところの惑星のように決まった軌道を回っている。

 中には不規則に近界(ネイバーフッド)の暗闇を飛び回っている「乱星国家」なんてものもあるが、基本的に星の軌道は決まっている。俺は(ゲート)の向こうに落ちてから5年もの間、その暗闇に浮かぶ星々を旅していたわけだ。

 レプリカの説明はなおも続く。

 

【太陽を回る惑星の動きとは少々異なるが、惑星国家の多くは()()()()()()を掠めるように広く遠く周回している。そして()()()()()()に十分近づいた時のみ、遠征船を放ち(ゲート)を開いて侵攻することができる。──では、先ほどの質問にお答えしよう。『攻めてくるのはどの国か』という問いについての答えは、『今現在()()()()()()に接近している国のうちのいずれか』だ】

「それはわかっとる! 我々が知りたいのは『それがどの国か』! そしてその『戦力』と『戦術』だ!」

【それを説明するためには、ここにある配置図では不十分だ。よって、私の持つデータを提供しよう。──リンドウ支部長】

「オーケー、レプリカ先生。ってわけで、よろしく宇佐美」

「あいあいさー!」

 

 そして宇佐美がボタンを1つ押した瞬間、それまでの軌道配置図とは比べ物にならない広大な図が姿を現した。

 

「な……!?」

【これが、ユーゴが自らの目と耳と足で調べ上げた、惑星国家の軌道配置図だ】

「これは……!」

「流石有吾さんだな」

(……空閑の親父さんは、これほどの数の星を渡り歩いてきたのか)

 

 鬼怒田さんも忍田さんも、もちろん俺も、その星間図の壮大さに圧倒されてしまった。

 レプリカにより大幅に拡張された軌道配置図は、それまでのボーダーのデータを一瞬で過去にするものだった。そこに映し出された星の数、実に100以上。このうち俺が旅の中で降り立ったことがある星は、せいぜい10と少しくらいだろう。そして全員の視線が軌道配置図に集まったことを認めたレプリカは、話を続ける。

 

【そしてこの配置図によれば、現在こちらの世界に接近している惑星国家は4つ。1つ目は、広大で豊かな海を持つ水の世界、“海洋国家”『リーベリー』。2つ目は、特殊なトリオン兵に騎乗して戦う、“騎乗国家”『レオフォリオ』。3つ目は、厳しい気候と地形が敵を阻む、“雪原の大国”『キオン』】

(キオン、か……)

 

 その名前を聞いたのは、いつ以来だったか。

 旅を始めて間もない頃、俺はキオンに降り立ったことがある。あの国を一言で分かりやすく言うと、「1年中真冬の北海道」。生身で出歩こうものなら凍え死にかねない。だが住んでいる人は温かく、人情味に溢れていた。そして他でもないあやめ──アイリスの生まれ故郷は、そのキオンの友好国なのだ。

 しかしそんな俺の思考は、次にレプリカが言い放ったある国の名前ですべて吹き飛ぶことになる。

 

【そして4つ目は──近界(ネイバーフッド)最大級の軍事国家にして、“神の国”『アフトクラトル』】

「……アフトクラトル!?」

 

 柄にもなく大声を出してしまった俺に、会議室内の全員の視線が集まる。

 だがアフトクラトルが近づいてきているというのならまずい。本当にまずい。俺の心が、いつになく警鐘を鳴らしている。

 そんな中、最初に俺に質問をしてきたのは忍田さんだった。

 

「知っているのか? 遼河」

「……ええ。アフトクラトルは、向こうの世界でも別格の軍事力を持つ一大国家です。その名前は、向こうの他の国でも広く知れ渡っています。ハッキリ言って、アフトクラトルに正面から戦争を仕掛けて勝てる国はほぼ存在しないと言い切れるでしょう」

「……それほどまでの大国なのか」

 

 俺の語る事実に、忍田さんが愕然とする。しかしこればかりはどうしようもない事実なのだ。

 ──俺は旅の最中、物資の補給のためにアフトクラトルへと降り立ったことがあった。一応軍事国家かつ他所からの来訪者は珍しいとはいえ、戦争に関係のない少数の来訪者であれば歓迎された。アフトクラトルは他の近界(ネイバーフッド)の国と比べて規模も大きいし、住んでいる住人の数も多い。何よりトリガー技術が文字通り他の国と比べて規格外だ。

 それにアフトクラトルが来ると仮定すれば、今までの事にも説明がつく。

 

「もし先ほどの4国が候補とすれば、攻めてくる可能性が一番高いのはアフトクラトルかと」

「──その根拠はあるのかね?」

「……先日現れたイルガーに、街中に点在していた改造型のラッドです。前提として、先日現れた爆撃型トリオン兵──イルガーは、運用に凄まじい量のトリオンを必要とします。それこそ、並大抵の国ではトリオン兵を作るためのトリオンの大半をイルガーの製造に回さなければならないほどに。だから、基本的にイルガーを侵攻に使う国というのは珍しいんです。それに改造型のラッドを数百匹単位で街中にばら撒くなんて、高い技術が無ければまず不可能でしょう。そう考えた時、極めて高度なトリガー技術を持つアフトクラトルが攻めてくる可能性は相当高いかと」

「……なるほど、確かに月城くんの言うことは一理ある。ではそのアフトクラトルを仮想敵として対策を進めるとして──次に知りたいのは相手の戦力、そして戦術。特に重要なのは、敵に(ブラック)トリガーがいるかどうかだ」

 

 ──(ブラック)トリガーの有無。それは、トリガーを使った戦争において極めて重要な意味を持つ。

 なにせ(ブラック)トリガーは、それ1つだけで軍隊、下手すれば国同士のパワーバランスを容易にひっくり返すのだ。それまで劣勢だったにもかかわらず、3年間攻め込まれてもなお凌ぎ続けた空閑の(ブラック)トリガーがいい例だろう。

 そんな俺の思考の間を縫って、レプリカが城戸司令の疑問に答えていた。

 

【我々がアフトクラトルに滞在していたのは7年以上前なので現在の状況とは異なるかもしれないが──私の持つ記録上、当時アフトクラトルには──】

「……17です」

「なに?」

「情報は新しくあるべきでしょう。レプリカのデータは7年前みたいですが、俺がアフトクラトルにいたのは2年と少し前。そしてその時点でアフトクラトルが持っていた黒トリガーの数は──17本

「17本!?」

 

 俺の提示した情報に、会議室の全員が絶句する。──レプリカの話を切るようで悪いとは思うが、ここばかりは無視するわけにはいかないのだ。

 さっき俺は「アフトクラトルだけはまずい」と言ったが、その理由がこれだ。俺とあやめが滞在している間に知った限りでも、アフトクラトルは(ブラック)トリガーを17本有している。おまけにそれを大々的に公表することで、他国からの侵略の可能性を削いでいる。しかもそれをハッタリだと思わせない圧倒的な軍事力まで兼ね備えているのだ。(ブラック)トリガー17本に加えて地の利まである相手に喧嘩を売る自殺志願者はどの世界にもまず存在しない。

 どこかから奪ってきたのか、あるいはトリオン量が優秀な人間、またはサイドエフェクトを持つ人間の寿命が尽きそうになったときは片っ端から(ブラック)トリガーにしようと試みているのかは知りようがないが、とにかく俺たちが滞在していた2年と少し前の時点で17本保有していたという情報は確実だ。なんならあれから2年以上経っているのだから、さらに増えている可能性が高い。

 

 そして「近界(ネイバーフッド)最大級の軍事国家」と呼ばれる理由がここにある。

 何度でも言うが、トリガーを使う戦争において(ブラック)トリガーというのは絶対的だ。(ブラック)トリガーは、それ1本だけで大国の軍隊に匹敵しうる。それが17本。絶望的なんてレベルではない。ここまで来ると国を滅ぼしたうえでインフラを破壊し、再建不能にすることも容易なレベルだ。そりゃ「神の国」なんて大層な二つ名にもなる。

 さらに滞在中に聞きかじった話によれば、アフトクラトルという国は他国への侵攻に(ブラック)トリガーの投入を惜しまないという。そう考えると──。

 

「注意すべきは、投入される(ブラック)トリガーの数です」

「待ってくれ。我々の知る限り近界(ネイバーフッド)の戦争の主力はトリオン兵で、人員は少数に絞るはずだ。それが違うというのか?」

「……前提として、アフトクラトルが有する(ブラック)トリガーの本数を17本としましょう。その上で、遠征船に乗れるのは3、4人。──多くても6人くらい。でも逆を言えば、()()()()()()()んです。これがどういう意味か、分かりますか?」

 

 俺の問いかけを受けた忍田さんは腕を組んでしばし考えると、ある恐ろしい事実に気が付いたようだった。

 

「まさか──!」

「そう、そのまさかです。アフトクラトルが持っている(ブラック)トリガーの本数を考えれば、遠征参加者の半数以上──最悪の場合、全員が(ブラック)トリガーを持ち出してもなんら不思議はない

 

 俺のその言葉で、会議室内が一気に静まり返った。どうやら、俺の言っている事の重大さが理解できたようだ。

 無論、これは俺の考え得る限り最悪のパターンを想定したもので、憶測にすぎない。

 俺も、こっちの世界のような小国を侵略するために(ブラック)トリガーを5本も6本もぶつけてくるとは考えていない。(ブラック)トリガー1本ですら軍隊を容易に壊滅させるのだ、そんな代物を5本も6本も使おうものなら過剰戦力なんてレベルではない。それこそ国を滅ぼしたい思惑がない限りまずないだろう。

 

 だがアフトクラトルの(ブラック)トリガー保有数を考えると、3~4本()()の実戦投入なら余裕であり得るのだ。相手は10本を優に超える(ブラック)トリガーを有する超大国、複数本持ち込んだところで本国の防衛への影響は微々たるものだろう。

 そもそも(ブラック)トリガーが他国侵略のために使われるのは稀だが、それは「(ブラック)トリガーが本国防衛の切り札であるから」に他ならない。

 しかし、逆説的にこんなことも言えるのだ。

 

 ──「侵略のために用いてなお十分本国を防衛できる国力があるのなら、別に使っても問題はない」。

 

 それに、アフトクラトルは自国の防衛をさほど意識する必要はないはずだ。

 ……というのも先に述べた通り、アフトクラトルは自国の黒トリガーの本数を大々的に他国に知らしめている。俺が「17本」という具体的な情報を得られたのもそのためだ。

 そして、自国を守るにはその情報と、それが嘘でないことを証明するだけで十分なのだ。アメリカに正面から喧嘩を売る国が存在しないように、10本以上の黒トリガーを有する超大国に正面から攻め込むバカな国などまず現れないのだから。

 そして、城戸さんが話をまとめるべく口を開く。

 

「……では我々は、人型近界民(ネイバー)──特に複数の(ブラック)トリガーの参戦を最悪の想定とし、いつでも厳戒態勢を敷けるよう準備を進める。──三雲くん、月城くん。君たちは爆撃型と偵察型、そのどちらにも対応した数少ない隊員と聞く。何か気付いたことがあれば、逐一報告するように」

「はい」

「は、はい!」

「遼河と遊真くんは、少しここに残ってくれ。近界(ネイバーフッド)に滞在していた経験がある者として、我々の知らない情報を提供してほしい」

「りょーかい」

「もちろんです」

 

 ……敵は確かに強大かもしれない。もしかしたら、アフトクラトルが攻めてくるというその考えも杞憂に終わるかもしれない。無論、杞憂で終わるならそれでいい。被害が少なく抑えられるだけだ。

 しかし、対策するに越したことはない。敵がいつ来ようと、どんなに強大だとしても、俺たちがやるべきことは何一つ変わらない。

 

「さあ、近界民(ネイバー)を迎え撃つぞ」

 

 ──忍田さんの言うとおり、俺たちは「界境防衛機関・ボーダー」として、招かれざる来訪者を迎撃する。

 ただ、それだけだ。

 

 

 





本編では「7年前の時点で13本」となっていたアフトクラトルの黒トリガーですが、本作では「2年と少し前の時点で17本」という設定となっております。
ですが、個人的には本編時点で20本とか持っていても割とおかしくはない気がします。

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