ワールドトリガー・Returner from another world   作:もりいぬ

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第1章となる「帰還者編」はこれにて終了となります。
今更ですが、本作の設定はなるべく原作から乖離しないようにしつつ、一部オリジナルの解釈を混ぜ込んでいます。

7/5追記 誤字報告に伴い内容を一部修正しました。報告していただきありがとうございました。




そして、門が開く

 会議を終え、空閑と一緒に向こうの世界についての情報を共有し終えた後、俺と忍田さんは誰もいなくなった後の会議室でしばし語らっていた。

 思えば、こっちの世界に帰ってきてからはこうして忍田さんと1対1で語り合う機会は稽古の時間以外にはあまりなかったから、ちょっと新鮮だ。

 

「遼河。剣の稽古は順調か?」

「……どうでしょう。あんな技は見たことがないので」

 

 ”あんな技”というのは、忍田さんの使う旋空弧月のことだ。

 簡潔に言おう、忍田さんの剣技は化け物だ。5年前の時点でもだいぶ強かった印象があるのだが、齢を重ねて衰えるどころかかえって強くなっている気がする。数週間前に稽古をつけてもらったのだが、今はそこで見た技を再現するのに悪戦苦闘中だ。

 一応どうやるかの説明はされたから理論は分かる。理屈も分かる。だが実行できるかは別の話である。もっとも、忍田さんも「これを一朝一夕で習得されたら、私の面子は丸つぶれだな」と笑いながら言っていたが。

 

 そういえば忍田さんは俺がいなくなった後、太刀川さん以外には弟子を取っていないらしい。一度これについて理由を聞いてみたのだが、「弟子を鍛えられるような時間がない」とのことだった。とか言ってる割には俺の剣の稽古には付き合ってくれる。たぶん、「時間がない」というより「1から面倒を見る余裕がない」という意味合いなのだろう。

 ちなみにその太刀川さんだが、忍田さんからは「実力はあるが学業を何とかしてほしい」という見事にその通りとしか言いようのない評価をいただいている。しかも厄介なことに、太刀川さんは本質的にはバカではないらしいのだ。

 というのも、戦術や戦略の方を教えてみたところあり得ないくらいの意欲を見せてあっという間に覚えてしまったという。そのくせして「DANGER」を「ダンガー」と読んだとか、大学のレポートそっちのけでランク戦のブースに入り浸っているせいで現在進行形で単位取得が赤信号となっており、防衛任務のシフトを変えざるを得ないことが多々あるなど、忍田さんの語る太刀川さんのエピソードには師匠兼上司としての苦労がにじみ出ていた。

 とはいえ、俺からしてみれば忍田さんも人のことを言えないと思う。それこそ昔の忍田さんって城戸さんの車を真っ二つにしてしまったり、川の水の上を走ろうとして警察沙汰になったりとやりたい放題だったわけだし。

 だからこそ、正直今の忍田さんの変わりようには驚いている。多分5年前の俺に、「5年後の忍田さんは今よりずっとおとなしくなってる」と吹き込んでも絶対に信じないだろう。

 

「そうだ、遼河」

「なんです?」

「実は、遊真くんを正隊員に昇格させようと思っているんだ」

「空閑を? それは、どうして?」

「──彼にはそれだけの実力がある。遅かれ早かれ、遊真くんは必ずB級に上がるはずだ。ならば、早めに上げてしまおうと思ってな。万一の際に備えて、戦力は多いに越したことはないだろう?」

 

 ──さて、どう返したものか。

 確かに、忍田さんの言うことは正論だ。何もしなくても、空閑の実力を鑑みれば数か月もしないうちに4000ポイントを貯めて正隊員──B級へと昇格することだろう。なら上層部の権限で早々にB級に上げてしまった方が、ボーダー全体の戦力としてはプラスだ。

 言うまでもないが、C級のトリガーとB級のトリガーでは出力に大きな差がある。それこそ以前学校にイレギュラー門が開いた時は空閑がC級のトリガーでモールモッドを仕留めていたが、本来C級のトリガーでモールモッドを狩るのは困難なのだ。具体的には攻撃手用トリガーの中でも特に安定した強度を有する弧月ですら、モールモッドとまともに打ち合えば刃毀れする。もちろん、正隊員用の弧月ではまずそうはならない。

 

 このような事情があるからこそ、C級のトリガーでの戦闘は禁じられている。勝つこと自体は不可能ではないが、C級のトリガーでモールモッドの弱点の目を攻撃して仕留めるにはかなりの修練を要求される。だが、空閑はその修練をすでに一定まで積み上げた状態だ。A級ならともかく、B級に上げて即戦力にしたいというその考えに異論はない。

 しかし、その場合空閑自身の意見が気になる。空閑はこっちの世界の常識には疎いが、本質的には割と謙虚だ。実際、自分より弱い奴が初期ポイントを多く持っていても異論を一切挟まなかった。……もっとも、基本的にそういう奴らが今の空閑にランク戦で狩られているわけだが。

 それを踏まえて考えれば、空閑は納得しない可能性の方が高いように思えた。

 

「……俺は賛成ですが、空閑は断ると思います。あいつは謙虚ですから。城戸さんが何か言ってくる可能性を抜きにしても、まずは空閑に意見を聞いた方がいいと思います」

「それもそうか。すまなかったな、遼河」

「いえ。空閑の実力を見たなら、早く正隊員にしたくなる気持ちは分かりますし」

 

 結局俺が選んだのは、「空閑に選ばせる」という丸投げ同然の意見を口にすることだった。

 それと同じタイミングで、スマホに着信が入る。迅からのメールには「屋上来れる?」というひどくシンプルな一文しか書いていなかった。文字打ちが面倒だったのか、あるいは信頼の表れか。

 ──後者だと信じたいものだが、高確率で前者だろう。とはいえ、わざわざ呼び出してきたからには行く必要がありそうだ。

 

「迅に呼ばれたんで、行きますね」

「ああ。……しかし、迅か」

「迅がどうかしたんです?」

「いや。ただ、遼河が帰ってきてから、迅の表情が少し柔らかくなったような気がするんだ」

 

 そうなのか、とは言えなかった。

 なにせ、俺は空白の5年の間に迅に何があったのかを知らない。最上さんを亡くし、生みの母親すら失った今のあいつの心の中には何が残っていて、その目には何が見えているのか──俺にも、他の誰にも、それを知る術はない。

 だが知る術がないなら知る術がないなりに、間違いなく言えることは1つある。

 

「──そうだったらいいですね。俺とあいつは“友達”ですから」

「そうだったな。昔から、遼河と迅は一緒にいることが多かった」

「元々はただのライバルみたいな感じだったはずなんですけどね」

「戦いの中で友情が芽生えることも、あるということだろう」

「少年漫画みたいなこと言いますね、忍田さん。……でも、それはそれで悪くないかもしれません」

 

 俺は忍田さんに気付かれないよう密かに笑うと、会議室を出て屋上へと向かった。その途中で、俺は意外な人間とすれ違う。

 

「──三輪?」

「月城遼河……」

 

 三輪の表情は妙に苛ついているように感じられ、その目は相も変わらず蛇のような鋭さでこちらを捉えている。目の下の隈も相まって、その形相は本物の蛇であるかのようにも思えた。

 その雰囲気から俺は、屋上で三輪の身に何があったかを大方察する。

 

「どうせまた、迅から厄介事でも吹き込まれたんだろう?」

「分かっているのなら、放っておいてください」

 

 三輪は俺から目線を逸らすと、足早に立ち去ろうとする。俺は、その背中に語り掛けた。

 

「風間さんから聞いたぞ。──あれに関しては、今ここで謝ろう。すまなかった」

「……なんのつもりです?」

「少し勘違いしているようだから、訂正しておこうと思ってな。俺は、お前の復讐心を否定するつもりはない」

「!?」

 

 明らかに三輪の表情が困惑の2文字を示す。しかし事実として、俺には三輪の復讐心を否定することはできないし、否定するつもりもない。

 復讐というのは、目に見えない炎だ。心の中で、感情という名の薪を源にして燃え続ける炎だ。それは簡単に消えるものではないが、燃やし続ければ、いずれは自分の心すらも焼き尽くしてしまう。そうした人間は、いつ道を踏み外して殺人鬼になるか分からない。

 ──復讐にとやかく言うつもりはない。大抵の場合、止めるよう進言しても意味がほとんどないからだ。だが、無関係の人間を巻き込んだ瞬間にそいつはただの殺人鬼となる。それだけは、俺の矜持が許さない。

 

「俺が言いたかったのは、『無関係の奴らまで巻き込むな』ということだ」

「……誰がなんと言おうと、俺にとって近界民(ネイバー)はすべて敵です」

「そう思うならそれで構わない。だが無関係の人間まで巻き込めば、それはただの殺人鬼だ。復讐心を無くせ、とは言わない。俺が言いたいのは、()()()()()()()()()使()()ってことだ」

「正しく……?」

敵意のない人間に牙を剥くな。そして武器を持たない人間を傷つけるな。今は、それだけでいい。言いたいことは、それだけだ」

「……」

 

 俺は三輪に背を向け、静かに立ち去る。最後に見た三輪の表情は不機嫌ではあったが、僅かながらの冷静さも感じ取ることができた。

 見た限りでは、三輪は復讐に囚われた人間の中ではかなり聡明な部類だ。俺の言うことが分からないわけではあるまい。あとは俺の言葉から気付きを得て、少しでもその硬く凍り付いた思考を柔らかくしてくれればいい。復讐心を否定することはできなくとも、その復讐心を向ける矛先を正すことはできるのだから。

 まもなく屋上の扉を開けると、珍しく待ち人は屋上の端に腰掛けて俺を待っていた。

 

「お、来た来た」

「……三輪に何を言ったんだ?」

「『風刃』を使ってみないか、って言ってみた。突っぱねられたけど」

「『風刃』を?」

 

 ──「風刃」は、数多くの適合者がいる特異な(ブラック)トリガーだ。

 前提として、本来(ブラック)トリガーとは使用者を選別するトリガーだ。事実、向こうの世界では「一応保有してるけど誰も適合しないから使いようがない」という(ブラック)トリガーも存在した。

 しかし「風刃」は特殊で、結構な数の適合者がいるのだ。俺の知っている限りでも風間さん、嵐山、そして木虎の3人がいる。迅曰く、この3人以外にもさらに8人近くの適合者がいるらしい。つまり、ボーダー内だけでも「風刃」を扱える人間は10人以上。ここまで適合者の多い(ブラック)トリガーは相当レアケースだ。

 どうしてこれほどまでに適合者が多いのかという話だが、それはたぶん最上さんが「そうあってほしい」と望んだからだろう。そして三輪もまた、最上さんに認められた1人のようだ。

 ……ちなみに俺は認められなかった。でも、もし適合していたとしても俺は使わない気がする。なにより、迅より上手く使いこなせる奴がいるとは思えない。

 

「そこまでやるってことは、三輪に何かあるってわけか」

「うん。──今度の大規模侵攻の時、秀次がどう動くかが結構大事な分岐点になるっぽくてさ」

「三輪の動き方次第で未来が大きく変わるってわけだな」

「そういうこと。で、その時あいつは絶対に『風刃』を使う。なら、先に言っておいた方が早いでしょ?」

「確定された未来……か」

「間違いないよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ここまで自信をもって言うということは、三輪が今度の大規模侵攻のどこかで「風刃」を使うのは確定事項らしい。どうりで三輪が不機嫌なはずだ。

 三輪からしてみれば、敵対視している迅の思い通りに動くのは癪に障るのだろう。しかし迅が「おれのサイドエフェクトがそう言ってる」と宣言した以上、もうその未来からは逃れられない。迅がこの言葉を言うのは、いつだってその未来が約束されている時だけなのだから。

 ……そこまで言葉を交わしたところで、俺はまだ用件を聞いてなかったことを思いだした。

 

「……で、そろそろ本題に入ろうか。なんで俺を呼んだ?」

「そうだった。──実はさ、遼河さんに頼みたいことがあるんだ」

「大規模侵攻のこと……か?」

「そりゃもちろん。遼河さんの動き方次第じゃ──もしかしたら、誰も死なずに敵さんを追い返せるかもしれない

「……詳しく聞かせろ」

 

 ──そうして俺は、迅からの提案を聞く。それは、かなり無謀といえる提案だった。

 数分かけてその内容を理解した俺は、1つだけ質問をした。

 

「勝算は?」

「──全部上手く行ってようやく3割あるかないか……ってとこ。正直、遼河さんでもきついと思う。でも遼河さんにしかできない」

「30%か……」

 

 俺はそれだけ呟くと、不敵に微笑んでみせた。

 

「──上等。それだけあれば、十分だ」

 

 それが承諾の返事だと、迅も分かったらしい。俺の発言につられるように迅の表情が少し穏やかなものになった。

 ……成功率30%。分が悪いのは間違いない。しかし俺は、そんな分の悪い状況を今まで幾度となく乗り越えてきた。乗り越える必要があったのだ。俺がここにいるのは、それを乗り越えてきたからに他ならない。それに今回は緊急脱出(ベイルアウト)がある。仮に失敗したとしても、生身のまま戦場に放り出されて無抵抗に殺されるという悲惨な結末を辿る可能性は限りなく0に近い。何より、俺1人の奮戦次第で何人もの命が助かる可能性があるのだ。確率が低かろうと、賭けてみる価値はある。

 そう考えれば、俺の中に断る理由は何もなかった。

 

 ────────

 

 迅との会話から数時間後、俺は玉狛支部の屋上へと向かっていた。空閑と話がしたかったのだが見つからず、あやめに聞いてみたところ「屋上にいると思うよ?」と言われたからだ。

 屋上の扉を開けると、探し人である空閑は屋上の縁のような部分に寝そべっていた。どうやら見たところ、レプリカと話し込んでいたらしい。俺の姿を認識した空閑は、上半身を持ち上げた。

 

「お、リョーガさん」

「空閑。ちょっといいか?」

「うん」

 

 空閑の隣に腰掛けると、真冬の冷たい風が頬を撫ぜた。

 俺が話すより先に、空閑が「そういえば」といった様子で口を開く。

 

「帰る前にシノダさんに会ったよ。『正隊員にならないかー』って」

「そうか。……で、どうしたんだ?」

「断った」

「……やっぱりか」

「分かってたの?」

「薄々な。俺は迅じゃないから確信は持てなかったが」

 

 俺の見立て通り、空閑は忍田さんの提案を却下したらしい。どうやら俺の人を見る目はまだ衰えていないようだ。

 正隊員になるのを断ったということは、正隊員のトリガーじゃなくても戦える手段があるということ。それはつまり──。

 

「やっぱり、それを使うのか?」

「うん。本気で戦うんなら親父の黒トリガー(これ)だ。戦いは、迷ったら負けだからな」

「迷いは戦場じゃ命取りになる……か。俺も昔、嫌というほど思い知らされたな」

 

 空閑の言うとおり、戦場での「迷い」とは思っている以上に致命的なものだ。

 人は迷った瞬間、隙が生じる。そしてその隙は、戦場においては何よりも恐ろしい敵となり得る。迷った時間が例え一瞬であろうと、隙には変わりない。トリオン兵ならともかく、向こうの世界で戦場に出てこれるほどの実力を持った人間はそれを見逃さない。

 攻撃の手段を迷えば、相手の方が一手早くなる。防御の手段を迷えば、守りが半端になる。そうなればどう足掻いても後手に回らざるを得なくなってしまい、やがて殺られる。

 きっと空閑は、今度の大規模侵攻で躊躇なく(ブラック)トリガーを使うだろう。だからこそ、次にレプリカから放たれた懸念の言葉は当然のものといえた。

 

【しかし、(ブラック)トリガーを使えばキド司令が黙っていないだろう。あの時の言葉に嘘はなかったが、言い換えれば『ボーダーの規則に背けば容赦しない』という意味にも取れる】

「……そこは大丈夫だと信じたいな。”人の命”と”組織の規則”のどっちが重いのかってことくらい、城戸さんも分かってるはずだ。少なくとも俺は、空閑の判断が間違ってるとは思わない」

「うん。ちょっとでもやばいと思ったら、遠慮なく使うぞ」

 

 ……組織の規則は、あくまで秩序を守るためのものに過ぎない。究極、規則がなくても人の命は守れる。だが、人の命は規則だけでは守れない。そして、人の命は失われれば返ってこない。過ぎ去った時間を戻すことができないように、死んだ人間を甦らせる方法などない。俺も空閑も、それをよく分かっていた。

 レプリカはしばし沈黙の後──空閑の決断を尊重した。

 

【それを決めるのは私ではない。──ユーマ自身だ】

 

 そのタイミングで俺は、空閑を探していた「本来の目的」を思い出した。

 

「そうだ、空閑。お前に用があったんだ」

「ほう?」

「その前に──この件に関しては、レプリカにも協力を頼みたい」

【ふむ?】

 

 俺は空閑とレプリカに「ある要件」を伝える。これに関しては俺の独断だ。だが、別に隊律違反ではない。忍田さんにも確認は取っている。

 空閑は俺の話を聞くとしばし顎に手を当てて考えた後、頷いた。

 

「わかった」

「助かる。なら、早速始めよう。時間が惜しい」

「りょーかい。じゃあやるぞ、レプリカ」

【承知した】

 

 そして俺は、空閑とレプリカと共に「ある要件」をこなすのだった。

 

 

 ……それから数日後。

 本部からの通達で、C級隊員のトリガー使用に関するボーダーの規則が「全面禁止」から「避難や救助の支援といった緊急時に限り使用を許可する」と改定された。先のイルガー騒動や今度の大規模侵攻で予想されるすさまじい被害を考慮すれば、当然と言えるだろう。ボーダーは「防衛機関」である以上、一般人の命を何よりも優先しなければならないのだから。

 その日俺は非番であり、あやめと一緒に基地でゆっくり休んでいた。──そんな時だった。

 

「ねえ、遼河くん」

「どうした?」

「なんだか外、暗くない……?」

「なに?」

 

 洗濯物を干そうと窓を開けたあやめが、そんなことを呟きだした。あやめのその言葉を聞いた俺は、急いで玉狛の窓から外を見る。

 その視界の先には──。

 

「──な!?」

 

 ──ボーダー本部の周囲を覆う、絵の具で厚く塗りつぶされたかのような漆黒の雲。

 その恐ろしく異様な光景は、「時が来た」と俺に感じさせるにはあまりにも十分すぎるものだった。

 一も二もなく、俺はすぐに迅に電話を繋ぐ。

 

「迅!」

『遼河さん。──敵が来る』

「ああ、分かってる!!」

 

 俺と迅の会話は、それ以上を必要としなかった。

 こうなればもはや、玄関から出る時間も惜しい。俺はすぐに机の上に置いていたトリガーホルダーを携えて換装し、窓から外へと飛び出そうとする。

 背中から、声が聞こえた。

 

「遼河くん!」

「──あやめ」

 

 久しぶりに聞いたあやめの大声に、俺は振り返る。

 俺の姿を見たあやめは一瞬心配そうな目をしたが、すぐに精一杯の笑顔を浮かべた。

 

「──いってらっしゃい。気を付けてね」

「……ああ。行ってくる!」

 

 あやめのその言葉に目と首肯で答えると、俺は外へと飛び出した。

 グラスホッパーを全力で踏みつけ、建物を飛び越え、風よりも早く、最大全速で警戒区域へと向かう。警戒区域に近づくにつれて、無数の空間の歪みがはっきりと姿を現す。

 

『任務中の部隊はオペレーターの指示に従って展開! トリオン兵を撃滅せよ! 1匹たりとも警戒区域から出すな!! 非番の正隊員を緊急招集する! 現在動かせる正隊員を総動員し、全戦力で迎撃に当たれ!!』

 

 忍田さんの通信が、全ての隊員に轟く。

 

『戦闘開始だ!!』

 

 ──第二次大規模侵攻が、始まった。

 

 

 





次回からは「大規模侵攻編」に入ります。次話を気長にお待ちいただければと思います。

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