ワールドトリガー・Returner from another world 作:もりいぬ
新章となる「大規模侵攻編」が始まります。
今話は導入および「つなぎ」の回となりますので、オリ主の出番はありません。
また、私事ではありますが本作のUAが5万を突破しました。
この場を借りてお礼を申し上げます。
第二次大規模侵攻
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三門市全域に、大規模侵攻の始まりを告げる緊迫感に満ちた機械音声が鳴り響く。
次元の裂け目から現れた無数のトリオン兵は、本部基地から見て西・北西・東・南・南西の5方向に分かれて侵攻を開始していた。
(分かれたか……。厄介だな。こちらの戦力も分散せざるを得なくなる。だが各個撃破では間に合わない以上、敵を追うしかない)
本部の司令部──もとい、本部長・忍田真史は決断を迫られていた。
レーダー上のトリオン兵の反応は広範囲に分かれており、なおかつ途方もない数だ。各個撃破するには時間も人員も足りていない。だからこそ、忍田本部長が取れる方針は限られる。
「現場の部隊を3つに分け、東・南・南西方角の敵を対処させろ!」
「了解!」
忍田本部長の指示を受け、本部長補佐の沢村響子が現場部隊に指示を送る。
しかし、その指示に異議を唱えた者がいた。根付メディア対策室長だ。
「ちょ、ちょっと待ってください本部長! それでは西と北西が手薄になるのでは!?」
「いや、問題ない。その二方にはすでに、迅と天羽が向かっている」
「おお……! こういう時は頼もしいねぇ……!」
根付は冷や汗こそ拭いはしなかったが、ひとまず安堵する。天羽はボーダーが誇る
しかし、その2人で対処できるのはあくまで西と北西だけだ。残りの方角は手が足りない。
「問題は他の三方だ。防衛部隊が追い付く前に市街に入られてはならない。──鬼怒田開発室長!」
「分かっておる! とっくに冬島と組んで対策済みじゃわい」
鬼怒田開発室長がその言葉を言い終わるか終わらぬかというタイミングで、街を進軍していたトリオン兵がどこからともなくせり出したトリオンの刃によって串刺しにされ、またあるところでは無数の弾丸で蜂の巣にされはじめた。鬼怒田がボーダー内のエンジニアらと設計した罠が作動したのだ。
しかし、基地のトリオンには限界がある。このままでは先にこちらのトリオンが底をつきてしまうかと思われた。
だが、その心配は程なくして無用のものとなった。
「諏訪隊現着した!
「鈴鳴第一、現着! 戦闘開始します!」
「東隊現着。攻撃を開始する」
防衛任務に当たっていた「B級10位」諏訪隊、「B級8位」鈴鳴第一、「B級6位」東隊がトリオン兵の群れを捕捉したのだ。
時を同じくして「A級3位」風間隊、「A級5位」嵐山隊、「B級11位」荒船隊、「B級13位」柿崎隊、「B級17位」茶野隊が続々と現場に駆け付けつつあった。
【ボーダーとトリオン兵が交戦し始めたようだ】
そして第三中学校から駆け出した修・遊真らもまた、現場に辿り着こうとしていた。上空から戦局を分析していたレプリカが、修に状況を伝える。
「状況は!?」
【数ではトリオン兵が圧倒的だが、敵はなぜか戦力を分散している。後続の部隊や非番の隊員が加勢すれば、戦況はボーダー有利に傾くだろう。予知と備えで敵の初動を抑えられたのが大きい】
「じゃあ……!」
「──いや、まだだ」
希望が見えたと思ったのも束の間、遊真が修の次の言葉を遮る。
「今攻めてきてんのがこないだの“ラッド騒ぎ”の犯人と同じ奴らなら、向こうはボーダーの戦力が大体どれくらいか把握してるはずだろ。それでも仕掛けてきたってことは──少なくとも
「……分かってる」
その言葉を聞いた修が思い出したのは、数日前の会議で遼河が言った衝撃的な発言だった。
『アフトクラトルにある
もしこの言葉通りアフトクラトルが攻めてきていて、複数本の
……それこそ、最悪の展開だ。
しかし一隊員である修に迷っている暇がないのもまた事実。修は気を引き締めると、警戒区域を駆け抜けていくのだった。
一方その頃、諏訪隊・鈴鳴第一・東隊の3部隊は現れたトリオン兵の掃討をあらかた完了させていた。
「東さん! 最後の1体片付きました!」
「よし、なら他の隊の加勢に行くぞ」
そうして東隊がその場を去ろうとした、その時だった。
──成虫が繭を破るかのごとく、倒したトリオン兵の残骸から更なる敵が現れた。
それは、未だボーダー内では1人を除いて誰も見たことのないトリオン兵。巨大な腕と前傾姿勢の人間のような容姿をしたそのトリオン兵は、他のトリオン兵と比べても明らかに異常なまでの存在感を放っていた。
さらに、未知のトリオン兵は諏訪隊・鈴鳴第一のもとにも現れていた。未知の敵を相手に、全部隊がたじろぐ。そしてその“迷い”を──トリオン兵は逃さなかった。
「奥寺!!」
「え? ──うわぁっ!?」
東隊の隊員・奥寺常幸がよそ見をしたその僅か数秒の間に、謎のトリオン兵は距離を詰めていた。
気付いた時には時すでに遅し、奥寺は強烈に振り抜かれた腕の直撃を受けて激しく吹き飛び、10軒近くの家を貫通してようやく止まった。
「奥寺! 応答しろ!!」
「──だ、大丈夫……です……」
──「凄まじい」。その一撃を見た彼らの心情は、その一言に尽きた。
圧倒的なんてものではない。いくら無防備だったとはいえ、50kg近くある人間を容易く吹っ飛ばしたどころか10軒近くの家を破壊し、貫通するほどの威力の攻撃を仕掛けてくるトリオン兵など聞いたことがない。
戦闘用のトリオン体は、たとえ戦車砲やミサイルが直撃しようとダメージを受けない。だが、その身に襲い掛かる衝撃までは防げない。軽く40m以上の距離を吹き飛ばされた奥寺が受けた衝撃は計り知れなかった。
「……この野郎ッ!!」
「よせ、小荒井!!」
奥寺を傷つけられたことで怒り心頭の東隊の
小荒井はいとも簡単に掴みあげられただけでなく、その勢いのまま近くの民家の壁に叩き付けられる。どうにか拘束を振りほどこうと弧月を振り上げるも、もう1つの腕で掴まれ、身動き1つ取れなくなってしまう。
そしてトリオン兵はそのまま──赤子の手をひねるかのごとく小荒井の両腕を引きちぎった。
「なっ……!?」
尋常ならざる怪力を見せつけたトリオン兵だったが、それだけでは終わらなかった。
トリオン兵の胸部がハッチのように開くと、中から触手のようなものが出現したのだ。
「うわぁぁぁっ!?」
「小荒井!」
東が小荒井を助けるべく、アイビスを発砲する。だが──。
「!?」
ガギン、という鈍い音がしたかと思うと、アイビスはいとも容易く弾かれてしまった。
東は心底驚愕した。──アイビスは並のトリオン兵に対しては
さらに言えば、このトリオン兵は「自分の腕の防御力を理解している」ということでもある。その思考パターンは、トリオン兵というよりもはやある種の知性生命体であるかのようにも思えた。しかし東がそんな思考を巡らせている間にも、謎の触手は小荒井を捕らえようと伸びてくる。
……それを見た東の決断は、誰よりも素早かった。
(それなら……!)
次の瞬間、小荒井の頭部が跡形もなく消し飛んだ。
(!!)
《戦闘体活動限界、
頭部を粉砕されたことで小荒井は戦闘続行不能となり、
東が小荒井を助けるべく取った最終手段は、小荒井の頭をぶち抜くことで強制的に戦線離脱させるという苦肉の策だった。謎の触手に捕らわれたら最後、どうなるか予測がつかない。ならば確実に安全圏に移動させられる
東は直ちに忍田本部長に新型トリオン兵の出現を報告する。
『忍田さん、こちら東部! 新型トリオン兵と遭遇した! サイズは3m強、人に近い形態で二足歩行! 小柄だが戦闘能力は極めて高い! 特徴として、隊員を捕獲しようとする動きがみられる! 警戒されたし!』
「隊員を、捕らえる……!?」
その報告を受けた司令部に波紋が伝わる。一般人ならいざ知らず、自発的に隊員を捕らえようとするトリオン兵など聞いたことがない。
しかし実際事実として交戦した東隊の隊員のうち奥寺はトリオン兵の腕の一振りで吹き飛ばされ、小荒井は危うく捕獲される一歩手前まで行き、東の手によって能動的に
すると、通信を共有していたレプリカからあるトリオン兵についての情報がもたらされる。
【シノダ本部長。先の通信をもとに私の記録とデータを照合した結果、そのトリオン兵だと思われるデータがあった】
「それを教えてもらえるか?」
【うむ。恐らくその新型は──アフトクラトルで開発されていたトリガー使い捕獲用のトリオン兵・『ラービット』だと思われる】
「トリガー使い、捕獲用……!?」
「なんだと……!?」
【ラービットは
──その言葉通り、基地の東でラービットと相対する諏訪隊には有効打が存在していなかった。
諏訪隊隊長・諏訪洸太郎と諏訪隊の隊員である堤大地が散弾銃による一斉射撃を叩きこむも、強靭な外殻に阻まれてダメージが通っていない。
「クッソ、何だコイツ!? アホみたいに硬ぇぞ!?」
「日佐人、こじ開けろ!!」
「了解!」
堤の指示を聞いた諏訪隊の
しかし装甲に刀を引っ掛けるよりも、ラービットの攻撃は早かった。
(!?)
突如として笹森の世界が真っ白に染まった次の瞬間、身体を強烈な衝撃が襲う。いや、衝撃というより「何か強烈なものが駆け巡ったような感覚」だった。トリオン体であるにもかかわらず、その一撃は笹森の意識にまで干渉し、笹森を失神させる。
笹森を襲った攻撃の正体。それは、トリオン体に対しトリオン以外でまともに攻撃が通る数少ない攻撃の1つ――超高圧の電撃だった。トリオン体の破壊までには至らないが、ラービットの本来の目的を鑑みれば十分すぎるほどの威力がある。獲物を仕留めたラービットは胸部のハッチを展開、逃げられない笹森を捕らえんとする。
だが、それを見過ごす諏訪隊ではない。
「野郎……!!」
諏訪は両手に散弾銃を持つと、ラービットの胸部へ向けて銃口を構え、そして──。
「吹っ飛べ!!」
全開火力の散弾銃
だが、止まったのはほんの一瞬だけだった。煙の中から飛び出てきた腕が、諏訪をがっちりと捕らえる。そしてラービットは胸を開き、触手を伸ばすと──。
──諏訪を、「喰らった」。
「──諏訪さんッ!!」
堤の叫びも空しく、諏訪を体内へと取り込んだラービットは次なる獲物とばかりに堤をターゲットにする。諏訪の必殺の
だが拳が直撃するその刹那、堤と笹森の危機を3つの「青い影」が救い出した。ターゲットを失ったラービットの拳は空を切り、道路を破壊する。堤たちを救った青い影は屋根の上に移動すると、新型を見据えた。
「あれが新型? 思ってたより小さいですね」
「舐めてかかるな。見た目よりも相当手強いはずだ」
「わかってますよ、いきなり退場なんてもうこりごりです」
「……風間さん!」
「退がってろ、諏訪隊。この新型は──俺たちが仕留める」
堤と笹森の危機を救ったのは、「A級3位」風間隊だった。風間は冷淡な目をラービットに向けながら、狩るべき敵を標的に据える。
「本部、こちら風間隊。諏訪が新型に取り込まれた。直ちに救出に入る」
ラービットの方も風間隊を捕捉したようで、その1つ目でボーダー隊員たちを見つめ返す。その時、今の今まで気絶していた笹森がようやく復活した。
「風間さん……。オレも、オレにもやらせてください……! オレがやられたから、諏訪さんが……!」
「──日佐人」
責任感からか、はたまた諏訪を救うためか、笹森は風間隊に共闘を進言する。その言葉から感じ取れる笹森の「諏訪の仇を討ちたい」という心は本物だと、誰もが理解していた。
しかし、そこで情に流されないのが風間蒼也という男だ。
「俺たちがやると言ったはずだ。攻撃手の連携は、銃手よりはるかにシビアだ。あいつならともかく、慣れていない奴が入ると却って戦闘力が落ちる」
「でも! このままじゃ引き下がれないです……!」
「そうか……」
不必要だと切り捨てる風間に対し、笹森はなおも食い下がる。
だが次に風間の放った衝撃的な一言によって、笹森は否応もなく沈黙させられることとなった。
「じゃあ勝手に突っ込んで死ね。それでお前の役目は終わりだ」
「な……!?」
その声は毅然としていたが、どこまでも冷淡であった。だが事実、この場において正しいのは風間だ。
風間隊の戦闘コンセプトは「スコーピオンとカメレオンを駆使した近距離の高精度な連携」であり、それこそが基本にして真骨頂である。そこに部外者が入ってしまうと、連携の精度が落ちてしまう。それだけではない、人数が増えるということはオペレーターの負担も増えてしまうのだ。ただでさえ“隠密近接連携”という唯一無二の戦法を確立している風間隊にとって、部外者の介入はノイズにしかならない。
よほどの手練れであれば話は別だが、今ここにいる笹森はB級、それもマスタークラスにすら到達していない一般隊員だ。さらに言えば笹森のメイントリガーは弧月であり、スコーピオンを活用した高機動の近接連携とは合わない。おまけに諏訪隊という部隊は
風間隊の2人もまた、堤・笹森両名に声を掛ける。
「引っ込んでなよ、弱いんだから」
「笹森。堤さんと一緒に他のトリオン兵の反応を追ってくれ。諏訪さんは、オレたちが必ず助け出す」
「──了解……っ!」
そこに反論の余地は一切なかった。長い沈黙ののち、苦渋の表情を浮かべながら笹森は風間隊の指示を受け入れる。
ようやく諏訪隊のメンバーへの処置が決まったところで、すぐさま風間は目の前にいる敵の殲滅へと目的を切り替えた。
「三上。この区画の情報を送れ」
『了解です。支援情報を視界に共有します』
「──敵の数が多い。さっさと片付けて次に行くぞ」
「「『了解!』」」
ここに、ボーダーきっての高機動近接部隊・風間隊と新型トリオン兵・ラービットとの戦いの火蓋が切って落とされた。
解釈違い等があるかもしれませんが、お許しください。
大規模侵攻は次回から本格的に開始となります。
またアンケートの結果が拮抗していましたが、「要らない」という意見が多く見られたため質問箱のようなものは設けません。
代わりに、質問等は感想欄にお寄せいただければお答えいたします。
ご理解のほど、よろしくお願いします。