ワールドトリガー・Returner from another world 作:もりいぬ
今話以降、更新速度が遅くなることが予想されます。
読者の皆様にはこの場を借りてお詫び申し上げます。
「これで、あらかた片付いたか」
俺の目の前には、幾十にも積み重なったバムスターやらモールモッドやらの屍の山が築かれている。もっとも、トリオン兵は機械に近いから「屍」というよりも「残骸」という表現が正しいかもしれないが。
南部から警戒区域外に足を踏み出そうとしたトリオン兵は、俺の弧月が片っ端から一掃した。視界を覆い尽くすほどに進撃していたトリオン兵も、所詮はただの雑兵だ。3、4年前の俺ならともかく──今の俺を倒すには至らない。数の力で押し切りたいのなら、せめて最低限の連携を学び直してからかかってきてほしいものだ。
(しかし、宇佐美の『やしゃまるシリーズ』との訓練がここで活きるとはな……)
……「やしゃまるシリーズ」とは、宇佐美が作ったモールモッドの軍団のことだ。なんでそんな名前になったのかは知らない。聞いてもはぐらかされた。
ちなみにシリーズは揃いも揃って曲者揃いだ。なんかやたらギラギラしていて目に悪い「やしゃまるゴールド」を筆頭に、必要以上にカサカサ動いて台所の黒い奴を想起させる「やしゃまるブラック」、戦場だととにかく目立って仕方ない「やしゃまるピンク」……。
他にもいろいろあったが、特にインパクトが強かったのはこのあたりか。
とはいえ、ネーミングはともかくいい訓練相手にはなったのだ。特にゴールド。動きは鈍重だったが、その防御力とパワーは驚異的だった。試しに一度攻撃を受けてみたのだが、爪の一撃で2枚重ねの集中シールドをかち割られた。反射的に回避行動取ってなかったらそのまま死んでいたな。
そんなヤバい代物とは知らずに「50体出してくれ」と注文したのが理由で、実質全方位から防御不能の斬撃が襲ってくるという地獄絵図が出来上がった。自業自得とはいえ、内心「『風刃』を相手にしてるんじゃないんだよ」と思ってしまったのは内緒だ。
しかしその地獄絵図を乗り越えたからか、俺は今まで以上に的確にトリオン兵の急所を破壊することができるようになった。ついでに、忍田さん直伝の旋空弧月の精度も多少上げることができた。おかげで警戒区域を突破しようとしていたトリオン兵の群れを殲滅するのに3分とかからなかった。死の恐怖に怯えることなく、何時間でも特訓を続けられる。これは向こうの国家にはまずない利点だ。
(しかし、ここからどうするか……)
通信を聞く限り、状況は芳しくない。玉狛からは南部より南西部の方が近いのだが、一番警戒区域を突破される可能性の高かった南側から解決した。プライオリティー、というやつだ。しかし俺が南部の敵を対処しているうちに、南西部も突破されそうになっているという。そして南西部には、空閑と三雲がいる。順当に行くなら、このまま南西部のトリオン兵を切り刻みに行くべきだろう。
──独断で動いても何も言われないとは思うが、一応判断を仰ぐに越したことはない。
「南は片付きました。しばらくはやり過ごせるはずです」
『そうか、ご苦労だった』
「俺は、このまま南西部に行きます。南西部も突破されかかってるようなので」
『ああ、頼んだぞ』
「了解」
忍田さんからのお墨付きももらえた以上、止まる理由はない。俺はグラスホッパーを駆使しながら高速で警戒区域の南西、その端へと向かっていく。
道中で進撃しているバムスターやらバンダーやらの雑魚を行き掛けの駄賃として斬り倒しつつ、屋根伝いに警戒区域を駆け抜ける。
(こんな大軍でこっちの世界に押し寄せてくるなんて、アフトクラトルは何を考えてるんだ?)
俺の頭の中に、そんな疑問が浮かぶ。
──ここまでの情報で、侵攻してきたのがアフトクラトルだということはほぼ確定している。レプリカはキオンとアフトクラトルの違いを「人型
1年半ほど前に巻き込まれた戦争の中で1度だけラービットと相対したことがあるが、ラービットは「硬い」・「重い」・「強い」の3拍子揃った凶悪なトリオン兵だ。装甲が硬すぎて普通の攻撃はだいたい通らないし、一撃一撃が他のトリオン兵とは比べ物にならないほど重い。単純な腕の一撃すら、直撃を貰えば致命傷とまではいかなくともとてつもない衝撃とともに数十m近くぶっ飛ぶことになる。現に通信によれば、東隊の奥寺とかいうやつは腕の直撃を喰らって砲弾よろしく民家を10軒ほど貫通したらしいしな。
何よりラービットは対人戦闘を想定されているためか、おおよそ人型と言える形状をしている。そのため汎用性が高く、強い。昔俺が使っていたトリガーの出力が今より高くなかったのと完全に初見だったというのもあるが、図体にそぐわぬ俊敏さと一撃で大岩を粉砕するレベルの怪力には手こずらされた記憶がある。
話を聞く限り、アフトはそんな化け物をすでに6体以上放出しているようだ。ここまで出し惜しみしないということは、ラービットの「卵」を相当数用意してきたのだろう。確か俺の記憶が正しければ、ラービットは1体でイルガー3~4体分、モールモッド換算で20体以上という並の国家だと正気を疑うレベルのトリオンを注ぎこんで作ってたはずだ。そんなラービットを確実に単騎で仕留められるのは、イルガーを真っ二つにできる俺か太刀川さん、あとはフルパワーの小南や本気を出した迅くらいのものだろう。というか、単騎攻略するなら最低でも迅や小南レベルの戦闘力が無いと話にならない。純粋な1対1なら米屋とかでもやれそうではあるが。
しかし、ラービットを2桁単位でこっちの世界に送り込むのは些か過剰戦力な気もする。確かにボーダーにもイルガーを真っ二つにできたり、部隊単位なら
思案を巡らせていたその時、宇佐美から通信が入る。
『遼河さん! 南西地区、突破されるよ!』
「間に合わないか……! 誰か近くにいないのか?」
『いま、木虎ちゃんと修くんが向かってる!』
「木虎が?」
……こいつは意外だ。プライドの塊の木虎が三雲と手を組むことはないと思っていたんだが。いや、それが木虎の「己を顧みた」ことの結果なのかもしれない。だとすれば、あいつにも少しはいい変化の兆しがあるということなのだろう。
そう思った次の瞬間、俺の視界の数百メートル先で黒い煙が上がる。どうやら、何者かが戦闘を始めたらしい。
「急ぐか……!」
グラスホッパーを全力で踏みつけ、さらに加速する。
数十秒かけて現場に到着した俺が目撃したのは、ブースターを用いて飛翔するラービットだった。
(あんなデカブツが飛ぶのか……?)
ただでさえやたら硬い外骨格と腕1本で岩を軽く粉砕するレベルの超怪力を持ってる時点で厄介なのに、上空まで好き放題飛ばれたらいよいよ手が付けられない。
だが、急接近していた俺とラービットの目視距離はおおよそ30m。もう斬れない距離ではない。むしろ──。
「──旋空弧月」
──これ以上なく、当てやすい。
音すら置き去りにするかのような勢いで放たれた一刀は、情け容赦なくラービットの胴体を真っ二つにする。普通の旋空弧月は15m程度がデフォルトなのだが、俺の旋空弧月は剣速の関係上30m程度なら余裕で出せる。そして先端が威力最大になる旋空弧月の仕様も重なれば、イルガーだろうとラービットだろうと両断できる。
上半身と下半身が泣き別れとなったラービットの残骸は重力に従って墜落し、そのまま完全に沈黙した。前に戦った時にはやたら硬かった気がするのだが、今回は呆気なく斬れてしまった。俺が成長しているのか、はたまたトリガーの能力が上がったからか。前者だと信じたいものだが。
(拍子抜けだな。10体となれば分からないが、これなら同時に7体くらいは相手取っても余裕か)
「こちら月城、新型と思われる敵を撃破」
本部への報告を済ませつつ、静かに着地する。見ると、千佳と三雲が一連の戦闘を見届けていた。その隣では、木虎が呆然としている。
……どうやら意図していなかったとはいえ、獲物を横取りする形になってしまったらしい。
「悪いな、木虎。掻っ攫わせてもらった」
「い、いえ。おかげで被害が出ずに済みました」
俺の謝罪で再起動した木虎は、素直に感謝を述べてくる。その目に、獲物を横取りされたという悔しさは見えなかった。
(へえ、成長してるみたいだな)
イルガーの時は、反骨心剥き出しの視線をこちらに向けてきていたものだが。どうやら、「己を顧みたか」というあの時の質問の答えに嘘はなかったらしい。
そんなふうに感心していると、三雲が俺の下に駆け寄ってくる。
「遼河さん!」
「三雲か。状況は?」
「C級が中心になって、避難誘導をしてます。本部長に無理を言って、ぼくも援護に」
「そうか。なら、このまま避難誘導を──」
だが俺がその言葉を言い切る前に、異変が起こった。
門から、4体ものラービットが姿を現す。しかも、俺たちと木虎たちを分断する形で。狙って開かれたとしか思えない。一応配置的には俺が2体倒して、木虎が1体倒して、三雲がどうにか1体止めることができれば対処は間に合うだろう。
俺は突撃してきたラービットを1体、カウンター気味に振るった旋空弧月で瞬殺する。それと同時に、木虎が何かに気づいたように叫んだ。
「早く逃げなさい! こいつらの狙いは──」
その次の言葉が、俺以外の全員を動揺させる。
「C級隊員よ!!」
木虎がそう叫ぶのと、視界の端で木虎が地面からせり出してきた「何か」に貫かれるのはほぼ同時だった。俺が剣を抜こうとした次の瞬間には、トリオン兵とは思えぬ速度でラービットは木虎を鷲掴みにする。
(──捕らえる気か!?)
直感的に木虎が捕縛されると察知した俺の行動は、自分でも驚く程に迷いがなく、それでいて早かった。
木虎を掴んだラービットに旋空弧月を放ち、木虎もろともその巨体を横一文字に切り裂く。その勢いのまま後ろへ振り向き、迫ってきていたもう1体に対して絶え間なく旋空弧月を発動、流れるような動きで脳天から唐竹割りを叩きこんで破壊する。そして視界の端では、三雲がどうにかレイガストでラービットの一撃を受けきっているのが見えた。
《戦闘体活動限界、
トリオン体を真っ二つにされた木虎が戦線離脱する。
……ラービットの馬鹿力を考えれば、一度掴まれてしまった以上自力での脱出はまず100%不可能だ。さらに言えば、あの時木虎は胸に何かを突き刺されていたように見えた。恐らくだが、あのよく分からない触手がラービットに組み込まれた捕獲装置なのだろう。だからこそ、何かが起きる前に叩き斬った。緊急脱出が成立したあたり、どうやら間に合ったらしい。
木虎が無事に緊急脱出したことを確認した俺は、すぐさま嵐山隊のオペレーターである綾辻遥に通信を繋ぐ。
「綾辻、すまない。木虎を斬った。──捕獲される可能性があった以上、あの場で木虎もろとも斬ることしか思いつかなかった」
『いえ。むしろ、お礼を言わせてください。遼河さんがいなかったら、藍ちゃんが捕まっていたかもしれないので……』
「そうか。……なら、『気に病むな』とだけ伝えておいてくれ」
「分かりました」
俺は綾辻の反応に一瞬面喰らった。罵倒ならともかく、お礼を言われる理由などどこにもないというのに。それに緊急事態だったとはいえ、貴重な戦力の1人を有無を言わさず戦線離脱させたのだ。その責任は取らなければならないだろう。
だが通信が終わるや否や、俺は横から凄まじい衝撃を感じた。見ると、千佳がアイビスを最後のラービットに向けてぶっ放したらしい。相変わらず想像を絶する威力だ。C級トリガーのはずが一撃でラービットが半壊している。恐らく正隊員用のアイビスなら消し炭だっただろう。だが、半壊状態になってもなおラービットはアンデッドの如く千佳たちの方へと向かっていく。当然、逃がすはずもない。
半壊したラービットの頭を器用に斬り飛ばす形で旋空弧月を直撃させる。いくらラービットが強かろうと、トリオン体であることには変わりない。弱点の目を斬る以外にも、伝達系を破壊すれば沈黙する。ましてやすでに装甲がボロボロになっているのなら、装甲を断つのは豆腐を切るよりも容易い。頭を斬り飛ばされたラービットは操り糸を失った人形のようにその場に倒れ伏し、二度と起き上がらなかった。
震えて動けない千佳の下へと駆けつける。同じタイミングで三雲も復帰してきた。
「千佳! 無事か!?」
「う、うん……!」
三雲の質問に、千佳は多少体を震わせつつ答える。どうやら精神面はともかく、身体面で見れば千佳に異常はないらしい。その事実に、少しだけ胸をなでおろす。だがここは戦場だ、安堵している暇などない。
すぐさま忍田さんに通信を繋ぎ、現状を報告する。
「忍田さん。新型4体を沈黙させましたが、木虎が捕獲されそうになったので俺が緊急脱出させました。それと、木虎が敵の狙いを見抜きました。狙いはC級隊員だと思われます」
『こちらからも状況は把握している。木虎の件に関しては嵐山隊から報告を受けた。気にする必要はない。東部と南部にも、色違いの新型の出現が確認された』
「……まだ増えるのか。C級の援護、優先した方がいいですかね」
『いや、十分だ。すでにそちらには
その言葉を聞いて、俺は静かに笑みを浮かべる。
忍田さんの言う「ボーダー最強の部隊」というのはA級1位部隊ではなく──俺が誰よりもよく知る部隊なのだから。
「……そういうことなら、遅刻分はしっかり働いてもらわないとな」
俺はそう呟いた後、一旦通信を切ると、三雲たちの方に向き直った。
「三雲、安心しろ。ボーダー最強の部隊が、もうすぐここにやってくる」
「ボーダー最強の、部隊……!?」
「ああ。──お前もよく知ってる、あの3人だ」
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遼河と修がそんな会話をしているのと同時刻。人気のない警戒区域外の道路を、1台のジープが爆走していた。
「あーもう! 完璧に出遅れちゃってるじゃない! なんでこんな遅れなきゃいけないの!?」
「お前を拾ってたからだな」
「なっ!?」
「まあ、そうすね」
後部座席に乗るロングヘアーの少女が文句を言うと、ジープを運転する筋骨隆々の大男ともさっとした髪の美男子がド正論をかます。彼らが遅れた理由はシンプル、運悪くロングヘアーの少女が登校日だったせいで、彼女を回収しなければならなかったからだ。
「で、今回の作戦は?」
「いつも通りだ。小南が暴れて、俺たちがフォローする。それに、今回は遼河もいる。小南、今のあいつに合わせられるか?」
「当然じゃない! あたしと遼河さんが組めば、負けなしよ!」
ロングヘアーの少女──小南桐絵は立ち上がると、自身に満ち溢れた表情で宣言する。
「新型だろうと何だろうと──あたしがズタボロにしてやるわ! トリガー、起動!!」
【戦闘体生成、実体を戦闘体へ換装します】
そのアナウンスとともに、小南の容姿が大きく変わる。腰まで伸びたロングヘアーは、切り揃えられたボブカットに。赤を基調とした服装は、彼女らしからぬ黄緑色へと変化した。
「さあ、戦闘開始よ!!」
小南のその言葉とともに、ジープが警戒区域へと突入する。
──木崎レイジ、烏丸京介、小南桐絵。
ボーダー最強の部隊・「玉狛第1」が、ついに戦場に降り立とうとしていた。
次話以降ご都合展開が発生しますので、先んじて注意喚起させていただきます。
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