ワールドトリガー・Returner from another world   作:もりいぬ

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今回、不慣れな戦闘描写に挑戦した結果非常に文章が乱れております。閲覧の際には広い心をもって読んでいただければと思います。




静を以て暴を制す

 

 ボーダー基地内で、侵入してきたトリガー使いと俺は目線をぶつけ合う。

 

 ……状況は、敵味方どちらも1人。だが敵は(ブラック)トリガー、それも未知の能力を有している。一応先の攻撃の手応えから「身体を液体化している」という仮説を立てたが、まだ合っているかは分からない。

 だが、もし本当に液体化していれば厄介極まりない。斬っても斬っても無意味な敵など、弧月以外の攻撃手段を持たない俺からしてみれば最悪の相性だ。さらに言えば、奴はあの風間さんを倒している。ボーダー随一の洞察力と指揮力、判断力を併せ持つあの風間さんを、だ。つまり、風間さんですら対処できない攻撃手段を持っている可能性が高い。

 敵は黒トリガーである以上、こちらは一瞬の気の緩みも慢心も許されない。俺は、気を最大限まで引き締める。そしてその戦いは、敵の先制攻撃で幕を開けた。

 

泥の王(ボルボロス)!!」

 

 目の前の男の身体から分裂するように飛び出てきた黒い棘のようなものが、こちらを串刺しにしようと襲い掛かる。しかし見たところ視認不能級の圧倒的な速度を持つわけでも、同じ(ブラック)トリガーでしか斬れないような理不尽な硬さを誇っているわけでもない。

 

(見えているのなら──()()()()()

 

 即座に弧月を抜刀、勢いのままに、されど正確に黒い刃を切り裂いていく。

 ……どうやら予想は当たったらしい。敵の攻撃は、こちらのブレードが通用しないほど硬いわけではない。ついでとばかりに、俺は敵の身体に旋空弧月を1発叩きこむ。当然のごとく手応えはなかったが、そこから「ボルボロス」というトリガーの性質もある程度理解できた。

 

(奴は身体を液体化している。だから、手を斬ろうが足を削ごうが意味がない。それでもトリオン供給器官と伝達系はどこかにあるはずだ)

 

 トリガーを介したトリオン体である以上、トリオン供給器官と伝達系が存在しないなんてことはあり得ない。第二波の攻撃を切り裂きながら、ここまでの交戦で手に入れた敵の情報を頭の中で精査していく。

 

(……敵のトリオン体は液体、つまり不定形。形が1つに定まっていない以上、首やら胸に一撃を入れて『はい、おしまい』とはならないだろう。何なら首は飾りまである。最悪全身をバラバラにされようと、トリオン供給器官と伝達系という弱点さえ無事ならすぐに全身を修復できる可能性が高い)

 

 これは字面以上に面倒だ。「全部の分身を同時に斬らないと死なないトリガー」は見たことがあるが、「弱点以外に攻撃が通らないトリガー」というのは初めて戦う相手だ。(ブラック)トリガーであることを加味しても、ハッキリ言って正面からまともに打ち合うのは得策ではない。むしろ返り討ちにされる可能性の方が高いだろう。「倒してもいい」とは言われたが、あのトリガー使いを倒せるビジョンが今の俺には見えない。

 つまり俺が取るべき行動は──。

 

「どうした? あれだけこっちを見下してた割には勢いがないぞ」

「あぁん!?」

「凄むだけか? それならお前の評価は三流以下だな」

「──この、雑魚ガキがぁぁ!!」

 

 目の前の男は怒り狂ったような声を上げながら、再び攻撃を仕掛けてくる。だがやはり、見えている攻撃だ。物量こそ圧倒的だが、それでやすやすと倒されてやるほど俺の剣は甘くない。

 

(見えてさえいれば、余裕はある)

 

 再び放たれた無数の刃を切り裂いていく。もちろん、隙を見計らって旋空弧月を撃ちこむことも忘れない。(ブラック)トリガー相手に一度でも守勢に回れば最後、その瞬間から絶対的な不利相性を押し付けられることになる。なにせ火力も理不尽さも、ノーマルトリガーとは文字通り格が違うのだから。

 だからこそ、(ブラック)トリガー相手には攻め気を見せることが必要になる。さらに言えば、今の俺は「負けない戦い」を意識している。どこかの達人が言っていたが、「“勝つ”戦いではなく“負けない”戦いを意識すれば、そう簡単に負けてしまうことはない」という話だ。今の俺は「目の前の相手に勝つ」ことを考えるのではなく、「どうすればこの相手から勝ちを手繰り寄せられるか」を第一に考えている。つまるところ、探り合いだ。単純な力押しでは確実に負ける以上、できることは少しでも多く勝ちにつながる情報を探ること。

 

 しかし、1人では限界があるというのも事実。現に俺は一連の攻防でもう既に12~13発の旋空弧月を撃っているのだが、まともに直撃したためしがない。正確にはすべて命中してはいるのだが、手応えらしい手応えが何一つ得られていない。

 対して向こうは、攻撃パターンをどんどん変えてくる。物量重視の大棘、質量重視の細かい棘、地面から「もぐら爪(モールクロー)」よろしく這い出てくるブレード……。その攻撃の発展性と応用力の高さは、さすがに(ブラック)トリガーというべきか。だが向こうも向こうでこちらに明確なダメージを与えられていないからか、少しずつではあるが狙いが雑になってきている。

 

(見た目通り、苛つきやすい性格らしいな)

 

 俺が奴と対峙した時、最初に抱いた印象は「粗暴そうな男」だった。

 般若の面を想起させるような人相の悪さに加えて、墨でも溢したかの如く真っ黒な結膜、そして充血したような赤い瞳を持つ右目が異様さを放っていた。明らかに普通ではない。そして開口一番に言い放っていた、「玄界(ミデン)の猿」という発言。わざわざご丁寧にこちらに聞こえるように言ってくれたおかげで、人となりはある程度理解できた。

 

 

 ──あれは、無意識だろうとそうでなかろうと人を見下す超が付くほどの傲慢タイプだ。

 そして、そういう相手には……。

 

「手ぬるいな。それで終わりか?」

「──猿が……調子に乗りやがって!!」

 

 やはり、挑発(これ)が効く。

 吼え声とともに地面から、壁から、文字通り四方八方から押し寄せてくる刃を叩き斬る。全方位からの攻撃ではあるが、同時というわけではない。ならば引き延ばされた時間の中で対応する順番に目星をつけ、その通りに対応するパターンゲーだ。

 この攻撃パターンは初めて見るが、ある程度どういう原理かは何となく想像がつく。恐らく「液体化」と「固体化」という2つの性質を利用して、地面の隙間に潜り込ませたブレードを一気に固体化させて攻撃しているのだろう。原理的にはもぐら爪(モールクロー)が近いが、速度も範囲も威力も桁外れに高い。しかし、対処できない程でもない。なにせ「ありとあらゆる方向からの斬撃」に関しては、すでに前例があるのだから。

 とはいえ、今の攻撃には一瞬冷や汗をかいたのもまた事実。

 

(……今のは『風刃』と戦ってなきゃ死んでたな)

 

 想起したのは、迅の使う「風刃」から放たれる包囲斬撃。「伝播できるものさえあればどこにでも斬撃を叩きこめる」というその性質上、四方を壁で包囲されている閉所においては文字通りのオールレンジ攻撃ができる。しかも完全に無拍子かつ、1秒の乱れもない同時攻撃。伝播させた斬撃が壁を破壊したりひび割れを作ったりすることもないうえにいつ攻撃が来るかは分からないので閉所に追い込まれた時点で実質的に負けが確定する。正直に言おう、対処不可能だ。

 

 それと比べれば、目の前のトリガー使いの潜伏攻撃はまだやりようがある。今までの攻防で、通路にはヒビが入っていた。あとはヒビに液体化させたブレードを忍ばせて這い寄らせ、死角から一気に引き裂く腹積もりだったんだろう。だがよく目を凝らすとヒビが不自然に大きくなっていたり、今まで割れていなかった部分が割れていたりした。だからこそ、ある程度攻撃手段を絞り込むことができたわけだ。「視野を広く持て」とはよく言われたものだが、黒トリガーを相手にしてそこまで冷静でいられる自分の神経にも驚いている。とはいえ、何度もあれをやられると防げる気がしないが。

 

 ……だが、これでハッキリした。「傲慢」の2文字が具現化したようなあのトリガー使いには精神攻撃が特効だ。恐らく奴の頭の中は、ストレスで爆発寸前になっていることだろう。だがそうやってイライラを募らせてくれた方がこっちとしてはありがたい。僅かではあるが、確実に攻撃が雑になっている。最初の頃はある程度こちらの急所を狙っていた攻撃も、今はもはや「当たればいい」と言わんばかりの物量特化攻撃だ。

 とはいえ隙ができたところで、こちらに決定打が無いというのもまた事実。その膠着を破ったのは、向こうからだった。

 

「うぜぇんだよこのクソ猿がぁぁ!!!」

 

 ついに我慢の限界を迎えたのか、敵が叫ぶ。その叫びと同時に今までにないほどの物量攻撃が放たれ、通路をズタズタに破壊する。その拍子に近くの部屋の壁がまとめて吹き飛んだ。幸い中に人はいなかったようで、怪我人も死者も出ていない。

 俺自身は上手いこと後退して攻撃を躱したが、さしもの俺も通路全体を破壊するレベルの物量を防げるかと言われれば、「不可能」と答えるしかない。横目に見ると、恐らく通信機器と思わしき機械が跡形も残らず破壊されているのが見えた。……忍田さんからは「手荒くやっていい」と言われてはいるが、ここまで明らかな被害を出したとなると多少の罪悪感を抱いてしまう。

 その時、不意に俺の下に通信が届いた。

 

『月城、聞こえるか?』

 

 その声の主は、他でもない風間さんだった。たぶん、俺が交戦していることを聞きつけたのだろう。

 

(……そういえば、風間さんはコイツにやられたんだったな。なら──)

「聞こえてます。奴についての情報、共有できますか?」

『そのために通信を繋いだ。何かわかったことはあるか?』

「……身体を常に液体化してるせいで斬ろうが突こうがダメージがないことと、硬質化させた刃での攻撃がメインってことくらいです」

『そこまでわかっていれば十分だ』

 

 液体化および固体化のトリガー。どうやらそこに関しては、風間さんも同じ認識を持っていたらしい。

 

『俺も奴の首を斬ったが、直後に再生された』

「じゃあ、その後に反撃されてやられたってことですか」

『……いや、違う。俺は、“見えない攻撃”にやられたんだ』

「──“見えない攻撃”?」

 

 風間さんの語ったその言葉に、俺は疑問を抱く。まもなく、「見えない攻撃」についての詳細が語られた。

 曰く、「接近して攻撃を終えた直後、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そしてその際、原理は不明だが風間さんの体内から敵のトリオン反応が検出されたという。そしてその攻撃を受けたのは、風間さんだけだったとも。歌川と菊地原は、見えない攻撃を警戒した風間さんの指示によって一時撤退させているらしい。

 話を最後まで聴き終えた俺は、思考を加速させた。

 

(身体の内部からトリオン反応? つまり、体内からブレードを生やされたってことか……? だがどうやって?)

 

 何を言っているかは理解している。だが、そのからくりがどうにも理解できない。何をどうしたら体内からの攻撃という不条理を実現できるのだろうか。

 

(奴のトリオン体は液体だ。飲みこませて体内で固体化させたというのなら話は分かるが……風間さんがそんな油断をするとは思えない。そもそも、わざわざ敵のトリオン体を飲み込むなんて行為をする必要性がまるでない。つまり、それ以外の手段で体内にブレードを生やしたということ。そんなの、固体化と液体化だけでできるわけがない。じゃあなんだ? 考えろ、考えろ……)

 

 だが、相手はこちらが考えるのを待ってはくれない。とめどなく迫る攻撃をいなしながら、ひたすら思考する。敵のトリガーの正体を看破することに思考を割いているので、今は剣での相殺より回避重視だ。ずっとつかず離れずの距離を保っていたので、回避までの猶予はそれなりにある。多少距離を離さざるを得ないが、すでに職員の避難は完了しているはずだから問題はない。あとは、勝ち筋を探るだけ。

 お返しとばかりに僅かに近付いて旋空弧月を叩きこんだが、液体化しているせいで効果がない。だがそこで、俺の脳内である1つの考えがスパークする。

 

(待てよ? ……液体と、固体? ──まさか!?)

 

 俺は、ある1つの結論に辿り着く。

 だが同時に、俺は今まで薄氷の上を歩くかの如く綱渡りをしていたことに気付かされた。……もしこの仮説が合っていれば、俺は今まで死と隣り合わせだったことになる。俺は風間さんに確認を取ることに決めた。

 

「風間さん」

『どうした?』

「さっき言ってた見えない攻撃……菊地原は受けてないんですよね?」

『ああ、そうだ』

「なら、その攻撃を菊地原は()()()()()()()()?」

 

 風間さんは俺の質問に少しだけ考えるように沈黙した後、答えを返した。

 

『──いや、察知していなかっただろう。もし出来ていれば、何らかの警告をしていたはずだ』

「……!」

 

 ……これで、ハッキリした。原理さえわかってしまえば、簡単な話だった。奴のトリガーの能力は、極めて単純でありながら凶悪極まりない能力だ。

 

「……分かりましたよ。奴のトリガーの能力が」

『聞かせてくれ』

「あのトリガーの能力は──気体・固体・液体への『()()()()』……!」

『──!? そうか……!』

 

 風間さんも、俺の言いたいことを理解できたらしい。

 確実に合っている保証はないが、ほぼ間違いないだろう。身体を常に液体化させることで的を絞らせず、隙間さえあればどこにでも入り込める「液体化」、その液体化させたブレードを一気に固体化させることで圧倒的な物量展開および高い奇襲性能を実現する「固体化」。そして、見えない攻撃の正体である「気体化」。

 これは、小学校5年生で習う理科の問題だ。物質の状態変化──「固体」にも「液体」にもなれるのなら、もう1つの状態……「気体」になれないわけがない。そして気体になれるのならば、風間さんの受けた「見えない攻撃」の説明も完璧にできる。

 

 ……菊地原が察知できなかったのも無理はない。──空気は目に見えなければ、音もない。音が一切ない以上、どんなに耳の良い菊地原でも予測するのは不可能だ。

 風間さんだけが攻撃を受けたのは、気化させたトリオンを首を斬ったタイミングで体内に侵入させていたから。あとは、体内に侵入させたブレードを固体化させて内側から引き裂くだけで「不可視の即死攻撃」が簡単に出来上がる。接近していなかった歌川と菊地原は、気化攻撃の範囲外だったから攻撃されなかったというわけだ。

 

「……」

 

 自分の中での考察が確信に至ったというのに、俺の心はまったくと言っていいほど明るくならなかった。

 ……攻撃手(アタッカー)とは相性が悪いとかそういう問題ではない。まともに正面から戦えば勝ち目はないと判断していたが、そんなレベルではなかった。

 そもそも勝負にすらならない。近距離戦を挑もうものなら、気体化したトリオンに侵入されて内側からズタズタにされて終了する。実際風間さんは、それであっけなくやられた。つまるところ様子見のつもりの戦闘スタイルが、目の前の敵と戦う上では一番安全かつ有効な戦い方だったわけだ。今の今まで射程特化の旋空弧月主体の時間稼ぎの戦法で戦ってきたが、まさかそれが功を奏すとは思っていなかった。

 

「相変わらず、的確なアドバイスを残していくなあいつは……」

 

 そうして俺はあの日、ボーダーの屋上で迅と話した際に言われたことをようやく理解した。

 

 

 ──────────

 

「先に言っとくけど、今回の敵はかなりやばいのが来る。下手すりゃ、おれらでもどうしようもないレベルの敵だ」

「……俺でもダメか?」

「うん、無理。というかここだけの話──遼河さんとレイジさんが揃って真っ二つにされる未来が見えてる」

「それは──確定なのか?」

「うーん、確定ってわけじゃないけど……ただ1つ言えるのは、最悪のパターンだと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……迅が何気なく宣告したその未来に、遼河は戦慄する。自分とレイジが真っ二つにされるということは、間違いなくトリガー使いが現れる。しかも自分含めた玉狛支部のメンバーを全滅させ得るレベルの敵など、(ブラック)トリガーレベルでもなければあり得ない。

 

「で、ここからが本題。……まだ確定じゃないけど、ボーダーの人間が死にまくる未来がある」

「なんでボーダーの人間が? 隊員には緊急脱出(ベイルアウト)があるはずじゃ──いや、まさか」

「そのまさかだよ、遼河さん。死ぬのは、隊員じゃなくて職員の人」

「……無抵抗の人間を殺すのに、何の躊躇いもないってわけか」

 

 いつの間にか、遼河は握りこぶしを作っていた。

 遼河は近界の戦争を通して、家族を殺された者、親友を攫われた者、愛した人を喪った者……形は違えど、あらゆる死別を間近で見てきた。だからこそ、遼河は人の死を黙って見ていることを由としない。ましてやそれが無抵抗の人間ともなればなおさらだ。

 

「俺は何をすればいい」

「話が早くて助かるよ。……遼河さんに頼みたいのは、まさにそれなんだ。もしボーダーに敵が入って来たら、そいつを足止めしてほしい」

「足止め? 倒すんじゃないのか?」

「足止めしてくれるだけでも結構でかいんだよね。倒すかどうかは、遼河さん次第ってとこ。でも、これだけは言っとく。──遼河さんは、結構多いパターンで負けてる」

「そうか……」

 

 いつになく暗いトーンで話す迅に、遼河は空を仰ぐ。仰がずにはいられなかった。「結構多いパターンで負ける」ということは、自分ですら時間稼ぎにしかならないレベルの敵が来る可能性が高いということ。一応言葉のニュアンス的に勝てはするのかもしれないが、可能性として相当低いということは考えるまでもなかった。

 すると、迅が口を開いた。

 

「だから、ここでアドバイスだ。──“相手を倒すことは、考えなくていい”」

「……それは、時間稼ぎに徹しろ……ってことか?」

「んー、まぁそういう解釈でも間違ってないかな」

「一応、覚えておく」

 

 そのまま2人の間に、数分間の沈黙が流れる。そして情報を整理しきった遼河は、迅にたった1つだけ質問をしたのだった。

 

「……勝算は?」

 

 

 ──────────

 

 そして、今に至る。ここまで引き気味に戦ってきたという事実が、俺を生かしていた。

 

(まったく、よく今の今まで生きてたな)

 

 ──トリガーの性質は割れた。あとは、奴をどう倒すかだ。

 首を斬ろうが何をしようが死なない以上、どこにあるか分からないトリオン供給器官もしくは伝達脳を発見して破壊する以外に攻略法はない。

 だが、ここで問題が生じる。俺の攻撃手段は旋空弧月くらいしかないため、俺の攻撃は「点と線」でしかない。そんなもので弱点の位置を手当たり次第調べようものならまず終わらない。一応奴の攻撃を躱すことは造作もないが、攻めなければ勝てない。

 つまるところ、向こうは俺が地上にいる限り攻撃を当てられない。だが俺の攻撃も向こうにはダメージが通らない。文字通りの千日手だ。

 

(これはいよいよ、持久戦覚悟必至か)

 

 このままではどっちが先にトリオン体の限界を迎えるかの泥仕合になる、そう思ったまさにその瞬間だった。

 

(!)

「あぁん?」

 

 上から、銃弾の雨嵐が敵に直撃した。弱点に当たったわけではないのでダメージこそなかったが、敵の足が止まる。直ちに旋空弧月を2発撃ちこむ。

 ──命中はしたが、やはり弱点には当たっていない。

 

「ったく、復帰早々に面倒くせーのが来やがったな!」

「諏訪隊……!」

 

 姿を現したのは、「B級10位」こと諏訪隊だった。どうやら言葉から察するに、キューブ化されていたのは諏訪さんだったらしい。

 

(だが、B級じゃ(ブラック)トリガーの相手には不足過ぎる)

 

 俺のその推測通り、奴はいつまでたっても倒せない俺を放って蹂躙できそうな諏訪隊の方に狙いを定めたようだ。身体を液体化し、水鉄砲の如く自らを打ち出すことで諏訪隊へと急接近する。

 

「さっきから誰も殺れなくてイライラしてたところだぜ!」

 

 ──俺は一拍遅れて(ブラック)トリガーを追いかける。敵の攻撃を受け、諏訪さんの右腕が吹き飛んだのが見えた。このままでは諏訪隊はなすすべもなく全滅する。

 だが、俺は諏訪隊の面々が逃げ込んだ先を見て、諏訪隊が何をしようとしているのかを察知した。

 

(そうか! あれなら……!)

 

 諏訪隊と(ブラック)トリガーが完全に部屋に入ると同時に、部屋のドアが閉まり始める。俺はそこに間一髪で飛び込むと、あいさつ代わりに首を刎ねた。当然斬ってもダメージはないが、嫌がらせにはなる。

 そしてその嫌がらせの狙い通り、奴のヘイトはこちらに向いた。

 

「まだいやがったかこのクソ雑魚が!」

 

 殺意を乗せた黒い刃が俺に容赦なく迫る。俺という厄介な存在を捕捉したからか、殺意しか感じられない一撃だった。しかも今までとは違い空中である以上、身を捩ろうが躱しようがない。グラスホッパーで逃げることもできるが、俺はあえてそうしなかった。俺は刃の直撃を受ける。身体を貫かれる直前、奴の勝ち誇ったような表情が見えた。

 

 

 

 

 ──だが、甘い。

 

『仮想戦闘モード、オン!!』

 

 貫かれた部位から、俺の身体が復活していく。

 貫かれた腹が、吹き飛ばされた腕が、消滅した足が元通りに修復される。俺は空中で身を回転させて着地し、ここぞとばかりに嘲笑する。

 

「まさか、『殺った』なんて思ったか?」

 

 その一言に、黒トリガー使いの表情が歪む。俺からすればいい気味だ。俺は通信で諏訪さんにコンタクトを取る。

 

『考えましたね諏訪さん。仮想戦闘モードなら、奴の能力を気にしないで戦える』

『遊んでやるにゃちょうどいい、ってな。で、俺らはどーすりゃいい?』

『俺が指示するんですか?』

『そりゃそうだろ。あのプルプルスライム野郎の能力知ってんのは、この場じゃお前しかいねーからな』

 

 そう言われると反論できない。

 ……しかしよく考えると、諏訪さんの武器はまさに「それ向き」じゃないだろうか。となれば、利用しない手はない。

 

『諏訪さんは、とにかく奴の身体に両攻撃(フルアタック)を撃ちこみ続けてください。適当でいいです』

『適当?』

『奴の弱点を探るには、点と線の攻撃じゃ効果がない。()の攻撃が必要です。諏訪さんの武器は散弾銃。面の攻撃を叩きこむには間違いなく最適解なんです』

『そういうことなら、やるっきゃねーなぁ!』

『笹森は向かってくる攻撃を捌くことを最優先に考えろ。奴の周りを動き回って、集中力を削ぐんだ。死ぬ心配はない、とにかく動き回れ』

『了解です!』

『奴の注意は俺が引く。やられる心配がないなら──近距離戦も問題なく出来る』

 

 そうして作戦が決まったところで、俺は勝利のために重要になるであろうもう1人に通信を繋ぐ。

 

『歌歩、聞こえてるな?』

『うん』

『奴のトリオン体と攻撃の解析を頼む。ちょっとでも動きがあったら、すぐに知らせてくれ』

『任せて』

 

 歌歩なら、敵の解析だって難なくこなせるだろう。トリガーの能力を解析できるだけでも、勝率は高まる。

 そしてそのまま俺は、もう1つの支援を要請する。

 

『それと──菊地原は近くにいるな?』

『うん。隊長の指示で、カメレオンを使って隠れてるよ』

『なら、聴覚の共有を頼む。そろそろこっちも、反撃に転じていい頃合いだ』

『わかった。──聴覚情報を共有!』

 

 その瞬間、周囲から聞こえる音という名の情報量が何倍にも膨れ上がる。

 なるほど、これが菊地原にとっての世界というわけだ。歌川が「酔う」というのも納得できる。普通の人間ならこの圧倒的すぎる情報の波にやられて頭が持たないだろう。だが、飼いならせばこっちのものだ。

 ──今の俺に、死角はない。

 

(奴の能力はすでに割れた。あとは弱点さえ見つければ、勝利は目の前)

 

 ここで、絶対に仕留める。

 その決意とともに俺は弧月を強く握りしめ、目の前のスライム男にその切先を突きつけた。

 

「……さあ、第2ラウンドと行こうか?」

 

 





新たなアンケートを設けております。物語の本筋にはかかわらないので、お気軽にお答えください。

オリ主たちの元ネタの考察をしている方がいらっしゃると知り、大変嬉しく思っています。活動報告の方にヒントを掲載しましたので、宜しければご覧ください。
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