ワールドトリガー・Returner from another world   作:もりいぬ

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読者の皆さま、大変お久しぶりです。
現実での多忙、通院、小説そのものの難産など諸々の事情があり実に1か月と20日近く本編に進展がありませんでしたが、ようやく少しだけ進みます。
更新ペースは少しずつ元に戻していければと思いますので、応援のほどよろしくお願いいたします。




先の見えぬ戦い

 遼河が本部へ向かうべく一時離脱してからというもの、戦況はめまぐるしく動いていた。

 

 まず、遼河がボーダー本部に到着した直後に出水・米屋・緑川を中心とした合同部隊が敵のトリガー使い・ランバネインを撃破した。同時にもう1人の(ブラック)トリガー使いの存在が確認され、その情報が現在防衛に当たっている隊員たちに共有されることとなった。

 

 一方遼河はというと、現在基地に侵入してきたトリガー使い・エネドラを迎撃していた。身体が液体であるがゆえに斬ろうが突こうがダメージが通らないという厄介な相手にさしもの遼河も劣勢を強いられていたが、駆けつけてきた諏訪隊の起死回生の策によりエネドラを訓練室へと閉じ込めることに成功。現在は仮想戦闘モード下による両者無敵状態の泥仕合が始まろうとしていた。

 

 本部基地のすぐ側ではそれまでトリオン兵を掃討していた迅と遊真が合流し、修たちの下へと猛スピードで向かっている。千佳と修もまた、京介の先導のもと迅たちとの合流および基地への退避を急いでいた。

 

 そして、玉狛第1の隊長・木崎レイジとアフトクラトルの兵士であるヴィザ・ヒュース両陣営が戦いを繰り広げる放棄地帯の端。ここでもまた、戦局が動こうとしていた。

 

蝶の楯(ランビリス)

 

 角付きの青年──ヒュースが射出した磁力の結晶を、レイジが巧みにかわす。

 応戦するべくレイジも建物越しにハウンドを曲射で放ち、ヒュースの頭上から攻撃を仕掛ける。さらに追い討ちでアステロイドの弾幕を展開することで戦線離脱の隙を与えず、ヒュースを確実に足止めしていた。

 

【防がれた。やはり守りが堅いな】

 

 その戦況を上から俯瞰する形で分析していた小型レプリカが、冷静に状況をレイジに伝える。レイジは敵のトリオン反応をレーダーで追いつつ、自らに言い聞かせるように声を発した。

 

「無理に撃破に固執する必要はない。俺の仕事は、あくまでC級が逃げるまでの時間を稼ぐことだ。やつらは、ここに釘付けにする」

 

 レイジはそう語ると再び建物越しにハウンドを放ち、ヒュースの動線を誘導する。ヒュースはまさにレイジが狙ったとおりの方向へと退避し、ものの見事にトラップとして張り巡らせたワイヤーに引っかかる。ヒュースの動きに反応して展開されたワイヤーの先端はキューブとしてあらかじめ仕掛けていたメテオラに当たり、刺激を受けたメテオラはその場で大爆発を起こす。

 あわやヒュースは爆発により身体を消し飛ばされるところだったが、その直前でトリガー使いの老人──ヴィザに救出された。ヴィザは周囲を注意深く見回すと、ヒュースに警戒を促す。

 

「ヒュース殿、お気をつけて。いつの間にか、あちらこちらに鋼線が張り巡らされております。それも、こうした見えている罠の陰に本命の罠を隠しているとみるべきでしょう。地の利も向こうにある以上、持久戦に持ち込まれればなかなかに厄介ですな。──どうやらお相手は、本気で我々2人をここで足止めするつもりのようだ」

 

 地の利を手に入れた防衛、あるいは嫌がらせ特化の敵ほど面倒な相手はいない。百戦錬磨の猛者であるヴィザは、それをこの場の誰よりも理解していた。同時に──そういう敵を相手取るには、()()()()()()()()()()()()()()()()ことも。

 ヴィザはレイジを視界に捉えると、ヒュースに向けて自らの意思を伝える。

 

「この相手は、私が斬りましょう」

「……!? いや、やつは自分が──」

「この相手は、我々を倒すことを目的としていません。守りに徹し、我々2人を足止めすることに専念している。生半可なことでは崩せない。……私が見る限り、この辺りの人間は皆避難したようですからな。多少派手にやっても、うっかり雛鳥を傷つけることはありますまい」

「……分かりました。援護します」

 

 ヴィザは静かに頷くと、静かに杖の先端を地面につけた。

 

玄界(ミデン)の戦士よ。貴方の戦いに敬意を表して──私の全霊でお相手しよう」

 

 その瞬間、ヴィザの身に纏う雰囲気が全く別物になる。それは、遼河があの鍔迫り合いで察知した「闘気」そのもの。その闘気を感じたのか、レプリカはすぐさまレイジに警告する。

 

【──!? 伏せろ!!】

 

 レイジがレプリカの警告を受けて伏せるのと、ヴィザの持つトリガーがその全貌を見せたのはほぼ同時だった。

 

 

 

「──星の杖(オルガノン)

 

 

 

 瞬間、ヴィザを中心とした四方八方の建物が、道路が、電柱が、見境なく吹き飛んだ。比喩表現でも何でもなく、本当の意味で。

 低くなった目線の中、レイジは敵が今使用したトリガーの威力にただただ圧倒されるほかなかった。自らの背後からも、建物が崩れ落ちる音が聞こえたからだ。それはあまりにも疾く、あまりにも広く、あまりにも隙の無い一撃。レプリカがいなければ、今頃反応すら許されぬまま木っ端微塵に切り刻まれていただろうということは想像に難くなかった。

 これほどまでの威力、範囲、速度を両立できるノーマルトリガーなど、存在するはずがない。存在してはならない。

 つまりその正体は──ただ1つ。

 

(ブラック)トリガー、か……!?」

 

 崩落する建物と立ち込める土煙の中で、レプリカが自らのデータベースから今しがたヴィザの使用したトリガーの情報を導き出す。

 

【『星の杖(オルガノン)』……!? ユーゴの遺した記録によれば、あれはアフトクラトルの国宝に指定されている(ブラック)トリガーだ!】

 

 これで、確認された(ブラック)トリガー使いは本部で現在遼河と交戦している1人、B級合同部隊の前に姿を現した1人、そしてアフトクラトルの国宝「星の杖(オルガノン)」を振るう1人の計3人となった。

 そしてそれは、遼河がかつて語った「最悪のケース」そのもの。同時にその事実は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とレプリカに推測させるには十分な材料だった。

 しかし、敵は思考する時間を与えてはくれない。土煙が晴れる間もなく、その間から磁力のトリガーが撃ちこまれる。レイジはそれを盾として展開したレイガストで防いだが──直後、レイジの身体が強烈に引っ張られた。

 

(磁力……!?)

 

 見ると、左腕につけられていた磁力のトリガーと地面に着弾した磁力のトリガーが引き合い、レイジの身体を引っ張っていた。磁力によって無理矢理身体の重心を変えられたことで、レイジの体勢が崩れる。ヴィザが構えたのを見たレイジは咄嗟に磁力のトリガーをつけられた左腕を切断、すぐさま防御の体勢に入るが──。

 

「──生憎と。こちらの方が、一手速い

 

 ──遅かった。

 レイガストの盾をすり抜けた一撃によって、レイジの上半身と下半身が切り離される。その一撃の正体を、レイジは目視することができなかった。

 ただ、「斬られた」。その事実だけが、この場に残っていた。

 

「さらばです、玄界(ミデン)の戦士よ。敗北を恥じることはありません。私の『星の杖(オルガノン)』を()()()()()()()()()()()()()()()()()のですから」

 

 身体を両断され、緊急脱出(ベイルアウト)を待つだけの死に体となったレイジ。

 そんなレイジの脳裏によみがえったのは、数日前に迅、そして遼河と行った会合のことだった。

 

『レイジさんには、言っとこうと思うんだ』

 

 

 ────────

 

 大規模侵攻が始まる数日前、三門市内のとあるラーメン屋。そこで、玉狛の最高戦力たる3人は会合を行っていた。もっとも会合というのは大げさで、実際には軽い作戦会議のようなものだったが。

 

「今度の大規模侵攻で、相当やばいレベルの敵が来る。下手すりゃ、おれらが全滅するレベルの」

「……それは、黒トリガーか?」

「うーん、まだわかんないけど、たぶんそうだね」

「というか、それしかないだろ。玉狛(うち)が全員やられかねない相手なんて(ブラック)トリガー以外に誰がいる」

 

 ──「玉狛が全滅するのは(ブラック)トリガー相手くらい」。

 遼河のその発言は、この場の3人どころか玉狛支部に所属する隊員の共通認識といえた。実際、玉狛支部の隊員たちは少数ながら、その全員が本部から危険視されるほどの精鋭揃いだ。

 未来予知という反則級のサイドエフェクトを有し、近接戦闘においてはボーダー内指折りの強さを有する迅悠一。

 ボーダー唯一の「完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)」にして、遠近中距離すべてにおいて一切の隙が無い木崎レイジ。

 攻守ともに高い次元で両立し、影の立役者として玉狛を支える烏丸京介。

 ボーダー屈指の機動力と火力を両立し、ランク戦から去った今なお「No.3攻撃手」の座に君臨し続ける小南桐絵。

 そして近界(ネイバーフッド)の戦争をブレード1本だけで戦い抜いた歴戦の剣鬼、月城遼河。

 

 構成員の1人1人が、精鋭の中の精鋭。束になってかかれば、冗談抜きで(ブラック)トリガーと渡り合うことも不可能ではない。

 これほどの面々が全滅しうる相手など、(ブラック)トリガーでもなければ説明が付かないのだ。

 

「……それに一応言っておくと、向こうの(ブラック)トリガーっていうのは文字通りの『理不尽』だ。『風刃』なんて目じゃない程に。ものにもよるけど、基本的にノーマルトリガーじゃ勝負にならない」

 

 そう語る遼河の頭の中で呼び起こされた記憶は、かつて敵味方問わず出会ってきた(ブラック)トリガーの数々。

 無限蘇生する分身。襲い掛かる超高速の触手。全てを押し潰す大質量。自己再生する超火力砲台──。他にもまだ記憶の中にその姿は存在しているが、少なくともそのすべてが単騎で戦況をひっくり返しかねない「理不尽」の権化だった。

 そのレベルの理不尽が押し寄せてくるのであれば、玉狛の全滅もあり得るだろう。遼河は頭の中で勝手にそう結論付けた。

 

「勝てないのなら、避ければいいだけの話だろう。そいつ1人ですべてが決まるわけじゃない」

「そういうこと。だから、レイジさんに頼みがあるんだ」

「……箸で人を指すな」

 

 レイジの注意をよそに、迅はその頼みを告げる。

 

「もし今度の大規模侵攻の時に人型と当たったら、他のやつらをさりげな~く逃がしてほしい。まとまってると全滅するかもしれないからな」

「なら、小南や京介にもそう言っておけばいいだろう?」

「……京介ならともかく、小南は言ったところで聞く耳もちませんよ。あいつの辞書に『逃げる』なんて言葉があるとは思えない」

「まー、小南は逃げろって言っても逃げないだろうなぁ。そもそも、未来を教えても絶対いい結果になるわけじゃないし」

 

 小南は戦闘になるといつもの勝気な部分が鳴りを潜めクレバーになるが、それでも根っこの部分は変わらない。

 結局、小南は負けず嫌いなのだ。レイジや迅なら相手を見てすぐに「分が悪いから撤退」という選択肢を取れるが、小南はそうもいかない。現に迅と遼河の頭の中ではああだこうだ言いながら敵に向かって突撃していく小南の姿がありありと想像できた。

 想像もそこそこに、迅は話を戻す。

 

「それと、もう1つ。遼河さんはレイジさんたちと一緒に動くことになるだろうけど、多分途中でいなくなる」

「いなくなる? 倒されるということか?」

「いや。まだ確定じゃないけど、本部に敵が来る可能性があるんだ。で、もし本部が襲われそうになったら、遼河さんにはそいつの足止めをしてもらうことになってる」

 

 レイジはその発言を聞いて少し考えるような仕草を見せた後、自らの中で解を出した。

 

「遼河が途中で離脱したら、それは本部に敵が来る未来が確定したってことでいいのか?」

「理解が早くて助かります。そういうことです」

「そんでもって、レイジさんは他のやつらを逃がしたら、出来るだけ時間を稼いでほしいんだ。そいつをどれだけ長く足止めできるかが、結構重要な未来の分かれ目になってるっぽいから。──レイジさんの得意分野だ、頼んだぜ」

 

 

 ────────

 

 そして、現在に戻る。レイジは迅から、「さりげなく時間を稼ぐこと」を頼まれていたのだ。

 実際それは、上手く行っていた。誤算だったのは、撃破されたのが想像以上に早かったことだ。もっとも「盾をすり抜ける不可視の全方位攻撃」など対処しようがないので、やられるのは必然ではあったが。

 だが、「足止め」としては時間が心許ないというのもまた事実。

 

(『スラスター』、ON!)

 

 しかしレイジは、最期に一矢報いた。

 戦線離脱する直前、レイジは手に持っていたレイガストを即座に(ブレード)モードへと切り替え、守りが手薄になっていたヴィザに目掛けてスラスターを全開にしながら投擲したのだ。ヴィザは飛んできた刃に気づいたが、離脱するには遅く、左の膝にレイガストの刃が突き刺さる。

 

(──最低限の仕事は、できたか)

《戦闘体活動限界、緊急脱出(ベイルアウト)

 

 これ以上、自分がここで出来ることはない。レイジは後を仲間達へと託し、緊急脱出(ベイルアウト)する。

 程なくして玉狛のベイルアウトマットに叩き付けられたレイジの耳に真っ先に聞こえてきたのは、玉狛のお子様によるお説教だった。

 

「こらレイジ! まけてしまうとはなにごとか! なぜ『全武装(フルアームズ)』をつかわん!?」

 

 陽太郎のお怒りを環境音に、レイジは宇佐美へと通信を繋ぐ。

 

「宇佐美、今のデータは取れたか?」

『うーん……。解析してみるけど、本当に一瞬だったから難しいかも』

「他のやつらはどうしてる?」

『京介くんたちは、そろそろ基地の連絡口に着くよ。それと迅さんたちが、今京介くんたちの方に向かってる。で、遼河さんなんだけど……基地に行く、って通信が来てそれっきりなんだよね。こっちに戻ってきてもないから、たぶん基地にいると思うんだけど……さっきから本部と通信が繋がらないの』

 

 その通信を聞いたレイジは、迅の予知通り「基地へと侵入者がやってきた」ことを確信する。同時に、基地で何かが起きているということも察しがついた。

 まもなくレイジは陽太郎を引き連れ、宇佐美の居る通信室へと向かう。宇佐美の隣にはあやめもついている。その表情は、どこか心配そうだった。

 

「敵のトリガーは俺が解析する。宇佐美たちは京介たちのサポートを頼む」

「了解!」

「レイジ! なぜ『全武装(フルアームズ)』を──」

「陽太郎くん! そんなわがまま言ったら、めっ! だよ?」

「ぶぐぐ……」

 

 なおもぶうたれる陽太郎を、あやめが指で小さくバツを作りながら諫める。

 それを見た陽太郎は何か言いたげではあったものの、どうやらあやめを困らせたくないという気持ちが勝ったらしく、半泣きになりながらも言葉を喉の奥へと押しやっていた。それを見たレイジは陽太郎の頭に手を置くと、励ましの言葉を投げかけた。

 

「泣くな。『玉狛』はまだ負けてない

 

 

 一方その頃、本部に繋がる連絡口の前。こちらでは予期せぬトラブルが発生していた。

 

「……ダメです! ドアが開きません!!」

 

 そう、ボーダー本部へつながる連絡通路のドアが故障していたのだ。

 ボーダーの連絡口は、ボーダーに在籍し、ボーダー製のトリガーを持っている人物であれば誰でも開けられるようになっている。しかし、何故かドアは微動だにしない。修の口から伝えられたその実によって、C級隊員の間に動揺の波が広がる。

 

「ええー!? なにそれ、どうなってんの!?」

「組織の裏切りか……!?」

「宇佐美先輩、これなんで開かないんすか?」

 

 そんな中、京介は冷静に宇佐美へと通信を繋いでいた。だが宇佐美はしばらく「うーん」と唸った後、現時点で考え得る限り最悪の答えを返した。

 

『それが、さっきから本部と通信繋がらないんだよね。通信室の方で何かあったのかも』

「そうですか。分かりました。通信取れたら教えてください」

『あいあいさー』

 

 京介は思考を回転させる。

 連絡通路が無理である以上、取れる選択肢は2つしかない。『こことは別の連絡通路へ行く』か、『直接本部へと入る』かだ。だがそのどちらにもリスクが伴う。

 前者なら移動距離は短くて済むが、別の連絡通路もダメだった場合単純に時間のロスになる。後者であれば確実に基地へと入れるが、この大人数の団体を一人も脱落させないよう護衛しながら基地へ向かうのは困難だ。

 そしてさらに、事態は悪化の一途をたどることになる。

 

「2人、追いかけてくる……! 凄い速さで……!」

「え、チカ子、分かるの?」

「どういうことだ?」

 

 突如あさっての方向を向いた千佳が、「追手が来ている」と言い出したのだ。

 千佳の持つ「敵性感知」のサイドエフェクトを知っている修が、京介に事情を説明する。そして千佳の目線の先、自分たちの頭上から、本当に2人の男が迫ってきていた。

 

「──マジか。レイジさんが緊急脱出してから、まだそんなに時間経ってないぞ」

 

 京介は内心、穏やかではいられなかった。あのレイジを倒した2人が、猛スピードで、しかももう目視できる位置まで迫ってきているのだから。それらは数秒と経たずに、修たちの前へと降り立つ。

 

「ほっほ、もう追いつくとは。さすが最新鋭のトリガーですな」

「恐縮です」

 

 同時に修についていたちびレプリカが、修たちに危機を伝えた。

 

【気を付けろ、老人の方は(ブラック)トリガーだ】

 

 玉狛第1の隊長たるレイジを倒した(ブラック)トリガー。

 そんな超次元の存在が目の前にいるという事実に、修の背筋が凍る。そのような状況下でも京介は、冷静かつ的確に修に指示を出した。

 

「迅さんたちとの合流地点までなんとしてでも退くんだ。修、C級を連れて走れ」

「……っ!」

「早く行け!」

 

 京介が銃を構えると同時に、眼前の敵2人も戦闘態勢に入る。

 

「ヒュース殿は、手筈通り雛鳥を。戦闘員は、私がお相手しましょう」

「了解しました」

 

 しかしその緊張を破る、乱入者が現れる。

 突如として空から飛来してきたものが、風切り音と共に近くの民家を粉砕して着弾したのだ。轟音とともに崩れ去った民家から、1人の青年が姿を現す。

 

「おー、いててて……。これ勢いつけすぎたんじゃないの、レプリカ先生? 間に合ったからいいけどさぁ……」

「迅さん!?」

 

 いきなり何の拍子もなく出現した謎の乱入者にアフトクラトルの面々が困惑し、ボーダー側の面々も驚く中、迅はいつもの飄々とした語りで自己紹介を述べる。

 

「はじめまして、アフトクラトルの皆さん。おれは『実力派エリート』迅悠一。悪いがここからは、おれが相手をさせてもらうよ」

 

 そしてその会話に割り込むように、黒い影が1つ飛び込む。

 

「『弾』印(バウンド)六重(セクスタ)!!」

 

 高高度から常軌を逸した速度で弾丸の如く落下してきたその黒い影が、ヴィザを足蹴りにする。着弾の衝撃で周囲のアスファルトがめくり上がるほどの強烈な一撃を、ヴィザは杖で防いだ。迅はその光景を見ると、白々しく言い放つ。

 

「おっと、間違えた。『おれが』じゃなくて──『おれたちが』だったな」

「『強』印(ブースト)二重(ダブル)

 

 (ブラック)トリガーを身に纏った遊真はその勢いのまま「強」印(ブースト)を発動し、地面を転がるヴィザへさらに追撃を叩きこむ体勢へと入る。

 しかしヴィザはそれよりも早く体勢を立て直し、遊真の渾身の拳を躱した。空を切った遊真の拳は地面を打ち付け、周囲をさらに陥没させる。

 

「……あ、しまった。警戒区域の外で戦っちゃダメなんだっけ」

「気にすんな、遊真。なんせ非常事態だからな」

 

 戦場の中心で戦う場所のことを考える余裕を見せる迅と遊真に対し、ヒュースの表情がこわばった。ヴィザは土を払うと、面白いものを見たかのような声色で語る。

 

「いやはや、いきなりこれとは……。なかなか()()()()少年ですな」

 

 ヒュースは一連の動きを見たことにより、今しがた乱入してきた2人と戦う意味はないと判断した。

 自分たちの目的は、「金の雛鳥」。それさえ押さえれば勝ちなのだ。ヒュースは目的の雛鳥──千佳に狙いを定め、磁石をカタパルトにして射出する。超高速で放たれたその一撃を、近くにいた修が身を挺して防いだ。

 

「お、メガネくんナイス」

「修くん、大丈夫!?」

「ぼくは大丈夫だ! それよりも、早く逃げるんだ! やつらはお前を狙ってる!」

「う、うん……!」

 

 修と千佳は、すぐさま退避の準備をする。それを見た迅が、京介に指示を送った。

 

「そっちは頼むぜ、2人とも。連絡通路は使えないから、直接本部を目指してくれ。トリオン兵に気を付けろよ」

「了解です」

「おっと」

 

 京介と修がC級隊員たちを連れ、撤退し始める。だが、そうは問屋が卸さないと言わんばかりにヴィザが「星の杖(オルガノン)」を構えた。

 

「これ以上逃げ回られるのは……御免蒙りたい」

 

 今ここで使えば、乱入者もろとも一掃できる。ヴィザにはその確信があった。しかし、遊真はヴィザがいつ動いてもいいよう先んじて手を打っていた。

 

『動くな』

 

 遊真のその一声をトリガーに、地面から這い出るように飛び出したいくつもの鎖がヴィザを厳重に縛り上げる。遊真の(ブラック)トリガーが持つ印の1つ、「鎖」印(チェイン)だ。印同士をトリオンの鎖でつなぐことで、対象を拘束することができる。

 ヴィザは不意の拘束に、一瞬面食らう。これでは「星の杖(オルガノン)」を構えることができないうえ、仮に起動したところでその場から動けない。

 

(あの一撃の時すでに、布石を打っていたということか……?)

 

 そうこうしているうちに、C級のほとんどはヴィザたちの視界から外れつつあった。ヒュースはC級を逃がすまいとすぐさま「蝶の楯(ランビリス)」を飛ばそうと試みる。

 

「エスクード」

 

 が、突如どこからともかく地面から飛び出てきた無数の壁、あるいは塀によって完全に阻まれてしまう。迅たちと修たちを完全に隔離するように展開されたエスクードによって、迅の視界に映る未来が完全に確定した。

 

「もうあいつらには追い付けないよ。──()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 他の誰の横やりも許さない、常識では推し量れない戦いの炎が、燃え上がり始める。

 





このたび外伝作品の公開を始めましたので、まだ1話だけではありますがそちらの方もぜひお楽しみいただければと思います。
また、新たなアンケートを設けます。今回は外伝の展開に関わるアンケートです。是非ご協力ください。

追記:アンケートの内容が伝わりにくいと思ったため、修正させていただきました。
お手数ですが、もう一度ご解答いただければ幸いです。
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