ワールドトリガー・Returner from another world   作:もりいぬ

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各話タイトルを考えるのに限界を感じ始めている今日この頃です。
大規模侵攻編に入って以降どんどんと文章崩壊を引き起こしている気がしますが、私自身の気合が持つ限りは続きます。



恐怖は戦場を飛び、戦場を泳ぐ

 修と千佳の連携攻撃により、ラービットの上半身が吹き飛んだ後。修たちを取り巻く戦況は、にわかに好転を見せていた。

 正面に立つラービットに対し、出水が合成弾たる「徹甲弾(ギムレット)」で牽制する。アステロイドを二重構造にすることで貫通力と威力を高めたこの弾は、出水のトリオン量も相まってラービットの装甲に対しても高い効果を発揮する。ラービットは急所こそ腕で防いでいたものの、足と頭、そして脇腹を削られたことで直立姿勢を維持していられなくなり、ついに体勢を崩した。

 

「行くぞ千佳!」

「うん!」

 

 動きが止まったのを機に、修が再び超火力の弾丸を叩きこむ。千佳のトリオンを借りて放つアステロイドの威力は出水の徹甲弾(ギムレット)の比にならない。ラービットは迫る弾丸の嵐をどうすることも出来ぬままその体躯を粉々に吹き飛ばされ、跡形も残らず沈黙した。

 それと同時に修を拘束していた磁力が途切れ、修はようやく自由の身となる。

 

「おい、メガネくん。おまえ何者だ? トリオン半端ねーじゃねーか!」

「ぼくは玉狛支部の三雲修です。こっちは同じ玉狛の雨取千佳と、本部所属の夏目出穂さんです」

 

 千佳と出穂は修の紹介に合わせ、興味半分、戸惑い半分と言った様子で出水に会釈した。

 

「さっきのはぼくのトリオンじゃなくて……千佳のトリオンをぼくのトリガーと接続して撃ったんです」

「あまとりちか……? なるほど、話に聞いてた『玉狛のトリオン怪獣(モンスター)』か!」

 

 出水は千佳の名前を聞いたことで、得心がいったような反応を示す。米屋と緑川は一度玉狛の面々と出会ったことがあるため千佳のことは聞き及んでいたが、出水だけは玉狛の新人の話を人伝にしか聞いていなかったため、ここで初めて「玉狛のトリオン怪獣(モンスター)」である千佳の顔を見ることとなった。

 

「おれは出水公平だ。このまま新型を片付けようぜ。最初は撤退するつもりだったけど……このままいけば、全部殺せるかもな」

「はい!」

 

 出水の牽制と、千佳のトリオンを借りた修の超火力。この2つがあれば、新型を全て撃破することも不可能ではない。それが、出水の目算だった。状況は、にわかに好転したかのように思えた。

 

 

 

 

 

(……!?)

 

 ──千佳の身体が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()までは。

 

「どうした、千佳?」

「鳥……!」

 

 千佳が見つめる先。

 修もつられてその方向を向くと、そこには無数の透明の鳥が飛び交っていた。千佳の言う「鳥」というもの正体がそれだというのは、その場の全員が察せられた。それだけではない。その中心に、青髪の男が立っているのが見えたのだ。先ほどまでそこには誰もいなかったはずなのに、突如虚空から現れたかのようにその男は立っていた。それでも千佳が男の存在を察知できた理由は、彼女が持つ「もう1つのサイドエフェクト」が理由だ。

 

 千佳はその膨大なトリオン故か、2つのサイドエフェクトを併せ持っている。1つは、「心を空にすることによる隠密」。このサイドエフェクトの存在により、トリオン兵であっても、千佳を見つけることは困難を極める。

 そしてもう1つは、近界民(ネイバー)の出現を察知できる」というものだ。敵対存在である近界民(ネイバー)の出現に加えて、(ゲート)が開いたかも細かく察知することができる。千佳が男の存在にいち早く気付けた理由はこれによる。

 青髪の男は修たちを俯瞰するように見下ろし、無感情に呟く。

 

「……もう2体目がやられたか。急ぐ必要があるな」

 

 青髪の男の右手、卵のような物体から無数の鳥が放たれる。

 

 

「皆さん、気を付けてください! 攻撃が来ます!!

 

 逃げ場を失ったC級隊員たちに、鳥の大群が無慈悲に襲い掛かる。その名は──。

 

「──卵の冠(アレクトール)

 

 数百にもなる大量の鳥型の弾丸が、群れを成してC級隊員たちを襲う。瞬時に京介はC級隊員たちを守るべくシールドを展開するも、全員を守りきるにはあまりにも足りない。まもなく、機動力に劣る複数のC級隊員に鳥の弾丸が直撃する。

 ──異常は、すぐさまその身に表れた。

 

「が……!」

「うわああぁぁぁ……!?」

 

 鳥が直撃したC級隊員たちの輪郭が歪む。そのままC級隊員たちの輪郭は曲がり、歪み、捻じれ──キューブへと、変わった。

 キューブに変えられたC級隊員たちが、物言わぬ四角形の塊となって地面に転がる。その一部始終を見たC級隊員たちに、これまでとは比にならないほどの恐怖が伝播していく。

 

「鳥に触るな! キューブにされるぞ!!」

 

 京介がC級隊員たちに警告を送るが、そうしている間にも1人、また1人とキューブにされていく。

 鳥は今度は無数の魚へと変わり、魚群となってボーダー隊員たちを襲う。C級隊員たちに再び恐怖が広がるが、緑川と米屋はひるむことなく魚群へと飛び込んだ。

 

「鳥と思ったら今度は魚か! ……でも」

「「落とせない速さじゃねーな!!」」

 

 2人は流れるようなブレードの連撃で、魚を叩き斬っていく。しかし──。

 

「はぁ!?」

「うそぉ!?」

 

 ──なんと、魚を斬った武器までもがキューブに変わる。そこで2人はようやく気付いた。

 

 これは一撃死だ。弾に触れた瞬間ダメなのだ、と。

 だが、気付くのがあまりにも遅すぎた。2人の死角にラービットが迫る。米屋はどうにか身を翻してラービットの攻撃をかわしたが、すべてはよけきれず腕を掠める。一方の緑川は回避が間に合わず地面へと叩き付けられてしまった。そんな緑川を狙い撃つかのように、ゆっくりと魚群が迫りくる。シールドを展開するも、防ぐにはあまりにも足りない。そのまま魚の直撃を受けてしまった緑川もまた、輪郭が歪みだした。

 

「やべっ……! ──緊急脱出(ベイルアウト)!!」

 

 だが、緑川の判断は素早かった。キューブにされるよりも早く、緊急脱出(ベイルアウト)によって基地へと帰還したのだ。

 あまりにも理不尽な即死連携に、米屋と出水が悪態をつく。

 

「こんにゃろう……! トリオン兵と連携してきやがるぜ……!」

「まーた状況が変わっちまったか……!」

 

 そうこうしているうちに、青髪の男が目と鼻の先にまで来ていた。敵を目の前にした出水が、A級隊員として修に指示を出す。

 

「メガネくん! 女子連れてさっさと逃げろ! 誘導弾(ハウンド)!!」

 

 物量重視に大量展開したハウンドが、鳥の群れを撃ち落としていく。鳥と弾丸は相殺されてキューブへと変わったが、出水の弾丸はその精密なコントロールで的確に弾を相殺し、大量の鳥を修たちの方へ通さなかった。

 

「ヒヨコ1匹通してたまるかってんだ」

「ふ……いい腕だ」

 

 青髪の男はそんな出水に対し、称賛するような言葉をかける。されど、その目はまったく敬意が感じられない。むしろ、「もう勝負はついている」と言わんばかりの目で出水を見つめていた。

 その時、ふと出水は足に奇妙な感覚があることに気が付く。まるで、冷たいスライムか何かが足元にへばりついているような。

 見ると、地面を這ってきていたらしい()()()が出水の足へと引っ付いていた。

 

(トカゲ……!?)

 

 気付いた頃には手遅れ。トカゲが爆ぜ、同時にその部位から出水のトリオン体が溶け始める。足が変形したことで出水は踏ん張るどころか立っていることすらままならなくなり、あえなくその場に膝をついた。

 地面に降り立った青髪の男は、出水を静かに見下ろす。

 

「高い火力、繊細なトリオンコントロール。さすが、ランバネインと撃ちあっただけはある」

「なかなか厭らしい戦い方するじゃねーか……!」

 

 そんな中、修は逃げるふりをして青髪の男の側面へと移動していた。

 

(さっきと同じだ……! 戦ってる奴の側面を突いて、最大火力を叩きこむ!!)

「アステロイド!!」

 

 千佳のトリオンを借りた、最大火力のアステロイド。ラービットですら吹き飛ばされる攻撃だ、人間のトリオン体がまともに直撃を受ければ欠片1つ残らないだろう。

 

 ──()()()()()()()()、の話だが。

 

「残念だが、その手は読めている」

 

 魚群を自らを覆うように展開し、あたかもバリアの如く修の放つ弾丸すべてを防いでいく。千佳の膨大なトリオンをもってしても魚群の壁を突破することはかなわず、相殺されてキューブに変わった弾丸が地面へと落下して重苦しい音を立てた。

 

「戦術は拙いが、やはり驚異的なトリオン量だな」

 

 そのまま青髪の男はお返しとばかりに、鳥弾をばら撒いてくる。修はアステロイドを低速散弾にして大量展開することで鳥の弾幕を凌ごうとするが、敵の対応力はその上を行っていた。

 

「ミラのマーカーか……。いいだろう、お前は後回しだ」

 

 修の腕につけられた結晶体に気づいた青髪の男は、鳥弾の行く先を変える。その先には──。

 

「千佳!!」

 

 ──無防備の、千佳がいる。

 千佳はなすすべもなく「卵の冠(アレクトール)」の弾丸の直撃を受け、そして……。

 

「修く……ん……逃げ……て……

 

 ……そのまま、物言わぬキューブへと変わってしまった。

 千佳だったものを前に、修は崩れ落ちる。

 

(ぼくのせいだ……! 出水先輩は逃げろって言ってくれたのに、ぼくはあいつを倒せると勘違いした……! 攻撃したのは千佳のトリオンなのに、自分が強くなったと錯覚した……!!)

 

 その様子を見ていた青髪の男は、静かな笑みを浮かべる。そのまま修たちの方へ一歩を踏み出したが、その行く手を遮るかのように大量の炸裂弾が土煙を巻き起こした。

 

「おいこらメガネ! ボケッとするな! 基地まで行けばまだ全然助かる!!」

「走れ、修! お前がやるべきことをやるんだ!!」

 

 出水が、京介が、修の背中を奮い立たせる。修は千佳のキューブを手に取ると、再び立ち上がった。

 

「基地に向かいます! サポートをお願いします!!」

「さっさと行け。おれは人型に1発お返しするからな」

 

 しかし、ただで逃がしてくれるような相手ではない。緑川が相手していたラービット2体がフリーになったことで、修たちの方へと向かいだしたのだ。

 

「フリーになった奴がそっち行くぞ!!」

 

 空を舞い、屋上を飛び交いながら、2体のラービットが修の持つキューブを狙いに迫りくる。ブースターによる飛翔が可能な型と、胸部から磁力を伴う結晶体を射出する型だ。飛翔型は修に狙いを定めると、ブースターの勢いを乗せ、修の位置へと急降下してくる。

 

「スラスター、ON!!」

 

 スラスターの推進力を利用し、ラービットの墜落攻撃を回避する。その隙をつくように放たれた結晶体の攻撃を、遠距離シールドを駆使して止める。シールドをかち割るように放たれた砲撃の勢いはレイガストの盾モードで殺す。

 だが、そこが限界だった。修は砲撃の余波で吹き飛ばされ、千佳のキューブを手放してしまう。

 

「しまっ……!」

 

 すぐさま、「その瞬間を待っていた」と言わんばかりにラービットの1体が千佳のキューブ目掛けて一直線に飛び込む。

 

「させるかああああああ!!!」

 

 修が意地と執念で投擲したスラスターは、無防備状態のラービットの頸を捉える。ラービットは一瞬その機能を停止し、その隙に千佳のキューブを奪い返す。ラービット側も反撃とばかりに、至近距離からの砲撃を放ってくる。今度は千佳のキューブこそ放しはしなかったが、体勢が崩れたところを突かれて結晶体のフィールドを展開されてしまう。

 そして、無慈悲にもラービットの砲撃が修に直撃しようとした、その時だった。

 

【『盾』印(シールド)

 

 展開された強固なシールドが、修を守る。そのトリガーに、修は見覚えがあった。

 そして、修たちの元に頼もしい助っ人が駆けつける。

 

【待たせたな、オサム。ユーマの指示で、チカとオサムを護衛しに来た】

「レプリカ!!」

 

 遊真のお目付け役、レプリカ。

 多目的トリオン兵として製造された彼は、小型でありながらトリオン兵としての機能だけでなく、遊真の(ブラック)トリガーの能力の補助機能を併せ持つ。

 すなわち──。

 

【『門』印(ゲート)

 

 ──遊真の(ブラック)トリガーの能力は、レプリカも同じように使える。

 レプリカを中心に出現した門から降り立ったのは、漆黒のラービット。序盤の攻防でラービットを解析した際に、レプリカはラービットのコピーを生成する能力を得ていた。

 レプリカと漆黒のラービット。この上ない援軍が、並び立つ。

 

【迅の予知も大詰めだ。出し惜しみ無しで行こう】

 

 漆黒のラービットが、アフトクラトルのラービット2体と相対する。

 先に動いたのは、飛翔型の改造ラービット。対する漆黒のラービットはその腕に「強」印を展開し、飛翔型ラービットの腕を一方的に吹き飛ばした。応戦する飛翔型は至近距離の砲撃を叩きこむも、シールドを用いてこれを阻止する。その体勢のまま「射」印から放たれた弾幕によって、飛翔型ラービットに風穴が開いた。

 そのどさくさに紛れ、レプリカが結晶体の磁力を中和する。これにより、修は磁力に閉じ込められることが無くなった。

 

【解析完了。これで磁力は中和された。『キューブ化』の能力を外してトリオン消費を抑えてはいるが、私の内蔵トリオンでは1体を生成するのが限界だ。増援が来れば分が悪くなる。敵の相手はラービットに任せ、ここを離れよう】

 

 改造型ラービット2体と漆黒のラービットの激突をよそに、修とレプリカは基地への道をひた走る。その道中で、修はレプリカに質問をぶつけた。

 

「レプリカがこっちに来て、空閑は大丈夫なのか!?」

【問題ない。これはユーマ自身が決めたことだ。──急ぐぞ。迅の予知によれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「でも、今基地には敵が……!」

【基地の(ブラック)トリガーは、リョーガが足止めを成功させたようだ。現在は訓練室に閉じ込めているらしい】

「遼河先輩が……!?」

 

 訓練室に閉じ込めたということは、今基地への出入りを阻む者は存在しないということ。戦局に、一筋の光明が差す。レプリカの助言の下、修は基地を目指して駆け出した。

 

 

 ──────

 

 そして、基地内の攻防もまた佳境を迎えようとしていた。

 ちょこまかと動き回る遼河達にしびれを切らしていたエネドラだが、ついに仮想戦闘モードの秘密に気づき始めたのだ。

 

(ようやく分かってきたぜ、このクソ部屋の仕組みが……。オレもこいつらも、()()()()()()()()()()()()()()感じか……? まともに戦うだけめんどくせぇ。その割には、さっきからちょこまかと動き回ってやがる。特にあの黒コートの雑魚トリガー……ダメージがねぇのをいいことにこっちを切り刻んできやがる。いい加減うざってぇ……)

 

 訓練室の攻防は、すでに10分を超えている。遼河が初めてエネドラと接敵した時間も含めれば、その戦闘時間は実に20分以上だ。長きにわたる戦いは、仮想戦闘モードという特殊な条件故に完全な膠着状態に陥っている。

 だが、ついにその膠着状態が撃ち破られる。

 

(お……!?)

 

 諏訪が放ったショットガンの1発が、明らかに今までとは違う当たり方をしたのだ。甲高い金属音のようなものが、訓練室内に響き渡る。

 音を聞くや否や、ほぼ反射的に遼河は叫んでいた。

 

「そこだ! 今音がした部分に奴の弱点がある!!」

『硬質化したトリオン反応を確認しました! 反応をマークします!!』

 

 堤のマークによって、訓練室内の3人の視界にエネドラの弱点反応が映る。

 

「はっはあ! 弱点見つけたぜ!!」

 

 この機を逃しては、勝利が遠のく。諏訪はダブルショットガンを構え、弱点目掛けて両攻撃(フルアタック)をぶっ放した。

 

「あーあー……。なるほど、そういうことか」

 

 しかし、その両攻撃(フルアタック)は効かなかった。

 正確には効いてはいた。だが、音がいくつにも増えたのだ。堤が慌ててレーダーを確認すると、先ほどマークしたはずの弱点と同じ反応が10個以上に分裂、増殖している。それが偽装(ダミー)であることは一目瞭然ではあったが、それだけだ。レーダー上は全く同じ反応を示しているせいで、本体と偽装(ダミー)の区別がつかない。

 

「クハハ……! 猿が知恵絞ってんのを見てるほど面白れぇもんはねぇよなぁ? 頭捻ろうが、雑魚は雑魚なんだよ」

 

 エネドラは諏訪を煽り倒しながら、展開していた気体(ガス)ブレードで諏訪の全身を貫く。仮想戦闘モードが継続していたためにダメージこそなかったものの、「気体攻撃が展開された」という事実が、遼河達の足を一瞬止める。

 そして、その僅かな時間が命取りとなった。

 

「死ぬまでそのレベルでキーキー言ってろ」

<仮想戦闘モード、終了>

 

 エネドラは気化させたトリオン体を訓練室全体に充満させることで、強引に制御盤を操作したのだ。それに伴って仮想戦闘モードが終了してしまい、諏訪の右腕が吹き飛ばされた時と同じ状態に戻ってしまう。同時に、訓練室からエネドラはいつでも出ていける状態になってしまった。

 

「くっ……!」

「無敵タイムは終わりか? ヒマつぶしにしかなんなかったな」

 

 エネドラは遼河達3人をせせら笑うと、「泥の王」による猛撃で訓練室の壁を吹き飛ばす。

 1分にも満たないうちに、戦況は瞬く間にひっくり返ってしまった。弱点を見つけたことで光明が差したと思われたのも束の間、仮想戦闘モードが終了してしまったことで、これ以上の時間稼ぎはほぼ不可能になった。まともに戦おうにも、諏訪は右腕を吹き飛ばされて戦力が半減している。笹森の攻撃はまずエネドラに届かない。唯一まともに攻撃を通せそうな遼河もまた、気体攻撃を警戒して迂闊に攻め立てられない。

 しかし、遼河はそれでも望みを捨てていなかった。

 

(もうすぐ時間だ……!)

 

 

「忍田本部長は、まだ着かんのか!?」

 

 鬼怒田開発室長の焦りの声が、司令室に響く。無理もない。今まさに、目の前で、(ブラック)トリガーが野に放たれようとしているのだ。一刻も早く対処しなければ大惨事になってしまう。

 この状態をひっくり返せるとすれば、忍田本部長しかいない。しかし、忍田本部長は未だ到着していない。もうまもなく忍田本部長が宣言した3分が経過しようとしているが、訓練室まではたどり着くには明らかに3分では足りない。

 

「もう少しかかるでしょう……! エレベーターに、数百メートルの通路……。訓練室までは、かなりの距離があります!」

「3分で到着するなど、無謀だとあれほど……!」

『……大丈夫ですよ』

「月城隊員……!?」

 

 会話に割り込んできたのは、ちょうど司令室に通信を繋いでいた遼河だった。

 

『あの人が3分で行くって言ったんです、3分で来ます。──ですよね? ()()()()

 

 ここで遼河は、なんと城戸司令に話を振る。その突拍子もない発言に、鬼怒田も根付も揃って城戸司令の方を向いた。

 そして城戸司令の回答は──。

 

「……ああ」

 

 ──なんと、肯定だった。

 その場の誰もが予想だにしなかった返答に、鬼怒田と根付が面食らう。まもなく先に再起動したのは、根付だった。

 

「ですが城戸司令! 先ほど言った通り、訓練室まではかなりの距離が──」

『それが問題ないって言ってるんです』

「月城! 何を根拠にそれを言うのかね!?」

『根拠なんて、簡単です。それは城戸さんだってわかってる』

「その通りだ」

 

 鬼怒田の憤慨はもっともだった。

 なにせ、遼河は傍から見ればめちゃくちゃなことを言っている。司令室から訓練室まではただでさえ距離がある。それにもかかわらず、今の忍田本部長派「トリオン体に換装し」、「エレベーターに乗って」、「合計数百メートルはあるボーダーの通路を駆け抜けて」辿り着かなければならない。

 だがそれは、そこ以外に道がない場合の話だ。そして、遼河と城戸司令にはある1つの「共通認識」がある。それこそが、何よりも明確な回答だった。

 

「あの男が──」

「あの人が──」

 

 そうして司令室と訓練室、まったく別の場所から同時に放たれた2人の言葉は、果たして一語一句違わず一致した。

 

「「──()()()()()()()()()()()()()()」」

 

 その言葉の通り、今まさにボーダーの()を疾走する黒コートの男がいた。

 そう、壁だ。通路でも、エレベーターでもない。垂直に立ったボーダーの内壁を、自らの足だけで駆け下りている。

 

「やんちゃ小僧が……」

 

 その男は腰に番えた刀を抜き、基地の壁を斬り捨てる。勢いをそのままに、轟音をバックにしながら戦場へと飛び込む。

 訓練室にいる人間が、ただ1人を除いて轟音の主の方向を振り向く。

 

「旋空弧月」

 

 注目をよそに、瞬きするよりも早く放たれた4発の斬撃がエネドラの胴体を叩き斬る。

 ジャスト3分。ついに、遼河達の下へと援軍が駆けつけた。

 

「ま、間に合った!!」

「なんつーショートカットじゃ……!? エレベーターも通路も使わず、基地の内壁沿いに、最短ルートを取るとは……!」

 

 移動に数分かかるエレベーターも、長く平坦な通路も何もかもをガン無視した正真正銘の最短ルート。

 黒いコートに袖を通した男は、諏訪隊に、そして遼河の隣に並び立った。

 

「遅れてすまなかったな、遼河」

「3分、繋ぎましたよ」

「ああ。諏訪隊も、ご苦労だった」

「いやいや、まだ死んでないっすよ」

「鬼怒田さん。壁を修復しておいてくれ。こいつを逃がすわけにはいかないからな……!」

『任せておけ!』

 

 男の発言を聞いたエネドラが、不敵すぎる笑みを浮かべて敵意をむき出しにする。

 

「あぁん? 誰が逃げるって?」

 

 全身をゴポゴポと泡立たせ、身体を修復していく。弱点を斬ったわけではないので、エネドラはいくらでも再生できる。

 

「オレに勝てるとでも思ってんのか? 雑魚トリガーの分際で……!」

「当然だ」

 

 黒コートの男は静かに弧月を抜刀し、猛獣の如く威圧感を放ちながらエネドラと相対した。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 放たれる雄々しきオーラは、さながら虎の如く。

 その男こそ、ボーダー本部におけるノーマルトリガー最強の男にしてボーダー本部本部長。そして、ボーダー最強の攻撃手(アタッカー)たる月城遼河の師匠たる男。

 

 本部最強の虎──忍田真史が、ついに戦場へと降り立った。

 

 





本日はクリスマスということで、午後にもう1話投稿されます。

感想や高評価等頂けると執筆の力になります。
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