ワールドトリガー・Returner from another world   作:もりいぬ

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ストーリーは基本的に原作をなぞりますが、今しばらくは原作開始前の時系列の話となります。

12/8追記
今話のみならず、これまでに投稿したほぼすべての回で林「藤」支部長を林「道」支部長と誤植していたことが発覚いたしました。
林藤支部長が登場する回全てに訂正を加えさせていただくとともに、読者の皆様と林藤支部長に深くお詫び申し上げます。



望んだ再会

 再会してから数分の間とてつもない勢いで泣いていた小南をなんとか宥めた後、その場にいたメンバー全員が一度リビングに集まる。

 小南は目の下が赤く腫れるまで散々泣き散らした後、遼河と栞によってなんとか宥められ、一応今は落ち着いていた。ただし、遼河から頑なに離れようとはしなかったが。遼河はとっくに諦めている。こうなった小南は何を言っても聞かないと、かつての経験から知っていたからだ。

 4人分のジュースを持ってきた栞が、事情を知っているであろう遼河と小南に質問する。

 

「それで……どういうこと?」

「簡単に言うなら、俺は小南の先輩ってことになるんだ」

「こなみの先輩って……相当昔からボーダーにいるってことにならない?」

「そうよ。遼河さんはボーダーの中でも()()()()()()()()()()()()だもの」

 

 小南は今のボーダー正隊員の中では一番の古株なのだ。そんな彼女より昔からいるということは、文字通りの最古参ということを意味する。

 

「なるほど、だいたい分かったけど……。でも、それならどうして今までずっといなかったの?」

「実は5年前に、(ゲート)の先に行ってしまってな。それからずっと向こうの世界を旅してた。ようやく、今日こうして帰ってこれたんだ。もう分かったかもしれないが、アイリスは外国人じゃない。近界民(ネイバー)

 

 2人の目が見開かれる。

 無理もないだろう。近界(ネイバーフッド)を旅していたかつてのボーダー隊員が、近界民(ネイバー)と一緒に帰ってきたのだから。そもそも近界(ネイバーフッド)に飛ばされた人間が五体満足で帰ってきたケースなど前例がない。

 小南ですら、遼河が五体満足で帰ってきたのが今でも信じられていないほどだ。

 

「アイリスちゃん、近界民(ネイバー)だったの!?」

「はい……」

「あまり責めないでくれ。俺が隠すように言ったんだ」

「仕方ないわね。人型近界民(ネイバー)が現れた、なんて知れたら大騒ぎになるもの」

 

 口をあんぐり開ける栞をよそに、小南が遼河の采配に理解を示す。

 するとそこへ、現玉狛支部のメンバーであり、かつて遼河と共に過ごした仲間、木崎レイジと迅悠一が帰ってきた。

 

「戻ったぞー」

「あ、レイジさん! それに迅も! ちょっと聞いてよ!」

「お、どした小南」

「遼河さんが、帰ってきたの!!」

「「……は?」」

 

 いつになく興奮した小南の発言に対し、遼河を知っているレイジと迅の声が綺麗にハモる。

 まもなく正常に戻った迅は遼河を一目見ると、「おれ、ボス呼んでくるから」と言って慌てて上の階へと駆けて行った。数秒遅れて遼河の存在を理解したレイジは遼河の肩を掴み、ぐわんぐわんと遼河を揺らす。

 

「おい、本当に遼河なんだな? 幻じゃないな!?」

「あ、あ、あああ」

「レイジさんストップストップ! 遼河さんが喋れなくなってるから!!」

 

 レイジが栞の制止で慌てて手を放す。手を離した後も、遼河の視界はまだ少し揺れていた。

 

「す、すまん。……それで、本当に遼河なんだな?」

「そ、そうです」

 

 そこに、話を聞いたらしい「ボス」──玉狛支部の支部長である林藤(りんどう)(たくみ)が迅を連れて上から降りてきた。

 林藤支部長は遼河の顔をしばらく見つめた後、優しく語り掛ける。

 

「遼河……久しぶりだな」

「はい、林藤さん。──月城遼河、ただいま帰還しました」

「そうか……!」

 

 林藤支部長のその言葉には、確かな喜びが込められていた。

 その後、林藤支部長の指示で栞が立ち去った後のリビング。そこで、遼河は自分がいなくなった約5年の間に何があったかを聞くことになった。

 ──遼河が見知らぬ近界の国に迷い込んでおよそ半年後に近界民(ネイバー)による大規模侵攻が発生しており、1200人以上の死者と400人以上の行方不明者を出したということ。

 大規模侵攻の後、ボーダーの本部は玉狛ではない別の場所に移転し、かつてのボーダー本部であったこの基地は「ボーダー玉狛支部」という支部の1つになり、かつての遼河の仲間である林藤匠がここ玉狛支部の支部長になったということ。

 自分が行方不明となったあの戦争で、自分を含めた20人のうち10人が死んだということと、あの戦いで「死亡」ではなく「行方不明」扱いになったのは自分だけだったということ。

 同時に何人かが黒トリガーとなり、そのうち最上宗一は(ブラック)トリガー・「風刃」を遺し、今は迅が「風刃」を所有しているということ。

 そして第一次大規模侵攻と呼ばれる事件の後、ボーダーは「界境防衛機関・ボーダー」としてその存在を公にし、組織の拡大化を行いつつ近界民(ネイバー)の撃退を行っているということ。

 

「……俺がいなくなってから5年の間に、そんなことが」

「ああ。お前がいなくなった後にボーダーに残って正隊員やってるのは、ここにいるメンバーくらいだ」

「そうですか……。誰がもういないかは分かりましたけど、話に出なかった真都ちゃんとかゆりさんは、どうしてますか?」

「真都はお前が行方不明になった後、ボーダーを辞めて一般人に戻った。ゆりは今、県外にスカウトに行ってるからいない。あとは……そうだ、城戸さんや忍田さんとかは本部で勤務してるよ」

 

 遼河はかつての仲間達がどうなったか、ここで初めて知ることになった。それと同時に、「忍田さん」という名前を聞いた遼河の顔が少し引き攣る。

 

「忍田さん……? 大丈夫なんですか?」

「それに関しては大丈夫だ。もう忍田さんは昔みたいにやんちゃしなくなったからな」

「なら安心です」

 

 というのも、遼河の記憶の中にある「忍田さん」という男はかなりのトラブルメーカーだったのだ。素行に問題があるというわけではなく、極めてやんちゃ、という意味だが。

 かつての仲間であった忍田という男の「やらかし」の数々を何度も見てきた遼河の心配は、一瞬で取り払われた。普段から飄々としている林藤支部長ではあったが、こういうことに関しては信頼できると遼河は知っていた。

 そして話は、遼河の隣にいる茶髪ショートヘアの少女に移る。というよりレイジや迅はずっと、遼河の隣で居心地が悪そうにしている少女が気になっていた。レイジが代表し、疑問を口にする。

 

「ところで遼河。そこにいる女の子は誰なんだ?」

「あぁ、小南以外にはまだ紹介してませんでした。ほら、アイリス」

「はい! えっと、アイリスって言います!」

「アイリスは、俺が近界に迷い込んでから、旅の最中に行った国で出会いました。つまり、近界民(ネイバー)です」

 

 その言葉に、小南以外の全員が驚きの表情を浮かべる。遼河はその光景にどこかデジャヴを感じた。

 唯一すでに事情を知っていた小南は「まぁ、そうなるわよね……」と零しながらやれやれと首を振っている。

 

「マジ? 遼河さん、本当に近界民(ネイバー)連れてきたの?」

「だからそう言ってるだろ、迅。一応言っておくと、強制はしてない。彼女本人の意志だ」

「そうなのか?」

 

 遼河の発言に、レイジが質問をぶつける。その質問に対し、アイリスは確かな意志を込めて頷いた。

 

「はい。玄界(ミデン)に行くって聞いた時はちょっと怖かったですけど……。それでもついていくって決めたんです」

「えっ、めっちゃいい子じゃない……」

「──俺はアイリスを、この世界でも安全に暮らせるようにしてやりたい。もし皆さえよければ、ここに住ませてやってくれないか?」

 

 遼河は皆に頭を下げる。

 ……もしここにいたのが本部の上層部であれば、相当なしかめっ面をしていたことだろう。当然だ。近界民(ネイバー)から市民を守る組織が近界民を匿うなど笑い話にもならない。

 しかしここは玉狛支部。遼河のよく知る()()()()()()()()()がここにはある。だからこそ、遼河のその頼みを断る者は今この場にはいない。

 

「もちろん」

「俺も構わない」

「あたしももちろんいいわよ」

「──君がここに住んでくれたら、すごく面白くなりそうだ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる」

「だ、そうだ。どうする? アイリス」

 

 最初に林藤支部長が賛成し、続くようにレイジが賛同する。当然小南も賛成意見に加わり、迅も異論を唱えることはなかった。それを聞いた遼河はアイリスに返事を促す。全員から肯定の返事をもらったアイリスの回答は、すでに決まっていた。アイリスは立ち上がり、その場の全員に向かって大きく頭を下げる。

 

「なら──よろしくお願いします!」

「よし、決まりだな。たった今から、アイリスはうちの一員だ」

「……! はい!」

 

 アイリスは林藤支部長と歩み寄り、友好の握手を交わす。その光景に、遼河だけでなくその場の全員の表情が綻んだ。

 

「それで、遼河はこれからどうするんだ?」

 

 それを聞いた遼河は一瞬フリーズする。

 遼河の中では、自分はまだボーダーの一員のつもりなのだ。しかし、順当に考えれば今の自分はもうボーダー隊員ではない可能性が高い。なにせ失踪してから5年経っているのだ、とっくに除隊されていても不思議ではない。

 しかし、自分の家には帰れない。そもそも()()()()()()()()()()()()のだ。かつて自分がお世話になっていた家もあるにはあるが、今更突然押し掛けるというのも迷惑極まりないだろう。

 そこまで考えた遼河は、この状況で最適解となりえる答えを導きだした。

 

「あー……。今更あの家に押し掛けるのも迷惑だろうし……。昔の俺の部屋を使わせてもらえませんか?」

「もちろん。お前がいつ帰ってきてもいいように、あの部屋は残しておいてたんだ」

「だから俺のスマホがあったんですね……」

「そういうことだ。さ、夜も遅い。今日はゆっくり休むといい」

「そうします。……行こうか、アイリス」

「うん!」

 

 遼河は林藤支部長の粋な計らいに頭を下げると、アイリスとともに2階の居住スペースへと去っていった。そうして遼河とアイリスが去った後、林藤支部長、レイジ、小南、迅の4人はリビングに残り、これからのことを話し合う。

 

「迅、あんたこうなるってわかってたんじゃないの?」

「いや、正直()()()()()()()。確かに玉狛に誰かが来るって未来は見えてたんだけど、“可能性の低い未来”だったし、誰が来るのかまではよく見えてなかった。それにその未来になっても深刻なことになるわけじゃないっぽかったから、あんまり気にしてなかったんだよね」

 

 “可能性の低い未来”。

 この話から分かるように、今小南の質問を受け流した迅悠一という青年には、()()()()()()()()()()()()。しかし今回はそんな自分の未来予知でも相当確率の低い未来として映っていたうえに、何か被害があるといったこともなさそうだったのであまり深刻に考えていなかった、と迅は説明した。

 

「……あっそ。ならいいわ」

「──小南、迅。玉狛支部に近界民(ネイバー)が増えたっていうのは他言無用だぞ」

「分かってるわよ」

「もちろん。でも、城戸さんとかどうします? 忍田さんならともかく、ウチに近界民(ネイバー)住ませてるって知ったら、城戸さんが間違いなく黙ってないでしょ」

「……そこは何とかするさ」

 

 林藤支部長は迅の言葉に対して具体的な案を返さなかったが、玉狛支部の面々にとってはそれで十分だった。

 

「でもまぁ、あたしたちは元々近界民とも仲良くしようって考えだしね」

「少なくとも俺たちは、彼女を受け入れる方針で行く。いいか?」

「「「了解」」」

「じゃ、今日はこれで解散にしよう。明日はちょっと忙しくなりそうだな」

 

 林藤支部長の一声で、各々は解散していく。

 ──「異世界からの帰還者」と、「異世界からやってきた同行者」。この2人の存在が、これからの未来をどう動かしていくのか。

 それは未来視のサイドエフェクトを持つ迅ですらも、まだ分からない不確定の未来なのだった。

 





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