ワールドトリガー・Returner from another world   作:もりいぬ

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ある理由でモチベーションが上がったのはいいのですが、文章崩壊が止まりません。
ワールドトリガーという作品はあらゆるキャラに魅力や出番があるので、文字に起こそうとすると多くのキャラを描写することの難しさを体感させられるこの頃です。

※原作をもうすでに読了されている方は、この話は飛ばしていただいても構いません。




絶望は常に背後にあり

 ハイレインと京介・米屋のコンビは、ほんのわずかな間睨み合う。

 先に行動したのは、京介だった。瞬きするよりも早く電柱へと飛び移り、そのまま圧倒的機動力から繰り出される超高速の一撃を叩きこんだのだ。その一撃自体はハイレインが僅かに後退したことで避けられてしまったが、京介もまた弾丸を喰らうことはなく、すぐさま次の攻撃態勢へ移る。

 

(速いな……。『卵の冠(アレクトール)』の弾丸が捉えきれない)

 

 ハイレインはこれまでにない敵の速度に、にわかに驚きを見せた。

 それと同時にハイレインは、京介の使う「ガイスト」の仕様についてある程度の見切りをつける。「ガイスト」に使われている技術は、自分たちの祖国が最も得意とし、何処の国よりもいち早く発展させてきた技術だったからだ。

 

(なるほど。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のか。武器を身体の一部と見做して変形させるのは、アフトクラトルのトリガー技術と近いものがある。だが角の補助がない分トリオン体への負荷が大きくなっているな。トリオンが常に漏出状態になっている。このまま放っておいても自滅するだろうが……)

 

 だが、ハイレインの思考はそこまでだった。米屋がサッカーの要領で蹴りだした瓦礫が、ハイレインの頬を掠めたからだ。

 ──トリオンを用いた攻撃以外でトリオン体が破壊されること自体はまずないが、攻撃を受けたことによる衝撃は伝わる。いくらただの瓦礫とはいえ、まともに受ければ隙が生まれることは間違いなかった。ゆえに非トリオンによる物理的攻撃を一切防げないハイレインは、回避に徹さざるを得なくなる。それを見た米屋は、出水の憶測が間違っていなかったことを確信した。

 

「弾バカの考え通り、トリオン以外は防げねーっぽいな!」

 

 そのまま今度は野球の要領で、次々に手ごろな大きさの瓦礫を弾丸の如く高速で放つ。打ち出された瓦礫によって、ハイレインを覆っていた魚群の壁に穴が開いた。その隙を逃すことなく、京介が再びハイレインの懐へと飛び込む。背後から放たれた一閃が、確かにハイレインを切り裂いた。

 ──切り裂いた、はずだった。

 

(……!?)

 

 違和感を覚えた京介が手元を見ると、ブレードが根元から溶解してしまっている。さらにハイレインに目をやると、そのからくりが明らかになった。

 なんとハイレインは、マントの下に無数の蜂型弾幕を忍び込ませていたのだ。京介のブレードが切ったのは、ハイレイン本体ではなくこの蜂だったのである。

 

(ガイスト、機動戦特化(スピードシフト)

 

 体勢を立て直すべく、京介はガイストを白兵戦重視の状態から機動戦特化の状態へと切り替える。残像を残すほどの圧倒的な速度を得た京介は、至近距離から放たれた蜂の群れを難なく振り切った。

 

(やっぱりあの時、迅さんからアドバイスを貰っておいて正解だった)

 

 その戦いの中で京介が思い出したのは、迅からどうにか聞き出した自分の未来についてだった。

 

 

 ──────

 

 大規模侵攻が起こる数日前。

 ある街角の隅で、迅と京介はひそかに話し合っていた。

 

「なんか俺にアドバイスとかないんすか? 迅さん、未来見えてるんでしょ?」

「アドバイス……? ああ、大規模侵攻か。って言ってもなー。京介については特に教えとくことないんだよなぁ。ほら、未来って無限に広がってるわけだし?」

「また適当な……」

 

 京介の真剣な疑問を、迅は煙に巻こうとする。

 ──迅が適当なことを言ってのらりくらりと逃れようとするのは今に始まったことではないが、真面目な話をしている最中にもこうしてのらりくらり逃れようとするのは何とかならないのかと、京介は心の中で密かに思った。

 

「こないだレイジさんと一緒にラーメン食べに行ってたでしょ。そういう時って大抵こそこそ打ち合せしてるって分かってるんすよ」

「いや、ラーメンくらい普通に食べに行くだろ……」

「日頃の行いっす」

 

 迅は問答勝負では勝ち目がないと判断したのか、やがて「やれやれ……」と頭を掻き、その打ち合わせの内容について京介に語った。

 

「あの時は遼河さんと3人で、大規模侵攻についての話し合いをしてたんだ」

「遼河さんもいたんですか?」

「うん。まー、会ったのは偶然だったけど。で、レイジさんに『大規模侵攻の時にヤバいやつが来そうだから、そん時はおまえと小南をさりげなく逃がしてくれー』って頼んだんだよ。全滅したらそれこそえらいことになるからな」

「俺たちを、逃がす……!?」

「そう」

 

 それは、京介にとっては思いもよらない内容だった。

 迎え撃つ、ならまだ理解できる。玉狛にはそれができるだけの戦力があることも理解している。だが「逃がす」というのは予想外だった。迅が逃走優先の指示を出すということは、言外に「自分たちじゃ勝ち目がない」と言い切っているようなものだからだ。

 

「今度の戦い、どこかで必ずメガネくんと千佳ちゃんがピンチになる。──でも、その時におまえはいない。おまえは2人の未来を変えるポジションにいないんだ。だから……おまえはたぶん、誰かに負ける」

「……」

「でも、おまえがいてくれるおかげで助かる人もたくさんいる。だから言いたいことは、『なるべく生き残れ』ってことだな」

 

 迅がすべてを語り終えると、そこには沈黙が広がる。迅の発言により「自分が未来を変えることはできない」ことを否応なしに突き付けられた京介は──どこか冷静だった。

 

「な? 予知なんて聞くもんじゃないだろ?」

「……いえ。聞いといてよかったです」

 

 ──────

 

 ……ここまでの戦闘で、倒されることはなかった。もうすぐ修たちも基地に着く。「ガイスト」も使った。あとは、自分がやられないようにするだけ。

 

(あと数十秒だ。それだけあれば修たちは……)

 

 京介は少なくとも、この時点で時間稼ぎは十分だという確信があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハイレイン隊長。──『金の雛鳥』が、まもなく到着します」

 

 ──()()()使()()という、とんでもないイレギュラーさえいなければだが。

 しかも、それだけではない。今ミラは、「金の雛鳥が到着する」と語ったのだ。それはつまり、修たちがもうすぐ基地に到着することを把握しているということを意味している。

 

(こいつら、修たちの位置を……!?)

「……そうか。ならばそちらへ向かおう。──()()()()()()()()()

 

 ──「足止め」。

 その言葉を聞いたことで、初めて京介たちは、自分たちこそが最初から罠に嵌められていたのだと気づいた。

 

(まさか……。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っていうのか……!? つまり今までの動きは──足止めされていると見せかけた、陽動……!?)

 

 米屋と京介は、敵の狙いに気づいたことでひどく動揺した。もしそれが本当ならば──あまりにも狡猾にして、あまりにも周到な作戦だ。

 群れからはぐれた子羊は生き残れない。だが、その子羊が群れから出ようとしないのならばどうすればよいか。

 その答えはとてもシンプルだ。

 

 

 

 ──群れを、散り散りにさせればいい。

 

 ここまでの流れはすべて、ハイレインの掌の上に過ぎなかったのだ。ハイレインにとって、今目の前にいる京介たちは都合よく自分たちの用意した餌に釣られて子羊を孤立させてしまった愚かな親に過ぎない。

 そして親がそれに気づいた頃には、もう既に子羊は手の中に収まっている。そのためのピースはすべて揃った。いや、ハイレインから見れば──「勝手に揃ってくれた」のだ。

 ハイレインは修たちを捕らえるべく、ワープホールの中へと消えていく。

 

「待て!!」

 

 逃げるハイレインを視界に捉え、京介は最後の突貫をハイレインに仕掛けようとする。

 ……しかし。京介が踏み込むよりも少しだけ早く、何かが京介の背中を直撃した。

 

(……!?)

 

 振り返ると、自身の背中側に出現した黒い穴から、魚の群れが湧いて出ている。ミラのトリガー・「窓の影(スピラスキア)」とハイレインの「卵の冠(アレクトール)」による、初見では防御も回避も不可能と言って差し支えない必殺の連携攻撃だった。

 勝負は決した。「卵の冠」の弾丸の直撃を受けたことで立ち上がることすらできなくなり膝をつく京介に対し、ハイレインは最後に皮肉をぶつけて消えていく。

 

「腕はいい。工夫もできる。『戦う力』もある。──だが勝敗は、()()()()()()()()()()

 

 そう言い残し、ハイレインとミラはワープホールの向こうへと消え去った。まもなく京介も活動時間の限界を迎え、強制的に緊急脱出(ベイルアウト)させられることとなる。

 まもなくベイルアウトマットに叩き付けられた京介は、すぐさま栞のところへ向かおうとして──その前に拳を壁に打ち付けた。

 

「くそっ……!」

 

 いつもの冷静さを見失い、無力感と激情のままに拳を叩き付ける。

 ──結局、迅の言う通り京介は倒されることとなってしまった。それも、敵の策にまんまと嵌められてしまうという最悪の形で。しかし、このまま終わるわけにはいかない。京介は最後に、敵のトリガーの情報を修たちに教えるよう、栞へと依頼する。

 

「宇佐美先輩。黒トリガーの情報を修たちに──」

『了解。もう送ったから、安心して!』

 

 未来を変えるポジションにいない京介は、あとはもう祈ることしかできない。

 だが、この京介の動きが──迅の見る未来を僅かに変えることになるのだった。

 

 

 ──────

 

 その頃修たちは、基地から残り100mと少しというところまで来ていた。だがそのタイミングで、レプリカから最悪の情報がもたらされる。

 

【オサム。とりまるが緊急脱出(ベイルアウト)した】

「烏丸先輩が……!?」

 

 レプリカからもたらされたその情報は、自分たちの守りが一切なくなったことを意味していた。出水が落ち、京介が倒され、米屋は遠すぎて助けに来れず、狙撃手(スナイパー)班からの援護は期待できない。正しく修たちは、孤立無援となってしまったのだ。

 しかも京介たちの足止めも空しく、敵はワープにより修たちの目の前に出現している。状況は、考え得る限り最悪へと傾きつつあった。

 

【基地までおよそ120mだ。突っ切るぞ、オサム】

「ああ!」

 

 それと同時に、栞から(ブラック)トリガーの情報が修とレプリカにもたらされる。基地に辿り着くためには、それを踏まえて最善の行動を取る必要があった。

 修たちは一度敵から見えない建物の影へと入り込み、作戦を確認する。

 

【最終確認だ。基地まではおおよそ120m。基地の入口が閉まっていれば私が開ける】

「開けるのに、何秒かかるんだ?」

【分析したところ、基地のほとんどはトリオンで構成されている。近界(ネイバーフッド)と同じ仕組みなら、一瞬で開けることができるだろう。だがこちらの世界の技術が取り入れられている場合は、開けるのに数分はかかる。こちらの機械は複雑だからな。だが、解析は子機でもできる。予め解析させておこう】

 

 そうしてレプリカから切り離された子機──ちびレプリカが、ハイレインたちに気づかれることなく本部の入口に向かって一直線で飛んでいった。

 

【あとは、我々が入口に辿り着くだけだ】

 

 その言葉が終わるのとほぼ同時に、「卵の冠(アレクトール)」の弾丸が修たちに襲い掛かる。レプリカが咄嗟にシールドを展開したことで事なきを得たが、レプリカのシールドもまたキューブへと変えられていく。長くもたないのは自明の理だった。

 

「『キューブ化』のトリガー……!」

【とりまるからの情報によれば、あの弾丸はトリオンにのみ作用するようだ】

「じゃあ、建物を壁にすれば……」

【いや、それでは時間がかかりすぎる。──こっちだ】

 

 レプリカが弾丸で近くの家屋の入り口を破壊し、修たちは中へと突入する。「卵の冠(アレクトール)」の弾丸はトリオンで構成されているもの以外に当たると即座に消えてしまうという性質上、トリオンで作られていない建物内での戦いは必然的に不利となる。

 あまりの対策の早さと迷いのなさに、ハイレインは玄界(ミデン)という場所の攻めにくさを改めて見直すこととなった。

 

(『卵の冠(アレクトール)』の性質が割れているな。対策に迷いがない。伝達が早いのは、玄界(ミデン)のトリガーの厄介なところだな。だが、ここでもたついていては孤立させた意味がなくなる)

 

 孤立させた子羊は、孤立している間に仕留めなければ意味がない。ハイレインは早期決着を狙うべく、ミラを呼び戻す。

 

「ミラ。上はラービットに任せてこちらに加勢しろ」

『恐らく突破されますが……よろしいのですか?』

「構わない。いずれにしろ、もう大して時間はかからない」

『了解いたしました』

 

 そのままミラはワープホールを開き、一気にハイレインの側へと移動する。同時にラービットに攻撃指示を行うことも忘れない。ラービットは倒されてしまうだろうが、もうそこまで長い間居座る理由がない以上些細な問題だ。決着がつくまで狙撃を止めさえできれば、それだけで仕事はしたのと同然なのだから。

 一方修たちは、建物の中を移動しつつ敵の動向を伺っている。

 

「攻撃は?」

【今のところ、来ていないようだ。このまま行こう。あと6・7軒抜ければ基地の前に出る】

 

 そのまま修とレプリカは、建物内を駆け抜けていく。しかし修は、奇妙な静かさに違和感を覚えていた。

 

 ──果たして、その違和感は現実のものとなる。

 突如として修たちの行く手を塞ぐかのように、大量の魚群が展開されたのだ。修は素早く迂回路を取ろうとするが、その瞬間、何かが修の足に直撃する。見ると、それは足元の高さをゆらゆらと低空で浮かぶクラゲ状の弾だった。室内特有の暗がりとクラゲの透明性が合わさり、気付くのが遅れたのである。

 このままでは魚群に覆い尽くされると判断したレプリカは、近くの窓をぶち破って修を脱出させる。だが、修の左足はすでに使い物にならなくなっていた。

 

「ぐっ……!!」

【立て、オサム。あと少しだ。入口の解析ももうすぐで──】

 

 しかし、解析があと少しで終わろうとしていたその時。

 不意に、子機からの連絡が途切れた。敵からの攻撃を受けたのだと、レプリカが察するのにそう時間はかからなかった。

 

【まずいな。もう1人の人型が降りてきた。情報によれば、空間を繋げる能力を持つ(ブラック)トリガー使いだ。入り口を押さえられていたようだ】

(ブラック)トリガーが、もう1人……!?」

 

 そうこうしているうちに、敵は修たちの目と鼻の先にまで迫ってきている。修の機動力は激減し、助けは期待できない。正しく絶体絶命に追い込まれてしまった。

 

【──ワープ使いを躱して強引に基地に入るか、別の入口へ向かうか……。もしくは退いて、ユーマや迅の助けを待つか。いずれにせよ──まともに戦えば勝算はない】

 

 あと、100m。だが、その100mが限りなく遠い。左足を殺されてしまった以上、100mを走り抜けるのは不可能だ。

 だがレプリカが提示した選択肢は、どれも現実的ではない。ワープ使いを躱しても、それより早くキューブ化のトリガー使いの攻撃が修に直撃する方が早いだろう。別の入口に向かおうにも、今から1人で向かうには遠すぎる。さらに言えば、その別の入口が使えるという保証は一切ない。今から退却を試みても、ワープ使いがいる以上一瞬で追いつかれてしまうことは目に見えている。遊真や迅の助けも、正直期待できそうになかった。

 あまりにも、絶望的。

 

 

 

 

 ──しかしそんな状況で、たった1人、たった1人だけ、敵の策に一切乗らなかった男がいた。

 不意に響き渡る、地面を踏みしめる足音。

 

「……標的を発見した。処理を開始する」

 

 ──A級7位三輪隊隊長・三輪秀次。

 迅の未来視を拒もうとどこまでも単独で戦い続けた彼だけは、結果としてハイレインの策に引っかかっていなかったのだ。だが同時に彼は迅の予知通り、敵と相対することになってしまっていた。自分の反骨心も計算の内だと気づかされた三輪は、今ここにいない実力派エリートに対し静かに苛立ちを募らせる。

 

「あくまでも俺を動かす気か、迅……!!」

 

 思い起こされるのは、大規模侵攻直前に迅と交わした会話。

 ──「おまえはきっとメガネくんを助ける」。この言葉が、ずっと三輪の脳裏に焼き付いていたのだ。そして今、まさに修を助ける状況になってしまっている。だからこそ、三輪は余計に苛立っていた。

 

(──ふざけるな。おまえの思惑には乗らない。三雲が死のうが死ぬまいが、知ったことじゃない)

 

 しかし、その思考は修の言葉によって中断される。

 

「……三輪先輩! 千佳を──こいつを頼みます! キューブにされたうちの隊のC級です! ぼくはここで近界民を食い止めます! 千佳を……千佳を助けてやってください!」

 

 修の必死の懇願。それを聞いた三輪の脳裏に、4年半前の忌々しい記憶が呼び起こされる。

 

 ──今でも、三輪はその時のことを鮮明に思い出せる。忘れたくても、忘れることなどできない。散乱する瓦礫、力なく地面に横たわる死体の山の中、自分の腕の中で冷たくなっていく姉の姿を。

 

『助けて……!! 姉さんが、姉さんが死んじゃう!! お願いだ、姉さんを助けてよ!! ねえ……!!』

 

 そして、少年時代の三輪の涙ながらの懇願を、一生に一度の願いを、ただ黙って見ているだけだった──()()()()()()()()()()()()()()()()()のことも。

 

 

 修の懇願が、かつての自分の姿に重なる。

 だからこそ、三輪は修を一瞥し──修を、蹴り飛ばした。

 

「知るか。自分で何とかしろ」

 

 自らだって、他人に頼ることができなかったのだ。

 あの時手を差し伸べてくれれば姉は助かったかもしれなかったというのに、あの男はそうしなかった。だというのに、自分があの男の思惑通り人を助けるなどという虫のいい話はない。

 修へのその行為は、あの日の意趣返しでもあった。突如として仲間割れにも見える奇行に走った三輪に対し、ハイレインがどこか困惑したような声色で三輪へ語り掛ける。

 

「……どうした? お前はあいつの仲間じゃないのか?」

「黙れ近界民(ネイバー)。どちらにしろ──お前は俺が殺す……!」

 

 ゆらりと立ち上がった三輪から、ハイレインは今まで相対してきた者たちとは比べ物にならないほどの敵意を感じ取った。そのまま三輪は、尋常ならざる敵意──いや、殺意を滾らせながらハイレイン相手に特攻していく。

 

「三輪先輩、(ブラック)トリガー相手に1対1……!?」

 

 黒トリガーの圧倒的な力を知る修からすれば、三輪のそれはあまりにも無謀、自殺行為としか思えない特攻だ。しかしレプリカは、冷静に戦局を分析していた。

 

【いや、相性自体は悪くない。敵の弾丸は、生き物の形こそしてはいるが実体を持っていない。つまり、ボーダーが使うトリオンの弾丸やシールドと同じ仕様だ。あのサカナでは──()()()()()()()()()()

 

 レプリカの分析通り、三輪の放った鉛弾(レッドバレット)がハイレインの魚群を貫通し、左腕へと直撃する。攻撃力を持たない鉛弾(レッドバレット)は、実体のないトリオンに干渉されない。ゆえに、「卵の冠(アレクトール)」で防ぐことができない。

 攻撃を仕掛けるべく空中へ飛びあがり無防備となった三輪に対し、ハイレインは魚群をけしかける。対する三輪はシールドをトリオンの弾丸の如く細分化し、何重もの壁を作ることで対応して見せた。そのまま鉛弾(レッドバレット)を撃ち込みながらハイレインの懐へ飛び込み、魚群をすり抜け一撃を叩きこむ。致命傷にはならなかったが、今度は弾丸にガードされていない、確実に入った一撃だった。

 

【どうするオサム? 動くのなら、三輪が敵を引きつけている今が絶好の機会だ】

 

 (ブラック)トリガー相手に優位に戦闘を進める三輪の姿に修はしばし呆然としていたが、レプリカの発言により現実に引き戻された。修は意図しない形だったとはいえ、ハイレインから距離を取ることができている。これが、名実ともに基地へ入るラストチャンスであることは明白だった。

 

「ここまで来たら強引に基地に入るしかない。この足じゃ、もう他の入口に回るのは無理だ。……でもその前に、やっておくことがある」

 

 修はそう言って、アステロイドを構える。しかし、キューブが上手く展開できない。千佳のトリガーと臨時接続した際、その莫大なトリオンが修のトリガーに機能障害を発生させていたのだ。

 だが修はどうにかレプリカの助けも借りながら、弾丸をハイレイン目掛けて放つ。それ自体は魚群に阻まれて当たることが無かったが、一瞬注意が向いた隙に三輪が切り込む隙を作ることができた。

 そのまま修たちは残りの100mを走り抜け、ついに基地の入口が目と鼻の先にあるというところまでたどり着く。そうして修たちの目に映ったのは、基地の入口付近に出来ていた歪みのような穴だった。

 

「レプリカ。基地の入口の前に、穴が……」

【うむ。あれがワープ使いのトリガーだ。見るに、遠征艇から直接空間を繋げているようだ】

(神出鬼没に襲ってきたのは、それが理由だったのか……!)

 

 だが、今は誰もいない。これなら走り抜ければ、基地まで入り込める。そう思った矢先だった。

 空間が歪む音と同時に突き出た釘のようなものが、修を急襲する。振り返ると、ワープ使いの女──ミラが何の前触れもなく背後に出現していた。

 

(……ワープ使い!!)

 

 

 

 

 ──未来の分岐点まで、あと212秒。

 

 

 





未来の分岐点のカウントダウンに関しては、かなり適当な数値です。
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