ワールドトリガー・Returner from another world   作:もりいぬ

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この度ついに、本作のUAが10万を突破いたしました。
本作をご愛読いただいている方々、そしてこれから手に取っていただく方々には感謝してもしきれません。

また同時に、お気に入り数も1千件を突破しておりました。
至らないところだらけの本作ですが、これからも何卒応援よろしくお願いします。



そして、未来は……

 

 千佳とレプリカを抱いたまま、修は基地までの一直線を駆ける。今の修には、基地の入口までの最後の数mが永遠に感じられた。

 すぐ横を見ると、キューブの(ブラック)トリガー使い──ハイレインが迫ってきている。トリオン体であるハイレインと生身である修には、身体能力に圧倒的な差がある。修が1歩踏み出すごとに、ハイレインは2、3歩踏み込む勢いで接近している。しかし、基地まではあと10歩もない。ハイレインとの差は、歩幅にして約20歩。間に合うか間に合わないか、本当の意味で瀬戸際だった。

 だがここで、ハイレインの前に立ちふさがる黒い影。

 

「行かせるか……!!」

 

 三輪と同じ細分化シールドを展開して身を固めた遼河が、ハイレインの行く手を阻んだのだ。ハイレインはどうにか目の前の敵を排除しようとするが、大量のシールドの壁に阻まれて攻撃を通せない。

 そして、ハイレインは目の前に立ちふさがった男の所業に慄くこととなる。

 

(弾が消されている……!? まさか、この男が持っているのはトリオンの武器でなく──ただの、棒切れか!?

 

 目の前の男が、迫りくる魚群を次から次へと叩き落としているのだ。

 ハイレインの推察通り、遼河が今振るっているのは弧月ではない。今しがたすぐ近くの瓦礫の中から拾ってきた、手頃な大きさの鉄の棒だ。当然、トリオンではないのでトリオン体に攻撃を通すことはできない。だがトリオンではないということは、それ即ち「卵の冠(アレクトール)」で溶解されないことを意味する。結果として「卵の冠(アレクトール)」の弾丸は、遼河に届く前にそのことごとくを打ち消されてしまっている。

 この瞬間、ハイレインは修に追いつけないことが確定的となる。修が基地の入り口に辿り着くまで、もうあと5歩もない。しかし、目の前の男を躱していくことができない。

 

 ──しかし。もう1人の(ブラック)トリガーがそれを許さなかった。

 

(『運び手』は、なんとしてでも止める……!)

 

 残った最後のトリオンをかき集めたミラが、「窓の影(スピラスキア)」による最後の攻撃を敢行する。突如自身の目の前に出現した空間の穴を、修は避けられない。遼河が気付いた頃にはもう既に、攻撃は実行されていた。

 そして──。

 

 

「がぁ……っ!!」

 

 修の足を、腹を、「窓の影(スピラスキア)」の攻撃が刺し貫いた。自身に襲い掛かった激痛を前に、修は吐血する。腹部大動脈を貫く一撃が、修の足を完全に停止せしめる。それだけではない。釘のような攻撃が左足を杭のように固定してしまったことで、修はその場で完全に動けなくなってしまった。

 しかし、修の意識はまだ完全には途絶えていない。……あと少しなのだ。自分にも、まだ何かできることがあるはずだ。薄れ始める意識の中で、修の思考が急速に早まる。その時。

 

【投げろ、オサム!】

「修!! やれーーっ!!!」

 

 レプリカの声が、遼河の叫びが、修をもう一度覚醒させる。最後の力を振り絞らせる。

 

(そうだ。決めたじゃないか。──ぼくが、ぼくがやるんだ……!!)

 

 レプリカを握る左手を死に物狂いで振りかぶりながら、修はあの時レプリカからされた「提案」を思い起こしていた。

 

 

 ──────

 

【……オサム。リョーガ。私に1つ、提案がある】

「なんだ?」

【このまま基地へ向かっても、私が入り口を開けるには20秒かかる。その間、2人の黒トリガーの攻撃を凌ぎ切るのは難しいだろう】

「……ああ。どっちかだけなら止められるかもしれないが、連携されると厳しいな」

 

 遼河はレプリカの発言を首肯する。

 自らの類稀なる戦闘能力をもってすれば、キューブ使いとワープ使いのどちらか1人は止められるだろう。接近戦にさえ持ち込めれば、片方を釘付けにするのは難しくない。シールドの細分化展開と高い機動力の合わせ技を駆使すれば、敵の懐に飛び込むことも能うだろう。

 

 だが両方を相手するとなると話が変わってくる。ただでさえ1対2という数的不利を取られるのみならず、いつどこから即死攻撃が飛んでくるのか分からないという圧倒的な不利を押し付けられるのだ。もし仮に魚群で囲まれてしまうようなことがあれば、修も遼河も一巻の終わりだ。

 だからこそレプリカは、その戦況を打開できる唯一の手立てを立案した。

 

【だからこそ、()()()()を叩く】

「本体を? ──まさか」

【そうだ。近界民(ネイバー)のシステムならば、1秒かからず解析・侵入することが可能だ。私が敵のシステムに侵入して、強制帰還命令を実行させる】

「敵の遠征艇を狙うのか……!」

 

 敵の遠征艇の入口が自分たちから丸見えだからこそ使える、一か八かの奇策。修にとっても、その考えは決して悪くないように思えた。しかし遼河は、その作戦を実行するうえで致命的な点に気づく。

 

「……そんなことしたら、レプリカも帰ってこられないだろ」

【確かにそうだ。無事に帰ってこられる確率はほぼ0といっていい】

 

 遼河の言うことはもっともだった。今のレプリカは胴体を両断されており、飛行機能が使えない。つまり遠征艇のシステムに侵入したが最後、誰かが敵の遠征艇に侵入してレプリカを拾って戻ってこない限り、レプリカは敵の本拠地に行ったまま帰ってこられなくなる。

 だがレプリカは、敵の遠征艇を叩くことによるメリットをもう1つ提示した。

 

【だが、侵入さえできれば敵を即座に撤退させることが可能だ】

「……!!」

 

 そう。これこそが敵の遠征艇を叩く最大のメリットとなる。

 ──このまま千佳を助けることができても、(ブラック)トリガー2人を退けることができても、敵が完全に撤退しなければまた同じことの繰り返しになりかねない。しかしここでレプリカの作戦が当たれば、それだけで戦いは完全に決する。帰還命令が出されているというのに、好き好んで敵の本拠地に残る間抜けはいない。

 一方で、この策には大きな穴があった。

 

【この作戦は迅の予知にない。よってオサムの生存率は保証できなくなる。だが、チカを守りきれる可能性は大幅に高まるだろう】

「三雲を、囮に使うのか……?」

【そうなる。この作戦を実行するには、最後まで敵に目的を悟られてはいけない。ゆえに、敵の遠征艇に辿り着くまで、誰かが敵の注意を引きつけておく必要がある。そして、それが今出来るのはリョーガただ1人だ】

 

 レプリカの言う事はもっともだった。

 足が片方死んでいる上、トリガーが機能不全を起こしている修では、到底敵を止められない。一応壁としてラービットも使えなくはないが、それもそう長くは保たない。つまり必然的に、敵を足止めできるのは遼河だけとなる。

 その上で、修の安全は一切 保証されない。つまり修は今、自らの命を優先するか、千佳を守り抜くことを選ぶかの選択を迫られているのだ。

 普通の人間ならば、即答など到底できない問答。しかし修は、躊躇うことなく答えを示した。

 

「……分かった」

「三雲……!?」

 

 一瞬の沈黙の後、修は躊躇も葛藤もなくレプリカの提案を受け入れた。

 だが、遼河はすぐにはその提案を飲むことができなかった。

 

「無茶だ。下手をするとお前が死ぬぞ……!」

「……それでも、ぼくがやらなきゃいけないんです。千佳を守るって決めたのは、ぼく自身だから……!」

「だとしても……!」

「遼河さんは、ぼくに何かあったら千佳のことをお願いします」

「……」

 

 遼河は修の目に、並々ならぬ覚悟が秘められていることを感じ取った。どこまでも強い意志を秘め、何処までも己を顧みることを知らない人間の目だった。

 ……経験則上、その目をしている人間には何を言っても聞かない。遼河は、それをよく理解していた。

 

「覚悟は、決まってるんだな?」

「はい!」

「……分かった。だが、これだけは約束しろ」

「……?」

 

 次に放たれた言葉は酷くシンプルながら、決して破ってはならないものだと修に感じさせるには十分だった。

 

 

 

 

 

 

 

「──()()()

 

 

 

 たった3文字。だがその3文字の重みは、修が今まで聞いた遼河のどんな言葉よりも重かった。戦地を生き抜き、人の死を目の当たりにしてきた遼河だからこそ、その言葉は異様なまでの重みをもつものになっていた。

 

「俺が時間を稼ぐ。敵の動きが止まったら、間髪入れずにレプリカを遠征艇に投げ込め」

「……はい!」

 

 修は遼河の言葉に対して静かに、されど力強い答えを返した。

 

 

 ──────

 

 そして、現在に戻る。

 修が腕を振りかぶると同時に、ハイレインは修の狙いに気が付いた。

 

(こいつの狙いは……遠征艇か!?)

 

 しかし、ここから修を止めるには遅すぎる。修との距離はもう既にあと10mあるかないかというところにまで迫っているのに、眼前に立ちふさがる黒コートの男が、ハイレインを一歩も前に進ませんとばかりに激しく抵抗しているからだ。

 どうにか排除しようと魚群を大量に向かわせるが、振り回される鉄の棒と無数のシールドに阻まれて攻撃が通らない。むしろそのせいで、いたずらに弾数だけが減り続けている。ミラもまた、先の一撃で攻撃に回せる分のトリオンを使い切ってしまった。自らを移動させられるだけのトリオンが残っていない以上、もうワープは使えない。

 さらに、ここにきて状況は一気にボーダー隊員側に傾いた。

 

「撃てェ!!」

 

 狙撃の雨が、ハイレイン目掛けて降り注ぐ。米屋の指揮により一足早く本部に辿り着いていたC級隊員が一斉射撃を仕掛けたのだ。しかしそれ自体は、残っていた魚群の壁に防がれる。

 だがこの瞬間、ハイレインの足が確かに止まった。そして、その僅かな隙があれば──

 

(……!?)

 

 ──風の名を冠する斬撃が、標的を確実に引き裂くには十分すぎる。

 足を止めたハイレインの身体を、地面から這ってきた6本の斬撃が激しく切り裂く。レプリカのサポートを得て放った三輪の「風刃」が、何百mも先にいるハイレインの身体を捉えたのだ。

 突如として這って出た斬撃を受けたことで、ハイレインは正体を探ろうと周囲を見回す。その一瞬の隙間すら逃さぬように、遊真の放った「射」印(ボルト)の弾丸が容赦なく襲い掛かる。

 そしてハイレインが射撃に気を取られているその隙に──。

 

(捉えた……!!)

 

 ──月城遼河が、ハイレインの目と鼻の先にまで来ていた。そして気付いた頃には、もう何もかもが間に合わなかった。

 

(……! しまっ……!?)

「遅い!!」

 

 ハイレインは魚群を使って抵抗を試みるも、遼河の全力の抵抗、C級隊員の援護射撃、風刃の遠隔斬撃、そして遊真の「射」印(ボルト)の波状攻撃によりそれまで展開していた弾はほぼすべて打ち消されてしまっている。加えて一連の攻撃の中で右手が吹き飛んでしまい、今のハイレインでは新しい弾を出せない。

 つまり今のハイレインは、完全に無防備。

 

 

 遼河の弧月が、ハイレインのトリオン供給器官を寸分違わず貫いた。

 

「……!!」

 

 ……いくら自己再生能力を持つハイレインといえど、トリオン供給器官を破壊された挙句、トリオン搾取のために必要な右手の本体を吹き飛ばされてしまってはどうしようもない。

 

 煙に包まれ、ハイレインのトリオン体が爆ぜる。敵将ハイレインは、ついにボーダー隊員たちの手によって討ち取られた。

 それと同時に修が、今自分にできる最大の力をもってレプリカを遠征艇へと放り投げる。投げられたレプリカは遠征艇の入口へと一直線に向かっていく。

 

【侵入完了】

 

 そのまま操作パネルに接続し、瞬きするよりも早くレプリカが遠征艇をハッキングする。レプリカの操作によって強制帰還命令が出されたことで、遠征艇に通じる(ゲート)が急速に閉じ始めた。

 遠のいていく意識の中、最後に修が聞いたのは──他でもない、レプリカの声だった。

 

【お別れだ。──()()()()()()

 

 

 ──────

 

 ついに遼河たちは、アフトクラトル遠征部隊を率いる敵の将を撃破した。レプリカも遠征艇への侵入を成功させたことで、その場の全員の耳に(ゲート)が急速に閉まる音が聞こえ始めた。

 ハイレインはそこでようやく遠征艇を乗っ取られたことに気づくが、トリオン体を失ってしまった以上もはやなすすべはない。歯噛みしながら遼河を見据えるものの、遼河はハイレインのそれよりさらに鋭く、冷たい目線を返した。

 

「終わりだ。今俺の仲間が、遠征艇を乗っ取った。そう時間が経たないうちに、お前たちの船はアフトクラトルに向かって発進する」

「……!」

「本来ならばお前を捕虜にするところだが──生憎、こっちには優先することがある」

 

 まもなくミラもまた、生身となったハイレインの側に降りてくる。ハイレインの方は完全撃破され、ミラも穴だらけだ。もうトリオンもほとんど残っていない。ミラが今ここで「窓の影(スピラスキア)」を使って攻撃したとしても、読み切られた上で返しの一刀のもとに切り伏せられてしまうのは容易に想像できた。

 

 だが遼河もまた、うかうかとはしていられなかった。修のことがあるからだ。

 修の様子を横目に見ると、修は地面に倒れ伏し、じわじわと血だまりを広げつつある。修は先ほど、ワープ使いの攻撃で腹を貫かれている。出血量的に、腹の大動脈を貫通したことが察せられた。一刻を争うのは間違いない。人の生死が関わっている以上、こうして問答している時間すら惜しいのだ。修の生死がこれからの未来に大きくかかわることを知っている以上、遼河に目の前の2人を捕らえる時間的余裕はない。

 ついでに言えば、遼河の頭の中にはある考えがあった。

 

(今倒した男は敵の将、それも(ブラック)トリガー使いだ。そんな重要人物を捕虜にしたとなれば、アフトクラトルが苛烈な反撃作戦に打って出てくる可能性がある)

 

 それは、遼河としてもボーダーとしても望ましくない。だからこそ、遼河の選択は早かった。

 

「……千佳を諦めて、大人しく退け。そうすれば手出しはしない」

 

 ──遼河は捕虜よりも、命を選んだ。

 その言葉自体は静かなものだったが、目線には確かな警告が込められていた。

 

 ──「大人しく撤退すれば何もしない。だが、怪しい動きをすれば躊躇なく斬る」。

 

 ハイレインとミラの前に立つ男は、目線でそう語りかけていた。

 自分はトリオン体を失い、ミラも辛うじてトリオン体を維持できているに過ぎないこの状況。今ここで無駄に抵抗してしまえば、間違いなく勝ち目はない。ハイレインはそう結論付けた。

 

「……いいだろう。最低限の目的は果たした。『金の雛鳥』は放棄する」

「──なら、このまま真っすぐ(ふね)へと戻ってもらおうか」

 

 ハイレインとミラは立ち上がり、遠征艇へ繋がる入口へと戻っていく。遼河は最後まで2人が修の持つトリオンキューブをくすねないか注視していたが、「金の雛鳥を放棄する」という言葉を違えることはなく、大人しく艇へと入った。

 艇に入る直前、ハイレインが捨て台詞とばかりに遼河に口を開く。

 

「顔は覚えたぞ。玄界(ミデン)の剣士。次に会う時には、必ず借りを返させてもらう」

「──なら俺たちは、何度でもお前に借りを作ってやるまでだ」

 

 遼河はハイレインの負け惜しみを、不敵に笑って返す。

 そしてその言葉を最後に、最初から何もなかったかのように(ゲート)は消えた。同時にレプリカも、遠征艇の向こうへ姿を消した。三門市を覆っていた暗雲が晴れていく。すべてのボーダー隊員たちが、その瞬間を見届けた。

 

 

 

 ──ただ、1人を除いて。

 

「三雲! しっかりしろ!!」

 

 修の意識は、完全に途絶えつつあった。遼河がすぐさま応急処置を施すも、傷口を塞ぐまでの出血量が多すぎたのだ。しかし、まだ辛うじて息は残っている。すぐに適切な治療を施せば、助かる範疇だと遼河は判断した。

 まもなく、屋上から夏目と米屋が降りてくる。夏目の手には、1つのトリオンキューブが抱えられていた。降りてきた2人を見た遼河は、間髪入れずに指示を飛ばす。

 

「2人とも、話は後だ! 三雲を医務室まで運ぶ! 手伝え!!」

「は、はいっす!」

「了解!」

 

 そうして遼河・米屋・夏目の3人は、直ちに瀕死の修を医務室へと運び出すのだった。

 

 

 

 一方、市街地の戦い。アフトクラトルの作戦によって市街地にけしかけられたトリオン兵の大群は、小南の猛攻により着実に数を減らしつつあった。しかし、やはり1人ですべてのトリオン兵を請け負うには数が多すぎる。加えて敵が広範囲に散り散りになっているせいで、小南1人ではカバーしきれないのだ。

 そうこうしているうちに、トリオン兵が市民に襲い掛かろうとしている。小南が助けに入ろうとした、その時だった。

 

「嵐山隊、現着した! 速やかに敵を一掃するぞ!!」

「了解」

『了解っすよ~!』

 

 現れたのは、赤い隊服に身を包んだ2人の青年。ボーダーの星こと嵐山隊が、市民の大ピンチに駆けつけたのだ。窮地に颯爽と現れたヒーローを前に、市民は歓喜の声を上げる。

 

「あ、嵐山隊……!?」

「嵐山隊だ!!」

「助かった……助かったぞ! うおおぉ!!」

 

 だが、助っ人の参戦はそれだけでは終わらなかった。バムスターを切り裂いて、どこからともなく新たな2つの人影がトリオン兵の山の向こうから姿を現したのだ。

 

「あら、もうほとんど終わっちゃってるのね。出遅れちゃったわ」

 

 ──黒地に紫を基調とした隊服に、蝶のエンブレム。

 A級唯一のガールズチーム、A級6位・加古隊だった。今の今まで隊長である加古望がドライブに行っていたため、大規模侵攻に遅れる形となってしまったのである。

 頼もしい助っ人の登場を前に、小南も喜びを隠せない。

 

「加古さん!」

「こっちサイドは私たちが引き受けるわ。遅れた分はしっかり働くから安心して頂戴。──行くわよ、双葉?」

「はい!」

 

 程なくして、市街地のトリオン兵は一掃されることになる。時を同じくして、ヒュースとの戦いを繰り広げ続けていた迅のもとに遼河からの通信が入った。

 

『迅』

「遼河さん? そっちはどうなった?」

『敵は撤退した。千佳も、もうすぐ元に戻る。それで、三雲についてなんだが……腹を刺された。かなりの重傷で、意識もはっきりしてない』

 

 その報告を聞いたことで、迅の目に映る未来が完全に確定した。

 

「──死なないよ」

『……本当か?』

「うん。メガネくんは死なない。今、確定したよ」

『そうか……!』

 

 ──未来は決まった。

 修は死なない。千佳も無事にこちらの世界にとどまった。誰も、死ななかった。

 

「お、終わった~……」

 

 最悪の未来が訪れないということが確定したことで迅は完全に脱力し、ようやく息をつく。何が起きたか分かっていない様子のヒュースに対し、迅はいつもの飄々とした様子で語りかけた。

 

「悪いな。お前をフリーにするとうちの後輩がやばかったんで、足止めさせてもらった。──けど、たぶんおまえはこっちに残って正解だったと思うぞー。あっちに戻れば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。おれのサイドエフェクトがそう言ってる」

 

 ヒュースはその言葉を聞いて、歯噛みする。

 未来が見えるということを最後まで信じていなかったヒュースだが、自分たちの事情まで把握されているとなれば、多少なりとも信じざるを得ない。そのタイミングで、1台のジープが迅の側に停止する。迅はジープを指さし、ヒュースに言葉を投げかけた。

 

「もうおれたちが戦う理由はない。投降しろ。悪いようにはしない」

 

 ……祖国に戻れない以上、ヒュースにはもう打つ手がない。抵抗は無意味だと判断したヒュースは、屈辱ながらも降伏を受け入れる。こうしてヒュースは、今回のアフトクラトル遠征部隊で唯一の捕虜となった。

 まもなく基地東部と基地南部でも、トリオン兵の掃討が完了する。未来視でそれを確認した迅が、城戸司令に通信を送った。

 

「城戸さん。もう敵戦力の追加はないから、東と南には救護班を送っても大丈夫だ」

 

 それを聞いた城戸司令は、静かに口を開く。

 

『迅。この結果は──お前の予知の中ではどれくらいの出来だ?』

「……最高、とはいかないけど──限りなく最高に近い未来だ。今回は誰も死んでない。そうでしょ?」

『ああ。我々の方から、死者は確認されていない』

「なら、万々歳だ。A級B級が捕まるパターンも、民間人が死にまくる未来もあった。それと比べれば、間違いなく最高の未来だ。……みんな、本当によくやったよ」

『そうか……。分かった。ご苦労だったな、迅』

 

 そうして迅が城戸司令との通信を終えた後、遼河から通信が入る。

 

『これで、終わったんだな?』

「うん。本当に終わり。ありがとう、遼河さん」

『ああ。……よかったな、迅』

「……うん」

『俺は今から街に行って、後処理を手伝う。迅も手を貸してくれ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──大規模侵攻死傷者・行方不明者内訳。

 

 民間人、死者0名。

 重傷者22名、軽傷者68名。

 

 ボーダー、死者0名。

 重傷者1名、行方不明者32名。

 ※行方不明者はすべてC級隊員。

 

 近界民(ネイバー)、死者1名、捕虜1名。

 ※死者は敵近界民(ネイバー)の手によるもの。

 

 

 

 

 民間人、ボーダー関係者ともに、直接の死者なし。

 

 

 

 

 

 

 近界民(ネイバー)大規模侵攻

 三門市防衛戦

 

 終 結

 

 

 

 

 





少々駆け抜けた感が否めませんが、これにて第二次大規模侵攻は終結となります。ですが、大規模侵攻「編」はまだほんの少しだけ続きます。
後始末やらいろいろありますので。

「……主人公が美味しいところだけ持っていきすぎでは?」という点には触れないでください。

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