ワールドトリガー・Returner from another world   作:もりいぬ

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この話から視点変更が入ります。ご了承ください。
また、《》で表示される台詞はオペレーターの台詞となります。



嵐の前の静けさ

 遼河達が玄界(ミデン)に帰ってきてから1か月が経過し、季節はあっという間に冬、12月になっていた。遼河達は特に大きなトラブルもなく、悠々自適に過ごしている。定期的に小南が遼河に勝負を挑んでは遼河にボコボコにされたり、(ブラック)トリガー・「風刃」を使った迅と遼河が対決し8-2で遼河が負け越したり、久しぶりに忍田本部長に稽古をつけてもらったりなどいろいろあったが、火と煙舞う戦争とは程遠い平和な日々を楽しんでいた。

 そんな遼河は今日、ボーダー本部を訪れていた。何のことはない、いつも通りの防衛任務だ。遼河はどの隊にも所属していない所謂フリーのB級隊員だが、実力であればA級上位はおろか単騎でA級部隊とやりあえるだけの実力はある。だからこそ、こういった防衛任務では重宝されていた。

 しかも近頃何故かトリオン兵の出現数が増えていることから、手の空いている隊員たちには今までにないほどの周期で動員がかかっていた。そういう事情もあり、部隊を組んでおらず、学校にも通っていない遼河は必然的に混成部隊の穴埋めとして駆り出されることが多くなっていた。

 そして今日、遼河の予定にはA級部隊との合同任務が入っていた。遼河はこの1カ月の間に個性豊かな隊員たちと即席の混成部隊を組んできたが、何気にA級部隊との合同任務はこれが初めてだ。A級部隊とはどんなものだろうか、と思いながらエントランスで待っていると、後ろから声がかけられる。

 

「えっと、もしかして今日の防衛任務のシフトに入ってる月城さんっすか?」

「そうだが……?」

「よっし当たり! 秀次ー! 月城さん見つけたぞー!!」

「そんなに大きな声を出さなくても聞こえてる。あとうるさい」

 

 遼河が振り向くと、そこには黒紫色の隊服に身を包んだちょっとバカっぽそうな青年と、その青年と同じヘッドセットをつけただいぶ鋭い目の青年が立っていた。隊服の左胸には「A 07」と書かれたエンブレムが描かれており、そのエンブレムは銃弾に2匹の蛇の尻尾が巻き付いた奇特なデザインをしていた。

 

「A級7位、三輪隊。隊長の三輪秀次です」

「月城遼河だ。今日はよろしく」

「米屋陽介っす。ま、よろしく頼みまーす」

 

 まもなくその後ろから2人の隊員らしき人物がやってくる。1人は典型的な美形男子で、もう1人はどこかインテリっぽさが漂う眼鏡の青年。体格的に前線に出るタイプではないだろうと遼河は考えた。

 

「奈良坂透です。今日はよろしくお願いします」

「古寺章平です」

 

 三輪隊のモチーフカラーは紫のようで、全員紫色の隊服に、お揃いのヘッドセットをつけている。そして全員揃った三輪隊を見て、遼河の中にある1つの不安がよぎった。

 

(……この隊、古寺とかいう隊員以外に目が生きている人間がいない。大丈夫か?)

 

 A級なのだから実力は申し分ないと心の中では分かっていても、遼河はそう思わずにはいられなかった。

 

 

<Side:遼河>

 

「よし、あらかた片付いたか」

《周囲のトリオン反応、なくなりましたっ》

「わかった」

 

 オペレーターの指示の下、きっちりとトリオン兵を狩っていく。俺には専属のオペレーターがいないので、手の空いているオペレーターがついてくれている。

 三輪隊の面々に関しては最初こそ心配していたが、そこはさすがボーダーの精鋭と呼ばれるA級隊員。その心配は不要だったようで、現れたトリオン兵を次々に各個撃破していく。

 特に米屋という奴の槍さばきには目を見張るものがあり、戦地を渡り歩いてきた俺も感心するところがあった。

 だが、俺にはそれ以上に気になることがあった。

 

(……三輪、だったか。あの男の目つきは、明らかに普通じゃなかった)

 

 俺が気になったのは、トリオン兵と相対する三輪の目だった。あの目線には、見覚えがある。

 ──復讐者の目。俺の目に、三輪秀次という人間は()()()()()()()()()()()()()()()()。現れたバムスターを切り払いつつ、そんなことを考える。トリオン兵をあそこまで目の敵にするということは、トリオン兵に自分の大切な人を殺されているのかもしれない。

 向こうの世界を旅してきた中で、戦地に出ざるを得なかったことは1回や2回じゃない。そしてその度に、復讐のために戦う兵士を見てきた。直接理由を聞かずとも、何となくわかってしまうのだ。

 復讐のために戦う兵士は、目が違う。漆黒をたたえるその瞳の奥に、目に見えない業火が燃えている。その炎は、簡単に消せるものではない。三輪の目は、俺が戦地で見てきた復讐者のそれだったのだ。

 その時、ボーダー本部から警告音が鳴り響く。同時にオペレーターからの通信が入った。

 

《警戒区域の端で(ゲート)反応ですっ!》

「三輪隊はどうしてる?」

《着くまでには時間がかかるそうですっ》

「分かった。座標を表示してくれ」

《はいっ》

 

 まもなく、視界を通じてレーダーにトリオン兵の反応が表示される。

 ……少々遠いが、これなら単独で動ける俺の方が早いだろう。

 

「グラスホッパー」

 

 グラスホッパーを起動し、ジャンプで一気に(ゲート)の発生地点へと移動する。が、既にそこには誰もいなくなっており、出現したはずのトリオン兵は影も形もいなかった。

 いや、正確には()()()()()()()()()()。しかし近くに三輪隊の面々が居るわけでもなければ、他の部隊がトリオン兵を撃破したという報告もない。つまり、今ここに残っているのは破壊されたトリオン兵の残骸だけだ。

 

(……どういうことだ?)

「月城さん」

「三輪隊長か。……トリオン兵が、何者かに殲滅されているようだ」

「え、月城さんが倒したんじゃないんすか?」

「いや、違う。俺が来た頃には、すでにこの状態だった。それにこのトリオン兵のやられ方……なにか、()()()()()()()()()()()()()()ようだ。とてもじゃないが、ブレードで出来るような芸当じゃない」

 

 俺より遅く到着した三輪と米屋に事の顛末を説明すると、話を聞いた三輪の表情が歪む。まもなく三輪隊が4人集合し、何かしらの調査を始める。

 俺は仕事がないようなのでそのまま防衛任務に戻り、トリオン兵の残党の掃討にあたった。そうしているうちにそのまま日が暮れ、任務終了の合図が出される。

 俺は三輪隊の面々に挨拶し、玉狛支部に帰還した。帰ってきた俺を、アイリスや宇佐美、迅たちが出迎えてくれる。

 

「おかえりなさーい!」

「お疲れ様、遼河さん」

「おっ、遼河さん。お帰り」

「お、かえってきたか」

 

 この2か月の間に、俺たちは玉狛の生活に随分と馴染んだ。中でも面白いのが、玉狛支部のお子さまこと林藤陽太郎。どうやら動物と話せるサイドエフェクトを持っているらしいが、雷神丸が陽太郎の命令を聞いているところをほとんど見たことがないので、多分陽太郎はナメられてる。雷神丸はどっちかというとアイリスに懐いているし。

 そしてあの会議から間もなく、アイリスは新しい名前を手に入れた。林藤支部長曰く、唐沢さんという人がアイリスの戸籍を用意してくれたらしい。今のアイリスは俺の親戚、「月城あやめ」として生活している。

 どうやって戸籍を用意したかは……大人の世界という奴だ、知らない方がいいだろう。いろいろあったが、アイリスを普通の民間人として生活させてくれている城戸さんには感謝している。ちなみにあやめという名前の由来自体はシンプルで、アイリスを日本語にしたものだ。

 アイリス……もといあやめはこっちに来てからというもの、料理の腕前がぐっと上達した。今まで向こうの世界では作れなかった料理にいろいろ挑戦しては、玉狛のメンバーに絶賛されている。今日の夕飯はあやめ、迅、小南、陽太郎、宇佐美、そして俺が囲む形になった。

 

「それじゃ、いただきます!」

「「「「「いただきます」」」」」

 

 あやめの挨拶の後、テーブルに座った俺たち5人が挨拶をする。あやめが「ご飯は美味しく食べたい」からと、食事の際には必ずいただきますの挨拶をするというルールを決めたのだ。サバイバルのような旅をした経験があるから言えるが、食べ物のありがたみというのは本当に大きい。向こうでは数日間大した食事をとれずに旅したこともあるくらいだ。だからこそ、あやめと俺は食べ物をお腹いっぱい食べられる今の時間がとびきり大切なのだとわかっている。

 今日の夕食はキノコのスパゲッティで、とても美味しそうな匂いが漂っていた。そしてその匂いに違わず、味も実に素晴らしい逸品だ。

 

「おいしい! シェフになれるよ、あやめちゃん!」

「本当に美味しい料理つくるわね!」

「えへへ……。嬉しいです!」

「さすがあやめちゃん。おれのおよめさんこうほだ」

「おい陽太郎。からかうのはそれくらいにしておけ」

 

 宇佐美と小南が、手放しにあやめの料理を絶賛する。隙あらばあやめを「およめさんこうほ」にしようとする陽太郎に釘を刺すのも忘れない。

 あやめが来てから、それまで当番制だったらしい玉狛支部の料理担当をあやめが一手に引き受けることになった。普通なら不満を漏らすことかもしれないが、あやめに関してはその限りではなく、むしろ喜んで引き受けている。それが功を奏したのか、向こうにいた時点で相当上手だった料理の腕がさらに伸びている。

 あやめはもうこっちの世界で料理人としてやっていけるのではないだろうか。そう思いながら、楽しい夕食の時間は過ぎ去っていった。

 

 

 夕飯を食べ終えた俺は、屋上にいた。するとそこに、同じく夕飯を食べ終えた迅がやってくる。

 

「遼河さん」

「迅。どうした?」

「いや、なんとなく屋上に来ただけ」

 

 なんとなく、ということはほとんどないだろう。迅には未来が見えるのだから。

 ちなみに迅と俺は同い年だ。それなのに迅が俺のことを「さん」付けで呼ぶのは、お互いが罰ゲームの内容を覚えていたからだ。

 というのも、まだ迅と俺が中学生だった頃、ある勝負をした時に罰ゲームを決めたことがあった。で、その罰ゲームの内容が「負けた方は勝った相手を『さん』付けで呼ぶ」というものだったのだ。

 そしてその期限が「相手にリベンジして勝つまで」なので、いまだに俺に勝ち越せていない迅はずっと俺のことを「さん」付けしているわけだ。

 

「そうだ、新しいトリガーの使い心地はどう?」

「かなりいいな。俺がずっと使ってた旧式のトリガーと比べても、ほとんど違和感がない」

 

 俺がボーダーに復帰したすぐ後のこと。俺が約5年近く使ってきたトリガーは、俺が未だに昔のトリガーを使っていると迅から聞いたらしい鬼怒田さんが飛んできて即刻取り上げられてしまった。なんでも「緊急脱出(ベイルアウト)機能がない」とかうんたらかんたらで、要は危険すぎるからとの事だ。

 緊急脱出(ベイルアウト)というのに俺は馴染みがなかったので聞いてみたが、どうやら一種の安全機能の1つらしい。簡単に言えば、この機能さえあればやられても生身のまま戦場に放り出されずに済むということだそうだ。時代は随分とハイテクになったものだな。「当たらなければどうということはない」理論はもう必要ないというわけか。もっとも敵の攻撃に自分から当たりに行くなんてことはしないし、当たらないに越したことはないわけだが。

 それで、その日のうちに俺には新しいトリガーが支給されることになった。5年近く俺と共に戦い続けた相棒は取り上げられてしまったが、今は2代目ブレードといえる「弧月」をメインに、高速機動を可能にする「グラスホッパー」というトリガーをセットしている。弧月以外の攻撃用トリガーはセットしていない、シンプルな一刀流構成だ。

 ちなみに今の玉狛にグラスホッパーの使い手はいないらしい。小南が実演してくれたが、小南はグラスホッパーがない方が強いだろう。小南の動きは型に囚われない変則自在な動きが持ち味だ。そしてそれは、近界民の戦闘スタイルに近い。

 

「で、何の用だ? まさかお前が本当になんとなく屋上に来るわけないだろう?」

「やっぱ誤魔化せないか」

「分かる。5年いなかったとはいえ、お前のことはよく分かってるつもりだからな」

「あーあ、遼河さんには勝てっこないな」

 

 それだけ言うと、迅は真面目なトーンで俺にこう言い放った。

 

「──もうすぐ、未来が大きく動く」

 

 その話を聞いた俺は、すぐに迅の方を向き直る。これは、本気のトーンだ。どうやら、相当重要な未来の分岐点が迫ってきているらしい。

 

「そうか、分かった。それで? その事は誰かに言ったのか?」

「いや。遼河さんだからこそ、話せることだ」

「……そうだろうな。未来が見えるってことは、必ずしもいいことばかりじゃない」

「うん。でも、遼河さんのおかげで未来の選択肢が増えた」

「なら、俺は未来をよくするために動くだけだ」

「頼りにしてるよ、遼河先輩」

「……気色悪いからやめてくれ」

 

 俺は迅と同い年ではあるが、ボーダーにいた経験は迅よりも長いし、何なら小南より前にボーダーに所属している。だから迅からすれば俺が「先輩」というのは間違っていないんだろうが、迅から先輩って呼ばれるのはどうにも気分が悪くなる。今は軽口叩けるだけの余裕がある、ってことなんだろうが。

 

「そろそろ寝ようか。明日から忙しくなりそうだし」

「そうだな」

 

 迅と2人、屋上から降りていく。

 ──迅の見る未来がどんな未来なのか分からなくとも、俺は俺の未来を掴む。そう、強く決意して。

 

 

 次の日。いつも通りアイリスが作ってくれた朝食を美味しく頂き、俺は日課のジョギングへと駆け出していた。いつもと違うジョギングコースを行くことにしたのだが、そのコースの道中に、懐かしい建物を見つける。

 

「ここは……」

 

 そこは、俺の大切な幼馴染の家だった。5年が経った今も引っ越していなかったようで、表札も、家の外観も、何から何までそのままだ。ちゃんとここで人が生活している気配もある。

 この辺りは警戒区域の外なので、普通に人が住んでいるのだろう。俺の記憶が正しければ彼女は今は16歳だ。三門市のどこかの高校にでも通っているのだろうか。

 

『ねえねえ、いっしょにあそぼ!』

『じゃあ、今日はなにしてあそぼうか?』

『えーとね……。じゃあ、おにごっこしたい!』

『2人で? でも……いいよ。負けないぞ?』

 

 脳内によぎるのは、まだ俺が彼女と一緒に遊んでいた時の幼少期の記憶。まだ俺がボーダーに入る前の記憶。母さんが死んでからボーダーに入る前は、この家の世話になっていた。俺がボーダーに入ると決めた時は、大泣きされながら止められたものだ。

 ……今となっては、過去の話。この家には長らく帰っていない。かつて俺のことを「お兄ちゃん」と呼び、本当の兄のように慕ってくれた彼女が俺を覚えているという確証はない。

 

「あぁ、ダメだな。どうしても……感傷に浸っちまう」

 

 俺は少しばかり熱くなってきてしまった目頭を冷やすかのように、しばし全力疾走する。……そんな時だった。

 昨日聞いたのと少し違う警告音が、市内全域に鳴り響く。この不安を煽るような警告音は普通の警告音よりずっと質が悪い。何せこの警告音は──

 

『緊急警報! 緊急警報! (ゲート)が市街地に発生します! 市民の皆様は、直ちに避難してください! 繰り返します──』

 

 ──イレギュラー(ゲート)の発生の合図、だからだ。

 

 





いよいよ原作展開が始まります。
また、この際思い切って連載することにしました。

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