ワールドトリガー・Returner from another world   作:もりいぬ

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少しずつ原作に絡んでいきます。
なお今回、展開上とあるキャラが少々酷い目に遭います。ご注意ください。

追記∶バムスターが何の間違いかバ「グ」スターになっていたため修正させていただきました。
誤字報告してくださった方にお礼を申し上げます。



危機の予感

 ──イレギュラー(ゲート)

 本来ボーダーは特殊な誘導装置を使うことで、(ゲート)の開く場所をボーダー近辺付近に集中させている。しかし、時折誘導装置範囲外に(ゲート)が出現してしまうことがあるのだ。つまるところイレギュラー(ゲート)とは、警戒区域外に発生した(ゲート)のことを指す。そしてイレギュラー(ゲート)から出てきたトリオン兵の種類によっては、甚大な被害が発生する可能性がある。

 突如として開いたイレギュラー(ゲート)は、今俺がいる場所からも見えた。しかも、俺の記憶が間違っていなければ開いた場所はよりにもよって三門第三中学校のある辺りだ。少しでも遅れれば、とてつもない被害が出ることは簡単に想像がつく。躊躇している暇は一切ない。

 

「トリガー、起動(オン)。──グラスホッパー!」

 

 素早くトリオン体に換装し、グラスホッパーでの移動を開始する。いつでも攻撃態勢に移れるよう、弧月に手をかけておく。

 俺の持つトリガーそのものは緊急脱出(ベイルアウト)機能やらその他諸々がついた新型だが、部隊に所属していないので隊服はない。そこで、俺が向こうを旅していた時の格好とほぼ同じデザインにしてもらっている。少し長めのコートのような戦闘服が、冬の風になびいた。

 数分もすれば、三門第三中学校のグラウンドに辿り着く。だが、そこには奇妙な光景が広がっていた。

 

(トリオン兵が、殲滅されている?)

 

 そう、トリオン兵が1匹残らず撃破されていたのだ。見た感じ、新手や残党もいるようには見えない。文字通り、すでに戦いは終わっていた。そこに、赤い隊服に身を包んだ4人組が現れる。ボーダーで赤い隊服と言えば、1つしかない。「ボーダー広報部隊」こと、A級5位の嵐山隊だ。

 ……とは言ったものの、さっき言ったようにすでに敵は一掃された後だ。実際嵐山隊の面々は、敵が殲滅されているこの状況に困惑している。俺は逆に冷静過ぎたのか、変なことを考えていた。

 

(……随分と物騒なトリガー持ってる隊員がいるな。見た目的に突撃銃か? しかもなんか迅にそっくりだし。でも迅って一人っ子だよな……?)

 

 そんな無駄なことを考えていると、校舎の中から出てきた白い少年と眼鏡の少年が嵐山隊の面々に状況を説明し始めた。俺はそれを気付かれないようひっそりと聞いていた。

 白い少年の言い分では、「眼鏡の少年は民間人を守るために武器を取り、現れたモールモッドを殲滅した」という。一応絵は描けているが……。なぜだろうか、妙に嘘くさい。

 そう思っていると、先ほど「嵐山隊長」と呼ばれていた好青年が弟妹らしき生徒の方へと向かっていった。

 

(なるほど、あれがブラコン。ついでにシスコン、ってやつか)

 

 嵐山は自分の弟妹を一通り撫で回すと、眼鏡の少年に近付き、声を掛けはじめた。

 しかし見れば見るほど迅にそっくりだ。サングラスがないと一瞬分からなくなりそうだ。そんな嵐山という隊員は、眼鏡の少年を厚く讃えていた。

 

「いや、しかしすごいな! ほとんど一撃じゃないか。しかもC級のトリガーで……。こんなの、正隊員でもなかなかできることじゃないぞ。お前ならできるか、木虎?」

(……C級?)

 

 ──その嵐山の言葉を聞いて、ある違和感に気づく。C級のトリガーというのは、訓練用のトリガーなのだ。よほどの使い手でもない限り、バムスターはともかくモールモッドを倒せるレベルの出力はない。

 無論俺ならできる自信があるし、小南や迅のようなやり手なら十分出来るだろうが、ただのC級が訓練用のトリガーでモールモッドを倒せるとは思えない。しかも一撃で撃破するなど、熟練者でなければまず不可能だ。

 そんなことを考えていると、木虎と呼ばれた女隊員がスコーピオンを起動し、近くにあったモールモッドの残骸を細切れにした。

 

「できますけど、私はC級のトリガーで戦うような馬鹿な真似はしません。そもそもC級隊員は訓練生です。訓練以外でのトリガー使用は、許可されていません。彼がしたことは立派な隊律違反です。嵐山さんも、違反者を褒めるようなことはしないでください。C級隊員に示しをつけるため、ボーダーの規律を守るためにも、彼はルールに則って処罰されるべきです」

 

 心底不愉快です、というオーラを隠すことすらせず木虎は言い放った。その木虎の発言に、眼鏡の少年が反論する。

 その後、眼鏡の少年と木虎という少女はしばらく言い争っていた。人の命より隊律なのか、みたいな内容だったと思う。話がヒートアップしてきたところで、いい加減仲裁に入ろうと思った矢先、白い少年が割り込んだ。

 

「おまえ、なんで遅れてきたくせにえらそうなんだ?」

「なっ……!?」

 

 それまでヒマそうにしていた白髪の少年が、真面目な表情になって前に出る。眼鏡の少年が彼を止めたが、彼は臆することがなく言葉を続けた。

 

「日本だと、だれかを助けるのにも許可がいるのか?」

「それはもちろん個人の自由よ。ただし、それはトリガーを使わなければの話。トリガーを使うにはボーダーの許可がいるの。当然でしょ? トリガーはボーダーのものなんだから」

「なに言ってんだ? トリガーはもともと近界民(ネイバー)のものだろ。おまえらはいちいち近界民(ネイバー)に許可取ってトリガー使ってんのか?」

 

 その一言に、俺はかなり驚いた。

 よもや旧ボーダー以外の人間で「トリガーは近界(ネイバーフッド)の技術」だと知っている奴がいるとは思わなかった。

 木虎はなおも白髪の少年に主張をぶつけている。しかし、その言い合いは木虎がだいぶ劣勢であるように思えた。 

 

「あなた、ボーダーの活動を否定する気!?」

「ていうかおまえ、オサムがほめられるのが気に食わないだけだろ」

「なっ……!?」

「ぶふっ……!」

 

 もう我慢できなかった。ここまでボーダー隊員に対してド正論をかますとは。

 城戸さんが白髪の少年の言葉を聞いたら、間違いなく顔を顰めたことだろう。思わず吹き出してしまった俺を、その場にいた全員が見た。   

 俺は笑いをこらえつつ、白い髪の少年のもとに向かう。今の今まで会話に入る隙がなかったから放置していたが、そろそろこの舌戦に白黒をつけなくてはならない。それが年長者の役目というものだ。

 

「あなた、誰ですか?」

「あぁ、すまない。俺は月城遼河、B級隊員だ」

「はぁ……。年上のようなので強くは言いませんけど──いったい何の用です?」

「凄まじく偉そうだな……。まあいい、何しに来たのかは簡潔に言おう。年長者として、この話し合いの勝敗を決めようと思ってな」

「そうですか。当然、彼を罰すべきですよね?」

 

 その物言いに、俺はカチンときた。

 この女子──木虎の喋り方は、「自分の主張が通って当然」と言わんばかりのものだったからだ。見た感じあまり強くないのでここでボコボコにしてやってもいいが、そんなことをすればそれこそ隊律違反になる。

 そもそもそれ以前に、この舌戦の勝者は決まっている。俺は木虎──ではなく、白い少年の肩に手を置いた。

 

「いや? 少年、君の勝ちだ

「はぁ!?」

「おお、やった」

 

 木虎という隊員が俺の方を「何言ってんだコイツ」と言わんばかりの視線で見つめ、白い少年が感心したかのような表情をする。

 木虎という隊員は負けを認めたくないようで、俺に噛みついてきた。

 

「あなたね……!」

「じゃあ逆に聞くが、この少年は何か間違ったことを言ったか? この少年の言うとおり、トリガーはもともと近界民(ネイバー)の技術だ。ボーダーが使ってるトリガーは、それを模倣したものでしかない。それに、A級隊員は目の前で殺されかけてる民間人がいても見殺しにしていいのか? それこそ問題だと思うが?」

「うっ」

「俺からしてみれば、お前はこの少年の言う通り()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と見える。人の命と隊律のどちらを守るのが優先か、よく考えるんだな」

「なっ!? A級に向かってそんなことを──!」

 

 ……さっきからこの木虎という奴、妙に「A級隊員」にこだわるな。A級隊員はボーダー隊員の中でも最上位の精鋭を意味する。ということは──。

 

(あぁ、理解した。コイツたぶんエリート意識の塊だな。なら──)

「不満があるなら本部でいくらでも相手をしてやる。だが、今のお前が俺と10本戦おうが100本戦おうが──1本も取れないし、取らせないぞ。断言できる」

「は……!?」

「お前は物事が何も見えてない。自分がエリートだと意気込むのはいい。それは好きにしろ。だが自意識過剰な人間は、いずれ足元をすくわれて終わりだぞ」

「……」

「おおー」

 

 白い少年が感心したように俺に拍手を送って来た。……特に拍手されるようなことをした覚えはないのだが。

 一方で痛いところを突かれたのか、木虎は完全に沈黙してしまった。つまり、「木虎=エリート意識の塊」っていう俺の推測は間違っていないはずだ。

 

(向こうでもたまに見かけたんだよな。『自分は選ばれし者!』っていうエリート意識が根幹になってる奴)

 

 そしてそういう奴は、自分より上の奴が現れたり、主張を粉々に打ち砕かれると立ち直れなくなるか、意地でも這い上がってくるかの2択。でも見た感じ、木虎は後者だろう。実際、心が折れたような表情をしていないからな。

 しかし木虎をボコボコに言い負かしたとはいえ、彼女の言うことにも一理あるのもまた事実。

 

(この木虎とかいう奴の言うのも間違ってはない。人命を優先したとはいえ、隊律違反は隊律違反だ)

 

 俺や忍田さんは眼鏡の少年の行動を「勇気ある行動」として称賛するんだろうけど、規律に厳しい今の城戸さんが黙っているかどうかはなんとも言えない。

 

(……仕方ない、どこまで行けるか分からないけど掛け合ってみるか)

 

 だがそれ以前に、眼鏡の少年が何者か分からなければ話は始まらないだろう。俺はとりあえず、眼鏡の少年に声をかけることにした。

 

「そこの眼鏡の少年。名前は?」

「あ、はい。三雲修です」

「了解。さて三雲君。市民の命を救ったことは称賛に値すると、俺は思っている。けど、隊律違反なのもまた事実だ。だからとりあえず、今日中に本部に出頭してくれ。上の方には俺から話を通しておく。そして、俺は君の勇気ある行動を称えたい。よくやった」

「あ、ありがとうございます……!」

 

 俺はそこまで言うと、嵐山に向きなおった。

 

「悪い、出すぎた真似をした」

「いや、問題ない。むしろ、言いたいことを言ってくれて助かった。後のことは、俺たちに任せてくれ!」

「わかった。なら、後はA級部隊に任せて俺はここで退散するとしよう。そこの木虎とやらの言うとおり、俺は()()()()だからな」

「ちょ、ちょっと……!」

 

 皮肉たっぷりに木虎の方を見ながら言い放つ。

 ようやく復活したらしい木虎を半ば無視しながら、俺はグラスホッパーで屋根の上に飛び乗り、そのまま立ち去った。正直、木虎と同じ空間に居たくはなかった。それにどこへ行くかは決まっている。城戸さんに情状酌量をかけあうために本部に行くのだ。

 そして本部への隠し通路の入り口を開こうと思ったその時、迅がひょっこりと現れた。どこから出てきたんだ。未来予知使って待ち伏せでもしてたのか。 

 

「おっ、遼河さん」

「迅。……今急いでるんだ。邪魔しないでくれ」

「あー、その事なんだけど。……ここは俺に任せてくれない?」

「何かあるのか?」

「もちろん。──これから起きることが、未来を動かすために絶対必要になる」

 

 ──()()()()()()()

 迅のこの言葉の重要性がわからないほど、俺は間抜けではないつもりでいる。迅が出張ると決めた以上、ここは素直に引き下がるべきだろう。

 

「……分かった。なら、この先のことはお前に任せる」

「了解。ここから先は、裏の実力派エリートにお任せあれ」

「……俺が表の実力派エリートってか?」

「そういうこと」

 

 どうやら迅の中では、俺も「実力派エリート」扱いらしい。少し複雑ではあるが、その称号は受け取っておくことにした。

 

「じゃ、おれはそろそろ行くよ」

「……夜までには帰って来いよ」

「あ、ちょっと待って」

 

 その場を去ろうとする俺を、迅が呼び止めた。

 

「もう少ししたら玉狛に人が増えるって、先に言っとくよ」

「新入りが来るってことか?」

「うん。おれのサイドエフェクトがそう言ってる」

「そうか」

 

 ……迅が自ら動くということは、相当重要な未来の分岐点が待っているのだろう。俺は三雲という隊員のことを迅に任せ、その場を後にした。

 だがその帰り道。再び街中に警報が鳴り響き、空にイレギュラー(ゲート)が開く。そこから現れたのは、巨大な魚のようなトリオン兵。

 

(こりゃまたレアなのが来たな……)

 

 その正体は爆撃用トリオン兵、イルガーだ。向こうでも特攻兵器として使われているのを見たことがあるが、俺も向こうで見たのは数えるくらいだし、こっちの世界で見るのは初だ。

 しかし、なかなかに面倒なのが出てきた。イルガーは「爆撃用」と銘打たれるだけあり、常に空を飛んでいる。だから攻撃が当たりにくい。しかも、ちょっと面倒な性質を併せ持っている。

 現れたイルガーは次々に爆弾を落とし、街を一瞬で瓦礫の山に変えていく。このままでは街が灰燼に帰してしまう。死者が出てしまうのも時間の問題だ。

 

(優先すべきは人命だ。イルガーの爆撃で被害が広がるより先に、倒す)

「トリガー、起動(オン)

 

 本日2度目のトリオン体に切り替え、建物とグラスホッパーを駆使して空高く跳躍する。イルガーの装甲は硬い。しかも常に浮遊しているせいで地上からでは倒しにくいなんてものではない。

 俺の知ってる限りでも、攻め込んできたイルガーを倒せた例はそう多くない。そもそもイルガー自体戦闘に使われるのが稀だ。理由は簡単で、「使うトリオンが多すぎる」。イルガーを侵略に使えるということは、さぞかしトリオンと軍事力に恵まれた国なのだろう。

 そしてイルガーについてだが、コイツは爆撃用トリオン兵である以上、さっさと倒さないとどんどん被害が広がる。かといってコイツは倒すと内部のトリオンが反応して爆発する。何も考えず倒してしまえば、不特定多数の人間が爆発に巻き込まれて死にかねない。

 イルガーは言うなれば空飛ぶ爆弾だ。よって爆発の被害を抑えるためにも、空中で解体するのがセオリーとなる。

 

 そう思っていたのだが──。

 

「上はがら空きね!」

(──あのバカ、なんてことしてくれたんだ……!!)

 

 俺が弧月を抜くより早く、昼間見た嵐山隊の隊員、木虎が俺より先にイルガーの上に陣取り、中途半端なダメージを与えてしまっていた。だが、それはイルガーに対しては()()()()()()()()()()()()()なのだ。

 イルガーの最大の特徴。それは、「一定以上のダメージを与えると勝手に自爆モードに入る」ことだ。自爆モードになると背中から高密度のトリオンの塊が大量に出現し、一斉に起爆準備を開始する。

 ──イルガーはただの爆撃用トリオン兵ではない。その正式な用途は「()()()()()()()()()()()()()()」なのだ。自爆モードに入ったイルガーはゆっくりと降下していき、貯蔵されたトリオンを使い切って着弾点でミサイルのごとく大爆発を起こす。

 現にイルガーは挙動を変え、市街地へ向けて降下を始めている。面倒なことに、自爆モードに入ったイルガーはトリオン反応を検知して、「最も人的被害を与えられる場所をロックオンする」という最大級の嫌がらせのような仕様があるのだ。さらに、自爆モードに入ってしまったイルガーはただでさえ硬い装甲がさらに硬くなるうえ、弱点の目の部分も隠れてしまうという面倒な性質がある。この性質があるせいで、目が閉じる前に一撃で弱点を撃ち抜けるような腕利きでもない限り狙撃での撃墜はほぼ不可能。正面突破しようとしても、並大抵の武器の使い手ではイルガーの装甲を貫けない。

 現に今イルガーの上にいる木虎には、打つ手がないようだった。このまま市街地へと墜落すれば──数百人、下手すれば数千人単位の犠牲が出る。

 もう一刻の猶予もない。そう判断した俺はグラスホッパーで跳躍し、イルガーの上に降り立つ。時間が無いのは分かっていたが、今の俺は何もできない状態になったこの自意識過剰なA級隊員を軽く説教しないと気が済まなかった。

 

「……この、バカが」

「あなたは──昼の!?」

「言っただろ。自意識過剰は足元をすくわれる。まさに今がその時だ」

「……」

「もういい、あとは俺が引き受ける。お前はさっさと退避しろ」

「え……!?」

「聞こえなかったか? さっさと逃げろ。大爆発に巻き込まれたいのなら別だがな」

 

 木虎は一瞬はっとした顔を見せるも、すぐに苦々しい顔になりながら、イルガーから飛び降りた。どうやら、B級隊員に任せるのが相当癪だと見える。

 だが……コイツを確実に処理できるのは俺くらいのものだろう。イルガーの情報はボーダーのデータになかったし、精鋭たるA級が適切に対応できなかったあたり、恐らくこっちの世界に現れたのはこれが初めてである可能性が高い。

 だが──自爆モードに入ったイルガーを倒す方法は極めて単純だ。そしてそれは、イルガーの適切な処理方法と大差ない。

 

(『空中爆破』。それに限る!)

「一刀──両断!!」

 

 風切り音と共に放たれた旋空弧月は──イルガーの身体を見事に真っ二つにした。

 胴体を両断されたイルガーは空中で大爆発を起こし、消滅する。爆発の余波で周囲に影響が及んでいなければいいが。でもまあ、無差別に人が死ぬよりははるかにいい。

 そのまま俺は空から木虎を見つけると、グラスホッパーで何度か跳躍し、木虎のもとへと降り立った。

 今回ばかりは見届けてくれていた方が都合がいい。説教はまだ終わっていないのだから。

 

「これで分かったか? 俺とお前では明らかに差がある。実戦経験もだが──プライドが無駄に高い。無駄に高いプライドは、余計な犠牲を生むだけだ。おおかた、あのイルガーも『A級なんだから1人でなんとかできる』とでも思ったんだろ?」

「……はい」

 

 木虎は完全に意気消沈し、項垂れている。

 どうやらある程度の実力はあっても、精神面は年相応のようだ。反応が実に分かりやすい。しかし、ここで手を緩めては説教にならない。

 

「でも結果はどうだ。お前はあいつを倒せないどころか、余計な犠牲を生むところだった。あの爆発を見ただろう。あれが市街地で起きていれば──いったい何人の命が失われたと思う?

「──ッ!!」

 

 木虎が息をのむのがわかった。どうやら、責任の重大さに気が付いたらしい。俺が直ちに援護に入らなければ、被害は街の破壊だけでは済まず、夥しい数の犠牲が出た事だろう。そうなれば、ボーダーの信用が地に落ちることなど疑う余地もない。

 

「お前は一度、A級隊員がどういう存在で、その階級にどういう意味があるのかを考えた方がいい。あの時のお前は『A級隊員』ではなく──プライドが高いだけの平隊員でしかなかった。それを自覚しろ。それすらわからないようなら……お前は、B級隊員の足元にも及ばない」

「……本当に、すみませんでした」

「──もう一度言う。隊律と、市民の命。失われたら戻らないのはどちらか、よく考えるんだな

 

 これくらい話せば十分だろう。もっとも、木虎が隊律を重視することを是とするような人間ならそれまでだが。

 まあ、もしそうであればA級隊員どころかボーダー隊員の風上にも置けない存在になる。ボーダーは栄誉や名声を求めて戦う組織ではない。隊律は確かに大事だ。だがそれ以上に、人命は尊ぶべきものだ。失われた命は、二度と戻らないのだから。

 

(イルガーの情報は、一応本部にも伝えておくか。ついでにイレギュラーのこともな……)

 

 しかし、近頃イレギュラー(ゲート)の発生が多すぎる。今週だけで最低7件、これで8件。今日だけでも2件起きている。しかもイルガーまで出てきたときた。

 何か、ただならぬことが起きようとしているのではないか。そう思いながら俺は、イルガーの情報を伝えるべく本部へと向かうのだった。

 

 





※この時点ではオリ主は木虎という隊員を誤解しています。

アンケートの結果「作者に任せる」という解答が多かったのですが、改めて自分で読み返していくとワールドトリガーを知らない人がわけわからなくなりそうだったので、今作以降ルビは原作通りに振っていくことに決定しました。
これまでに投稿した話にも順次訂正を加えていきます。
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