偽理凰君の奮闘記   作:空門 志弦

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9話

絶好調である!

なんて言いながら背中から虹色の何かを放出し始めそうなくらいに、調子がいい。

うーん、思ってたより家族関係への配慮がストレスになっていたらしい。

この前の一件で、変に入っていた肩の力が抜けたのが良かったんだろう。

羽でも生えたかのようだ。実際完璧とは言えないが3回転を飛べてしまった。

光ちゃんの獣スマイル久々に見たな。やはりコワカワイイ。

 

プログラムの準備も順調である。

このペースなら、時間内に十分な水準までもっていけるだろう。

そんな順風満帆な今日この頃であるが。

そんな俺は今。

 

「調子いいみたいだね、理凰君」

 

八木夕凪ちゃんに絡まれていた!

調子いいみたいだねの部分に、調子乗ってんじゃねえぞっていう副音声が聞こえるよ!

うん、わかるよー。

最近、俺と慎一郎さん距離がぐっと縮まったし、俺の練習を見るたび、アレ、うちの子もしかして天才?

みたいな顔してる慎一郎さんは、家族として距離が縮んだ嬉しさも手伝ってコーチたちとの会話で俺をべた褒めしてるからね。

生徒の前ではそんな無神経なことしないけど、まあ風の噂というか耳には入っちゃうもんな。

コーチ陣からの評判も文句なしに良いからな俺。

名港のクラブ内で話題に上る率で言ったら実は光ちゃんにすらかなり勝っている。

 

「ちゃんと話聞いてる? というか、なんで理凰君は、私と話しているとき、いつもそうやって微笑ましそうな顔で私を見るのかな?」

 

漫画的な青筋の表現が浮かんで見える声音と、しゃべりの区切り方である。

いや、うん。

夕凪ちゃんが俺に絡んでくるのは正直、俺にも悪いところがある。

夕凪ちゃんを見ると、俺はついついニヨニヨしてしまうのである。

 

いや、言い訳をさせてほしい。

少女の秘密を暴露するのは心苦しいが、何を隠そうこの夕凪ちゃんは、慎一郎さんに恋しちゃってるのである。

いやー女の子早熟だわー。 漫画の光ちゃんがその辺鈍感というか、意図的にか、あんまり興味ないタイプだからちょっと新鮮というか。なんか微笑ましくなっちゃうよね。

夕凪ちゃん男見る目あるよ! 慎一郎さんマジ優良物件! でも悲しいかな既婚者なんだよなあ!

そんな漫画の夕凪ちゃんを知っていて、しかもよりにもよって慎一郎さんの息子ポジとか、ニヨニヨするなってほうが無理くない!?

 

「り・お・う?」

 

そんな益体のないことを考えていると、光ちゃんに後ろからシャツの襟をつかまれた。

底冷えしてきそうな声である。

 

「ごめんね夕凪ちゃん。うちの理凰ってほら、同い年くらいの子をみんなすごい年下の子みたいに見てるところがあるから」

 

「はい。申し訳ございません。決して馬鹿にしているわけではないのです」

 

光ちゃんの妙な迫力に思わずバカ丁寧な謝罪が口からこぼれた。

しかし光ちゃんはなんか、みんなで大泣きしてから俺に対する扱いがまた変わったな。

程よく雑になってきていい感じである。

一方で夕凪ちゃんも光の空気に微妙に押されたのか引き気味である。

まあ、漫画でもこの二人の関係はちょっと複雑だったしなー。

 

「え、いや、別に光ちゃんに謝ってもらうようなことでは…」

 

俺はちゃんと謝れってことですね、わかります。

 

「理凰には私からきっちり言っておくから、今回は許してあげて?」

 

この後説教ですか。そうですか。いや俺が悪いんだけどな。

 

「…う、光ちゃんに免じて今日は許してあげるけど、あんまりチャラチャラしないでよね!」

 

捨て台詞のようなものを言って去っていく夕凪ちゃんである。

しかしチャラチャラて。

いや、うち同じ年代の子は女の子ばっかだから、必然女の子に教える機会が増えるだけで、別にチャラチャラしているわけでは。

 

「俺、そんな風に見える?」

 

思わず光ちゃんに尋ねると、光ちゃんはちょっと複雑な表情をしながら答えた。

 

「理凰は、別にチャラチャラしてないんじゃないかな」

 

なんか含みのある言い方だなあ。

確かに多少、女の子たちの視線が熱く感じるときはあるけど、言ってもまだ小学生ぞ?

いや、夕凪ちゃんの事例を考えるにちょっと軽く考えすぎてるか?

 

「そこは、あんまり深く考えなくていいと思うよ。まあ、夕凪ちゃんへの態度はちゃんと直してあげたほうが良いと思うけど」

 

俺が考え込みそうになると、光ちゃんはそう言って手を引いてきた。

軽く注意されるだけで、説教は免れたらしい。

俺にも悪いところはあるが、絡んできているのは夕凪ちゃんであるという前提は動かないからなあ。

 

「それより今日はクラブの後の練習ないから、理凰が今、私のジャンプを見てよ!」

 

そういえば今日は夜鷹純が用事で練習休みだったか。

 

「ん、オッケー。仰せのままに」

 

ちょっと芝居がかって答えると、光ちゃんが嬉しそうに笑う。

 

「私も、3回転飛べるようになるからね! 理凰には負けないから!」

 

その笑顔をもっと輝かせるために、俺も言葉を返した。

 

「お、言ったね? なら3回転全種、どっちが先に揃えられるか勝負と行こうか」

 

輝くような笑顔っていうのはまさにこういう笑顔を言うんだろうって見本みたいな表情。

また嬉しくて頑張りすぎて、オーバーワークにならないように気を付けてあげないといけないが、うん。

やっぱり、光ちゃんの笑顔は最高だよな!

 

その後は二人で交互にジャンプを飛んで、お互いのジャンプについて気になったところを指摘し合って過ごした。

しかしなんかコーチ陣から、またイチャイチャしてるみたいな目で見られているのは納得がいかない。

俺も光ちゃんもガチで容赦なくバチバチに指摘し合っているのにどうしてそういう感想になるのか。

 

うちのコーチ陣、スイーツ脳説を提唱するべきだろうか。

 

「私、なにか最近、理凰が妙なこと考えている時の顔がわかるようになってきた気がするんだけど」

 

すかさず、ジト目の光ちゃんから突っ込みが入ってきた。

 

「え゛、ほんとに? それどんな顔」

 

「顔って言うか目だけど、なんかここじゃないどこかを見る目になってる」

 

タイミングドンピシャだったあたりマジか。

そうかぁ。俺そんな癖あるのかぁ。

そして、表情には出てない目の感じだけで内面読まれちゃう感じかー。

うんこりゃあれだね。

イチャイチャしてるって言われてもあんまり文句言えない気がしてきたわ。

 

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