偽理凰君の奮闘記   作:空門 志弦

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10話

なんか調子に乗ってると体調を崩すの、パターンになってないか?

というわけで、はい。

また熱出して寝込んでます。

今回は前みたいに大騒ぎになっていないのが救いである。

 

んーでも、ここまで健康に気をつかっていてもまたこの高熱ってことは多分これ、あれだな。

きっかけは風邪かもしれないが、子供の体に成人している俺が入っていることによる弊害というか、一番近いので言ったら知恵熱なんじゃないだろうか。

あとは、なんだかんだ急に放り込まれた環境に対するストレスに、大人としての俺の精神は耐えられているけど、子供の体部分が追い付いてない感じ。

調子に乗ってると体調が崩れるって言うのも、要は気が緩むことで子供の体の方の疲れが一気に表出してしまっているってことなんだろう。

 

さては前に俺が熱出たときに医者の診断出た後もエイヴァさんの顔が曇ってたの、この熱がストレスから来てる可能性を俺がいないところで医者に指摘されてたな?

この前の名前の変更って言う発想もそのあたりからかー。

 

ちなみに大騒ぎになっていない理由は、熱がひどくなる前に気づいたからだね。

光ちゃんが。

俺が珍しくおきてこないって言って部屋まで来た光ちゃんが、俺の顔見たとたんに厳しい顔になって額をくっつけてきたと思ったら。

 

「ベッドに戻って」

 

って、体起こして布団をどかそうとした俺をベッドに押し戻しながら言ってきてね。

あれよあれよとエイヴァさんが呼ばれてきて、慎一郎さんがエイヴァさんの後ろでソワソワウロウロして俺が落ち着けないからと追い出されて、エイヴァさん呼んだあとは光ちゃんが俺の手を握ったままずっと離れないという、なんだろうこの流れるような、何?

 

「光――」

 

風邪うつっちゃまずいから、と口に出す暇すらなく光ちゃんがピシャリと言葉をかぶせてくる。

 

「知らない。体調を崩した理凰が悪い」

 

取り付く島がないぞう。

エイヴァさんも、笑ってないでさ。

光も学校とか…ああ、そういえば休みか今日。

夜鷹純との練習もまだあの人、何かの用事で帰ってきてないんだったな。

ああ、さすがにこの熱だと無駄に空まわるばかりで思考の切れが。

 

「ほら、いつもなら幾らでも出てくるような言葉が何も出てこないじゃない。……私、今日は絶対ずっと一緒にいるから。無駄なことに頭を使っていないで、ちゃんと休んでて」

 

そういいながら、光ちゃんはエイヴァさんから受け取った氷枕を俺の頭の下に差し込み、額に冷えピタを張る。

手際よくないですかね。

なに、もしかして練習でもしてたの?

ああ、なんかどんどん思考がカラカラと。

熱上がってきたかな。

 

「じゃあ光、理凰をお願いね」

 

「はい」

 

一通りやることを済ませたエイヴァさんが部屋を出て行って、俺と光ちゃんだけが残された。

 

「つらそうな顔してる。少し眠ったら?」

 

俺の髪を、つないでいない方の手で撫でてくる光ちゃんの指が心地いい。

これがバブみというやつか。

 

「また何か変なこと考えてる。熱がある時くらいそういうのやめたほうが良いよ」

 

「何かを考えるの、癖になってるみたいでさ」

 

「もう。しょうがないなあ」

 

そうして話す間も、俺の髪をなでる指は止まらない。

ああ、なんか眠くなってきた。

 

 

 

しばらく眠っていたみたいだ。

目を覚ますと、すぐに光ちゃんの顔が目に入ってきた。

 

「おきた? ちょうど、さっきエイヴァがおかゆ作ってきてくれたけど、食べられそう?」

 

お腹は、空いている気がするけど熱が大分高い感じで、体起こすのも億劫だな。

思考がぼんやり、途切れ途切れで。でもお腹が正直に音を出して空腹を主張する。

 

「体、起こすね」

 

「ありがとう」

 

体を起こすのを手伝ってくれる光ちゃんに、少しかすれた声で礼を言う。

体を起こしきるとベッドの脇にトレーが置かれて、おかゆの入った容器のふたが開かれた。

 

「ざんねん、ちょうど良いくらいに冷めててフーフーしてあげる必要はなさそう」

 

ちょっとだけ、楽しそうにそう言って光ちゃんは俺におかゆを食べさせてくれた。

 

「ちょっと不思議な感じ。私から見た理凰はいつも大人顔負けで、ふざけている時だってどこか大人びて見えたのに。いまの理凰を見てると、ふわっと消えてしまいそうで不安になる」

 

おかゆを食べながら、光ちゃんの独白のような言葉を聞く。

 

「でも、こうして理凰を助けられるのはとっても嬉しいんだ」

 

そんな優しい声で言われると熱で弱っているのも相まって、何か泣きたくなってくるから勘弁してほしい。

そっか、もうすぐ8歳か。子供が育つのは早いなぁ。

 

「あ、また子ども扱いしてる時の顔してる」

 

ちょっと不服そうに言って、おかゆをのせたスプーンがほんの少しだけ乱暴に口に差し込まれる。

 

「そう言う時の理凰って、ちょっと緩んだ顔してるからすぐわかるんだから」

 

「レディに失礼な態度だったかな」

 

おかゆを食べてちょっと元気が出た分、口が軽くなった。

 

「わかっているなら少しは控える事」

 

空のスプーンでピッと俺を指して、光ちゃんはお姉さんぶったしぐさで返す。

そういうところが子供らしくてカワイイんだよなあ。

 

また緩みそうになる顔を、おかゆをのせて口の前に来たスプーンをくわえて誤魔化した。

 

「ご馳走様」

 

とりあえずお腹が満たされたので、再び横になる。

 

「また眠る?」

 

再び手がつながれて、髪をなでられる。

気に入ったんだろうか。

そろそろ光ちゃんも部屋に戻ったら、なんて言っても聞かないだろうな。

まあ、たまにはこういう日があっても良いか。

 

その後も寝て起きて。

起きるたび光ちゃんに世話を焼かれて、夜になると光ちゃんは俺の部屋にセッティングした来客用の布団で眠りについた。

次の日の朝、だいぶ熱は下がっていた。

光ちゃんは後ろ髪をひかれていた様子だったが、学校へ。

幸い光ちゃんに風邪がうつることはなかった。

 

体はつらかったが、不思議と穏やかで心が温かくなるような、そんな一日だった。

 

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