偽理凰君の奮闘記   作:空門 志弦

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15話

プログラムが出来上がりました。

いやあ、ほんと流石はオリンピック金銀メダリストの合作。

実に素晴らしい出来ですね。

で、このプログラム、いったいどこのオリンピック出場選手用のプログラムなんです?

いや、ホント待ってほしい。

 

ジャンプやスピンこそ俺が使えるものしか使ってないが、どう考えてもノービスが滑るプログラム内容じゃないよコレ!?

 

え、あのプログラムが滑れた俺ならいける?

慎一郎さん、あなた夜鷹純とプログラム作るために一緒に居すぎて、毒された上に疲れているんよ。

くっ、まさか慎一郎さんまでブレーキ側じゃなくてアクセル側に回るだなんて流石に想定外だ。

 

二年も時間があったアレとは話が違うじゃん?

え、最初から俺用に作られたプログラムだから、俺に合わせるための試行錯誤も不要で、覚えて滑るだけだし夜鷹純の手本もあるから問題ない?

その条件ならまあ、確かに…って、いやいや、ダメだろ俺。

夜鷹純の無茶ぶりに慣れ過ぎて感覚が麻痺してきてるぞ。

 

あ、ちくしょう、滑ってみたら確かに行ける。

予定の大会までだと、ちょっとかつかつだけど行けてしまう未来が見える。

でも何もノービスB向けのしかもデビュー戦で、こんなギリギリのすりきり一杯攻めなくても良くないです!?

 

滑るけど! 滑りますけど!

流石にいろんな意味で、この二人に作り直せとか言えないから滑りますけど!

 

とまあ、お出しされたプログラムの出来にアレな意味で驚かされた俺ですが、なんだかんだでものにしました。

今回はお手本もいたし何より別々に練習する理由がなかったから、光ちゃんはジャンプなどを、俺は大会用プログラムを、お互いに指摘し合いながらの練習だから思ったよりは余裕で仕上げる事ができた。

あくまで、思ったよりは、だけどね!

 

ちなみに、光ちゃんはすでに何回か大会に出て、当然一位を取って、すでに天才少女としてクラブ外にも名前が知られ始めている。

そして俺も光ちゃんとセットでメディアなどに取り上げられることが多く、実績こそまだないが天才少年として期待を寄せられている状態だ。

俺がいまだにデビュー戦を行っていないのは、過去の事故の所為で大事を取っているのではないか、とか憶測が飛んでいるが、実際のところは例のプログラムに時間を取られてそれどころじゃなかったからである。

 

そんなわけで噂の天才少年たる俺のデビュー戦ということもあって、ちらほらメディアらしき人間のいる会場に今、俺は居る。

 

試合間隔の問題で今回の大会に光ちゃんは参加しておらず、観客席にいる。

というか、観客席にうちのクラブの関係者が多い。

いや、ホントに多くないです?

なんかほとんど全員そろってない?

 

別に何のこともない地方の小さな大会だぞ。

全日本か何かと勘違いしてません?

俺のデビュー戦だからなんだろうけど、応援も気合入りすぎでは?

周りの観客さんたちに何事かと思われてるじゃないか。

 

嬉しいけども。

ああ、もう。

ちょっと気合入ってきちゃうじゃん?

 

お、前の選手の演技終わった。

うん、ノーミスの実に力の入ったいい滑りだったな。才能のある選手だ。

あれなら二位以下の選手に大きく差をつけて一位に躍り出るだろう。

普通ならそのまま優勝なんだろうけど。

 

次のそして最後の滑走は俺の番だ。

うん、くじが最終滑走だったんだ。

一番よりはマシだがデビュー戦が大取りとは、もってると言うべきかなんと言うべきか。

 

そんなことを思いながらリンクに上がると、皆の声援が聞こえた。

 

「頑張って、理凰君!」

 

りんなちゃんにしては珍しい大きな声だなあ。

 

「ぶちかましてやれ、理凰!」

 

鯱城さん、これ格闘技とかじゃないんですよ。

物騒な応援ですねまったく。

 

「理凰、無様なことしたら許さないからね!」

 

夕凪ちゃんにいたっては、それ脅迫では?

 

「理凰君、頑張ってね!」

 

四葉ちゃん、差しいれのクッキーありがとね。美味しかったよ。

 

「理凰、お前なら落ち着いてやれば大丈夫だ!」

 

雉多さんの声も聞こえる。

他にもクラブで俺が関わってきたいろんな人たちの声が。

エイヴァさんが汐恩を抱いて笑みを浮かべながら、汐恩の手をもって俺に向かって振らせている。

そして会場の隅に、不審者っぽく見える黒ずくめにサングラスをかけた夜鷹純の姿が見えて。

視線を応援席に戻すとその一番前にいた光ちゃんと目が合った。

光ちゃんが笑顔で声援をくれる。

 

「頑張れ、理凰!」

 

「っ!任せとけ!」

 

親指を立てて、光ちゃんに、そして皆にいつもよりちょっと乱暴な言葉づかいで答えた。

 

前滑走の少年。

君には悪いが皆の声援にこたえるためにも、金メダルは俺がもらう。

 

心に決めて、滑走位置に。

 

音楽が流れ始め、それに合わせて滑りだす。

手足を大きく使い、それ以外の全身をも駆使して振り付けをこなす。

ステップも複雑だし、ジャンプの前だろうが後だろうが容赦なく難度の高い振り付けが組み込まれているこのプログラムは、それらの負担と引き換えに文句なしに格好よく美しい。

 

最初に夜鷹純に手本として見せられた時、滑るうえでの難度にふざけんなと思うと同時に、悔しいがそのあまりのカッコよさに、一発で気に入ってしまった。

 

だからまあアレだ。

見なよ…俺のデビュープログラム…。

って気分で、今の俺は最高にハイテンションである。

 

笑顔なんて演技で作るまでもない。

きっともう、キメッキメのどや顔に違いないのだ。

 

最後のジャンプを完璧に降りて、高速の連続ターン。

そこからのさらに複雑なステップを刻み、最後はキャメルスピンからのコンビネーション。

 

よっし、間違いなく完璧な出来だろ!

 

最後のポーズを決めて内心で自画自賛していると、会場がどっと沸いた。

観客の人数こそそう多くはないが、スタンディングオベーションである。

やってやったぜ。

リンクを降りて、慎一郎さんと笑い合って拳を合わせる。

スケート靴を脱いでいると、目の端にこっちを見ている前滑走の少年の絶望顔が目に入った。

ああ、うん。

あの会心の滑りの後に俺のあの滑りを見せられたらそうもなろう。

んー、どうしたもんか。

 

「すごい! すごいよ理凰君!」

 

観客席から興奮したりんなちゃんの声が聞こえた、おっと、ナイスタイミング。

 

「みんな、声援ありがとう!」

 

笑顔で手を振って礼を言えば、応援に来てくれた客席にいるクラブの皆、特に女の子たちが黄色い声をあげてくれる。

よしよし、実に良い感じ。

ここで一発、どうだ少年羨ましかろう、という気持ちを込めて彼に目を向けちょっと嫌な感じにニヤリと。

お、絶望顔が唖然とした顔に、そこから、はぁ!?って顔に変移していく。

ていうか、はぁ!?って声は実際に聞こえた。

よっし、釣れたな!

 

はっはっは、そうだよなあ男の子だもんなあ。

しかもトップ争いに絡めるような才能ある子が負けん気が弱いわけがない。

どうだい悔しいだろう?

こんな嫌な奴に負けたままなんて嫌だよな?

 

彼はコーチと何かを話してから、肩を怒らせてこの場を離れていく。

だが彼のコーチだけはこっちに振り返ってきた。

あ、あの顔、コーチには意図に気付かれちゃったか。

 

ああ、それはいけない。

片目をつぶって人差し指を口の前で立てて、コーチの人の感謝の為だろうお辞儀を止める。

万が一にでも彼にそのお辞儀を見られたら台無しである。

これ位なら観客席から見れば負けた子の前で騒いでごめんねのジェスチャーに見えるだろう。

そして口の前に立てていた人差し指で去っていく彼の背中を指して、彼を追うように促す。

コーチの人は軽く頷いて、彼の後を追っていった。

あれなら、とりあえず心配はないだろう。

 

点数が確定したあとの表彰式で二位の表彰台に立つ時の彼の目には、きっちり俺への闘志がみなぎっていた。

 

うーん、我ながらいい仕事したぜ!

金メダルもとったし、今日は自分に満点やってもいいよな!

 

 




読者の皆様へ。

いつも作品を読んでいただきありがとうございます。
感謝とお礼を活動報告にて述べさせてもらっています。
あと、投稿の経緯なども少々。
もしよろしければご覧ください。
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