偽理凰君の奮闘記   作:空門 志弦

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17話

「瀬古間さん、子供一人でよろしく」

 

そう言って、俺は利用料金を支払う。

うん、すでに大須スケートリンクには何回か来ているんだ。

9歳になり、四年生に上がって、ようやく一人での外出が許されるようになった。

ぶっちゃけ明らかに遅い方なんだが、俺の場合は例の事故のことがあるからな。

エイヴァさんに悲しそうな顔でお願いされてしまっては、流石にわがままを通すことは出来なかった。

 

いのりちゃんもなー。

正直スケートを始めるまでの環境がお労しすぎて、何とかしてあげたかったんだが。

あ、いのりちゃんって言うのは結束いのりちゃんって言って、漫画メダリストの主人公の女の子の事な。

そのいのりちゃんの状況を何とかしようにも、そもそもコンタクトができない状況ではどうしようもなかった。

ようやく今一人で行動できるようになって、まずは様子を見ようとこうして大須のリンクに隙を見つけては訪れているんだが。

 

まったく会えない。

うん、俺もついにノービスで戦い始めて練習に大会にと忙しかったりして、週に一度来れるか来れないかといった感じだから、しょうがない部分ではある。

 

「おお。理凰君。今日も息抜きかい?」

 

「そんな感じですね」

 

「はっは、有名人も大変だねえ」

 

瀬古間さんはいかにもおじいちゃんて感じで和むなあ。

ちなみに瀬古間さんが言う通り、俺も今やすっかり有名人である。

デビュー戦以降もいくつかの大会で優勝し、そうした実績も積んだ今は完全に光ちゃんとセットで天才コンビ。

未来のフィギュアスケート界のホープとして、メディアなどにも顔が出始めている。

 

光ちゃんが一緒についてきていないのも普通の外出ならともかく、スケート関係の場所で二人で行動していると息抜きするには目立ちすぎるという理由で我慢してもらっているからだ。

まあ実際は今の段階でいのりちゃんと引き合わせるとちょっと未来が読めなくなるからなんだが。

週一あるかないかの数時間だけなのだが、それでもちょっと寂しそうにされてしまって正直だいぶ心に来た。

今度何か埋め合わせしないとなあ。

そんなことを考えていると、ある人物がふと目に入った。

 

「高峰さん。こんにちは。今日って練習のある日じゃなかったと思うんですけど、何でここに?」

 

目が合ったので、挨拶をする。

高峰瞳先生。後にいのりちゃんが所属することになるルクス東山FSCのヘッドコーチである。

親しいというほどじゃなくて今まで話題には上ってなかったけど、実はだいぶ前から顔見知りなんだ。

この業界、漫画でも言われていたけどホントに狭い。

同じ中部区分の中に拠点を持っているFSCとか、ほとんど全員顔見知りと言ってもそこまで過言じゃないくらいだ。

 

「あら理凰君じゃない。こんにちは。瀬古間さんから最近ふらっと来てるなんて聞いてたけど」

 

「ええ、ちょっと息抜きに滑りに来てるんです」

 

俺の挨拶ににこっと笑って、物腰柔らかに対応してくれる。

なんていうか如才ないというか、大人らしい大人なんだよなあ、瞳先生。

 

「私は今日はちょっと新しく入りたいって言う子の事でね」

 

え、まさかいのりちゃん?

いや、話は終わった後なのかちょうど帰る準備中の離れたところに親といる子の顔を見るに、うん別の子か。

ふう、少しびっくりしてしまった。

何かの具合でずれでも生じたかと思ったわ。

危うく俺が司先生張りの熱血勧誘をやらなくちゃいけなくなるところだ。

 

あの子は見たことないってことは、つまり漫画では出番なかった子ってことか。

当然、そういう子もこの世界にはたくさんいる。

俺のデビュー戦で戦った二位の子とかも、あの実力で漫画では影も形もなかったからな。

漫画の物語の裏で朱蒴君あたりとバチバチやり合っていた可能性は否めないが、案外彼が現実準拠部分の存在で、俺が生きていた前世に似たような子がいたなんて可能性もあるかもしれないと思うとちょっと面白い。

 

「あー予定が今日しか合わなかった感じですか」

 

「そういう事ねー。最近うちのアイスダンスの子が調子よくて、それ自体は良いことなんだけどその分どうしても忙しくなってきちゃって」

 

ああ、司先生が呼び出されるフラグ、この時点で立ち始めてるわけか。

確かアイスダンスで優勝する子が出るんだよな。

肩をほぐすためか肩のあたりをグルグル動かしている瞳先生を見ながらそんなことを思い出す。

 

「お疲れ様です」

 

ちょっと大げさな仕草で拝むようなポーズをとりつつ言った。

ポーズはふざけているが、込めた気持ちは割とガチである。

貴方のその頑張りが、間接的にだが司先生といのりちゃんを引き合わせるのです。

俺が割と本気で労っているのが伝わったのか、瞳先生は目を丸くしてから少し笑いをこぼした。

 

「ふふっ、名港のコーチ達が理凰君の事を口を揃えて、すごく大人びていてよく大人と話してる気分になるって言ってたけど、あれ誇張じゃなくて本当の話だったのねえ」

 

あの人たち、クラブ外の人に迄そんなこと言ってるのか。

なんか有名になる前から他のクラブの人たちに、君があの理凰君かあ、みたいな反応されるから名港のコーチたちが発信源になって何か噂はされているんだろうなとは思ってはいたが。

 

「名港の人たちがちょっとだけ羨ましいわね。こういう風にちゃんと苦労を察して労ってくれる子なんてなかなかいないから」

 

そうでもないと思うけどなあ。

いやでも言われてみると子供って感謝していても、ちゃんと言葉や態度で示す子って案外少ないかもしれない。

そう考えると、名港の子達とかみんな良くできたいい子だなあ。

 

「言葉は無くても、必ず皆感謝してますよ。それは、高峰さんもわかっているでしょう?」

 

「そうね。それでも言葉にするって大事なことじゃない?」

 

「まあ、それはそう。でも、みんなまだ子供なのでそこは将来の成長に期待ということで」

 

「同じというかむしろ幼い方に入る子供の君がそれを言うのねえ」

 

まあ、子供っぽくない自覚は当然ある。

しかし、瞳先生は何か話していて楽しそうな人だと漫画を見ていた時も思ったが、実際楽しいなこれ。

これは東山FSCが人気出るのもうなずけるわ。

 

見た目に花があって、話も上手い。しかもユーモアもしっかりともっている。

元々アイスダンス時代の瞳先生のファンが多いってだけじゃなく、子供を預ける指導者として保護者の人たちに好かれる事に納得できるだけの魅力がある。

 

「ここだけの話、人生二度目なんです」

 

「理凰君が言うと、信じちゃいそうね」

 

うん、ホントの話だからね。

俺の実は真実ど真ん中な冗談を二人で笑い飛ばす。

 

「っと、引き止めちゃったわね。せっかく来たんだからしっかりと楽しんでね。ちゃんと息抜きをするって、とても大事なことよ」

 

「はい、ありがとうございます。こちらこそ、忙しいところ時間とってしまってすみませんでした」

 

「いいのよ、結構楽しかったしね」

 

そう言ってウインクを飛ばして離れていく。

いやあ、絵になるなあ。

奥さん方がきゃあきゃあ言うのがわかるわー。

 

しかし、いのりちゃんには会えなかったが、思わぬ収穫があった。

このままの流れならまず間違いなく司先生は漫画通りにルクスFSCに召集されるだろう。

ちょっとほっとした。

瞳先生との会話も楽しかったし、今日はなんだかんだ儲けたということで良いだろう。

 

あとは瞳先生に言われた通り、せっかく来たスケートリンクだし。

目立つ金髪をヘルメットで隠して他の子に交じって気楽に滑って息抜きしてから帰るとしよう。

 

しかし、スケート三昧の生活しているのに、息抜きまでスケートとは我ながらすっかり染まったよなあ。

いのりちゃん探しに来ているのもホントだが、俺も気づかぬうちに体にストレスたまってまた熱出して周りに心配かけるのも嫌なので、息抜きをしに来ているのもホントなのだ。

そして実際、何も考えずに鼻歌でも歌いながら滑っていると割と気分が良くて息抜きになっちゃうという。

我ながらびっくりするようなスケートバカに育っている今日この頃である。

 

 

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