未来に夢を見つつとか言っていたら、目覚めた日からたった二か月で光ちゃんがやってきたでござるの巻。
あまりのことに思わず思考がバグったよ。
いや、マジであぶねぇぇぇ!
事故のタイミングとか俺がinして目が覚めるのがもう少し遅れていたら、光ちゃんが鴗鳥家に来られなかった可能性ガガガ。
食事中に不意にさらっと光ちゃんの話が出たときマジでヒュンとなった俺の心情を察してほしい。
俺自身まだちょっと鴗鳥家に慣れてないわけだけど、この状況で俺がそんなに強く推すまでもなく慎一郎さん達が光ちゃんの受け入れに前向きだったのは、多分これ俺のために事故以前の理凰君のことを知らない人間が傍にいたほうが良いって考えたのもありそう。
そして今まさに目の前にいる光ちゃんと夜鷹純。
うわぁ、現実で見る光ちゃんヤバイ。
ヤバイ、カワイイ。目力スゴイ。まつ毛長い。なんか、まだ馴れてない動物感がトテモカワイイ。
そして、これが夜鷹純かあ。
無駄にビジュアルがいい。これで中身がコミュ障というかもはやバイアビリティ(生存能力)障害とでもいうべきアレなのかぁ。現実は非情だなぁ。
っといかん。感動やら感慨に浸る前にまずは挨拶だな。
ここに来た時点の光ちゃんは、鴗鳥家に受け入れられなくちゃと気負っている状態だったってことが物語では語られていた。
こんな小さな女の子がそんな状態とか、絶対ノー。
ましてやそれが、推しの光ちゃんなら断固としてあってはならない事態である。
なので慎一郎さんとエイヴァさんが挨拶を終えたのを見計らって、俺は目線を合わせなるべく優しい声で光ちゃんに声をかける。
「はじめまして、俺の名前は理凰っていうんだ。 今日から一緒に住むんだし呼ぶときはそのまま呼び捨てでいいよ。 一応事前に君の名前は聞いているけど、あらためて君自身から名前を教えてもらってもいいかな?」
声をかけるまでどこかこちらを探るようだった目の色が、俺の言葉を聞いて明らかに変わった。
これは…驚きと、うーんなんだろう。
たぶん興味、だろうか。
まあ前世で見ていた物語の内容からある程度の人となりを知っているといっても流石に初対面から完全に内面を推し量るのは無理ってものだよな。
「はじめまして。 わたしは狼嵜光です。 わたしのことも光って呼び捨てでいいよ?」
ふむ。微妙に戸惑っている感じかな。でも嫌がってはなさそう。
じゃあ、もうちょっと詰めてみようか。
「父さんたちは、夜鷹さんと話すこととかあるでしょ? 俺は光に家の中を案内してそのあと二人で俺の部屋で適当に時間つぶしているから、話が終わったら呼んでね」
そういってから光ちゃんに向かって手を差し伸べた。
こっちから強引に手を取るような真似はしない。
光ちゃんはほんの少しためらってからこちらの手を取り握ってくれた。
よろしい。それではエスコートだ。
なにか目の端で夜鷹純が明らかに驚いているのがわかる顔で見切れていたが、今は無視。
「とりあえず、居間は後だね。 父さんたちが話に使うだろうから」
歩く速さを光ちゃんに合わせつつ手を引いて歩く。
歩く途中でトイレや浴室など生活に必要な場所を案内しつつ、目的の扉の前につくと足を止めた。
一度つないだ手を放して扉を開き、中に入るよう促す。
「ここが、今日から光の部屋だよ。 まあ、まだ家具なんかは最低限なんだけど。 光も一緒に今度みんなで色々買いに行こうって話になってる」
「わたしの、部屋……」
「後で持ってきた荷物の片づけを母さんが手伝ってくれると思う。 光は女の子だし俺はあんまり手出しできないけど、何か手助けが必要なら言ってくれていいから」
部屋をキョロキョロとみている光ちゃんは何とも小動物感があって和む。
もうしばらく見ていたかったが、不意に光ちゃんがこっちを向いて口を開いた。
「その…案内してくれてありがとう。 理凰」
「どういたしまして。 そして、ようこそ鴗鳥家へ。 この家でこれから過ごす時間が光にとって素敵なものになることを願って――いや、違うか」
この言い方じゃまるで他人事だ。
今ここが俺の現実で、光ちゃんと一緒にこの家ですごしていくんだから。
「これからみんなで素敵な時間を作っていこう。 すぐには難しいだろうけど、ゆっくりとでもそれができるような家族になっていけたらいいと思ってる」
何しろ、俺も鴗鳥家歴なんとたったの二か月である。
おもわず笑いがこぼれた。
「光が俺のことを聞いてるかは知らないけど、この際だから話しちゃうんだけど。 実は俺も諸事情あって鴗鳥家初心者なんだよね」
あ、ガチの困惑顔。カワイイ。
なるほどまだ俺の事情は聞いてないのか。
「その顔を見るにまだ聞いてない感じか。 俺が話さなくても父さんたちがそのうち話すと思うけど、多分最初から教えておいたほうが光も色々戸惑わずに済むと思うから俺自身からサクッと話しちゃおう。 でも話す前に場所を変えようか」
そういってまた手を差し伸べる。今度はためらうことなく手を握り返された。
うん、良い感じ。少し距離が縮んだかな。
自分の部屋の前まで光ちゃんの手を引いていく。
「ここが俺の部屋。 何か困ったことやわからないことがあったらいつでも来てくれて構わないから。 単に話したくなったとか、何なら用がなくても。 光なら俺の表情を見て本気で言っているとわかると思うけど敢えて重ねて言うよ。 本当に遠慮はいらないからね?」
今度は自分の部屋なので、手はつないだまま扉を無造作に開いて光ちゃんを招きいれた。
「さて、君には二つの選択肢がある」
そう芝居がかった言葉づかいで言ってから部屋の机のキャスター付きの椅子を指さす。
「一つはその椅子に座る選択肢。 でもオススメはもう一つの方だ」
指さす先を床に鎮座するソレに変えて言葉を続ける。
部屋に入ってから光ちゃんの視線を奪ってやまない、なんというか、うにょんとした感じの非常に大きな。
「まあ、答えは聞くまでもなさそうだね。 それではお姫様をお一人、人をダメにするクッションへご案内ということで」
「ひとをだめにするくっしょん」
目を丸くしてオウム返しかー。この手のアイテムは、名家のお屋敷にはなかったのかね。
リアクションがいい。なんか年相応に幼い感じになってる。カワイイ。
地味にうまく座るのに慣れが必要な巨大クッションへスカートに気を使いつつ座らせてあげてから、俺はキャスター付きの椅子のほうへ座った。
しばらく目を輝かせてクッションの感触を楽しんでいる光ちゃんを堪能していると、俺の視線に気が付いた光ちゃんが少し顔を赤くしつつ口を開いた。
「あっ、ごめんなさい」
「いやいや、謝る必要はないよ。 むしろ期待通りの反応をありがとう」
「…理凰って、イイ性格してるとか言われない?」
謝罪に対する俺の返しに少し頬を膨らませて答える光ちゃんは実に愛らしい。
しかし初対面でそのセリフが引き出せたなら大分肩から力が抜けてきた証拠とみて良いだろう。
取り入らなくちゃいけない相手だなんて思い詰められるより、気を遣うのがバカバカしいと思われるほうがずっと健全である。
「ちなみに、イイ性格してるなんて言われた記憶は一切ないね。 まあ、俺の記憶は今現在、たったの二か月分しかないけども」
「え?」
「いやあ実は俺、交通事故にあって頭打ったらしくて、二か月より前の記憶がさっぱりないんだよねえ」
「え?」
「だから、俺視点だと光と状況があんまり変わらないんだよね。まあ二か月ほど先輩ではあるけども」
おお、大きくてきれいな目が大きく見開かれるとなかなか見応えがあるなあ。
あ、表情が呆然のそれから驚愕のそれに変わった。
理解が追い付いてきたっぽい。
「ええええええええー!?」
いやぁ、やっぱ効くよね。この境遇。
俺も同じ状況で、同じように相手から明かされたら同じような反応返す自信があるわー。