偽理凰君の奮闘記   作:空門 志弦

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22話

さて、いのりちゃんとの遭遇にも成功し、着実にいのりちゃんの地力の底上げをしている昨今だが、当然それだけをしているわけではない。

というか、むしろいのりちゃんの相手をできるのは週一回あるかないかで、その他は自分のスケートの練習か大会の準備などに充てられるわけである。

いのりちゃんに、自分でできるトレーニングメニューを用意したのにもとれる時間がどうしても限られるという事情が少なからず関係している。

 

現状とりあえずノービスB用のプログラムはすでに一つ仕上がっているので、今シーズン中の大会に向けてはこれの精度を上げていくのが主だ。

だが当然スケーティング技術やジャンプやスピンのレベル上げるための練習も必要である。

他にも基礎体力や筋力をあげるためのトレーニングなども行うわけで。

スポーツというのは本気でやるとなると無限に時間を喰うなあ、と実感している。

 

なお学校の勉強はぶっちゃけ巧妙にサボタージュしてスポーツ医学等の勉強に充てている。

小学生レベルの授業とか宿題とか、流石に時間の無駄も甚だしいのだ。

結果として表向きの外面と成績だけ良いが、実は陰で先生に気づかれないように学業全無視でスポーツ医学書等を読みふける系の、とんちき不良少年の図の出来上がりとなる訳である。

 

しかも光ちゃんと一緒に早退もたびたびしているので、実は成績良いだけで表向きもあまり良い生徒とは言えないかもしれない。

光ちゃんと同じように学業よりスケートを優先するのを慎一郎さんもエイヴァさんもすんなりOKしてくれたのは、記憶をなくしていた俺が学校での人間関係で疲れないように配慮してくれていたんだろうなあ。

漫画の理凰君曰く、学校を頻繁に早退していた光ちゃんの状況を漫画の慎一郎さんはあまりよく思ってはいなかったらしいから。

 

これを光ちゃんがシンスプリントを経験したころからずっと続けていた俺は、現時点で名港のメディカルトレーナーの人から「え、どういう事なの」という顔とともに、プロと遜色ない技術と知識であると太鼓判を受けている。

子供の脳の吸収力で、本来小学生としての勉強に費やす時間のすべてをそこにほぼ全部つぎ込めばまあ、さもありなんという結果だが、それがわからない人から見ると明らかに理解不能なやべー奴である。

ほぼと言ったのは並行して、習得しているポルトガル語をベースにラテン語圏の言語の習得にも少し時間を割いているからだ。

海外遠征とか普通にあるからね。頭の柔らかい子供のうちに使える言語の幅は広げておきたい。

 

兎にも角にも、そうした努力の成果と指圧やマッサージの技術を前世のバイトで修めていたのも手伝って、実は現状で自分自身と光ちゃんのメディカルトレーナーは表面上はともかく実質的には俺が専任である。

何でそんなことになっているのかというと、答えは割と単純な話。

夜鷹純との練習を周囲に隠している関係で、練習の全体像の正しい把握ができている人物というのが、夜鷹純とクラブの練習両方を実際に行っている俺か光ちゃん自身しかいないからだ。

実際の施術や本格的な指導等はなるべくプロにお願いしているが、体の状態の把握や簡単なケアは出来ないとまずいというか、漫画では実際に光ちゃんがオーバーワークで腰を痛める事態になっていたからなあ。

 

え、なるべくじゃなく必ずプロに任せろ?

俺も同感なんだけど、光ちゃんに可愛い笑顔でマッサージをねだられたら断れないんですよねぇ。

まあ、あくまで俺が休養日の時とか、完全に光ちゃんの練習のサポートに回っている時だけなので。

これは実際にケアが必要な時というよりは、甘えたい時に要求されている感じだ。

 

そしてここに大体はクラブ時間中の事とは言え、他の子の練習を見たり相談に乗ったりが加わる。

 

長々と何が言いたいのかって?

 

大会が一つ終わったタイミングで、頑張りすぎだって長めの休養を言い渡されましたが何か?

 

光や慎一郎さんやエイヴァ、名港コーチ陣はともかくまさかあの夜鷹純からすら、体を壊しているわけでもないのに休養を言い渡されるとは。

息抜き口実にいのりちゃんの練習を見ようにも、スケート場で知り合った子の練習を見てあげていること自体は後で変に問題になったりしないようにちゃんと伝えているから、休養中はそこも禁止されているし。

医学書や外国語学習なんかの難しい本も禁止。

学校もちょうど休みの時期、というか学校の休みに合わせて休養を取らされた。

 

―――いかんな。

何もしないことが、落ち着かなくなっている。

うん、こりゃストップかけられるわ。

このまま突っ走っていたらまたマズめの高熱出していたかも。

そこそこの熱はいまだに定期的に出しているからな。

 

ノービスに上がって本格的にフィギュアスケーターとして戦い始めたり、いのりちゃん見つけて練習見てあげたりでちょっとテンション上がりすぎて歯止めが利かなくなってたか。

 

でも、ひーまー。

ベッドの上をゴロゴロ、ゴロゴロ。

 

アニメでも見る?

でも大体前世で見たやつなんだよなあ。漫画内がどうだったか知らないけど、俺の今生きているこのメダリスト世界は、だいぶ現実準拠であるからして。

同じ理由で、漫画やゲームも却下。

 

ベッドの上をゴロゴロ。

 

二度寝というか時間的にそろそろ昼寝か?

うーん、不健康!

今生ですっかり染みついたアスリート根性的に生活リズムを崩す行為は受け入れられない!

 

またベッドの上をゴロゴロ。

 

「あらあら、理凰のそんな姿、すっごくレアなんじゃないかしら」

 

ゴロ…っは!?

 

「母さん!?」

 

ベットに寝転がったまま、視界の中で逆さまになったエイヴァさんと目が合う。

いつの間に家に。

いや、時間的には汐恩をとっくに送り終わっている時間だから、家に居るのはおかしくないのか。

 

「ちゃんと休んでいるか心配で様子を見に来たけど、その様子だと大丈夫…ではある意味ないのかしら?」

 

クスクスと笑いながら言われてしまう。

うーん不覚。いや別に構わないけど。

 

「流石に、皆に口を揃えて休めと言われたのにちゃんと休まないほどワーカホリックじゃないよ。まあ、現状を振り返ってみたら微妙に説得力がないセリフな気がするけど」

 

体を起こしてベッドに腰かけた状態になりつつ答えた。

 

「そうね。ちょっと頑張りすぎだったわね。でも、今日はちゃんと休めていたみたいだから、ご褒美にココアを入れてあげる」

 

ついでに暇そうな俺の話し相手にもなってあげようという意図もありそうだ。

うん、実際大分ありがたいかもしれない。

 

「それは何とも、ありがたき幸せ」

 

冗談めかしてベッドから勢いよく立ち上がって、俺の答えにまたクスクス笑うエイヴァさんについていく。

居間についてしばらく待つと、ココアの甘いにおいが立ち込めてきた。

ココアのカップを二人分もってきたエイヴァさんが俺の前にコップを一つ置いてテーブルの対面に座った。

 

「母親の私が言うのもアレなのだけど」

 

「何?」

 

「理凰が光と一緒じゃないのって、違和感を覚えちゃうわねぇ」

 

「あぁ、うん、まあしょうがないんじゃないかな」

 

どこかしみじみと言われたセリフに、俺はそうとしか返せない。

だって家にいる時は風呂とトイレと寝るとき以外は、ほぼずっと一緒にいる気がするくらいだからな。

実際は部屋で一人でいる時間もないわけじゃないんだが、そういう時は家族の目には触れないわけで。

 

「いい機会だから聞いちゃうけど。理凰は、光の事をどう思ってるのかしら?」

 

お、恋バナかな。

まあ、母親としてはそこ気になるよねえ。

何せ息子の俺と娘同然の光ちゃんで二人分なわけだし。

しかし申し訳ないが年相応な反応は返してあげられない。

 

「んー、大事な家族で、俺にとって一番大切な子、かな」

 

「そこを照れずにさらっと答えられるのは、我が息子ながら格好いいわね」

 

あきれとも関心ともとれる表情と声音でエイヴァさんは言う。

でも格好いいと言われてもな。

 

「照れる必要を感じないくらいには当たり前の事だからじゃない?」

 

「女の子として、というか、異性としては?」

 

ほほう、なかなか踏み込みますね。

 

「そこは難しいね。俺も光もお互いに対する気持ちがちょっと複雑になりすぎているところがあるから」

 

そう言って俺はココアを一口。

家族として、同じ道を歩く同志として、妹のような、娘のような、光ちゃんはしっかりしているところがあるから中身大人の俺としては情けないけど時々は姉かも。

そこには多分、恋とか愛も混ざっているだろう。

でも。

 

「俺も光もまだ子供だからね。そこを無理に解きほぐす必要は今はまだないかなって思ってる」

 

「それは光の為?」

 

「大丈夫だよ、ちゃんと俺の為って言うのも入っているから」

 

「そう、それならいいわ。お母さんはとりあえず将来を楽しみに待つことにします!」

 

ポンと手を合わせて、エイヴァさんは明るく笑う。

こうして改めて正面からみると、光ちゃんの笑顔は最近すっかりエイヴァさんのそれに似てきていると感じる。

本当に、ちゃんと皆で家族になれているんだなと、嬉しく思う。

 

「それじゃあ、普通なら照れ臭いような話に素直に答えた息子に、もう一杯、ココアをお願いしようかな」

 

そう言って、俺もエイヴァさんに笑顔を返すのだった。

 

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