「エキシビションの振り付けを作りましょう」
長期休養が明けた後、居間で光ちゃんやエイヴァさん汐恩ちゃんとお茶をしている時の話だ。
エイヴァさんからそんな提案を受けた。
「理凰にはこれからきっと必要になるから、用意しておいたほうが良いわ」
俺より早く試合にデビューしていた光ちゃんにも同じ提案がされていた時は、そういえばそんな話があったなあ、くらいにしか思っていなかったけど、よくよく考えてみるとこれって結構すごい提案だよな。
要するにエキシビションが行われるような大きな大会などでエキシビションに参加できるような結果を出すだろうから、作っておこうねって話である。
「そっか、理凰もエキシビションの用意するんだ」
一緒に話を聞いていた光ちゃんもちょっとワクワクした顔をしている。
分かるよ。俺も光ちゃんのエキシビションの用意の時楽しかったからね。
例の一発芸生春巻きは、可愛いし面白いしで大いに楽しませてもらった。
衣装とか一緒に考えて、フリフリと演技のクオリティーをどのラインでバランスとろうかとかワイワイ話し合ったなあ。
なお、エキシビションが嫌いな夜鷹純はこの件に関しては完全ノータッチだった。
しかし、自分の分はいろいろ忙しくて正直思考の外だったな。
「どうしようかなあ。全く考えてなかったよ」
二人して、それはそうだろうねという顔で見るのはやめてくれないかい。
これでも俺も反省しているのだ。
一定の形になったスポーツ医学関係の学習をスローペースにしたり、語学の勉強の範囲をある程度絞ったり、ちゃんと調節したので勘弁してほしい。
「それでどうしようか? 格好いいのにする? 面白いのにする?」
それはもうウッキウキで聞いてくるエイヴァさん。
慎一郎さんのエキシビションの映像みせてくれた時も楽しそうだったし、きっとエキシビション好きなんだろうなあ。
俺もぶっちゃけエキシビションは大好きである。
そして、その二択なら答えは決まっている。
「断然、面白いのだね」
即座に返した俺に、やっぱりかという顔をしつつも少し残念そうな様子の光ちゃん。
ごめんね。少なくとも今回はネタに走りたい。
そのうちちゃんと格好いいやつも滑るから許してほしい。
「まあ、理凰ならきっとそう言うだろうなとは思った」
さて、コメディー路線という方向性は決まった。
ではどんなネタを仕込むかなのだが。
慎一郎さんは鴗鳥という名字からか、鳥の小物を使った愉快系の演出だった。
でも子供の俺がそれをやっても、面白いというよりは、微笑ましくなりそう。
体格を考えると、アクション方面に振るのも迫力が足りなくなりそうだし、なかなか難しいな。
そしてふと目に入るつけっぱなしのテレビで流れるCM。
ニチアサ系の女児向けアニメのアイテムの宣伝だった。
「そういえば、理依奈さん魔法少女に扮したエキシビション滑ってたっけ」
最近、鯱城さん呼びは他人行儀だと呼び名を矯正させられた俺である。
「あ、これだ」
今の俺だからこそ出来る、とびっきりの大ネタがあるじゃないの。
ちょっとばかし本気で、男の娘、やってみようかな。
「うわぁ、なんかすごくイイ顔してるわぁ」
「執事事件の時でもここまでじゃなかったですよね」
好きに言うがよいよ。
俺は、やる時はやる男なのだ。
特に馬鹿をやる時はね!
そして、今回は是非とも二人の協力が欲しい。
なので、俺の構想を話すと、エイヴァさんは大笑いで請け負ってくれた。
光ちゃんも結構乗り気だった。
ようし協力者も得られたことだし、それじゃあ、もうちょっと内容を詰めていきましょうか。
そして、しばしの日々が過ぎ。
選曲が決まり、衣装が出来上がり、振り付けが決まった。
試しに滑ってある程度形にもなってくる。
光ちゃんは結構笑ってくれたり、俺の事を無邪気に可愛いと誉めてくれたり、なかなかの感触だ。
一方のエイヴァさんは、最初のうちは笑ってくれたのだが、だんだん悩むようになり始めた。
「理凰、ちょっと女の子たち集めて試演してみましょうか」
それはいい案だ。
俺としても、感触は見てみたいので二つ返事で試演を受けた。
しかし何故に女の子限定?
そんなこんなで、試演の日。
衣装を着てウィッグをつけ化粧まで施した俺は、同い年の女の子たちには驚かれはしたものの大うけである。
夕凪ちゃんとか腹を抱えて笑っていたし、りんなちゃんと四葉ちゃんは可愛いを連呼して大はしゃぎ。
そんな皆に声まで作って本物の女の子みたいに対応すると、さらに大うけするという。
実に楽しいリアクションで大満足なのだが、年長組の子たちの反応がちょっとおかしい。
「え、ヤバ」
とか。
「私、今まさに性癖がベキ、ゴリと曲がっていく音の幻聴が聞こえるんですけど」
とか。皆ちょっと難しい顔をしていた。
理依奈さんすら難しい顔をしている。
某大バズりをした早逝したアイドルの死の謎を追うアニメの主題歌に合わせて、キラッキラにアイドル風味に滑った後は、同年代の子たちはたいへんキャーキャー言ってくれたのに、年長組はチベットスナギツネみたいな顔になっていた。
「やっぱり、そういう反応になっちゃうわよねえ」
というエイヴァさん。
どういうこったよ。
「で、実際どう思う」
とエイヴァさんが聞くと、年長組の皆は答え始めた。
「試演から男性を排除したのは英断でした」
「いやこれ、このまま滑らせるのは流石にまずくないですか?」
「衣装をもう少し大人しくして、化粧はやめて…それでどうにか、なる、かなあ?」
それは、流石に過剰な心配というか過大評価じゃないかなあ。
と思っていると、年長組の皆は処置無しといった風に首を振った。
エイヴァさんが代表して俺に言う。
「あのね理凰。やりすぎ」
なん、だと…!
「理凰は、光ちゃんといつも一緒に居るせいでちょっと感覚が麻痺しているみたいだけど、今の理凰の見た目は正直、文句なしの美少女なの。しかも滑っている時の演技にも力を抜かないから、プログラム中は魅力倍増よ?」
あ、はい。
「理凰が女の子なら良いのよ。まあ、ちょっと身の安全には気を付けてもらわないといけなくなるけど、それは光もいるから今更ね」
うんそうだね。
光ちゃんの身辺に関しては、俺もだいぶ気をつかっている。
メディアで顔が売れてからは特にだ。
「でも理凰は男の子だからね。私もさすがに、他の家の男の子たちの性癖を無差別に破壊されちゃうと、責任が持ちきれないの」
俺もちょっと、それは、責任持てないですねぇ。
合宿の時とか熱い目で同性の子に見られちゃったら流石にいたたまれないわ。
「お母さん権限で、化粧は禁止とします。衣装も少し見直さないとね。振り付けももう少しいじりましょう」
「はい。お手数おかけしますが、よろしくお願いします」
思わず丁寧に喋って頭を下げてしまう俺である。
さすがにちょっとやりすぎであったか。
そして理凰君ボディの美形レベルを読み誤っていた。
そんなこんなで俺のエキシビションプログラムは、化粧をやめて衣装を少し大人しくして振り付けをちょっと変えて、皆の意見が、
「まあ、これならなんとか」
というところに落ち着いたことで完成した。
なお、実際のエキシビションでは非常に大うけして好評であった。
ただしネット上では、リアル男の娘だとか、氷上に舞い降りた天使の顔をした性癖を破壊する悪魔だとか割と好き放題だった。
とりあえず狙い通りの範囲には落ちついたっぽいので、ひとまずヨシ!
え、夜鷹純の反応?
なんとも味わい深い不思議な顔をしていましたね。
初見でサプライズ的に見せられていたらどんな反応になったかちょっとばかり気になるが、そこは諦めるしかあるまい。
そんなこんなで、俺の初のエキシビションプログラムのお話は以上である。
総評。
とても楽しかったですまる。