偽理凰君の奮闘記   作:空門 志弦

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30話

さて、全日本ノービス大会である。

え、中部大会はどこに行った?

うん、中部の男子って俺の世代の層ってほら、他には総太君だけだから。

いつぞやの大会の少年は遠征に来ていた子で、中部の子じゃなかったんだよね。

 

別に試合はいつも自分の最高の滑りを詰めることに注力するから、漫画の理凰君みたいにむなしいとは思わないけど、表彰台が二人だけって言うのはもの悲しさを感じざるを得ないよねえ。

 

なお総太君との関係だが、適度な距離を保ったオタ友的な感じである。

俺も前世はそれなりのオタの陰の者。

ゲームやってる時にちょっかいかけられるのはめんどくさいのは良く分かる。

なのでほどほどに放置してると、むしろ向こうからやってくるという。

歳の近い子が他にいないし。

 

そうして一緒にゲームをやればまあ、俺は昔ならぬ前世とった杵柄でそれなりに相手になる訳で。

何で前世に大人でオタやっといて子供相手にゲームでそれなりなんだよと思うかもしれないけど、総太君のゲームの腕はマジでヤバいからね?

ブランクがあるとはいえ完全に負け越してるんだよなあ。

まあでも、ちゃんと勝ったり負けたりして楽しめる位ではあるんだけど。

うん、多分だけど漫画の理凰君より懐かれてるよね。悲しいなあ。

漫画の理凰君、コンプレックスで言動暗くなってたけど、根は陽の者だもんね。

ゲームに命かけちゃってる系少年とは本質的には相性が悪いんだろうなあ。

 

あ、それと例の少年だけど今日は選手として会場に来てたぞ。

しっかり全日本に出場してくるあたり、やっぱり才能のある子なんだなあ。

俺をギラギラした目で睨んでた。

俺の応援に来ていたいるかちゃんに睨み返されて半泣きで逃げていったけどね。

やめておあげなさいよ、いるかちゃん。

なお様子を見ていた彼のコーチさんが苦笑しつつも俺に手を振ってくれたから手を振り返しておいた。

 

それで俺の滑走順なんだけど。

またぁ、最終滑走ぅ、でしたねぇ。

いや、どういう事なの。

いままで出場した大会、ほぼほぼ最終滑走なんだけど。

りんなちゃんの逆バージョンなの?

 

りんなちゃんみたいに一番目よりは全然いい、ってことは実はない。

正直な話、今の俺は滑るのが楽しすぎて順番とか気にならないので、氷の状態が良いほうが嬉しいんだよなあ。

一回だけ一番目の滑走になった時、氷の状態気にせずに思い切り滑れて最高に気持ちよかった。

まあ、でもなってしまうものは仕方がない。

与えられた状況で最善を尽くすのみである。

 

「そういえば、私って理凰の試合での滑りを直接見るのって初めてなんだよね」

 

少年を追い返したいるかちゃんが、ふと思い出したようにそう言った。

ほほう、お客さんそれは運がいい。

 

「それは中々運がよかったね。実は今日はようやく仕上がったグレードアップバージョンのプログラムの初お披露目なんだ」

 

なお、いるかちゃんからの要望で、いるかちゃんとはため口で喋っている。

俺の言葉にいるかちゃんはニヤリとした。

 

「へえ、期待していいんだ?」

 

「ちょっとは驚かせられるんじゃないかな。ね、光?」

 

前日に女子ノービスBで優勝した光に目を向ける。

ちなみに他の皆は先ほど一足先に席を取りに行ったため、残っているのはこの二人だけだ。

 

「軽く言ってるけど、あれ見て驚かない方が無理があると思うんだけど」

 

プログラムの内容を知っている光はちょっとあきれた風に言う。

 

「光もそういうってことは、相当か。うん、楽しみにしておく」

 

なんか、この二人いつの間にか仲良くなってたんだよなあ。

いや、俺を介して接触回数が増えるから自然とそうなったっぽいんだけど。

ここは完全に漫画とは関係性が変わったな。

漫画だと年齢差の所為か光ちゃんといのりちゃんの関係ほどじゃないけど、お互いに強いスケーターとして意識し合っている感じだったんだけど。

 

ともあれ、そろそろ会場入りである。

 

「私たちは応援席の皆の所に合流するね。会場が大きいし声援がちゃんと届かないと嫌だから今言うね。がんばれ、理凰!」

 

別れ際に、光ちゃんが胸の前で両手で拳をぐっとして応援してくれる。

 

「楽しみにしてるから、良い滑りみせてよね」

 

いるかちゃんは手をひらひらさせながら、いるかちゃんらしい応援をくれた。

 

「OK、任せといて」

 

二人の応援に不敵な笑みを作って親指を立てて返す。

そして会場入りしてウォーミングアップ。

慎一郎さんと他選手の出来を確認などしながら順番を待つことしばし。

 

さあ、俺の出番だ。

滑走場所に向かって滑りながら軽く氷の状態を確認する。

まあ、このくらいならそこまで気にせず行けそうだな。

応援席の皆に手を振れば、声援が返ってきた。

何故かいるかちゃん以外の愛西の子達も混ざっている。

まあ、あの後も何度か合同合宿とかあったしな。

漫画より交流が多いのか、漫画でも裏ではあったことなのか。

今考える事ではないか。

 

初期位置について音楽が始まるのを待つ。

音楽が始まり、俺は氷を蹴って滑り始めた。

グレードアップバージョンとは言ったが、振り付け自体はデビュープログラムから変わってはいない。

まあ、振り付けの精度は日々高めているけども。

変わったのは、ジャンプ構成とスピンの内容だ。

ジャンプはより難度の高いものに、スピンは回転数を高めて入りもフライングに変えた。

 

フィギュアスケートのジャンプはトウループ、サルコウ、ループ、フリップ、ルッツ、アクセルの六種があり、あとに挙げたものほど難度が高いとされている。

だが、選手それぞれに癖があるため、必ずしも選手自身が感じる難度が一般に言われている難度と同じになるとは限らない。

いのりちゃんの得意ジャンプのサルコウの着氷率が100%だったりするように。

光ちゃんがルッツジャンプを得意とするように。

 

しかし最初、俺は自分に得意ジャンプはないと思っていた。

どのジャンプもだいたい同じような感覚で飛べるし、その中で順位付けするなら大体一般に言われているものと同じような順位付けになるからだ。

だが、だんだんジャンプの回転数を上げていくにつれて、一つの事実に気が付く。

俺は普通なら一つ上の回転数のジャンプと難度を比べられるアクセルジャンプを、同一の回転数のジャンプと同じ感覚で飛べるのだ。

そりゃ難しいは難しいが、回転数が一つ多いジャンプと比べるほどではなかった。

 

そう、俺の得意ジャンプはアクセルだ。

夜鷹純は俺が一回転を飛べたその日に二回転アクセルを飛ばしたが、さてはあの男、気が付いていたな?

そう言うのは口で言ってほしいものである。

なぜ突然得意ジャンプの話をしたのかというと。

 

プログラムも後半に差し掛かり、俺はジャンプの助走に入る。

後ろ向きではなく前向き。

そう、アクセルジャンプの助走だ。

 

完璧なタイミングで踏み切って回転、きっちり三回転半。

完璧な着氷と言っていい。

続けてオイラーを挟み、三回転サルコウを降りる。

 

さあ、まだ、最後の単独ジャンプが残っている。

再び前向きでの助走。

もう一発、三回転アクセルを完璧に降りた。

 

ジャンプの前も後も、一切の手は抜かずに高難度な振り付けはそのままだ。

会心の出来と言っていいプログラムをフライングから入った回転数マシマシのスピンで締めて、しっかりポーズを決めて完走した。

 

少しの間、静まり返った会場はすぐに爆発したみたいな歓声に包まれる。

 

どんなもんよ。

応援に来てくれたみんなにも、会場に足を運んでくれたフィギュアファンの人たちにも今の俺に出来る最高のエンターテイメントを提供してやったぜ!

 

そんな大満足の出来をもって、俺は全日本ノービスの金メダルをつかみ取ることに成功するのであった。

 

 

 

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