偽理凰君の奮闘記   作:空門 志弦

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33話

凄いものを見てしまった。

 

うん、ホントに最高の誕生日でした。

 

というか、完全に光ちゃんの滑りに魅入っていて後になってから気が付いたんだけど。

光ちゃん、三回転アクセル飛んでた。

公式の試合で成功していたの、漫画では来年の全日本ノービスのはずなんだけどなあ。

もうあの出来で飛べちゃうのかあ。

 

その後はまあ、今はまさにフィギュアスケートとしてはシーズン真っ盛り。

自分も小規模から中規模の大会に出て経験値や実績を稼いだり、ジュニアのいるかちゃんや名港の選手の応援に行ったり。

日々の練習に、合間は他の子の練習を見たり大会の準備の手伝いなんかもして、まあ忙しく過ごしているうちに気が付けば学年が上がっていた。

 

光ちゃんの誕生日?

あんな良いものプレゼントされたらそりゃ全力で返すしかない。

二か月しかなかったけど、意地で四回転トウループだけでも納得できる最低ラインまでなんとかもっていって、それを組み込んだプログラムをプレゼントしましたが何か?

 

流石に試合に出せる水準としてみるとギリギリだけど、やっぱりテンションってパフォーマンスに影響するよね。

光ちゃんの誕生日だけは、会心の出来で滑れたわ。

うん、あんなに喜んでもらえたら、ちょっと無理してでも仕上げた甲斐があったなあ。

がんばりすぎて、うっかりシンスプリントになりかけたのは秘密だぞ!

 

負担かかりがちなトウジャンプを出来上がり切ってない子供の体で強引に短期間で仕上げたからな。

いくら体が丈夫な俺でも危うかった。

夜鷹純が一言言ってくれてなかったら折角の誕生日にいらん心配かけるところだった。

 

「頑張りすぎ」

 

って、端的な一言だけだったけど、おかげで冷静になれた。

あの人は基本的に俺に対しては放任気味だけど、なんだかんだちゃんと見てくれているんだよなあ。

でも、いつも無茶ぶりをしてくる相手にその指摘を受けるのは微妙に納得がいかない。

 

うん、だから、おもむろに四回転アクセルの練習始めさせるの自重してくれませんかね?

俺まだ10歳になったばかりなんですけど?

まだ四回転は実用レベルなのギリギリのトウループだけだって言ってるでしょうが。

 

てか、あんた四回転アクセルいつからそんな完璧に飛べたんだよ!

くっそ、壁が、壁が高い…!

記録だけじゃない、いつか絶対、スケーターとしても超えてやるからな、こんちくしょう!

 

ふぅ。

つい取り乱してしまった。

ホントにあの男は、俺の事を一体何だと思っているんだ。

やるけども。

流石に完成は大分先になるだろうなあ。

 

そんな日々の中。

ある日の事。

 

「お兄さん! 私、スケートをちゃんと始められました!」

 

いのりちゃんが司先生と出会った。

そろそろ時期だなとは思っていたけど、思った以上にすんなり行ったな。

流れは基本的に漫画のそれと変わらないらしい。

まあ、ちょこちょこ差異はある。

 

例えば最初に会って司先生に見とがめられて逃げた理由が、お金を払っていなかったからではなく、なんか大きな大人の人が剣呑な雰囲気で話しかけてきて怖かったからという理由になっていたりとか。

なお司先生は、申し訳なさそうにそれについては謝ったらしい。

残当だネ。

 

司先生がいのりちゃんにスケートを始めさせようとした理由に、自分の境遇と重ねたことにプラスして、いのりちゃんの才能を埋もれさせるとかマジあり得ないと思ったという理由が追加されていたりとか。

うんうん。

がんばって丁寧に底上げした甲斐があったわ。

いのりちゃんの才能を漫画で知っていた俺でなくとも、今のいのりちゃんならきっと胸を張って才能があると言ってもらえる。

そうなるくらいには、丁寧に大事に育ててきたつもりである。

 

いのりちゃんのお母さんが、現時点で漫画よりはいのりちゃんがスケートをすることに前向きらしいことも結構な差異だ。

どうやらいのりちゃん、俺が課したトレーニングを頑張ったことで、漫画よりも早い段階で学校の運動では一定の成果を出せ始めていたそうで、いのりちゃんの学校での状況が少し改善され、いのりちゃん自身の普段の笑顔も増え、それによってお母さんの心にも幾分余裕があったようだ。

 

そのあたり、ある程度そうなればいいなと狙ってはいたが思った以上に上手く転がってくれていたらしい。

とはいえ、これはあくまでいのりちゃん自身の努力あってこその成果。

俺は可能性のある道を示しただけだ。

それでも良い未来へ少しでも背を押せたなら嬉しいことである。

 

その流れで、名城じゃなくてルクス東山に行くことになった理由?

どうも、名城のコーチの人はお母さんの方ばかり見て自分を見てくれず、お母さんもその時点ではそこまで乗り気ではなかったので話が流れ。

それに反して司先生はちゃんと自分を見てくれたから、この人ならと思ったらしく、ここぞとばかりにスケートをどうしてもやりたいとわがままを言ったらしい。

 

うん、いのりちゃん、君は人を見る目があるね。

そして、漫画よりもちょっと強かだ。

俺は実は結構いのりちゃんに悪影響だった可能性?

 

うん。

結果はとても良い方に転んだのでまあ、ヨシ!

 

「それでその、司先生が一度お兄さんに会いたいって」

 

Oh。

そりゃそうなるか。

俺でもきっとそうする。

一応未来で出会ったコーチに伝えるべきことは、手紙にして渡してもらえるようにしておいたんだけど。

直接会えるなら、直接会ってみたいってなるよねえ当然。

 

まあ、会うのは構わないというか、願ったりではあるんだけど。

来週、はちょっと忙しいから再来週?

うーん、そのくらいかな。

 

と思っていたら、とんとん拍子とはこういうことを言うのだろうか。

光ちゃんといのりちゃんが出会った。

ここについてはほぼ漫画通りの流れ。

しいて違いを言えば、俺が最初の出会いの場に居なかったくらい?

くっ、二人の出会いをこの目で見たかった…!

 

この世界の夜鷹純は光ちゃんのペンダント投げるようなことしないからなぁ。

それでもなんだかんだ二人は出会うあたりに運命めいたものを感じる。

その後のセカンドコンタクトもほぼ漫画通り。

ただ光ちゃんには、

 

「理凰が外で教えてた面白い子って、もしかして結束いのりちゃん?」

 

と見事に言い当てられた。

滑りから見て取ったのか、いのりちゃんがあまりにも分かりやすく、おもしれー女だったのかどちらだろうか。

俺が素直に認めると光ちゃんは嬉しそうにして言った。

 

「あ、やっぱりそうなんだ! ふふっ、一つ未来の楽しみが出来ちゃった!」

 

やっぱり、いのりちゃんは光ちゃんの琴線に触れるものを持っているんだなあ。

嬉しそうで実に何よりである。

 

まあ、そんな風に事が流れ始めれば見事に流れるべき場所へ流れていく。

俺の存在で予想外の方向に流れる可能性も危惧していたが、まあ、狭い業界だからなあ。

多少の遅い早いはあっても同じような流れに落ち着くだろうと思っていたけど、予想以上にすんなりいってくれて助かった。

 

さあ、それじゃあ司先生に会いに行こう。

くっくっく。

ホントに、ずいぶん待たされたぞ、司先生。

 

いのりちゃんの様子をじっと見守るのは中々に焦れる日々だった。

そりゃできる範囲の事はやったが、どうしても限界があったからな。

おかげで対司先生用のプランの準備は十分だ。

複数のプランをみっしりとした密度で用意してあるぜ。

司先生がどんなパターンの反応で来たとしても逃がしはせん。

なにしろ年単位で考える時間があったからなあ。

 

さあ司先生、騙して…はいないが、これも推し活なんでな!

歓迎するぞ、盛大になぁ!

 

 

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