鴗鳥家に光ちゃんを迎えてから約半年がたった。
光ちゃんが鴗鳥家に馴染むまでの期間は多分、前世で見たメダリストの物語の中よりも短かったんじゃないかと思う。そのあたりの描写や期間の明示はなかったから絶対とは言えないけども。
俺の見る限りだが、俺と二人の時なんかは最初からしっかり自分の素を出せているように見えたし、そんな風に俺の前で変に演技をしないですんだのがよかったのか慎一郎さんやエイヴァさんと自然に接せるようになるまでも割と早かった。
そうなると物語の光ちゃんとは違った感じの子に育つのかとも思ったが、結局光ちゃんの性格は物語のそれと変わらない感じに変化していっているように感じる。
まあ、物語でも理凰君が指摘していたがどこまでが演技でどこまでが本当なんて自分でもいうほどちゃんとは分けられないものなわけで。
環境が一緒ならやっぱり性格は同じようなあたりに落ち着くという事だろう。
物語の光ちゃんと決定的に違う点は、俺との関係性だ。
ここだけは理凰君と俺では性格も光ちゃんに対するスタンスも違うので大きく変化している。
理凰君と光ちゃんの関係が一言でいえば「一つ屋根の下で兄弟のように育った幼馴染」であるのに対し、俺と光ちゃんは「同じ家に暮らす仲の良い叔父と姪」といった感じである。
仲のいい兄弟、というにはちょっと俺が優位すぎるというか。何かにつけて助言を求められたり、考えを聞かれたりするのだ。なんだかんだ要領のいい子なので直接的な助力を求められることはあんまりないが、光ちゃんの性格を考えると助力を求められる機会がある時点で相当といえる。
光ちゃんが自立心の強いタイプでなければ、依存になってしまわないよう気をつかう事になっていただろう。
そうそう光ちゃんとの関係性について理凰君と俺を比較したとき、具体的事例としてあげられる大きな違いが一つある。
実は俺は夜鷹純と光ちゃんの練習の見学が許されているのである。
そうなった原因は正直俺自身、完全には理解できていない。
光ちゃん伝手に俺の話が夜鷹純に色々伝わったのもあるだろうし、あんまり生きるのが下手な夜鷹純のことを見ていられなかった俺が、彼が鴗鳥家に訪れるたびにそれとなく助言のようなものを与えたのもあるだろう。
助言の内容?
雑にサングラスつけるんじゃなく、金あるんだから目的に沿ったサングラスなりゴーグルなり特注して作っちまえよとか、そんなに氷上以外の世界が嫌いなら外界を意識から遮断するのにノイキャン付きのワイヤレスヘッドフォンでも好きな音楽流してずっとつけとけばいいじゃないかとか、食べるのが苦にならないようなものを少量ずつで良いから色々試して好きになれそうな味探してみろよとか、そういうのを柔らかい言葉で伝えただけで、そんな大した内容じゃないぞ?
あと他の原因というと、そもそもとして俺が練習の場にいたとしても理凰君と違って二人の邪魔になるような行動をしないと思われていたのもあるだろう。
ちなみに俺から頼んだのではない。
ある日、なんか夜鷹から誘われたのである。
うん、多分ちょっと気に入られてるなコレ。
まあ物語上でも理凰君は夜鷹純的には可愛い甥的な存在だったらしいし、落ち着いて付き合える関係性が築けるならば自分から構いたくなってもおかしくない…のか?
そして今日も今まさに、三人だけのスケート場でリンクの上を光ちゃんが滑っているのを見ている。
現時点でも結構見応えがある滑りを見せてくれる光ちゃんではあるんだがジャンプに苦戦している。
「あれじゃダメだなあ」
「何がダメなんだい?」
「お手本に引っ張られすぎてる。 トレースが上手すぎるのも考え物だよね。 夜鷹さんと光じゃ手足の長さも骨格も筋力も何もかもと言っていいくらい違うんだから、ちゃんと自分用にアジャストしなきゃ。 まあ、光ならすぐに気が付いて修正するだろうけ…ど……って夜鷹さん!?」
うおぉ、びびったぁぁ!?
光ちゃんの演技見るのに夢中になって夜鷹純が傍に来てたのに気が付かずに普通に会話してたよ!
「あ、あー、素人が勝手に偉そうに申し訳ないです」
「理凰なら改善点を挙げるならまずどこを挙げる?」
あ、これこっちの謝罪の言葉を完全無視だな?
俺がどう見たのか興味あるから謝罪とか良いからサッサと答えろとおっしゃるか。
素人意見を金メダリスト相手に言うのは気が引けるんだが、言い出したら聞かないからなこの人。
しゃあないかー。
「まずはジャンプの時の腕の振りの勢いですかね。腕が短い分もっと強く振らないと遠心力が十分得られない。次に腕をたたむタイミング。多分夜鷹さんの腕が長いせいで実際のタイミングとは違うタイミングでたたんでいる風に錯覚して、錯覚したままトレースしているせいでタイミングを逸しているんじゃないかと。多分、もう少し早いタイミングでいいはず」
「だってさ、光」
「なるほど」
「って光!?」
いつの間にか近くまで滑って来ていた光ちゃんの声が急に聞こえた俺は、また驚かされる。
夜鷹純のほうに向きなおったせいでリンクに背を向けていたのだ。
なんだよ君ら。師弟で息ぴったりに俺を驚かせるんじゃないよ。
というか。
「あくまで俺にはそう見えたってだけだぞ?」
疑う様子の全くない光ちゃんに思わずそう言う。
ぶっちゃけ俺はまだ本格的にはスケートを始めていない。
まあ事故の影響だな。経過観察の必要性などもあって漫画でも慎一郎さんがそうしたかったと言っていた6歳になるまでは最低限の基礎しか練習してはだめだと言われている。当然ジャンプは一回転すら飛んだことがない。
「理凰の見立ては正しいよ。 良い目をもっている。 光は理凰に指摘された部分を意識して調整してごらん」
夜鷹が普通に褒めた…!?
「わかりましたコーチ」
しかも夜鷹が、光ちゃんにアドバイスを口でしている…だと…!
ああ、いや、これはあれか。夜鷹の要求に応えた俺に対する答案みたいなものなのか。
再び滑り始めた光ちゃんは、瞬く間にフォームを調整してジャンプが飛べるようになった。
やっぱセンス凄いよな。俺の指摘聞いただけでコレだもの。
「理凰はこれからも光の滑りで気になることがあったら指摘して」
「いやいやいや!?」
それはダメだろ。俺素人ぞ!
確かに前世からフィギュア見るのは好きだったが!
こっち来てからはもっと滑りを見る機会は増えたが!
一回転すら飛んだことないんだぞ!
「的外れなこと言っていたら止めてあげるよ。それならいいでしょ」
あ、これまたウンと言うまでダメな奴だ。
うぐぬう。
光ちゃんの足を引っ張る心配がないのはありがたいが、それ常に金メダリストの添削食らい続けるってことですよねえ!?
でもやれって言うんでしょう?
わかりましたよやりますよ。
オノレ夜鷹メ。
「ワカリマシタ」
思わず棒読みになった俺はきっと悪くないと思う次第である。
それを聞いた光ちゃんの反応?
目がキラキラしていてとっても可愛かったよ!
でも君は君で俺のこと信用しすぎじゃないかなあ!
嬉しいけども! 頑張るしかなくなるじゃんかよう!!