偽理凰君の奮闘記   作:空門 志弦

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42話

長野合宿である。

去年時点だと実績とかが足りてないというか、ほとんどなかった関係で召集されてなかったが、まあ、今年は呼ばれた。

自慢じゃないが、俺を呼ばなかったら誰も呼べなくなるのでここは当然と言えば当然ではある。

 

例の子…いつまでも例の子呼ばわりは失礼か。

斑鳩彰人君というのが彼の名前だ。

彼の苗字はイカルガと読むと土地の名前であり、彼についても読みはこっち。

だが、イカルという読み方もあり、これは鳥の名前。

この鳥が大挙していたことが斑鳩の土地の名前の由来という話がある。

まあ、この世界であのレベルで滑れるなら動物の名前が入っているだろうと思っていたが、案の定だ。

 

下の名前のアキトって響きもなんか主人公っぽい。

宇宙戦艦に乗ってロボのパイロットでもやっていそうである。

でも名字がイカルガだから例のシューティング的にロボットじゃないものに乗っていたり?

いやいや、最近はイカルガで名前ドンピシャなロボもいたな。

 

うーん、今にも噛みつきそうな様子で睨まれて、ちょっとほっこりするとともに、思考が変な方向に行ってしまった。

朱蒴君も見かけたけど、うん、そんなにビビらないでも大丈夫だぞ。

別に俺はそんな怖い人間ではないつもりだ。

でも、他の子達も何かよそよそしい。

睨んできてくれる斑鳩君がかえって癒しとはこれ如何に。

 

おおぅ。

前世以来のこのボッチ感よ。

ちょっと懐かしさすら感じるぞ。

まあ、前世の好きでボッチやってた時とは色々趣が違うけども。

 

総太君は流石に参加資格満たしてないしなあ。

そうなると中部の状況的に顔見知りの男の子の参加者は必然ゼロだ。

別に遊びに来ているわけじゃないし構わないんだが。

あ、やっぱり光ちゃんがヤバイ。

 

「はいはい、怖い顔しない」

 

言いながら、頬をムニムニともみほぐす。

朱蒴君とかは繊細だけど何気に図太い部分もあるから、慣れたらちゃんと仲良くできると思うんだよな。

まあ、この状況だとその慣れるまでが問題なんだが。

 

あ、やべえ。

他の名港や愛西の子たちの目つきも冷たくなってる。

光ちゃんみたいに事の本質を理解して怒ってるわけじゃないっぽいけど、まあ、仲良くしてる相手が冷たくされていたら腹は立つよね。

 

うーん、まことにすまない男子諸君。

皆可愛い子だから、チラチラ見ていた子とか結構いたけど、君たちの好感度はマイナススタートだ。

何とかケアして、なるべくプラマイゼロくらいにはもっていくように努力するから許してほしい。

 

だが、この子たちに軽い気持ちで手を出すなら断固として処す。

あ、この気分が少し漏れていたのかも。

そうか、そうかあ。

 

あ、光ちゃんに逆に頬をムニムニされ始めた。

うん、これやっぱ俺、自覚のないうちにちょっと怖い空気出してたな?

まあ、年齢的にまさか親気分で娘に手を出そうとしてる男けん制してるとは思わなかっただろうから、普通になんか雰囲気怖いなくらいの感想だっただろうけど。

 

「顔に出てた?」

 

確認のために光ちゃんに聞くと首は横に振られた。

 

「顔には出てなかったけど、理凰にしては空気が固い感じだったかな」

 

「理凰君って、結構過保護なところあるよね」

 

光ちゃんにちょっと笑われて、続けてりんなちゃんにも笑われてしまった。

いやでも待ってほしい。

 

「皆にはもうちょっと、危機感もってほしいくらいなんだけど?」

 

年齢的にそろそろ男子の方も恋愛的なあれこれが分かり始める頃合いである。

そこに、このレベルの女の子たちが目の前にお出しされるんだぞ?

 

「自分たちが魅力的だってちゃんと自覚をもって、いろいろ気を付けてくれないと心配で困るんだけど」

 

おい、なぜ全員で溜息合わせるんだ。

練習でもしてたのか。

 

「そこは私たちはいろんな意味で大丈夫だから、あんたのおかげというか、あんたのせいで」

 

それはどういう意味かな夕凪ちゃん。

 

「とにかく私たちの心配はいらないってこと! さ、理凰君は練習に行ってね!」

 

何度かの合同合宿ですっかり仲良くなった愛花ちゃんに背中を押されて送り出される。

ホント大丈夫かなあ。

 

まあ自分の練習に行かなければいけないのは確かにそうなので後ろ髪をひかれながら、その場を後にした。

練習を始めれば、そっちに集中できていろいろ気にならなくなった。

そして他の子の練習を観察などしつつ。

 

うん、朱蒴君は漫画ではスターフォックスFSCのトップでしかもジュニアグランプリの選手にも選ばれてただけあって流石の滑りだ。

勝負になりそうなのは斑鳩君と、そこからちょっと落ちるけど数人いるかいないかくらい?

 

というか朱蒴君は見た目が結構中性的だよね。

顔も可愛い系だし、体格も小柄。

朱蒴君は背が低いのを気にしてた描写があったけど、割とフィギュアだとアドになる部分があるからなあ小柄な体格って。

 

うーん、馬鹿に巻き込んでエキシビションのうち二本が男の娘とかやって世間を騒がせたい。

斑鳩君は男の子っぽい男の子だから、無理があるか。

斑鳩君もいけたら、ノービス男子のエキシビションを男の娘で染めるという特大ネタが完成したかもしれないのに。

残念無念。

そんな益体のないことを考えていると朱蒴君が自分から俺に近づいてきた。

 

「あの、さっきから凄く見られてて気になって集中できないんだけど…」

 

Oh。

大変申し訳ない。

 

「ごめん、すごくいい滑りだなと思って、つい」

 

これも間違いなく本音である。

あ、目が輝いた。

言ったあとで、俺が言うと嫌味に聞こえちゃうかと心配したけど大丈夫だったらしい。

 

これがきっかけで、朱蒴君とはだいぶ仲が良くなった。

スターフォックスの話とかも色々聞けて実に楽しい。

俺が喜んでいるのが分かるのか、朱蒴君はどんどんいろんな話をしてくれる。

うーん、スイッチ入ると一気に距離縮むタイプ。

 

人によっては引くかもしれないけど、スターフォックスの練習の話とか、他の所属選手の話とか、あのライリー・フォックスの話とか、俺にとっては垂涎のネタばかりである。

そうしているうちにすっかり仲良くなったので、ダメもとで馬鹿に誘ってみたのだが。

 

「あのエキシビションの理凰君は可愛かったし、見てて面白かったけど、流石に僕は自分の性癖歪めるのも人の性癖歪めるのも遠慮しておきたいかなあ」

 

と断られてしまった。

実に無念である。

本人が乗ってくれたら、きっとライリー先生とかノリノリで協力してくれただろうに。

 

ちなみにそのライリー先生も顔を出しに来ていたが、外行きの猫をたっぷり着込んでいる感じだった。

キラキラしくそれでいてクールな立ち居振る舞いで、子供と話すときはちょっと明るい感じで。

うーん、あれが内向きだとぼさぼさ髪で白鳥ジュナにキャーキャー言いながらカップラーメン啜るのか。

とっても美事な擬態である。

内心で拍手喝采していたら、目が合った。

 

「君が理凰君かあ、なるほど、直接会うと雰囲気あるなあ!」

 

「いえいえ、ライリー先生こそ。テレビで見るよりもずっと美人ですし、流石は金メダリストっていうオーラみたいなものを感じますよ」

 

多分この感じは、ライリー・フォックスという人間を形作る人生からの発露。

自分自身への信頼とか今まで成し遂げてきた事の自負とか、後は漫画のエピソードを見るに、この人の場合は自分の天運への確信みたいなものが上乗せされているんだろう。

 

なるほど、面白いな。

夜鷹純とはまた違ったタイプだが、夜鷹純と同じような確かに世界の頂点を見た人間であると思わせるものを纏っている。

 

ん?

今ライリー先生の目が一瞬、なんだ?

 

「へえ、思った以上かも」

 

声のトーンがちょっと変わったな。

これは失態かなぁ。

目をつけられてしまったか。

 

「すみません、ちょっと不躾でしたね」

 

とはいえ無礼は無礼。

あんまり興味深くて、ついつい無遠慮に覗きすぎた。

そこは謝らなければなるまい。

俺の謝罪にライリー先生はカラッとした笑顔で返してきた。

 

「気にしないでいいよ! かえって面白いものが見れたと思うし!」

 

深淵を覗くものはっていうけど、そりゃこっちも覗かれたよね。

何を見られたのかはいまいちわからんけど。

うーん、天然と策士のハイブリットはこれだからなあ。

 

後で様子を見ていると、ライリー先生は言葉巧みに名港のコーチや選手に接触して俺の情報を集めていた。

まあ、ライリー先生のクラブのスターフォックスは名港とは地域が違うから中部程には俺の話が流れていなかったんだろうな。

 

でも誰も彼もむしろ嬉しそうに俺の情報漏らすのなんなの?

あのライリー先生が微妙に引いてるじゃないか。

やめてさしあげてよ。

 

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