偽理凰君の奮闘記   作:空門 志弦

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44話

続続長野合宿である。

え、しつこい?

まあ聞いておくれよ。

前も話したけど、ホントにエピソードが多いんだよ。

 

それに今回のエピのトップバッターはあれだ。

漫画でもいろんな意味で異彩を放つ、あの、鹿本すずちゃんの絡むエピであるからして。

場面は夕食時。

食堂でワイワイ男女別なく食事をとっている時の話である。

 

俺はその子を見つけた。

というか、明らかに俺の目の前にわざわざやってきてキメ顔を作っているので見つけたというのは適当じゃないんだが。

うん、これあれだな。

かわいい強盗しに来たね。

 

説明しよう!

かわいい強盗とは、かわいいということに異常な執着心を持つすずちゃんが、人からかわいいと言われるために、その人の視界の中でかわいいと言わせようと、なんか物欲しげにかわいい顔をしてくる行為である!

 

というか俺の隣には今まさに、一緒に食事をとっている光ちゃんがいるというのに流石の度胸である。

なお光ちゃんはすでに似たような状況を何度か見ていたのか苦笑いだ。

ふむ、しかしこんな愉快な行動をとられて普通に返しては、やはり不作法というものだろう。

この、鴗鳥理凰、受けて立つ!

 

「なるほど、鹿本すず。君は確かに可愛い。生来の素材にうぬ惚れずに肌のケアを徹底して髪型や表情、仕草にまで実に美事に気を配った君は確かに素晴らしい」

 

周りにいる俺になれている名港や愛西の子達がまた何かこいつ言い出したぞという顔をしているが。

知らんなあ。

馬鹿をやる時の俺は無敵である。

 

「だがしかし、その可愛さは可愛さとして認めるが、俺の前では永遠に一番に届かない」

 

ちっちっち、と舌を鳴らし、人差し指を口の前で揺らす。

そして食堂の椅子から立ち上がりなんか格好よさげなポーズをとる。

シュタインズな感じのあれである。

 

「なぜなら俺にとっての一番の可愛いは、永遠不動に光のモノだからな!」

 

声を大にして堂々と叫ぶと、後頭部を思いっきりはたかれた。

まあ、もちろん光ちゃんである。

 

「流石に恥ずかしいから! 場所を考えて!」

 

あんまり見たことのない顔してる。

嬉しいと恥ずかしいが絶妙な配分で混ざった顔。

 

「くっ、これは確かに!?」

 

その顔を見たすずちゃんが敗北感によって食堂のテーブルに手をついた。

うん、今の光ちゃん最高に可愛いからね。

 

「ふ、勝ったな」

 

「早く、座って、食事を済まして」

 

あ、はい。

勝ち誇る俺を、強引に座らせにかかる光ちゃんに逆らわずに着席して食事を再開する。

なんか、食堂中の男子達から勇者を見る目で見られているな。

そして名港と愛西の子たち以外の女子は、なんか照れたような顔である。

名港と愛西の子?

まあ、またやってるよこいつみたいな顔ですよ。

名港の子たちはともかく、愛西の子達もすっかり馴染んだなあ。

 

「いやあ、一番の可愛いを奪えなかったのは残念やけど、面白い人やなぁ、理凰君!」

 

可愛いという事はちゃんと認められたので一応満足したのか、即座に復帰したすずちゃんが笑いながら言ってくる。

 

「すずちゃんも、話には聞いてたけどなかなか愉快だよね。思わず悪ノリしちゃったよ。まあ、言ったことは本音だけど」

 

痛っ、ちょっ、光ちゃん、太ももつねる力強くない!?

 

「あははっ! 凄い! 話に聞いてた通りや!」

 

どんな話を聞いたんだろうねえ。

 

「まあ、理凰君の可愛いの一番ばかりは流石のウチでも奪えなさそうだし、それにそこに手を出すのは無粋ってもんやね」

 

ひゅう、やっぱ格好いいぜ、すずちゃん。

流石は、何なら漫画の登場人物中で一番言動がかっこいいんじゃないかと俺が疑惑に思ってた女の子だけはある。

そして次の獲物を探してくると言って去って行くすずちゃん。

それであの、光ちゃん。

そろそろ太ももをつねるの勘弁してもらえませんかね?

 

 

 

食堂の真ん中で可愛いを叫んだあと、太ももに残る鈍い痛みを忘れたころに風呂を済ませると、廊下にある自販機の脇の椅子で涼んでいる子と目が合った。

 

「あ、鴗鳥選手」

 

「そういう君は亜昼美玖選手」

 

「私の名前、知っててくれたんだ」

 

「君も結構有名だよ? 突然現れた新星だって」

 

そうなのである。

漫画ではもう1年先の全日本ノービスの時期に新星として突然現れる美玖ちゃんであるが、この世界ではすでに頭角を現している。

恐らく例の機関の関係で大会とかが増えて経験と実績の積み上げが前倒しになったんだろう。

 

「貴方にそう言ってもらえるのは中々光栄だね」

 

ちょっと照れたように言うと、美玖ちゃんはふと表情を変えた後に少し考えてからこういった。

 

「今時間あるかな? ちょっと話がしたいの」

 

「時間は大丈夫だけど、話?」

 

「話って言うか相談なんだけどね。なんか、名港の子も愛西の子も口を揃えてコーチに話せないような悩み事があるなら理凰君に話してみればっていうからさ」

 

あの子たちは、もしかして俺の事を未来から来たネコ型ロボットか何かと思ってるのでは?

まあ、美玖ちゃんの悩みと言えばある程度は予想がつくが。

 

「まあ、亜昼さんが抵抗ないなら相談にのるのはやぶさかじゃないけど。話を聞いてもらうだけでも楽になるなんていうのはよく聞く話だしね」

 

「ありがとう。それじゃ、えっと、どこから話そうかな」

 

そうして聞いた話は、まあ、言ってしまえばスケートを続けるべきか否かの話だ。

漫画では練習に通っていたリンクの閉鎖に伴いスケートをやめる決心をした美玖ちゃんだが、ここで出てくるのがまた例の機関である。

うん、俺のやらかしが思った以上に波及していて、ちょっと怖くなってくるんだが。

例の機関の存在からくる影響で集客がある程度は回復傾向になったリンクの改装が決まり、近場のハブ駅にもスケート場が出来ることになっているらしい。

しかも美玖ちゃんの出した成果を受けて例の機関から助成金が出るという話も来ているらしく、少なくとも家族にかける金銭的負担は軽減される見通しが出来た。

 

その結果、迷いが出た。

このまま周りに負担をかけつつでもスケートを続けるのか。

それとも、ノービスまでを目途としてすっぱりと道を諦めるか。

 

でも、話を聞いてて思ったんだが、これ答えは決まってるよな?

 

「そうだな、話を聞いて亜昼さんの考え方とか性格とかをある程度は理解できたと思うから言わせてもらうんだけど」

 

さらば洸平君。

君は良い奴だったが、美玖ちゃんのコーチであったことを寿ぐがいい。

うーん、いのりちゃんには誰か別のアシスタントコーチ探さないといけなくなるなあ。

本拠にしている土地間の距離的に掛け持ちは厳しかろう。

 

「そうやって、周りの人の事を常に考えられる亜昼さんが迷っている時点で、それが答えなんじゃないかな」

 

「あ…」

 

まあ、そういう事である。

漫画では、手放すことを涙を流しながらでも受け入れていたような子が今は迷っていると言うなら、それだけの重さが今の美玖ちゃんにとってのスケートにはあるってことだ。

まあ、周りにかける負担が漫画よりも軽くなっているのもあるだろうが、これはそれだけじゃなく漫画よりも早い段階で成果が出せていることで良い意味での欲が出てきた証拠だろう。

 

「名港にも結構たくさん進路に悩む子はいてね。悩みの形は人それぞれだけど、まあ、天秤の片方が家族やコーチだった子に対しては、俺は基本的にこうアドバイスすることにしている」

 

これは家族やコーチなどへの負担に悩む子への俺的な鉄板アドバイス。

 

「相手が君に分かるほど分かりやすく無理をしているのであれば流石に考える必要があるかもだけど。そうでもなければ、見せない範囲の無理はつまり相手にとって、君にそれだけの無理をする価値があるという事。そして、君にその無理を知られないように格好をつけたいという事だ。ならば君は、感謝と勇気をもって、その相手に素直に甘えてみればいい。それがまだ子供である僕たちの特権だ」

 

大人が大人として格好をつけているのなら。

それがまだ、精々やせ我慢くらいで済んでいるのなら。

素直に甘えて頼るのがきっと子供の甲斐性なんじゃないだろうか。

 

「そうして甘えた先で掴んだもので、甘えさせてくれた人たちに返せるものを返せばいいんじゃないかな」

 

お、良い顔つきになったね。

少しは助けになれたみたいだ。

 

「ああ、そっか。そうなんだ。私はまだ子供で、そして相手がそれを許してくれているなら、素直に甘えて良いのか…」

 

美玖ちゃんは真面目でしっかりした子だからな。

しかも、精神年齢も高いタイプで世話焼きな性格。

相手に甘えるって考え方自体、なかなかできないだろうからなあ。

 

「名港や愛西の子達が、口を揃えるはずだね。ありがとう理凰君。おかげでちゃんと納得のいく選択が出来そう」

 

「それなら何よりだ。亜昼さんに俺を紹介したみんなの面目も保てたかな」

 

「その、亜昼さんって呼び方、理凰君みたいな人にされると落ち着かないから、他のみんなを呼ぶときみたいに美玖ちゃんって呼んでほしいかな」

 

君の方が一つ年上なんだけどなあ。

まあ、りんなちゃんとか何ならさらに上の年のいるかちゃんもちゃん呼びだから今更だけども。

 

「まあ、ほかならぬ本人の要望ならそうするけど、そんなに落ち着かないかな?」

 

「一個下なのは知っているんだけど、こうして実際に話しちゃうとね。悪いんだけどとてもじゃないけど年下に思えないから」

 

まあ、魂年齢なら遥か年上ですゆえ。

 

「食堂のあの一件の時は、そうでもなかった…いや、あれはあれで別方向に年下っぽくなかったか」

 

あれを目撃していらっしゃいましたか。

席が離れていたのか気が付かなかったぞ。

 

「それはまた、なんとも、大変お騒がせしました」

 

「うんまあ、見ていて楽しくはあったから私は構わないけど、あんまり光ちゃんを恥ずかしがらせちゃだめだよ?」

 

「あ、そこはもう本人にしっかり」

 

太ももがしばらく痛いままになるくらいには。

 

「二人はほんとに仲がいいんだね」

 

そう言って、美玖ちゃんは楽しそうに笑う。

うん、この笑顔が出来るんなら、本当にもう大丈夫そうだな。

 

「長い時間、相談にのってくれてありがとう。理凰君に相談してみて良かった」

 

「どういたしまして。美玖ちゃんの選択の先によりよい未来があることを祈らせてもらうよ」

 

世代的に光ちゃんといのりちゃんに活動期間がもろ被りだから大変だとは思うけど。

それでも行けるところまで行ってみるのは決して悪い経験にはならないはずだ。

納得がいくまで挑んで、納得がいったら新たな道を探せばいい。

涙ではなく笑顔でその道を終えられるなら、それにこしたことはないのだから。

 

 

 

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