偽理凰君の奮闘記   作:空門 志弦

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46話

狼嵜光視点

 

長野合宿ではいろんなことがあった。

でも、思い返してみると大体が理凰の絡んだ事なのはちょっと笑ってしまう。

理凰が男子から距離を置かれていたから名港と愛西の皆の誰かと私で練習時間以外は一緒に行動していたから、ある意味必然ではあるんだけど。

 

正直男子はどうかと思う。

わからなくはないんだけど、あれはないんじゃないかな。

悪感情からじゃないのはわかるし、理凰に置いて行かれないようにするのは私でも決して楽じゃないと感じるけど。

でも、一番近くにいる私に言わせてもらえば、あんなに追いかけ甲斐のある人って中々いないと思うのだ。

 

見どころがありそうだったのは、いつかの大会で一緒になっていた斑鳩君といつの間にか仲良くなっていた朱蒴君くらいだ。

でもきっと一生をかけても追いつけはしないんだろうなとわかってしまうのは、少し悲しかった。

そうか、だから理凰は男の子たちを一度も責めないのかと、理解できてしまうのが余計に悲しい。

理凰と夜鷹純の間にある絆のような繋がりの欠片がそこに見えたような気がする。

 

このことで私に出来ることは少ない。

私に出来るのは、理凰に並びたてるスケーターであり続ける事くらいだ。

理凰が私にそうしてくれるように。

それでいいと思っていたけど、いのりちゃんのような子を見つけてしまった私はどうしても、理凰にも私にとってのいのりちゃんのような子がいてくれたらと思ってしまう。

 

でも、難しいんだろう。

理凰はスケーターとして技術云々を別にしたところで隔絶している。

 

夜鷹純は理凰の事を、理凰のいないところで自らの才能を活かす才能が圧倒的に卓抜していると評していた。

電話越しに誰と話していたのかはわからないけど、手放しの絶賛で驚いてしまった。

最近の夜鷹純が、タバコをやめたのと同じくらいの時期にそれ以前とは比べ物にならないくらいに自分を鍛えるようになったことを私は知っている。

何故か夜鷹純は理凰にそれを見せようとしないけど。

 

理凰のスケートは不思議だ。

技術的には決して負けていないと自負しているけれど、プログラムを一個の芸術として演出する力、その美しい世界観や自分の感じている世界、目指している世界を他者に伝播させるのが凄くて、そこだけは勝てないといつも思わされてしまう。

 

きっとこれは私のスケートがまだ、夜鷹純の見たものを目指し、理凰の歩みに助けられているスケートだからだと思う。

同じ彼方を目指しているのは一緒だけど、いうなれば私のスケートはまだ求めるスケートで、理凰のスケートはきっと与えるスケート。

私たちと同世代でそこにたどり着いている人を私は理凰以外に見た事がない。

シニアにだって中々いないと思う。

私の知っているスケーターの中で、はっきりとそこに到達していると思えるのは夜鷹純くらいだ。

 

だから、同じ氷上で競う立場の男の子たちから見る理凰の姿はきっと、諦めとともに憧れを抱くしかない背中で。

 

「理凰君って、普段どんな練習してるのぉ?」

 

同じ氷上で競う事のない女の子たちにとっては、目を奪われてやまない輝く星なんだろう。

 

「あとあと、なんであんなに大人で格好いいの? 何か秘訣とかあるのかなぁ?」

 

まあ、女の子だと何か、スケーターとして以外の色々な感情も混ざっていそうなんだけど。

 

「うん、気持ちはわかるんだけど、ちょっと落ち着こうね、亜子ちゃん。光ちゃんが戸惑ってるから」

 

りんなちゃんが引き離してくれて、ちょっとほっとした。

スターフォックスのトップ選手の胡荒亜子ちゃんは基本的にのんびりした感じの穏やかな子で、こういう事をするタイプじゃない。

でも練習している時の理凰の様子とか、私たちと話している時の理凰の言動などを見てだんだん目の色が変わっていき、とうとう今日の休憩時間に理凰がいないところを見計らって突撃された。

なんか、のんびりした調子なのに妙な圧があってびっくりしてしまった。

 

「えっと、練習は特別なことは特にはしてないと思うけど。しいて言えば、練習への姿勢はクラブでもダントツにストイックなくらい?」

 

ちょっと身を引きながら、何とか答える。

 

「大人な所とか格好いい所の秘訣と言われるとちょっと難しいかな。会った時からあんな感じだし」

 

流石に記憶のことは言えないし、こう答えるしかない。

 

「そんなに小さいころからなの? 理凰君てやっぱり特別な人なんだぁ!」

 

無邪気に言う亜子ちゃんに、ちょっとだけ反発を覚えてしまう。

特別…特別か。

 

理凰が望まぬままに失った犠牲を想う。

あの犠牲というものに人一倍のこだわりを持つ夜鷹純ですら、理凰の前ではその言葉を一切出さない。

私も、いまだに犠牲というものについての話を理凰には聞きたくても聞けていない。

 

「スケートの事は別にして、普通の人だよ理凰は。優しくて、格好良くて、ちょっと悪戯好きの、男の子」

 

少なくとも私にとっては、そうだ。

まあ、一般的な普通からは色々ズレているのは認めざるを得ないんだけど。

 

「私にとっては、特別に大切な人ではあるけど」

 

私が理凰に対して、私自身に認める特別はそれだけ。

私はそう決めている。

 

「ふわぁぁ!」

 

あ、反発心で言動の選択を間違えたかも。

亜子ちゃんの目が、さらにキラキラに。

そのあとは、興奮した亜子ちゃんを落ち着かせるのに非常に苦労することになった。

というか、亜子ちゃんだけじゃなく周りにいた名港と愛西以外の女の子たちの勢いが凄かった。

 

これじゃあ、食堂の時の理凰を怒れないかもしれない。

いやでもあれは、いくら何でも嬉しいけど恥ずかしい。

何も全国中から集められた子たちの前であんな大きな声で言わなくても良いと思う。

そういう事は、二人きりの時とかに言ってくれれば嬉しいだけですむのに。

 

あ、私、現実逃避してるな?

りんなちゃん、ため息をついていないで助けてほしいんだけど、お願いだから。

 

 

 

自爆なんだけど、ひどい目にあった。

ちょっとくたびれて廊下を歩いていると、呼び止められた。

たしか名前は、都中伊のとさん、だったかな。

スマホを出すように言われて、画像データを贈られた。

 

開いてみると、私と理凰が二人で笑い合っている絵だった。

え、私たちを見ていて我慢できずに描いた?

良いものを見せてもらったお礼ご笑納ください?

戸惑いつつも素敵な絵で嬉しくて何とかお礼を言う。

 

「先生!」

 

あ、足利さん。

 

「先生はやめてぇ!?」

 

足利さんて、あんな愉快な感じの人だったっけ?

もっとちゃんとお礼を言いたかったんだけど、のとさんは足利さんと追いかけっこみたいにして行ってしまった。

まあ、のとさんはまた会う事もあるだろうしその時に改めてお礼を言おう。

ブロック一緒だし。

 

「あ、光ちゃん」

 

また呼び止められた。

今度は美玖ちゃんだ。

そういえば、悩み事はどうなったんだろうか。

内容までは聞いてなかったけど深刻そうだったから、皆がというか私もなんだけど、理凰に話してみるよう薦めたのだ。

 

「実はちょっと前に理凰君に相談にのってもらったんだけど」

 

「ああ、そうなんだ。どうだった?」

 

なるほど、相談済みだったんだ。

言われて見れば、表情が明るくなっている気がした。

その顔を見れば聞くまでもない事なんだけど一応確認はしておくべきだろうと思って聞く。

 

「理凰君凄いね。正直な所を言うと駄目もとだったんだけど。すごく助けられちゃった」

 

うん、普通はそうだよね。

同い年どころか、一つ年下の男の子に相談を薦められても半信半疑になるだろう。

でも理凰はすでに名港や愛西で数々の実績持ちなのである。

 

「紹介してくれたみんなにもお礼を言っておこうと思って。ありがとう光ちゃん」

 

美玖ちゃんは理凰ほどじゃないけどすごくしっかりしてるよね。

 

「どういたしまして。紹介した甲斐があったみたいでよかった」

 

そうして、少し美玖ちゃんとお話をした。

あの時の食堂に美玖ちゃんもいたらしくて、微笑ましそうにされてしまって恥ずかしかった。

後でもう一回くらい理凰の太ももをつねっておこうかなと思った。

 

 

 

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