偽理凰君の奮闘記   作:空門 志弦

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4話

光ちゃんの滑りを見て気になる部分を指摘するようになってからまたしばらくの時が過ぎた。

ちなみに今のところ、補足を付け加えられることはあってもダメ出しをされたことはない。

理凰君ボディの目は優秀だなあ。

と、のんきに思えたらよかったんだけど、これには恐らく事故による脳の変化か転生してきた俺の存在が影響していそうである。

なんでそう思うのかって?

物語のリオウ君、眼鏡かけてたじゃん?

でも俺、眼鏡必要になりそうな兆候が一向に現れないんだよね。

 

あと遂に6歳の誕生日を迎えて本格的なフィギュアスケートの練習が解禁になって確信に変わったんだけど、俺には鷹の目がある。

いや基礎練習の時ももしかして、とは思ってたんだよ。確信は持てなかったけど。

多分この鷹の目に関しては、理凰君の体が本来自分のものではないという俺の認識が影響していそうな気がする。最近はすっかりなじんだけど、転生して一年くらいはどうしても違和感ぬぐえなかったからな。

ちなみに鷹の目というのは夜鷹純や司先生、そして光ちゃんも持っていることが物語で示唆されている自分の体の動きが客観的に分かるっていうあの能力である。

この能力があると、自分のどこがどう悪くて失敗しているのかとか、どうやったらより上手くできそうかというのが感覚的に分かるので上達が早くなるし上達後の完成度も高くなる。

 

本格的な練習を始めてからの俺の滑りの上達は、自分で言うのもなんだが異常に早かった。

光ちゃんどころかあの夜鷹純までもがはっきりと表情に出るくらいに驚いていたくらいである。

鷹の目と、夜鷹純に課せられていた光ちゃんの滑りへの指摘のために頑張っていろんな人の滑りの映像を見まくっていたこと、そして何より世界最高峰と言っていい才能を持った光ちゃんと夜鷹純の滑りを日常的に間近で見ていたことなどが合わさっての結果だろう。

だけどね、夜鷹純。

初めて一回転飛んだばっかの俺に、目の前で二回転アクセル飛んだと思ったら、例のあの流れを持ってくるのやめてくれないかなあ!

 

「見た?」

 

じゃないんだよ!

しかもそのあと、「覚えて」って続くかと思ったら俺に対してはいきなり「飛んでみて」って、要求のハードルが光ちゃんより高いのなんなの!?

大人の司先生にバックフリップ無茶ぶりしたのと同じノリで子供に要求すんなよ!

まあ、陸で遊び半分に三回転挑戦したりしてたから飛べちゃったけどさぁ!

飛んだ俺自身がびっくりだわ!

そしてふと見たら光ちゃんが例の獣スマイルで俺の事を見ててちょっとコワカワイかったよ!!

でもこれ、いのりちゃんと出会った時の執着薄くならない?

まあ、なんだかんだ言っても俺は男だから大丈夫か。同じ土俵では競えないもんな。

 

二回転アクセル飛べるようになった後の周りの反応?

まあ名港のみんな大分ざわついてたよね。

なんなら基礎練習だけしてた時も筋がいいって褒められていたけど、今じゃ完全に光とセットで天才児コンビ扱いである。

あと名港の話が出たついでに触れるけど、例の光ちゃんの才能に心折られた生徒の大量脱退エピソードだけど、たぶん起こらない。

理由はいくつかあって、まずこの世界線の光ちゃんはクラブでの練習時間にあんまりジャンプ練習をしない。

これは俺が慎一郎さんと夜鷹純に、光ちゃんのオーバーワークを避けるためにそうしたほうが良いと進言したのが通った形だ。

慎一郎さんはともかく夜鷹純にそれが通ったのは不思議に感じるかもしれないが、これには理由がある。

実は光ちゃん、シンスプリントをすでに一度経験している。

初期段階で見つけられたからそんな深刻なことにはならなかったけど、練習中の光ちゃんのジャンプに違和感を覚えたときは正直血の気が引いたのを覚えている。

 

そう、一番に気が付いたのは夜鷹純に与えられた課題のために光ちゃんの滑りをずっと見ていた俺である。

これは多分、本来の世界線なら起こらなかった事件で原因は俺だ。

厳密には俺が夜鷹純と光ちゃんの練習に参加したことによって起こった変化が原因だと思う。

夜鷹の滑りを見て自身の滑りに落とし込んでいくという過程で、俺の指摘が加わることで本来の世界線より習得速度が加速した。本来ならもっと苦戦していてもおかしくなかった場面をスキップできてしまった。

結果、まあ、楽しくなっちゃったんだろう。

上手くいきすぎてブレーキが行方不明になったんだな。

いち早く気が付けたのはクラブの練習も夜鷹純との練習も一緒にやっていた俺から見て、明らかにオーバーワーク気味に見えたから、そもそも気を付けて様子を見ていたって言うのも大きい。

事前に止められなかったのは痛恨だが、あんまり楽しそうだし一見する分には負担にはなってなさそうに見えたから止め時を逸したんだよなあ。

そんなことがあって、俺から二人に話したのだ。

俺と光は慎一郎さんにクラブの時間外でも練習を見てもらう事ができるから、クラブの時間内は他の子に慎一郎さんも含めたコーチ達の時間を割いてもらっているという形にして、クラブの時間は負担の少ない自主練可能なメニューにしたほうが良くないかって。

結果的に提案は十分に妥当な案だとして、いくらか修正はあったが大筋は通ったわけである。

これで光ちゃんの将来の腰の故障フラグがちょっと遠のいているといいなあ。

 

 

おっと、話がずれた。

とにかく大量離脱が起きないであろう理由のその一が、以上の経緯で光ちゃんがクラブ練習中にジャンプをあまりしなくなった結果、才能の差を目に見える形で見る機会が減ったこととなる。

理由その二は上記の経緯に関わるんだけど、俺と光ちゃんがクラブの時間中にコーチ陣の時間を取らなくなった事でコーチたちの目が他の子たちに対して行き届きやすくなった。

さらに、他の生徒たちから見ると非常に貴重な価値ある「コーチの指導を受けられる時間」というリソースを譲られているという意識が生まれることも大きいだろう。

恩のある相手って才能差があっても受け入れやすかったりするよね。

そして三つ目の理由、コレはちょっと自分ではホントかよとか思うんだけどコーチが付かなくなった結果として自由度が上がったクラブの練習時間中に俺が他の子の練習を見てあげたりしているのが大きいらしい。

俺的には他の子の滑りが見られるのはいい勉強になるし、光ちゃんの滑りに指摘を入れているのを生かしてちょっと口を出したりしているだけのつもりなんだけど。

名港のコーチたちが、すごく助かってるとか大げさに感謝してくるのはちょっと困る。

なお他の子の練習見てると光ちゃんの機嫌はちょっと悪くなる。

そしてコーチに感謝されているとなんかドヤ顔をしている。

実にカワイイね!

 

そんなこんなで、少なくとも今現在名港で大量離脱の兆候は全くない。

まあ、光ちゃんへの嫉妬なんかからくる女の子や保護者特有の陰湿な色々まではゼロにはならないんだけどね。

それでも状況は漫画の名港よりはだいぶ良いと思われる。

しかし、なんだかんだで理凰君の体で目が覚めてからもうずいぶん経った。

この新たな人生にもようやく慣れてきたなあ。

良きかな良きかな。

 

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