偽理凰君の奮闘記   作:空門 志弦

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48話

いや、やっぱやばいわ司先生。

シニアと比べても遜色ないと評される俺の振り付け一発再現とか、頭おかしい。

この人の脳みそマジでどうなってんだ。

 

いや、出来るよ。

振り付けだけなら俺も夜鷹純のを見ただけで一発で行ける。

でも初回でこの完成度は無理だ。

しかも数回でさらに修正してくるんですけど。

 

いや、そりゃ積み重ねてきた時間とか、その時間をスケーティング特化で磨いてきたって言うアドはあるにせよだ。

やっぱこの人おかしいよ。

作中一番のファンタジー要素とか言われるのも納得だよ。

 

「こんなものでどうかな。参考になりそうかい?」

 

軽く言うなあ。

ジャンプまで一回転だけとはいえ全種をサクサク覚えてくれてからに。

そりゃ俺も助けたけども。

 

「ええ、とても。正直これだけでもお願いした甲斐があります」

 

マジで。

アイスダンスで磨いてきた司先生の滑りは、俺がつい求めてしまう滑りのカテゴリーとしては夜鷹のそれよりも近いからな。

前世見る専だった俺は、滑るんならやっぱり勝つより魅せるほうに重点を置きたくなる。

 

高いレベルでそれを両立している夜鷹純のそれはそれで凄いが、やはりシングルの選手ゆえか比率で言えば勝つためのスケートに比重が寄っている。

アイスダンスという競技の特性ゆえか、司先生はちょうどその比率の配分が夜鷹純とは逆になっている感じに見えた。

当たり前と言えば当たり前なんだが競技にジャンプがあるかないかはでかいってことだな。

スケーティングを重視される競技の在り方が必然的に競技者の性質をそちらに寄せるのだろう。

 

まあ、夜鷹純を実績以外でも完全に超えるという意味でも、俺の理想は夜鷹純と司先生の両方の良い点を吸収したうえでその双方を超えるという事になるかな。

うん、これかなり無理ゲーでは?

しかし、それ目指したいよなあ。

折角、無理ゲーと言いつつ届かないことはないと思えるだけの器が今の俺の身にはあるんだから。

 

「でもこんな良いスケート靴受けとってしまって、本当によかったんだろうか。今はある程度なれたけど、最初のうち使っていて冷や汗出るような心地だったんだけど」

 

どこか恐れるような顔での半ば独白のような司先生の言葉に俺は軽く返す。

 

「そこは必要経費ですから。流石にアイスダンス用の靴だと勝手が違うでしょうし、参考にする俺が困るので」

 

実は遠慮する司先生にシングル用のちゃんとしたスケート靴を押し付けたんだ。

いや、これは9割方はホントに自分の為だけどね。

それがちゃんと伝わっていたのか、司先生にしてはあっさり目に受け取ってくれて助かった。

漫画でもそうだったけど、あっという間に適応していた。

うん、本当になんなんだろう、この人。

 

まあでもなんだかんだ言いつつも。

 

ひゃっほう!

司先生のプログラム独り占めだぜ!

悔しいけど、やっぱ司先生くらいの体格で滑ると俺とは違った迫力があるよなあ!

くっそ、でも独り占めも嬉しいけど、いのりちゃんにも見せてあげたかったなあ!

契約的な問題と、時間が遅いのと、今はまだ司先生にもジャンプとか覚えてもらいたいから、いのりちゃん連れてくるわけにもいかなかったんだよなあ!?

あああ、この感動を分かち合いてぇぇ!!

 

ヨシ滑ろう。

 

「すみません、司先生の滑り見ていたら色々試したくなったので、ちょっと滑りますね。通しで何回かやるんで、見ていて気になったところがあれば後で指摘をお願いします」

 

「え、何回か? いや、いくら何でも休憩は挟んだ方が、いや挟むよね…?」

 

うーん、良いもの見れて気分最高だ。

しかも、司先生の滑りを見れたおかげで、スケーティングの改善点が結構見つかったからな。

いやあ、やっぱきついはきついけど、この向上していけるって感覚たまらないんだよなあ。

 

ようし、ちょっとばかり今日は、限界まで挑んじゃうぞ!

あれ、今なんか司先生言ってたか?

まあ、重要なら呼び止めただろうからヨシ!

 

 

 

「ちょ、理凰さん、休憩! 一回休憩!」

 

「あ、はい、すみません。ちょっと夢中になってました」

 

おっと、気がついたら夢中になってた。

5回くらいぶっ続けで繰り返しちゃったぜ。

うーん、しかしさすがに5回程度じゃ取り入れきれないか。

いやほんと、足が付いてこないとか久々だわ。

まあ、夜鷹純が最初に見本みせてくれる時も同じことにはなるんだが、それなりに滑り込んでいるプログラムでコレかあ。

 

「いや、ちょっとってレベルで済んでないからね!?」

 

「いやいや、5回くらいならまだまだですよ?」

 

最高記録はもっとずっと多いからね。

 

「なんか、滑走曲終わったら何回でもまた同じ滑走曲始まる設定になってて不思議に思っていたら、これが日常なの!?」

 

うーん、滑りを詰める時には結構便利な練習法なんだけどな。

まあ、一般的ではない…のか?

昔から滑り詰めるときはコレでやっていたから良く分からないな。

ついでに持久力鍛えられて、疲れてきても集中力を維持できるようにする練習にもなるという結構お気に入りの練習法なんだが。

 

あーでも、他の子が同じやり方しているのは見た事がない気がする。

光ちゃんでも一応、途中途中で小休止は入れてたというか、入れさせてたからな。

 

「いや申し訳ないです。指摘をお願いしておいて、聞きに戻りもせずに」

 

「うん、言いたいのはそこじゃないんだよね」

 

何か司先生がツッコミ側にいるのは新鮮な気がするな。

こんな感じに頭を抱えている司先生とか結構レアでは?

 

「いのりさんも相当だけど、それ以上がいたとは。なんというか、いのりさんが出会った時にあのレベルで仕上がっていた理由の一つを垣間見た気がする。先生と教え子の相乗効果だったのか」

 

いや、流石にいのりちゃんの執念には勝てる気がしないけどなあ。

あーいや、動機の種類が違うだけで出力されている結果はあんまり変わっていないのか?

え、ちょっと待って、俺、あの可愛いけど色々おかしいスケートお化けのいのりちゃんと大枠では同類なの?

 

「まあ、そこはとりあえず置いておきましょう。どうですかね、司先生の目から見た感じ」

 

「えぇ? 置いておいていい部分? 本当に?」

 

あんまり深堀りすると、アイデンティティがクライシスな気がするので棚上げです。

さあ、キリキリと滑りを見た上での指摘をするのです。

ハリーハリー。

 

俺が急かすと司先生はなんだかんだ素直に指摘を始めてくれた。

うんうん、司先生のそういうところ良いと思うぞ。

指摘の内容は、おおむね俺の感じていた部分と同じか。

ところどころ、気づけていなかったところや、気づけていても言語化できていなかったところをちゃんと言語化して教えてくれてすごく助かる。

 

いやぁ、やっぱスケーティングのコーチとしては明らかに超高水準だわこの人。

伊達にいのりちゃんという良い生徒ありきとはいえノービスでステップシークエンスレベル4を安定的に取らせてないよ。

 

「なるほど、凄く分かりやすい。よし、それじゃあ、もう一度…」

 

「休憩、もう少し、取ろうね?」

 

あ、ちょっと、肩押さえないで。

司先生、力強くありません?

この時点ですでに加護家に居候し始めてるだけあって、もう体ができ始めてるな。

体格差もあって一歩も動けませんが?

 

「いやいや、俺メディカルトレーナー見習いですから。たまにはちょっと限界ギリギリ攻めてみてもいけますから」

 

「限界攻めている時点で駄目だから!」

 

ちょ、担がないで!?

あ、これ、漫画で理凰君がやられてたやつ!?

うぉぉ、ナニコレ、筋力差もあってまったく動けねえ!

あ、司先生マジで体温高いなりぃ。

うん、もう諦めるから降ろしてもらえるかな。

いやこのままハッピーリフトやってもらうのもちょっと捨てがたい?

 

まあ、そんな感じで、なんだかんだ賑やかに楽しく俺と司先生の練習初日は過ぎていくのであった。

 

 

 

 

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