偽理凰君の奮闘記   作:空門 志弦

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52話

「はーいそれじゃあ、お手元の資料をご覧くださーい」

 

何をやってるかって?

まあ、研究発表ってやつ?

あ、別に小学校のじゃないぞ。

スケートのヤツ。

 

「えぇ、何で小学生の理凰君が司会進行やってんですか?」

 

そう言ったのは名城クラウンFSCの千羽輪太郎コーチである。

まあ、俺もそう思うんだけどなあ。

 

「理凰君が一番理解が深いんだよ、情けないことに」

 

五里先生が千羽さんに答えてそう言うが、別にそんなことないと思うんだけどなあ。

慎一郎さんまで完全に俺のサポートにまわる構えだし。

どうかと思うぞ。

 

「では、不肖この私、鴗鳥理凰が代表して説明させていただきます」

 

場所は合宿上の宿泊施設の一室。

メンバーは俺以外は全員大人である。

今回のジュニア合宿に全国から集まったコーチ達の前で今から行うのは、ある研究の発表。

 

内容はいくつかに分かれている。

 

一つ、ジャンプ失敗の際のダメージを軽減させるための力の逃がし方とその習得法。

二つ、成長とともに起こる体形の変化による不調を解決するためのアプローチ法。

三つ、体形変化を気にする子へのメンタルケアと正しい知識の伝授法。

 

いつの間にか名港と愛西で理凰メソッドなんぞと呼ばれている研究内容の発表である。

これらは元はと言えば必要によって必然的に理論化し体系立てる事になった情報たちである。

 

まずは一つ目のジャンプの件。

これは俺が難しいジャンプに幼いころからガンガン挑戦していたために必然的に身についたものを、光ちゃんや名港の他の子達に教えるために理論化したものだ。

 

うんほら、体が小さい頃って体重軽いせいで失敗時のダメージも小さいからさ。

俺はそれを良いことに、それはもう転びまくった。

筋力が足らなくても技術で補って飛べるように、徹底的に何度転んでも練習を繰り返した。

たぶん、世界中探しても俺ほど転んだ人間ていないんじゃないだろうか。

 

まあ、結果、ダメージの少ない転び方を覚えた。

それも失敗のパターン全てで。

俺はメディカルトレーナーとしての勉強も並行していたので、それを理論化した。

理論化、出来てしまった。

 

まあ、そうしたら当然教えるわけだ。

非常に柔らかいマットの上で行うこの練習は名港と愛西において既に練習内容のレギュラーである。

明らかに転倒時の怪我の頻度が下がり、怪我をした場合の程度も軽減されたデータが出たからだ。

 

そして二つ目。

これも単純で、やっぱり俺自身が最初のサンプルである。

6歳からフィギュアスケートを始めて成長に合わせたプログラムの完成度の詰めの中で必然的に必要になった肉体と滑りの擦り合わせ。

光ちゃんなんかは感覚的にこなしてしまうが、俺はこれをあえて知識とすり合わせながら行った。

将来的に自分や光ちゃんがより大きな体形変化に悩まされたときにそれを突破する助けにするために。

 

情報が集まってくるにつれて、俺は気が付いた。

この情報、俺一人で抱えるのちょっともったいないのではないか、と。

そして、情報の検証とより多くのサンプルを得るため名港の人たちに開示した。

まあ、個人差がやっぱり大きく、最初のうちは効果は限定的だったんだがサンプルが増えるにつれて、当然効果も上がっていくわけだ。

愛西の協力も得られるようになって最近はより体系化が進んでいる。

 

最後に三つ目。

これは二つ目の内容から派生的に出てきたものだ。

 

体形変化に悩む人たちが必然的に協力者としてサンプルに選ばれるので、体形変化による不調は呪いでもなんでもなく科学的な方法論の元での調整によって普通に乗り越えられる、ただの物理的な問題なのだと理解してもらう事が第一段階なのである。

実際に科学的根拠の元に理論立てたものを試してもらうわけだからね。

 

よって必然的にこうした知識の教え方のデータも蓄積していくわけである。

しかも協力に前向きになってもらうためにも、体形変化の際の悩みも突っ込んで分解して解体していくわけで。

悩みの内容の類型化なんかも進んで、それに対するアドバイスもまたある程度体系化されるわけだ。

 

二つ目と三つめは個人差がどうしても大きくなるので、その都度相手に合わせた調整が必要だ。

場合によっては大枠くらいしか役に立たないケースも出てくるだろう。

でも、その大枠のあるなしは非常にでかい。

 

といった内容を、配った資料を参照してもらいながら説明していく。

まあ、五里先生が俺の理解が一番深いというのも無理のない話と言えばそうなのだ。

俺は中身がコレだから、バリバリに最前線の選手でありながらメディカルトレーナーの知識を持ち、しかも専門ではないとはいえ人に教える経験もそれなりにある。

 

結果何が起こるかというと、メディカルトレーナーとしての知識と視点でもって、選手として最高峰の自分自身をサンプルとして使い倒せる上に、そこから上がる情報で人に教えて伝えうる情報の取捨選択までできるという、うん、これ以上の条件で研究しろって方が無理なんじゃないかなという状況が発生するわけである。

 

俺の半ば講義と化した発表を聞いている大人たちの表情は何かお化けでも見るようなものになっている。

失礼、とは言うまい。

俺も前世でこんな10歳見たら絶対同じ顔をした。

何かライリー先生だけめっちゃ目を輝かせてるけど、あの人やっぱ感性ちょっとズレてる気がする。

 

「え、あの理凰君、これタダで聞いてよかったんです?」

 

蛇崩先生が司先生にドン引きしたときみたいな顔してなぜか敬語で聞いてきた。

 

「これで商売する気は一切ないので。一応言っておくとこれは名港と愛西の両クラブと協力者全員の一致した意見です」

 

俺の言葉に大人たちが一斉に慎一郎さんと五里先生に目を向けた。

その視線を受けて、二人は重々しく頷いた。

 

「発起人と言っていい理凰君の意見がこうだし、俺や慎一郎としてもこれはスケート界全体で共有すべきものだという意見で一致している」

 

「いや、なんで俺が発起人になってるんですか」

 

「君がいなけりゃこの研究は始まっていない。始まったとしてももっと先だっただろうし、こんなに早く形にもなっていないのは明らかだろ。君が言い出して始まり、君自身が身を切って研究の基礎になるデータを築いたんだ」

 

いや、そりゃそうなんですけどぉ!

身は切ってないよ!?

ウッキウキでスケートやってたらおまけが付いてきただけだよ!

 

「もう概ね俺の手を離れてるんですけど。せめて俺の名前つけて呼ぶのやめません?」

 

「スケートに携わる者として、そこは譲れないな。これはこれからの未来で多くのスケーターを救う研究だ。その礎になった君の名前は、この研究とともに残るべきだ」

 

くっそ、五里先生は俺に恩を感じてるからか大体はお願い聞いてくれるのに、これだけは頑として首を縦に振らないのなんなの!

 

「まあ、そういうわけで、皆さんにも情報を共有したうえで、今度は皆さんからの運用したうえでの情報を再度集めて情報の精度と広がりを増し、近い将来に連盟と機関の方から世界に対して正式に開示を行いたいというのが我々の考えなわけです」

 

慎一郎さんも勝手にまとめに入るのやめて!?

 

結局、俺の要望が通ることはなかった。

えぇ、名前ホントに理凰メソッドになるのぉ。

やめようよ。

くそう、反対者がいねえ。

 

今回はなにしろジュニア合宿、一番体形変化やそれに伴うジャンプの失敗に悩む時期の選手が集まる中でそのコーチ達へのプレゼンテーションなわけで、情報の拡散と再収集はまず間違いなく上手く受け入れられるとは思っていたけど、余計なオマケはいらなかったんだが。

 

思った以上に早く形になったせいで先に名前を決めてなかったんだよなあ。

いつの間にか呼ばれ始めたのを、そのうち正式名称決まるだろと見逃していたのも良くなかった。

ぐぬぬ。

諦めるしかないとは。

こうなったら、連盟と機関が名前に難色示して変更かけてくれることを願うしかないか。

 

 

 

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