偽理凰君の奮闘記   作:空門 志弦

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55話

寒い。

いや、クッソ寒いな!?

あ、いや、土地を考えるとそうでもないのか?

日本の感覚で考えると駄目なのか。

 

あ、はい。

ただいま時期的には中部大会のあたりなんですがね。

私、鴗鳥理凰は光ちゃんと夜鷹純とともに、海外に来ているわけですよ。

うん、レオニード・ソロキンに会いに来たんだ。

漫画で光ちゃんの振付師になった人だね。

また世界最高峰のバレエダンサーでもあるらしくてそちらの指導もして居たっぽい。

 

本来なら一年先のイベントのはずなんだが。

何かいきなり夜鷹純に、海外に行くから準備するように言われてね。

まあ、中部大会スキップは良いよ。

俺も光ちゃんもシード権もっているから。

でも、いきなり前日に言うのはやめなさい。

パスポートとかはちゃんと準備してあるからいけるはいけるが、流石にバタバタするからね。

 

「かなり冷えるけど、大丈夫?」

 

「あんまり大丈夫じゃないから、くっつくね」

 

俺が隣を歩いていた光ちゃんを心配して聞くとそう言って、俺の腕に抱き着いてきた。

光ちゃんは何かあの熱の日から吹っ切れでもしたのか、いつでも凄く自然に甘えてくるようになったな。

身を寄せ合って歩いていると、なかなか暖かくて俺も助かる。

しばらくそうして歩くと目的の場所についた。

 

ここまでに、飛行機や電車などを用いた中々の長旅だったので、ようやくついたかと息をつく。

何か旅の移動ってワクワクもするけど、大して動いてもいないのに妙に疲れるよなあ。

そんなことを考えながら建物に入ると、目的の人物に迎えられた。

 

「ようこそ君たち。待っていたよ」

 

光ちゃんがいるからか、その挨拶は英語だった。

レオニードさんは男相手だと母国語しか使ってくれないって話だったからね。

そんなレオニードさんに俺はこの国の言葉で挨拶を返す。

 

「始めまして、レオニードさん。お会いできて光栄です」

 

「おや、君はこの国の言葉が話せるのかい?」

 

ちょっと驚いたような顔で、レオニードさんは母国語で返してくる。

うん、ホントに男には母国語しか話さないんだなこの人。

こんな子供にも容赦なしとは。

この国の言語を勉強しといてよかったわあ。

 

「ええ。あなたが振り付けした夜鷹さんの滑りを見て以来、会う機会があったら直接自分の言葉で貴方を口説けるように勉強していたんです」

 

笑って言う俺に、レオニードさんは少し目を丸くしてから噴き出して、笑い出した。

 

「純から話には聞いていたけど、本当に面白い子だね理凰は!」

 

えぇ、夜鷹純が俺の事を人に話すとかそんなことあるんだ?

どんなこと話したんだ。

また口下手発揮して変なこと言ってないといいんだけど。

まあとりあえずそこは置いておこう。

 

「その話の内容もちょっと気になりますけど。まあ、今は折角の機会なのでしっかり口説かせてもらいます」

 

しっかりと目を見て堂々と告げる。

 

「レオニードさん、俺と光の振付師になってくれませんか。俺たちなら貴方の作品を美しく輝かせることが出来ると思いますよ。少なくとも氷上の演技で退屈はさせない。どうでしょう?」

 

おおう、大爆笑じゃん?

そんなに面白かった?

 

「純! 君、全く言葉が足りてないぞ! ここまで面白い子だなんて!」

 

「十分に伝えたつもりだけど?」

 

夜鷹純はそう返しているが、うん、絶対言葉足りなかったやつだなコレ。

 

「理凰、僕は君が気に入ったよ。でも、それを受けるかどうかは君たちの滑りを見た後だ」

 

「ええ、滑りで証明しますよ。俺たちには貴方の振り付けに見合うだけの価値があると」

 

まあ、そんな訳でレオニードさんに滑りを見せることになった。

最初に光ちゃんが、そしてその次に俺が。

なお俺は、実用段階のプログラムと、アップデート中の未完成プログラム両方な。

実際に大会で滑る時の完成形と、俺の現時点での最大値の両方を知っておいてもらわないと振り付け頼む時に困るから。

 

光ちゃんの時も十分満足してたみたいだけど、なんか俺の滑り見た後は目の色変わったよね。

その時のレオニードさんを見た光ちゃんがちょっと悔しそうだったのが印象的だった。

でも大丈夫。

 

「光だって、そう遠くない未来にきっと自分だけの滑りを見つけて、俺に勝るとも劣らない誰もがその輝きに魅入るようなスケーターになるさ。ずっとそばで見てきた光の一番のファンである俺が保証するよ」

 

「うん。きっとそうなってみせるから」

 

待っていて、とは光ちゃんは言わなかった。

俺が進み続けたって絶対に遅れずについて行ってみせるという決意が目を見るだけで伝わってきた。

 

レオニードさんはそのあと、俺たちの振付師になることを快諾してくれた。

そしてバレエダンサーとしても色々教えてくれることになった。

帰国する俺たちと一緒に日本へやってきて居を構えて、鴗鳥家にも頻繁に出入りしている。

 

そんな風にかかわる中で俺とレオニードさんが意気投合するまでさほど時間はかからなかった。

プログラムを一つの作品としてとらえて、それを氷上で表現することに心血を注ぐ俺の価値観は、レオニードさんと相性が非常によかったからだ。

 

そうして、いつの間にかレオと愛称で呼ぶようになった。

彼の名前だと母国語的には本来は別の愛称で呼ぶものなのだが、俺が日本人的な感性でつけたこの愛称が気に入ったらしい。

俺的にはレオはもはや、よく悪さに付き合ってくれる雉多さんと並んでマブダチ枠である。

 

俺の例のエキシビションプログラムの映像を見たときもゲラゲラ笑ってくれた。

 

「でもこの方向性だと、僕は振り付けを作ってあげられないな。僕の振り付けだと衣装をもっと男よりにしても、どう考えてもアウトになる未来しか見えない」

 

「あ、やっぱり? まあ俺も、レオの振り付けだとみんなから却下食らう未来しか見えないけど」

 

なんなら衣装は普通の男性衣装でもアウト判定食らうかも。

残念無念である。

まあもっと大人になったら、カッコイイ系オネエキャラに扮して女性的な振り付けを踊るというネタが出来るから、レオのそれ系統の振り付けはそれまでお預けかなあ。

光ちゃんに普通に格好いい系のエキシビションも踊ると約束してるし、とりあえずはそちらを頼もう。

 

まあ、そんな感じで、俺とレオは非常に仲がいい。

仲がいいのだが、ただ一点、俺はレオに不満がある。

なんで振り付けの難易度、金銀メダリストの合作よりも高くなるんですかね。

すりきり一杯というか、限界ギリギリ表面張力だよコレ!?

テッテレー。

無茶ぶりしてくる相手が増えたぞ。

オノレ。

 

「なんだい、手加減してあげたほうが良かったかな? 絶対こっちの方が美しいと思うけど」

 

くっそ、痛いところついてくるなあ。

 

「はいはい、俺の負けね。そこで手を抜くのは確かに俺の流儀に反する。きっちりモノにしますとも」

 

「そう来なくっちゃね!」

 

嬉しそうにしやがってくれますねまったく。

良いだろうやってやろうじゃないか。

苦労はするだろうが、それだけの価値がこの振り付けには確かにある。

流石は天才振付師レオニード・ソロキン。

金銀メダリストのそれすら超えて、まさに芸術と呼ぶにふさわしい出来である。

今から観客たちの反応が楽しみなくらいだ。

 

うーん、ヨシ。

初お披露目を全日本ノービスに間に合わせよう。

期間は短いがまあ、ジャンプは全部仕上がっているもので固めて。

四回転は、トウループとサルコウが単品なら十分な実用レベルだけど、この難度の振り付けに組み込むのはまだ不安が残るな。

初期バージョンは三回転でまとめるか?

いや、トウループくらいならなんとかいけるか。

サルコウは様子を見て間に合いそうなら組み込もう。

 

来季のどこかで他の四回転組み込んだバージョンもお披露目できるといいなあ。

おっと、これはあれだな。

鬼が笑うやつだ。

まずはきっちり目の前の全日本ノービスに向けて詰めていくとしよう。

 

 

 

 

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