偽理凰君の奮闘記   作:空門 志弦

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5話

いや、良きかなじゃないんだわ。

突然どうしたって?

うん、ようやく今の生活に馴染んできて気が抜けたのか、はい、自己管理ができてなくて申し訳ないのですが。

ぶっ倒れました。

いや、これでも健康には気をつかってたんだよ。

光ちゃんのオーバーワークを戒めた手前、自分自身もそこは気を付けていたし。

だからいまいち調子悪いかなー、風邪かなーと思った時点で練習早めに切り上げて、ちゃんと早めに暖かくして布団に入ったんだよ。

で、トイレで目が覚めたらもう体調最悪で何とかトイレは済ませたけど廊下でなんもないのにつんのめって倒れてうまく起き上がれないでいたら、物音で目が覚めて様子を見に来た光ちゃんに見つかってね。

あーもー、あの悲痛な声が耳に残って離れねぇ。

光ちゃんにあんな声出させるとか我ながら絶許案件。

体調悪いのも手伝って、めっちゃ凹むわー。

 

そのあとはもう、穴があったら入りたくなるくらいの大騒ぎですよ。

なんなら自分で掘って入るわ。

光ちゃんが呼んできた慎一郎さんに抱き上げられベッドに戻され、熱を測ったら39℃近いし。

俺は事故のこともあるから、今も定期的に脳外科には通っていて、まあそんな子がそんな熱出したら親は真っ青だよね。

光ちゃんや俺を不安にさせないようになんとか泣いたりしないようにしてたけど、エイヴァさんは顔色が明らかに悪かったし、あの普段は穏やかな慎一郎さんがすごく厳しい顔をしていた。

救急車とか前世と合わせても初めて乗ったわ。

いや、理凰君ボディ自体は多分事故の時も乗ってるだろうからカウント的に二回目にするべきなのか?

 

ともあれ、今生二度目の入院である。

検査の結果、脳に異常はなかったのでそこは一安心。

結論、質の悪い風邪の類だろうという話だった。

でもエイヴァさんがちょっと暗い顔してた気がするのは気がかりだ。

責任とか感じてないといいんだけど。

 

「何か食べたいものはある?」

 

検査が一通り済んで、一応8℃台前半程度には体温が落ち着いたので退院してきた俺はエイヴァさんに何くれと世話を焼かれている。

うーん世話をしてくれている様子を見るにそこまで心配をする必要は無いかな。

 

「んー正直ちょっと食欲無いかな。 でも桃缶ならちょっと食べたいかも」

 

体調を崩したときは桃缶。お約束の様式美である。

でも実際にあれ食べるとちょっと元気出るんだよなー。

 

「わかった。桃缶なら買い置きがあったはずだから持ってくるね」

 

そういって部屋を出ていったエイヴァさんと入れ替わりで、光ちゃんが入ってくる。

夜鷹純も一緒だったので多分練習終わりだろう。

 

「光、会いに来てくれるのは嬉しいけどあんまり近づいたらダメだからね。 うつったら大変だ」

 

「わたしだって看病してあげたいのに」

 

最初ずっとそばにいようとした光ちゃんだが、流石に遠慮してもらった。

あんなに心配かけた上に、風邪までうつしたら俺の胃がもたない。

 

「気持ちだけで十分すぎるくらいだよ。ありがとう」

 

俺がそう言っても、まだ光ちゃんは不満顔をしていた。

なお夜鷹純は様子を見れただけで満足したのか軽く挨拶だけして喋らない。

ホントにコミュ下手だな。まあ今の体調だとかえってありがたいんだけど。

 

「理凰―、桃缶もってきたわよー」

 

桃缶を深皿に入れて持ってきたエイヴァさんが戻ってきた。

 

「はい理凰。あーん」

 

「あ、わたしが食べさせてあげたいです」

 

「えー、これはお母さんの仕事じゃないかしら」

 

そして、何故か光ちゃんとの間で発生するどっちが俺に食べさせるか論争。

エイヴァさんは光とじゃれ合うのを楽しんでるっぽいけど。

いや、自分で食べられるからそんなことで争うのは辞めていただいてどうぞ。

 

「自分で食べられるから」

 

二人して頬を膨らませない。カワイイけども。

ほら汐恩が泣いてますよエイヴァさん。行ってあげてね。

 

「母さん、汐恩が泣いてるから行ってあげなよ。 俺は大丈夫だから」

 

桃缶も食ったし、俺は一休みするので光ちゃんも部屋に戻りなね。

ホント、光ちゃんにこんな質の悪い風邪うつすとか許されざるなり。

故に心を鬼にして、退室を促すのだ。

 

「ほら、光も。 まだ今日やることが残ってるだろう?」

 

宿題とか、今日は夜鷹純との練習が早めだったから手が付いていないはずである。

 

「あ、夜鷹さんもお見舞いどうもでした」

 

わざわざ来てくれたのは実はちょっと嬉しかったりするのである。

そしてこのままだと俺が休めないと珍しく気をつかったのか夜鷹純が光ちゃんの手を引いて退出していく。

 

ふぅ。

やれやれひと段落。

あーしかし、ちょっとちゃんとし過ぎたかな。

もうちょっと甘えたりしてあげるべきだった?

んー。

 

「死んだ理凰君だったらどうしただろう」

 

まだ熱に浮かされていた俺は、最後のその独白が口から実際にこぼれていたことに気が付かなかった。

 

 

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