偽理凰君の奮闘記   作:空門 志弦

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59話

「あ、この映画、CMで流れてたやつ」

 

ショッピングモールの壁に貼られたポスターを見たいるかちゃんが足を止めた。

うん、その映画は確かに面白そうだった。

でもね。

 

「今日は寮生活に必要な物を買いに来てるんだから、見るにしても今度ね」

 

そう、いるかちゃんは高校生になってついに寮生活を始めた。

当然のごとく事前に必需品と言えそうなものは揃えていたわけだが、実際に生活してみると気が付く事というのは結構あるわけで、今日はその買い物の付き添いというか荷物持ちというか、そんな感じで一緒に来ていた。

 

なお、お誘いは光ちゃん経由だった。

最初は3人でという誘いだったのだが、近いところで全員の休養日が被るところがなかったんだよね。

でもまあ、なんだかんだ親元を離れて環境変わって人恋しいという感情を察することができたし。

なので光ちゃんと話してひとまず俺が付き合い、次は光ちゃんが、そして3人で予定があわせられそうな時に3人で遊ぼうという話になった。

 

「で、まずは何だっけ。バス用品店だったかな?」

 

そう聞くと、何か思いついたのかいるかちゃんがニヤリとした。

 

「そういえば下着も足りてなかったかも?」

 

それ、絶対嘘だろ。

更衣室あたりから連想したな?

 

「はいはい、女の子は慎みを持ちましょうねー。というか、もしホントだとしても、そこの買い物は一人で済ましてもらうからね」

 

「はーい。ま、流石に冗談だけどね」

 

浮かれてるな。

まあ、良いことだね。

寮生活を始めてから、明らかに元気さが増したし。

目的の店につくと二人で店内を見て回った。

消耗品の類は今回は関係ないので通り過ぎる。

 

「でも、バス用品と言っても寮生活だと必要なのってタオルくらいじゃない?」

 

「そのタオルが、練習とかでもつかう事を考えるともう少し数が欲しい。最初は足りると思ってたんだけど、実際にやってみると思ったよりきつくて」

 

「あー、なるほど。寮生活だと、何かのタイミングが悪くて洗濯に出せなかったりすると一気にピンチになったりしそうだもんね」

 

あの手の日用品は確かに余分を多めに持っておきたい類だよなあ。

 

「そう、あんまり物が多くてもと思って色々数を絞っちゃったのが裏目に出た感じ」

 

いるかちゃんはそう言って肩を竦める。

確かにその辺は実際やってみないと分かりづらいとこだろうな。

自宅なら最悪遅い時間に洗濯機を回したりといった最終手段があるが、寮って色々制限あるだろうからなあ。

 

おっとバスタオルはこの辺かな。

うーん種類が多い。

いるかちゃんだと、このあたりのシンプルなのが好みかな?

 

「これとかどう?」

 

いるかちゃんの好みに合いそうなのを見つけたので手に取ってみせてみる。

 

「あ、確かに良い感じ。よし、一つはこれにしよ」

 

お気に召したようで何よりである。

そんな感じでタオルを選び終え、次は時計である。

スマホで基本は事足りるが、ちょっと目線をやるだけで確認できる時計はなんだかんだで欲しくなったと言う。

 

「目覚まし機能はどうする?」

 

「せっかく買うなら付いてるやつのほうが良いかな」

 

機能やらデザインやらを見つつ候補を絞っていく途中、いるかちゃんは一つの時計の前で足を止めた。

ふむ、録音機能付き?

いるかちゃんと目が合った。

期待のまなざしである。

 

「OK、高校の入学祝いのオマケってことで、よほど変な内容じゃなければ請け負うよ」

 

「やった、ありがと!」

 

なお、この手のお願いは光ちゃんに続いて2度目である。

いや、光ちゃんは大分前からの話で何度か買い替えてるから2度目というのは正確じゃないか。

直接起こしに来てくれるなら、別にそれでもいいけどと光ちゃんは言ったが、寝てる時の恰好が格好だからね。

今にして思うとさてはあれ、俺のその反応を見越して言ったな?

 

「光の話聞いてて、羨ましかったんだよねー」

 

まさにそこが原因だったのか。

ほんとに仲良くなったなこの二人。

 

そんな風に途中で音声録音の約束を取り付けられる等あったが、基本順調に買い物をある程度済まして、一休みしようという事で喫茶店に入った。

いるかちゃんがカフェオレを頼むと、俺もじゃあそれでいいかなと同じものを頼み、一息。

 

「で、始まったばかりではあるけど、新生活はどんな感じかな?」

 

やってきたケーキとカフェオレを少しづつ味わいながら、話を振った。

 

「まあ、慣れなくて戸惑う事もあるけど、おおむね順調」

 

表情に影もないし、答えが返ってくるまでに変な間もなかった。

うん、これなら本当に大丈夫そうだな。

少しほっとしながらカフェオレを飲んでいると、いるかちゃんが何か柔らかい表情で微笑んでいるのに気が付いた。

 

「どうかした?」

 

不思議に感じたので素直に尋ねると、いるかちゃんは少し笑ってから答えた。

 

「光が理凰は表情は上手に作るけど、目に感情が出やすいって言ってたのが本当だなって思って」

 

そういえば、光ちゃんには大体その辺を見透かされるんだよなぁ。

そして、いるかちゃんもそれが分かるようになって来たと。

思わず目を逸らす。

そうすると、いるかちゃんはまた少し笑った。

 

「別に気にすることないでしょ? 私は心配してもらえて嬉しかったし」

 

ほんとにバレてるじゃないですかやだー。

えぇ、俺の目どういう事になってるんです?

 

「俺ってそんなにわかりやすいかな?」

 

「そんなことはないんじゃない? むしろ理凰は伝えるつもりがない時はわかりにくい方だと思うよ。コレがわかるのって光と私と、あ、後はエイヴァさんもわかるって光が言ってたね。私もわかるようになって来たの割と最近だし」

 

現状3人か。

少ないとみるべきか、多いとみるべきか。

ああ、いや、いのりちゃんなんかは多分わかってたっぽいな。

そんな感じの言動がチラホラあった。

 

まあ、いのりちゃんは元から漫画でも結構な表情読みだからな。

そうすると4人か。

しかも、かかわりが特に深い相手ばかり。

まあ接してる時間が多いほどそうなるのは当たり前と言えば当たり前なんだけど。

 

「まあ、そこは良しとしておく。学校生活の方はどう?」

 

「まあまあ上手くやれてるんじゃない? たまに男子の視線がうざったいけど」

 

ああ、それはね、うん。

 

「いるかちゃん美人だから、そこはまあ、宿命だよね」

 

でも、いるかちゃんの場合は女子にももててそうだと思う次第である。

本人が気が付いているかは微妙だけど。

 

「理凰はホント、そう言うのさらっと言うよね。最近すっかり慣れちゃった自分にもびっくりだけど」

 

前はもうちょっと照れたりしてたもんな。

まあ、今でもちょっとくすぐったそうな、嬉しそうな顔は見せてくれるけども。

 

「いるかちゃんは、その辺の自覚が妙に薄くて心配だったし。まあ、言い続けた甲斐があったという事だね」

 

実は親の暴言ですり減った自己肯定感の補填的な意図もあったんだけど、そこは言わぬが花だ。

まあ、美人を美人と褒めるだけなので楽な話である。

というか、最近は前にもまして女性らしく綺麗になったよなぁ。

なんか、漫画の時より明らかに美人さんでは?

ちょっと真面目に心配になるな。

 

「大丈夫だとは思うけど、変な男に引っかからないように気を付けてね」

 

あれ、何ですごく微妙な顔するのかな?

あ、目が合った。

目を見て俺の疑問に気付いたのか今度は呆れ顔になったな。

それからまた表情が変わって、ニヤリとした顔に。

 

「現在進行形で、ある意味で質の悪い男に引っかかってるから、その忠告は手遅れじゃない?」

 

ほほう。

 

「それは大変だね。どこのどいつかな」

 

韜晦する俺に人差し指がむけられた。

 

「目の前のこいつ」

 

楽しそうな顔で言ってくれるじゃないか。

いやまあ、失恋付き初恋泥棒なんぞという呼び名が完全に定着しているような奴が質悪く無いのかと言われたら返す言葉もないけどな!

 

「まあでも、私は好きで引っかかってるから文句はないよ。これからも変わらずに仲良くしてよね、理凰」

 

―――ほんっと、良い顔するようになったなあ。

あ、ヤバイちょっと泣けてきそう。

 

「こちらこそだよ、いるかちゃん」

 

俺は何とか笑顔でそう返した。

そのあとの残りの買い物も、仲良く楽しく過ごした。

姉弟みたいに、友達みたいに。

そして、多分ちょっとだけ恋人みたいに。

 

俺が振ったのか、俺が振られたのか。

あるいは両方か。

 

女の子は早熟、というには、いるかちゃんは十分に恋を知る歳だったか。

 

「あ、でも、無いとは思うけど、光と離れるようなことがあったら容赦なく行くから、覚悟しておいて。正直、私は理凰より好きになれる人なんて出会える自信ないし」

 

うん、最後の最後にとんでもない爆弾投げてくるのやめない、いるかちゃん?

 

 

 

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