「ふぅん、この子が理凰が教えてたって言う実叶ちゃんの妹か」
アレは、可愛いと思っている顔だな。
間違いない。
やっぱりいるかちゃん的には、いのりちゃんの容姿はストライクなんだな。
ただいま、長野合宿の現場よりお伝えしております、理凰です。
なんでノービスの為の長野合宿にいるかちゃんがいるのかというと、近い将来に自分が戦う事になるジュニアの舞台におけるトップ選手のレベルを見せておこうという意図のもとに何名かの選手がゲストとして呼ばれたからだ。
いるかちゃんの他にはダリアさん、寧々子さん、麒乃さんも来ている。
ジュニア選手は全部の日程に付き合うわけじゃないけどね。
まあ、そんなわけでゲストで来ていたいるかちゃんと、6級に合格し長野合宿に間に合ったいのりちゃんが、見事に遭遇することになったわけである。
いのりちゃんは、突然に距離を詰めてきたいるかちゃんに硬直気味。
しかし、実叶さんの名前が出たことで再起動を果たした。
「いるかちゃんは、お姉ちゃんを知ってるの?」
「知ってる。前に同じクラブだったことあるし。というか、いのりと遊んであげたこともあるよ?」
「え……っあ!」
うん、どうなるかなと思ったけど、思った以上に穏当なコンタクトになったな。
まあ、いるかちゃんは漫画よりもずっと柔らかい性格になっているし、言動も丸くなった。
実叶ちゃんへの隔意も、俺や光ちゃんとの付き合いの中で孤独感が解けて薄まっていたみたいだし。
そうすれば、見た目ドストライクのいのりちゃんとのコンタクトが穏当なものになるのは、ある種当然の流れか。
いのりちゃんも、いるかちゃんの事をすぐに思い出したらしい。
「いるかちゃんて、あの時のいるかちゃんだったの!?」
まあ、小さいころに遊んでくれたお姉さんがジュニアスケートのトップ選手とは直ぐにはつながらないかもな。
漫画だと、初対面から何度かの接触を経ての発覚だったからすんなりつながったみたいだけど。
「そう。久しぶり」
いるかちゃんの軽い挨拶にいのりちゃんがはしゃぐ。
これ多分だけど漫画より早くに、漫画よりもっと親しくなるな。
既に現時点でいとこのお姉さんくらいの距離感にみえる。
いのりちゃんて、置かれていた環境からすると考えられないほどにコミュ強だからな。
まあでも、良いことだろう。
二人とも楽しそうだし。
さて、そろそろ他の女子と一緒に荷物を置きに行った光ちゃんも戻ってくるはずだが、
「いのりちゃん!」
お、来たね。
「光ちゃん!」
二人はお互いに駆け寄って手を握り合う。
うーん、尊い。
良い光景だ。
まだ一度も大会でかちあってないから、普通に仲の良い友達って感じである。
「で、さっきから理凰は少し離れたところで何してんの?」
おっと、いるかちゃんがこちらに。
「いや、たんに女の子たちの戯れ合いを邪魔しないように少し離れて見守ってただけだよ?」
特にいるかちゃんといのりちゃんのファーストコンタクトは、どんな感じになるか気になったしね。
「また、年の離れた大人みたいなことを言う」
そんな呆れなくても良くない?
まあ、自分でもちょっと年寄り臭い物言いだったかなとは思ったけど。
「まあ、いのりちゃんはいい子だから仲良くしてあげてよ」
「言われなくてもそうするけど、保護者みたいだね」
「なんだかんだで、一年間くらいは教えてたからなあ」
いのりちゃんについては、いるかちゃんにも事情を話している。
事前に情報を知っていれば、色々心の準備もできるだろうと思ったしね。
あ、二人にも見つかったか。
まあ、いるかちゃんがこっちに来た時点で、当然のことなんだけど。
別に隠れていたわけでもないからな。
二人に向かって手を振れば手を振り返された。
まあ、見つかった以上は離れている理由もないから俺も近くに言って話すとしよう。
「改めて、長野合宿の参加おめでとう、というべきかな。まあ、いのりちゃんなら間に合うだろうと思ってたけど」
「えへへ、ありがとう、理凰君!」
実に良い笑顔だ。
まあ、長野合宿はオリンピック選手の登竜門的な側面もあるからな。
いのりちゃんとしても、目標の一つだったはずだ。
漫画だと、ただでさえ期間が足りないところに怪我なんかも加わって参加できてなかったが、前倒し分の経験値と怪我の回避できっちり間に合った。
うん、一年ほど基礎的な部分は余分に鍛えられてるとはいえ、やっぱやべぇよいのりちゃん。
「一緒に来たのに理凰は早いね。もう荷物置いてきたの?」
「ああ、うん。ほら、男子の方は例のごとくだからね」
まあ、言葉を濁さざるを得ないが。
朱蒴君はまだ来てなかったし、斑鳩君はなんかもう睨んでは来ないんだが何か変な感じだし。
別に他の選手みたいに避けられてるわけじゃないんだが、何かあったのかな。
光ちゃんは俺の返事に苦笑している。
最近は光ちゃんも諦めが付いたようで、他の男子に対して厳しい目を向けるようなことは無くなった。
いるかちゃんは光ちゃんから話を聞いていたのか、ジュニア合宿に俺が参加していた時の様子から察したのか、それはそうなるだろうなと言った感じの顔。
いのりちゃんはサッパリ事情が分からないので疑問顔である。
いのりちゃんは後で事情を知ったらむくれそうだな。
まあ、合宿だと男女で別れがちだし、そこは光ちゃんに任せるか。
まだ時間に余裕があったので三人で他愛のない話をしながら交流を深めていると、ふといのりちゃんが言った。
「あー、やっぱり。理凰君が、『俺には一緒に育った大切な子がいる。悪いけど、その子と戦う時は最高の演技ができるようには応援できるけど勝利は願ってあげられない』って言ってた大切な子って、光ちゃんかあ」
うん?
何故に突然そんな話に。
まあ、確かに事前にそれを言っておかないのはフェアじゃないと思って、いのりちゃんに教え始める時に言っておいた台詞ではあるんだけど。
「不思議そうにしてるけど、二人の距離感見てれば一目瞭然だからね?」
いるかちゃんに呆れた顔で指摘された。
えぇ。
いや別にいちゃついたりしてたわけでもないんだけど。
そんなにあからさまだったか?
「むー。すっごくお似合いだとは思うんだけど、ちょっとモヤモヤする」
「ほんとひどい男だよねー」
ちょっと頬を膨らませて言ういのりちゃんと、ふざけて言いながらいのりちゃんの頭を撫でるいるかちゃん。
うん、ここは何か言ったらまずい場面と見た。
とりあえず、目を逸らして黙っておこう。
あ、苦笑している光ちゃんと目が合った。
考える事は一緒か。
あれ、もしかしてこういうのがイチャイチャして見えるのか?
「これだもんね」
いるかちゃんからの追撃が飛んできた。
なるほど、やっぱりこういう所がそういう風に見えるのか。
いやでも難しいぞ。
こういうのはもうほとんど無意識というか、長年染みついた習慣というか。
いのりちゃんからは、仲のいいお兄さんが別の子と遊んでいる時のジェラシー的な感情が向けられてるのはわかるし、あんまり見せつけるような意地悪はしたくないんだが。
さてどうしたものか。
等と考えていると、いるかちゃんがいのりちゃんを俺にぐいと押し付けてきた。
「頭でも撫でてあげれば、ちょっとは気がまぎれるんじゃない?」
ほほう、なるほど。
中々グッドな提案じゃないかいるかちゃん。
突然に俺に押し付けられたいのりちゃんの頭を撫でてみる。
いのりちゃんは混乱から弛緩へ状態が変化し、そして少しして何かに気が付いて慌てて俺から離れた。
「少しとはいえ私の方がお姉さんなんだからね!」
いるかちゃんは、お腹を押さえて笑いをこらえている。
うん、可愛いうえに良いリアクションだもんね。
気持ちは良く分かる。
「二人とも、いのりちゃんを揶揄うのはやめて」
光ちゃんはあきれた様子で注意してきた。
いのりちゃんは、光ちゃんのその言葉で揶揄われた事に気が付き。
可愛らしく怒った。
うん、見事だいるかちゃん。
これなら確かにさっきの状態よりはずっとましだろう。