偽理凰君の奮闘記   作:空門 志弦

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63話

昨日はいるかちゃんに助けられてしまった。

いのりちゃんは周りに気をつかってため込むタイプだからなあ。

とっさの機転で、甘えさせたうえに揶揄って見せて怒らせて発散させるとか、いったい誰のやり口を真似たんだろうね。

うん、あのやり口は間違いなく俺だ。

 

おかげですぐに意図がわかって上手く合わせられたわ。

なんか、変な悪影響を与えているような気がして、ちょっとだけ申し訳なくなったぞ。

あの状況だと、俺も光ちゃんもアクション取りずらかったからなあ。

あんな鮮やかにフォローされるとはねえ。

先日の件もそうだけど、いるかちゃんは家を出てずいぶん視野が広がったというか、大人びたと思う。

 

あの後から、いのりちゃんは変にため込まずに、私もかまってって感じのアクションをちゃんととるようになった。

俺と別れた後も三人は一緒に女子の方の練習に行ったから、何か軽く話もしたのかもしれない。

次の日に三人で楽しそうに話している所も見たし。

あれならもしかすると、戦って勝敗がついた後も一時はギクシャクしても漫画の時ほどは距離があかないかもしれないな。

 

まあ、あちらはそれで良いとしてだ。

いやホント、斑鳩君どうしたんだ?

なんか、凄くらしくない。

俺を見ると、なんかこうもの言いたげにするんだが、目が合うとさっと目を逸らして離れていってしまう。

 

「斑鳩君、どうしたんだろうね?」

 

その様子を一緒に目撃した朱蒴君も首をかしげる。

 

「うーん、いまいち思い当たる節がない。あ、いや。もしかしてアレかな?」

 

「何か思いついた?」

 

うん。

あれだ。

もしかして初めて戦った時の俺の三文芝居がばれたんじゃないかな。

よし、このままずっとあの状態って言うのは俺にとっても斑鳩君にとっても落ち着かないだろうし、こっちから仕掛けよう。

 

「悪いんだけど、朱蒴君。ちょっと手伝ってくれない?」

 

「うわぁ、悪い顔するね。まあ、ちょっと面白そうだし手伝うよ」

 

よし、ではフォーメーションアルファだ。

まあ、格好つけて言ってはいるが、ただの挟み撃ちである。

朱蒴君に待ち伏せをしてもらい、俺が斑鳩君をそこに追い込む。

 

そうして作戦を開始した俺は、見事に斑鳩君を追い込むことに成功した。

というか、斑鳩君は動きが素直すぎる。

こんなに簡単に追い込めちゃうのはかえってびっくりである。

 

「悪いけど、ここは通行止めだよ斑鳩君」

 

「げ、朱蒴!? 何か鴗鳥理凰が妙に俺の方に来ると思ったら、お前らグルかよ!?」

 

「君が挙動不審なのが悪い。さあ、キリキリ吐くんだ。俺に何を言いたいのかな?」

 

斑鳩君、実に反応が良くて楽しいなあ。

朱蒴君も俺と同感なのが見て取れる顔である。

 

「ぐ、いや、これはいつまでも逃げていた俺が悪いか」

 

観念したのか深く息を吐いた斑鳩君は俺に対してまっすぐに向き直った。

 

「鴗鳥理凰…選手。今までの態度を謝らせてくれ。すまなかった」

 

きっちり九十度。

斑鳩君は俺に対して一借りと頭を下げて謝罪を口にした。

 

「うん、君の謝罪を受け入れる。…コーチから聞いた?」

 

俺が聞くと、彼は姿勢を戻してから頷いた。

 

「ああ、聞いた。だから、謝罪とは別に礼も言わせてくれ。俺をちゃんと見てくれて、俺の才能を惜しんでくれてありがとう」

 

―――いや、格好いいな。

コーチから話を聞いてから、何をどう謝ってどう感謝するのかを随分しっかり考えたんだろう事が深く伝わってくる。

コーチの知恵は借りたんだろうけど、この歳で、こんな謝罪と礼を出来る人間は中々いないと思う。

 

「その礼も確かに受け取ったよ。それじゃあ、これから改めてよろしくってことで。フルネームじゃ呼びにくいだろ? 朱蒴君にしているみたいに呼び捨てで理凰でいいよ」

 

そう言って、握手の為に手を差し出すとしっかりと握り返された。

 

「それじゃあ、理凰。この件に関しては謝罪も礼も済ませたからな。氷上では今まで通り、いや、今まで以上に全力で行くぞ。俺は、意地でも諦めないから覚悟しとけよ」

 

ははっ!

やっぱこの子、根性凄いなあ!

それならこっちも、全力で応えないとな!

 

「俺も、一切緩める気ないから。影も踏ませないつもりで行くから絶望しないようにね?」

 

「上等だ」

 

お互いに、獰猛な笑顔で笑い合う。

俺たちを見ていた朱蒴君は、微妙に引いていたが、少し溜息をついてから口を開いた。

 

「二人とも少しは楽に行かない? 付き合う僕の身にもなってほしいんだけど」

 

弱気なことを言っているが、自分も引く気はないのが見え見えである。

そりゃ、漫画じゃジュニアGPの選手に選ばれてたようなトップ選手の一角だもんな。

そのくらいの負けん気はあるわけだ。

 

そのあと、誰からともなく笑いだした俺たちはしばらく三人で大笑いした。

通りがかった他の男子が、ビクッとしていてちょっと申し訳なかった。

 

その日から男子だけで行動するときは、大体三人で行動するようになった。

練習の時もまとまっていることが多く、お互いの滑りを批評したりした。

まあ、どうしても俺からの指摘やアドバイスの割合が多くなり、彰人君なんかは。

 

「敵から塩を送られるってこういう事か。これは中々、来るもんがあるな」

 

などと言いつつ、唸っていた。

 

「あーこれは、ライリー先生が狙うわけだ」

 

うん、ちょっとそれは聞き捨てならないな、朱蒴君。

 

「それって、マジな話?」

 

「マジな話だね」

 

そうかあ。

まあ、目をつけられてるのは知ってたけど、朱蒴君からはっきりそういう話が出てくるレベルなのかあ。

うん、ひとまず保留!

 

おや、司先生だ。

こっちに来る。

 

「どうしました司先生。いのりちゃんは良いんですか?」

 

「今はいのりさんはレッスン内容的に俺がいても意味がないからね。理凰さんの様子を見に来たんだ。君も僕の生徒だからね」

 

おう、嬉しいこと言ってくれるじゃない?

そういう事なら、ちょうどいいや。

 

「そういうことなら、俺たち三人はちょうど自主練中なんですけど、ちょっとスケーティング見てもらっても良いですかね?」

 

俺としても漫然と練習するよりそちらのほうが良いし、二人にとっても得るものがあるだろう。

 

「お、やる気だね? まあ理凰さんの場合いつもの事だけど。俺は構わないよ」

 

「二人もそれでいいかな? これは自慢して言っちゃうけど司先生のスケーティングは結構すごいぞ?」

 

「理凰さん!?」

 

司先生は俺の言葉にちょっと慌てているけど、ホントのことしか言ってないので放置である。

 

「へえ、理凰がそう言うんなら期待できるな」

 

「僕も、折角だからお願いしようかな」

 

その後は自主練習の時間をたっぷり使って司先生の指導を三人で受けた。

なお後で、いのりちゃんからジェラシー攻撃を受けた。

可愛いだけで、痛くないんだよなあ。

後でいのりちゃんの自主練の時に時間作って俺と司先生二人がかりで練習見てあげる約束で許してもらった。

 

「理凰って、結構いのりちゃんに甘いよね。やっぱり一年も練習を自分だけで見てあげてると愛着が沸くものなの?」

 

様子を見ていた光ちゃんが嫉妬とかではなく純粋な疑問として聞いてきた。

多分、名港とか愛西とかの子達と扱いが違うのがわかるんだろう。

まあ、実際その通りというか。

 

あくまで他にちゃんとコーチがいたうえで練習を助けているのとはやっぱり明らかに違う。

何しろあの一年のいのりちゃんには、本当に俺しかいなかったのだ。

俺は一年間限定の仮初とはいえ、コーチとして、いのりちゃんのスケートを丸々全部預けられていた。

思い入れはどうしたって強くなる。

 

「うん、正直かなり思い入れは強いと思う。光も将来コーチになることがあったらわかると思うよ?」

 

「そっかぁ、やっぱりそういうものなんだ。名港や愛西のコーチの人たちを見ていてもそうだもんね」

 

ちょっと肩を寄せてきた光ちゃんがほんのすこし甘い声で、いのりちゃんに聞こえないように俺の耳元で囁く。

 

「それでも、私の勝ちを願ってくれるんだ?」

 

いのりちゃんは、なんというか、ちょっと恥ずかしいことを暴露してくれたよね。

ああいうの、本人に聞かせるものじゃないと思うんだ。

 

 

 

 

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