偽理凰君の奮闘記   作:空門 志弦

78 / 91
76話

名古屋を離れる前に、いのりちゃんに付いてもらう洸平君の代わりのコーチを決める事が出来た。

名前を水守雲雀さんという。

なんというか、見た目はふんわりした感じなんだが中身は美玖ちゃんを大人にしたようなタイプと言ったらわかりやすいかもしれない。

構成については安定志向で、子供好きで年若い選手の怪我やオーバーワークを厳に戒めるタイプでもある。

 

見つけたときちょっと都合が良すぎて、やっぱりいのりちゃん持ってるなあと思ったよね。

ただ俺が顔を出すたびに金弓さんと一緒になって俺のオーバーワークに目を光らせるのはいただけない。

いや、もうほんとに色々と懲りましたから。

勘弁してほしい。

 

これで、名古屋でやる必要があることは本当に片付いたと言っていいだろう。

ただ、東京に行くにあたって、実は一つの問題が浮上していた。

どこに住むのか問題である。

最初は漫画で光ちゃんがそうしていたように寮に入ればいいんじゃないかという話が出たんだが、光ちゃんによってすげなく却下されたのである。

 

「理凰は寮なんて入ったら、絶対に山ほどの厄介ごとを自分から背負うことになると思うから賛成できないかな」

 

「言われてみると、それは確かにそうなりそうね」

 

母さんが深々と頷き、父さんも納得顔をしている。

まあ、正直俺も否定できない。

なんだかんだで、寮の中で良くて相談役、悪ければ何でも屋のようなポジションに落ち着く未来が見える。

流石に山ほどとはいかないと思うが、かといってゼロとはいかないだろうなあとも思えてしまう。

 

かといって、寮以外の選択肢というのもな。

そんなのがあるなら最初から候補に挙がっているわけで。

 

「でも流石にほかの選択肢というのも中々……あ」

 

ある。

あるんだがこれは流石にどうなんだ?

 

「何か、心当たりがあるんだ?」

 

にっこりと光ちゃんが笑う。

素直に言いなさいと、言外に言われているのがわかる。

そういう圧のかけ方、母さんに似たのか、俺に似たのか、どっちだろうか。

どっちもかな。

 

「あーちょっと、投資関係で知り合いになった人がいて、その人がマンションの店子を探してるんだ。その店子を探している部屋って言うのがちょっと特殊というか」

 

別に事故物件とかではない。

マンションの最上階をオーナーが占有しているんだが、最上階全部は使わないのだ。

オーナーは一人暮らしだからな。

だから使わない部屋が傷まないように人を入れたいんだが、出来ればこの階には変な人間は入れたくない。

そんな感じでそのフロアの部屋がまだ半分くらい空いているのである。

 

元々セキュリティがしっかりしているうえに、オーナー占有の最上階は専用エレベーターだけで入ることができるまあまあ鉄壁のセキュリティ。

要するにほとんど、知り合いの家の鍵付きトイレバスキッチン完備の部屋を借りているような状態である。

しかも富裕層向けなので、質の高いコンシェルジュが付いていたりする。

ぶっちゃけ、学生寮の寮母さんよりも色々気軽に頼める。

 

賃貸料も、俺の伝手ならかなり便宜をはかってもらえるという話になっているので、条件はかなり良い。

良いんだが。

 

「同じ階の部屋に夜鷹コーチに住んでもらえば? それくらいの好条件なら喜ぶんじゃない?」

 

説明していくと光ちゃんがそんな風に提案してくる。

 

「実は、夜鷹さんにはすでに紹介していて、まさにそこに入居予定なんだよね」

 

そうなんだよ。

しかもレオもそこの部屋の一つに入る予定になっている。

でもだよ。

 

「夜鷹さんと一緒に住めと言う方向で話していないあたり、それ完全に俺と一緒に住む気だよね?」

 

「もともと夜鷹コーチは誰かと一緒に住むようなタイプじゃないし」

 

まあ、それはそう。

いくら丸くなったと言っても、限界はあるのだ。

 

「そうすると理凰一人になっちゃうでしょ? 理凰は一人でも平気かもしれないけど、私も折角なら一緒に住みたいから」

 

しかし、そうすると二人暮らしじゃん?

小学生が?

いや、俺は前世ではずっと一人暮らしだから楽勝ではあるんだが。

あ、母さんも父さんもかなり乗り気だな?

オーナーの事は二人も知っているとはいえおかしい。

 

いや、俺が信頼度稼ぎ過ぎていたのか。

家の事を炊事も洗濯もかなり手際よく手伝ってたからな。

光ちゃんも俺と一緒にやってたので生活力は小学生とは思えないレベルである。

 

うーん、ぶっちゃけ、俺と光ちゃんのメディアへの露出のレベルを考えると、ここのセキュリティは実際かなり買いではあるんだよなあ。

夜鷹さんの部屋の向かいにでも部屋を借りれば、何かあった時にすぐに頼れる。

レオもいるしな。

 

しかも、同じ階に住んでいるオーナーとはかなり懇意だ。

20代前半の女性なんだがこの人、実は俺の同類、要するに転生者の類なんじゃないかと疑っている。

お互いに確認したことはないけど。

 

打率百パーセントの投資家の都市伝説だがその正体は、実は俺とこの人の成果が合わさったものだ。

知り合ったのもその辺の関係である。

投資先が毎度かちあって、そのうち偶然に顔も合わせることになったんだよね。

 

付き合いもなんだかんだで数年来。

人格的にも信用できる。

 

俺の考えがまとまってきたあたりで、光ちゃんが上機嫌な様子でポンと両手を合わせた。

 

「決まりでよさそうかな。それじゃあ、理凰はその人にお願いしておいてね?」

 

あ、これさては最初からこの結果を狙ってたな?

 

「光ちゃん、なかなかやるようになったね。どのあたりから狙ってた?」

 

「できればあっちでも一緒に住めないかなあって思ってたのはそうなんだけど、無理だと思ってたんだ」

 

まあ、それは気が付いてた。

 

「でも、理凰の話を聞いているうちに、これならいけるって思って」

 

じゃあ、ほとんどこの場で組み立てたのか。

あれえ、これ俺ちょっと切腹案件では?

絶対俺の悪影響でしょこれ。

 

「私としても二人が一緒の方が安心できるわ。それにオーナーさんも良い人だもの。二人ともちょっと有名になりすぎたからセキュリティの面でも正直、普通の寮だと心配だったのよね」

 

母さん、オーナーさんといつの間にか仲良くなってたんだよなあ。

二人は性格大分違うんだけど。

かえってそれが良かったのか?

 

でもセキュリティ問題はね、本当にね。

俺がいるせいで相乗効果が凄くてちょっと有名になりすぎた。

専属の運転手を雇い入れるべきかとか本気で考えている位である。

公共の交通機関を使うのがそろそろきつくなってきた。

 

まあ、結局住居問題はこの案が通ることになった。

実質的には知人の家に下宿するのに近い形だったのが大きい。

最上階のフロアは、半分オーナーの私有地みたいなものだからな。

入居者も人格も身元も確かなオーナーの親類縁者で、他は俺たちと夜鷹純とレオという状況。

どうせ食事時何かは夜鷹純やレオが様子を見るためにしょっちゅう押し掛けるだろうしと父さんも言う。

 

うん、まあ、そうなる気はするよね。

今でもかなりの頻度で夜鷹純もレオもウチに顔出しているからね。

決まってしまえば、結局これがベストに思えてきた。

 

なおオーナーさんは連絡入れたらむしろ喜んでくれたよ。

これで部屋がまた埋まるって。

それが俺ならなお良いとのこと。

暇なときは一緒に投資の会議でもしようと誘われたぞ。

 

「引っ越す前に一度、内見して家具とかについても考えたほうが良いかな。家から持って行ってもいいし、新しく買ってもいいけど、一応部屋を実際に見てみないといけないし」

 

光ちゃん、ウッキウキじゃない?

まあ、気持ちはわからなくもないけど。

新しい生活が始まるのって、不安もあるけど同時にワクワク感も結構あるもんね。

そんなわけで一度事前に部屋を見せてもらう事になった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。