俺と光ちゃんのスターフォックスでの練習が始まる日がやってきた。
顔合わせはまあ、賑やかだった。
俺も光ちゃんも漫画に比べてもネームバリューが大きいから、どうしてもね。
朱蒴君が周りを落ち着かせようとしていたが、焼け石に水だった。
亜子ちゃん?
みんなと一緒にはしゃいでいたよ。
「何かごめんね、理凰君」
「うんまあ、想定内だし特に問題はないよ。いろいろ気にしてくれてありがとう、朱蒴君」
騒ぎが終わった後、俺と朱蒴君はスポーツドリンク片手に会話を交わしていた。
スポーツドリンク飲んでいる理由?
察して欲しい。
それが欲しくなるくらいの修羅場だったんだ。
一時もみくちゃになりかけたし、そのあとは質問攻めだからな。
女の子の集団て、時々怖いよね。
「でも、まさか一緒のクラブになれるとは思ってなかったよ」
まあ名港のヘッドコーチは俺の父さんだったし、そこで長年活動していたら移籍は少し意外ではあるよね。
だがしかし、事情が事情だったからなあ。
「名港もちょっと人が増えすぎたし、そこで家族を優先させるって言うのはちょっと落ち着かなかったから」
朱蒴君は俺の言葉に納得した顔になって頷いた。
「なるほど、それは確かに理凰君らしい理由かも」
しかしなんて言うか、同じクラブに同年代の男の子がいるこの感じは実に新鮮だ。
しかも結構仲良くしている相手となれば実にありがたくもある。
「しかしこれでもしも斑鳩君がウチに来たら、スターフォックスで国内のフィギュア業界、男子の部は征服できそうだよね」
「征服とはまた物騒な。まあでも、俺たちが現役のうちはほとんど表彰台独占できそうではあるかも」
実際俺たち三人が揃った時は決まって表彰台は俺たち三人で独占している。
あ、流石に全日本ジュニア大会は表彰台俺だけだったか。
まあ、でもあれは例外だしなあ。
ノービスの時点で優勝できる俺や光ちゃんがおかしいのだ。
あと、表彰台にちゃっかり乗ってるいのりちゃんもやっぱりおかしい。
「しかし、斑鳩君に妬まれそう。というか、この前に実際にずるいって言われた。まあ、理凰君と練習が一緒に出来るのはいろいろ大きいから、当たり前ではあるんだけど」
「あー、そうなのか。案外ほんとに移籍してきたりしてね」
まあ流石にないだろう。
親の都合で引っ越したとかでもなければ、クラブってそうホイホイ変わるものでもないし。
スターフォックスは立ち上げの際にライリー先生の人気で生徒を移籍によって結構吸収したっぽいが、これは例外というものである。
そうしてスターフォックスのみんなに挨拶を済ませて、朱蒴君と一息ついてから練習が始まった。
漫画でも描かれていたんだが、スターフォックスの練習は陸上トレーニングの比率が大分高い。
使い放題の選手専用リンクがあることを考えると変わった方針と言って良い。
使えるリンクがあれば、少しでも多く氷の上で練習させるって考え方が主流だからな。
例えば美玖ちゃんなんかは、寂れ気味だったリンクで思う存分に練習出来たおかげで才能が花開いたタイプであり、氷上における練習の量によって実力をつけた典型例と言える。
あ、ライリー先生が溜め込んでたジュナ缶を捨てられてる。
ジュナ缶。
白鳥ジュナのコラボパッケージの空き缶である。
というか、ホントに百個以上集めてるのか。
何個か残して後は携帯で画像にでも残しておけばいいのに。
うーん、亜子ちゃんがしがみつかれて困ってるな。
仕方がない。
ちょうどいいアイテムがあるし、助けてあげるか。
「ライリー先生。大人しく缶を諦めてもっと数を減らすなら、この画像をプレゼントしましょう」
察しのいい人は気が付いているかもしれない。
そう、新潟に行った時にジュナと仲良くなって撮った写真が結構あったりするのである。
その中からとりあえず、俺とジュナのツーショット写真を見せる。
「え、なにこれ。え、ジュナと理凰君? 本物!? ちょっと待って、どういう事!?」
実に良い食いつきですね。
ジュナには知り合いにジュナの熱狂的なファンがいるからと言って、写真の譲渡の許可ももらっている。
「ちょっと縁があって知り合いまして。どうです、白鳥ジュナのオフショット。欲しいですよね?」
なおジュナとは今でも親交がある。
というか、時々話す。
連絡先を交換しているから。
たまに美玖ちゃんのスケートの事とかで相談を受けたりするのだ。
後たまに、CM出る気ないかとか聞かれる。
これはジュナの事務所関係の話だな。
まあ、流石にそんな暇ないので断っているけども。
「ぐぬぬ、何本と交換で?」
「写真残して数本残すくらいにしろと言いたいところですが、流石に可愛そうなので、とりあえず半分の50本で良いですよ」
そのうち他にもある写真と交換で、数を削っていけばいいのだから、とりあえずまずは半分。
手放すことに慣れさせていくとしよう。
「半分。半分かあ。ううぅ。でも、激レアなオフショット。しかも理凰君とのツーショット。欲しい。すごく欲しい」
悩んでいるが、これは時間の問題だろう。
あ、でも一応釘は指しておこう。
「マジのオフショットなので、SNSとかに載せるのはなしでおねがいします。自分だけで楽しんでください」
そして、これはある意味で写真の価値を高めてもいるのだ。
世界で所持者が映ってる当人たち除いたら自分だけとか、そそるよなあ?
「もってけ泥棒!」
堕ちたな。
まあ、持っていくのは空き缶で持っていく先はゴミ箱なんだが。
交渉が成立したので、ライリー先生のスマホに写真を転送。
狂喜乱舞するライリー先生を尻目に俺は解放された亜子ちゃんに声をかけた。
「という事だから俺も手伝うんで、空き缶50個を減らそうか」
言いながら、とりあえずは今亜子ちゃんがもっている缶の処分を手伝う。
「凄いねぇ、理凰君。ライリー先生がすっかり手玉に取られてるよぉ」
あの人、わりとジュナ周りはウィークポイントだし。
「まあ、アレは手持ちの手札が強かったって言うのが大きいから」
「そうそれ! 理凰君て白鳥ジュナと知り合いなのぉ!?」
「亜子ちゃんも合宿とかで聞いてないかな? 美玖ちゃんの振付師がジュナさんなんだよ」
「そう言えば、美玖ちゃんがそんなことを言ってた気がするかもぉ」
ジュナは流石に騒ぎになるとよくないと言って、合宿とかには同行してこないからな。
軽く話を聞いただけだと、あんまり印象に残らなかったのかもしれない。
いや、亜子ちゃんの場合は光ちゃんにご執心だったから、そっちに意識が行っていただけかな。
「流石に量が多くてかさばりそうだから、ゴミ袋を持ってきてまとめちゃうか。ゴミ袋の場所分かるかな?」
とりあえず手持ちの缶を片付けて、後は100個のうちの半分の50個を処分せねばならない。
「それならこっちだよぉ」
勝手知ったるってなんとやら。
亜子ちゃんはサクッとゴミ袋のある場所まで案内してくれた。
ゴミ袋を入手して、缶の集めてある場所に行き回収する。
数が数だけに、回収業者にでもなった気分である。
しばらくかけて、きっちり50個の缶を処理し終わった。
なお光ちゃんは、隙があればクラブの子に捕まっているので、今日は基本別行動である。
俺は男子だからか、そばに朱蒴君がいる事が多いからか、光ちゃんほどにはロックオンされていない。
缶を片付けた後は再び練習に戻る。
今日は氷上での練習も初日なので流す程度で済ました。
練習が終わった後は、また女の子たちに捕まっていた光ちゃんを助け出して回収して家へと帰った。
うん、なんというか、むしろ練習以外の部分で大変な一日だったね。
俺もだけど、光ちゃんは特に。
「お疲れ様」
帰りの道中、ちょっと疲れた様子の光ちゃんを労わり、頭を撫でた。
「うん、ありがとう理凰」
返事にもちょっぴり張りが足りない様子の光ちゃんであった。
人気者も大変だよね、うん。