偽理凰君の奮闘記   作:空門 志弦

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セカンドプロローグ

フィギュアスケートの練習が本格化して、俺in理鳳君ボディの現在の性能というのが理解出来てきた。

うぬ惚れぬきにして、夜鷹純や光ちゃんと同水準。

いや、この年から大人の意識をもって明確な方針を立てて自分を育てられるアドバンテージを加味していいなら、多分だけど二人を上回っている。

 

怪我にも強い。性差もあるだろうけど一時期オーバーワーク気味だった光ちゃんに引っ張られて同じような練習量をこなしていたのに俺にはシンスプリントの兆候は全く表れなかった。

これはきっと慎一郎さんからの遺伝かな。あの人、夜鷹純とは違ったベクトルの超人だからな。

体痛めた年の次の年に、しかもフィギュアとしては全盛期から外れている28歳でオリンピック銀メダルとか、偉業以外の何物でもない。

フィジカルが競技に占める割合の大きいスポーツを選んでいたら普通にオリンピック金メダルとかとってそう。

 

最初俺は、漫画の理凰君と同程度の才能として自分のフィギュア人生を計画していた。

フィギュア以外の選択肢はなかったかって?

コノヤロウバカヤロウ! メダリストの世界に生れ落ちてフィギュアで上目指さないなんて、そんなもったいないことできるわけあんめえ!

 

おっと失礼。少し冷静さを欠いたようだ。

まあ、とにかく現状把握出来ている自身の性能を見ると流石に欲が出てくるわけである。

当初としては理凰君の漫画内での才能の描写から、光ちゃんと伍することは難しくても、そして直接競うことができずとも、同じ頂を目指している同志としてその孤独を少しでもマシにしてあげられればくらいに考えていた。

 

ぶっちゃけ、その当初の目的は、現時点でより良い形で達成できてしまっている。

自分と同等な才能と意欲で自らを鍛え、何なら自分の成長にまで手を貸してくれる俺の存在は、光ちゃんにとって既に何物にも代えがたい価値を持っている。

…懐き方ヤバいからな。 

漫画でも理凰君からの一方通行気味とはいえ結構べったりだったが、その比じゃない。

家族としてフィギュアスケーターとして、光ちゃんの中での俺の株はきっと連日のストップ高であることを自覚せざるを得ない。

光ちゃんが名港、ひいては家から離れるエピソードとかあったけど、アレどうなるんだろうか。

まあ、それは今考えてもしょうがないし、未来の俺に任せるとして。

 

短期目標としては、フィギュアスケートのプログラム内容で夜鷹純に賭けを吹っかけて、光ちゃんに対する夜の曲かけノーミスと全出場大会で金メダルという契約に保険を用意したい。

あの指導方針は少なくとも現状では光ちゃんに良いほうに作用していると、ずっと間近で見ていた今の俺は思っているのであくまで保険だけ。

俺が見せたプログラムの価値とか、その時の状況からの情状酌量等で、契約の解消の即時履行に待ったをかけられるようにしておきたいのだ。漫画を見る限りでは、そこまで心配しなくてもいい案件なんだが、俺というイレギュラーがいる状況では保険くらいは用意したくなるのが人情である。

 

そして長期目標。

オリンピックで金メダル、というのはこのメダリストという作品世界に生まれたなら実現できるかは別として、当然の目標だ。だがオリンピック金メダリストを現実的な目標にできる才能があるというならば、俺はその先を目指したい。

オリンピック連覇だ。

前世では達成者がいた。リアルチートとか、現実は小説より奇なりの実例だとか言われていたが、今の俺ならば十分目指せるはずだ。

どうせ目指すなら目指し得る最上限を目指したいし。

俺は夜鷹純を超えてやりたい。

 

夜鷹純は真正のコミュ障で、生きる事に心底不器用な男である。

ぶっちゃけフィギュアスケート以外で褒められるところはほとんどない。

だがフィギュアスケーターとしての夜鷹純は、文句なしに世界最高峰の天才だ。

俺の前世での連覇達成者と、ステップシークエンスにおいてはその連覇者ですら敵わない華があった選手の悪魔合体の結果の産物か何かじゃないのかと、半ば真剣に疑ったことがあるくらいの怪物だ。

でもあの男の本質は結局、スケートバカの一言に尽きるんじゃないだろうか。

 

夜鷹純には、光ちゃんと出会わせてもらった恩がある。

光ちゃんを不器用ながらに今もフィギュアスケーターとして導いてくれている借りがある。

俺に無茶ぶりしてくるのだって、俺の才能を育てる意図があることにも気がついているし、感謝している。

いや、無茶ぶりの難度がいつも高すぎるのはマジで勘弁してほしいが。

そして、悔しいが、俺は夜鷹純のスケートが好きだ。

光ちゃんのスケートの次にだけどな!

そのうち、いのりちゃんのスケートも夜鷹純の上に来る予定だし!

まあ、でも、光ちゃんが漫画の中で魔法と評していた事に心底同意できるくらいには、認めている。

それに何くれと世話を焼き、なんだかんだ何年も付き合っていれば愛着も沸く。

 

だから俺は、夜鷹純を超える。

夜鷹純の偉業を超える新たな偉業を打ち立てて、世界で一番ではない過去の人間にしてやる。

あの、ただスケートがしていたいだけのスケートバカから、世界最高の男子フィギュアスケーターなんていう余分な呪いを剥奪する。

光ちゃんならいつか夜鷹と同じ地平に立てる未来もありうるが、でもそれは女子スケーターとして。

並び立つことはできても明確に同じ線上で夜鷹純を超えることはできない。

だから、これは同じ男である俺にしかできないことだ。

 

そして逆説、いつか光ちゃんが立つ場所で並び立つことにもつながる。

夜鷹純にかけられた呪いを解き、光ちゃんを天才の孤独から遠ざける。

そして俺は、今ここに生きる俺として、今の俺だからたどり着ける最高の結果を掴む。

 

 

 

ああ、そうだ。

今、決めた。

俺は、オリンピックを連覇して、名実ともに世界最高のフィギュアスケーターになる。

 

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